Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『まるで天使のような』マーガレット・ミラーのミステリ

2016-02-29 14:01:05 | ミステリ小説
                               


夜明けの睡魔で有名な瀬戸川猛資さんがクイーンの「フランス白粉の謎」について書いた文に次の文章があります。

最後の一撃をするためには、

1、「そこまでにすべてのデータは揃っている」のに

2、「読者はずっとミスリードされていて」

3、「最後のたった数行でどんでん返しを行い」つつ

4、「じつは過不足なく説明されている事がちゃんと分かる」

といった四つの要素が必要になるわけだが、1~3だけでも十分アクロバティックなのに、そのうえ4を満たすのは思いの外難しい事なのだ。
★ ★ ★

書く側の姿勢として、あくまでフェアに徹して読者と対決するにはこれぐらいは熟す力量がないと大変な作業を強いられることになってしまいます。

さて、マーガレット・ミラーの本書は間違いなく最後の一撃が楽しめる一冊です。

博打好きで私立探偵のライセンスを持つジョウ・クインは負け続けて無一文になり、同じ博打好きの仲間の車で金を貸してある知り合いのところに行こうとしたが

途中で車から降ろされてしまいます。男はこの先に新興宗教の連中が暮らす塔があるので、そこで水と食料を分けてもらえと砂漠の真ん中で置き去りにして去っていきます。

辿り着いた塔で世話になった一人の女性から町に行って一人の人物の様子を調べて欲しいと頼まれます。その人物が町に居るかどうかだけ調べて直接会ったり電話したりする

必要はないという話です。125ドルを持たされた ジョウ・クインは町に買い出しに行く車に同乗して塔を出ます。

町で調べ始めたクインは探す相手パトリック・オゴーマンは五年前に事件に合って死亡していることが分かります。

オゴーマンという人物は誰もが口を揃えていうことに、誰かに恨みを買うような男ではなく大人しい目立たない男だったと言います。

川のそばで事故を起こした車が見つかり、ドアにオゴーマンの血痕が見つかりました。しかし、いくら調べてもオゴーマンの死体は見つかりません。

当時は大雨で事故をがあった先には二つの川が合流し流れが急になる場所があることから、警察はどこか遠くに流されてしまったのだろうと結論付けました。

こうして不可解な状況から消えたオゴーマンの痕跡を探していくクイーンですが、カルト教団の連中や町の人達と係わっていく中で少しづつ五年前の事件の

様子が分かってきます。オゴーマンを殺したのは誰か?なぜ彼は殺されたのか?ゆっくりと過ぎる時間の中で物語もゆっくりと進みます。

そして待っている最後の一撃。 未読の方にはぜひ読んでみて欲しい一冊です。

                           

      

『ニッポン硬貨の謎エラリー・クイン最後の事件』北村薫のミステリ

2016-02-29 13:07:32 | ミステリ小説
                                   


エラリー・クインの遺稿が見つかり、それを北村薫が翻訳して出した本という体裁になっているミステリです。翻訳本の文体で注釈なども入れられて書かれておりニヤリとする内容です。

本のPR文にも書かれていますが、華麗なるクイーンのパスティーシュです。 日本でも根強い人気を誇るエラリー・クインですが、この本自体がクイーン諭となっているところが北村薫らしいところです。

出版社の招きで来日したクイーンが、日本滞在中に起きた幼児連続殺害事件を解決するストーリーです。女流ミステリ作家の若竹七海氏が大学生のころ書店でアルバイトをしている時に、実際に経験した

出来事がこの本の中でも使われていて、クイーンがその出来事を耳にして事件の謎を解くカギであることに気づき、推理を展開して犯人を特定していく様子が描かれています。

物語はこんな感じですがいろんな視点からエラリー・クイン諭が展開されていてクインのファンには堪らない内容でしょう。

いわずもがなのあとがきも興味深い内容で、五十円玉二十枚を千円札に両替を頼まれた若竹七海氏の話しや、大学のミス研での活動から北村薫氏が作家デビューする経緯なども記されていて面白く読めます。

全体に北村薫という作家の色がはっきり示された見識とユーモアが感じられる一冊です。仮に他の作家がこの本を書いたとしたらどうでしょう。

また違った印象の本になったのではないかと思います。私個人としてはこの本は北村薫だからこそこのような本になったと思うので編集者のヒットだと思います。


               

『凪の司祭』石持浅海のミステリ

2016-02-07 11:49:43 | ミステリ小説
                                         


世界中でテロ事件が起きています。宗教と戦争は人類の歴史です。でもこの日本は世界が認める安全な国です。

しかし、果たしてそうでしょうか?この日本は世界がまだ経験したことのないテロを経験しています。そうです地下鉄サリン事件です。

この本は平和ボケした日本に、近未来に警鐘を鳴らす物語と云えます。近い将来はどんな日本になっているのでしょうか。人口は減り続け若者がいなくなって世界の声に屈し難民を受け入れているのでしょうか。

利益誘導型の無秩序な都市開発、コンクリートジャングルの都市特有の自然災害。平和な日本であっても課題は山積みです。

コーヒー専門店ペーパー・ムーンのアルバイト店員篠崎百代は明確な意思を持って汐留にある大型ショッピングモールに向かいます。

そこは恋人が不慮の死を遂げた現場でもあります。原因はゲリラ豪雨でした。百代は自らが神となって世の中を正す行動を決意しました。

兵器は自然界に存在する毒です。この百代にペーパー・ムーンの常連客五人が五人委員会と称していろいろとサゼッションします。

しかし、行動を起こすのはあくまで百代ひとりです。五人は何も関与せずいろんな話を聞かせたに過ぎないという立場です。

いつもどうりの日常を過ごす五人のはずが一人だけ百代の出発を見送りに来ません。普段と違う行動はとらないと決めていたはずなのに店に顔を出さない一人。

不審を覚えた四人が携帯に電話しますが携帯にも出ません。気になってアパートに向かいますが、彼は死体となっていました。

この異常事態に計画の中止を伝えるために四人は百代を追って汐留に向かいます。

しかし、百代は計画の実行を始めていました。猛毒を使った大量殺戮。百代の行動をいろんな視点から息もつかせぬ展開で読ませます。


石持浅海らしいスキのない緻密さで構成されたストーリーですが、正義感溢れる人や物語はハッピーエンドでなければならないって人には不快感しか残らない内容かも知れません。

動機がイマイチとかあり得ない話と片付けるのは簡単ですが作者の意図も読み取って欲しいと思います。

一気読み必至のこの本、こういう社会性のある物語も良いと思います。