Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『神様が殺してくれる』森博嗣のミステリ

2015-08-23 07:35:00 | ミステリ小説
                        

森博嗣氏の久しぶりのミステリらしいミステリと言える内容の本です。

インターポールの事務職員が遭遇するミステリアスな連続殺人。海外が舞台になっていますが、このストーリーでは日本よりもその方がより自然に受け止められます。
周到に張り巡らせた伏線とミスリードが上手くかみ合っており、これは最後のシーンで犯人が予想どうりだったと云うことはちょっと難しいのじゃないでしょうか。

その意表をついたオチに至る過程が物語としての面白さにかかってくるのですが、氏の筆の確かさで主人公が係る人々との関係やセリフの楽しさが読む楽しさをさらに高めます。
事件の真相は「フム!」と云うものですが、是か非かはともかく一貫したストーリーの確かさで最初の事件から最後の真相が明らかになるところまで飽きることなく読み進めます。

各章の冒頭に引用されているオスカー・ワイルドの「サロメ」の一節も、読み終えてみれば真相に至るヒントにもなっていると気付くわけでその遊び心も楽しいものです。
氏の作品はどっしりとした重さのあるミステリではないのですが、その辺も氏の持ち味として洒落たセリフやシチュエーションで読ませてくれる自分好みの作家の一人となっています。

軽く読める本が続いていましたが、これはミステリとして十分中身の濃い内容でテクニックが光る作品です。

玄冬舎創立20周年記念特別書下ろし作品です。


                           
 
                 

『100人館の殺人』山口芳宏のミステリ

2015-08-10 10:28:30 | ミステリ小説
                             

大富豪の館でメイドのアルバイトをしている妹からのメールで兄の神尾は、叔母から紹介された自称名探偵の西園寺と共に館に赴く。


数学科の大学院生だった妹があっさり大学を辞め派遣会社の紹介で破格の条件のメイドの仕事に就いたのは一ヶ月ほど前だった。

その契約もパーティが終わり後片付けをすればそこで終了のはずだった。しかし、一緒に来ていた友人の詩織が主人の様子が変だという。脅迫文のような紙を見ていて
机の引き出しに隠すのを見たという。犬が殺される事件も起きていたので不安を感じた神尾結衣子は兄にメールを打ち呼び寄せていた。

プロローグはこんな調子で少しライトノベルっぽい感じがしますが、中身はけっこう本格ミステリの世界でいろいろなミステリの約束事が使われた手の込んだ内容です。

館から麓に下りる一本の道にある橋が爆破され外は暴風雨。電話線が切断されケータイは圏外。お約束の閉鎖状況のなかで起きる不思議な連続殺人。

外の世界とは遮断された館の中での事件ですから容疑者は館にいる人物といえます。しかし、館には100人を越える人がいました。

新商品のモニターとして集められた招待客、館の主の親族、使用人、これらを合わせると100人を越えていました。

本の初めに人物一覧があり親族21名、招待客63名、使用人29名、その他5名となっています。そしてすべての人物に名前と職業が書かれています。

このあたりの著者の拘りというか意気込みについ笑ってしまいます。何故容疑者は100人なのか? それがこのミステリの核です。

事件と状況がこの設定を必然としています。自称名探偵の西園寺と神尾は犯人探しを始めますが次々と犠牲者が生まれます。

何故?どうして?が神尾たちを悩ませます。ある意味ミステリの禁じ手を逆手に取ったような手法が使われていたりといろいろな要素が盛り込まれています。

これはこれで成功といえる内容のミステリでした。

     
          
   

『目くらましの道』へニング・マンケルのミステリ

2015-08-01 15:13:33 | ミステリ小説
                      

スウェーデンのミステリです。 国が違えば日本の常識とはかけ離れた文化であり
生活の様子や仕事に対する面でも「?」と思うところが色々出てきますが、そういったところも含めて楽しむことが海外小説を読む面白さです。

残忍な事件が起きます。そして第二、第三と事件が続きます。五里霧中のなか捜査チームは着実に調べて分析し犯人に迫っていきます。
文庫本上・下のボリュームですが描かれているのは捜査チームのコツコツとした地味な捜査の様子です。

この本の特徴は無理の無いところです。 それぞれの動きや捜査の過程などとても自然な動きで書かれています。ご都合主義で書かれた人の動きや
犯人の動機など不自然なところは何ひとつありません。そこがこの物語を面白く読ませる一番の要因だと思います。

事件の流れ、捜査の進み方など無理なく書かれていて、ひとつひとつの出来事が最後に繋がる様子はとても上手いと、その構成力に感心します。
もちろん物語の芯をなす犯人の動きなどでスウェーデン社会の抱える現状を浮き彫りにするなど、背景もしっかりと描かれており物語の深さを感じ取れる

内容になっています。試行錯誤の末犯人に辿り着く捜査チームの責任者である警部。彼も人間味溢れる人物でこの主人公の良さが
この物語を依り面白く読ませることになっていると思います。派手な展開で読ませる内容ではなくじっくりと読ませるミステリです。

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