Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「十角館の殺人」綾辻行人のミステリ

2014-12-27 12:03:39 | ミステリ小説
                                

データを見ると1991年9月15日旧版第1刷発行、2007年3月26日旧版第50刷発行、2007年10月16日新装改訂版第1刷発行、2012年新装改訂版第12刷発行となっている。その後は分からないが実に20年以上もミステリファンに読まれ続けてきた本と云える。当時この本が出た後に次々と今活躍しているミステリ作家が世に出て新本格と呼ばれるミステリが華々しく花開いた時期でもありました。

クリスティの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせる内容で、メイントリックは小野不由美氏との事で共同作業の中でこの作品が生まれたとの著者の言葉があるが、それにしても当時はこの本の衝撃はミステリファンには
たまらないものだったと思う。この本にある一行の衝撃は今読んでもゾクッとするものだ。ネタバレに気をつけなければいけないが、散りばめられたアイテムがヒントにもミスリードの材料にもなるという上手さで時間の経過による

色あせた感はどこにも無い。ミステリの入門書として今尚愛されている作品ということが納得できます。古今東西のミステリを紹介するブログやサイトでは定番のミステリなわけでここで取り上げるのはどうかと思いこれまで除いていましたが、読後のレビューを頻繁に見る事が

あって刺激されたので再度読み直してみる気になりました。良く使う図書館ではいつも予約が多く入っておりなかなか順番が廻ってこない有り様でした。この図書館の予約数の多い作品

はこの本と「永遠の0」でしたが、ようやく順番が廻り手にすることが出来ました。こういった定番作品は、例えば殊能将之の『ハサミ男』なども
ですがここでは取り上げないつもりで居ました。なぜなら面白いミステリを紹介しますというブログなわけで、それでいて余りにも当たり前的な作品をここであれこれ書くのは違うぞとそんなスタンスでいるからです。もっとも面白いミステリを紹介しますと云いながら大体が読んだ本の読後感想になっているところが

脱線気味ですが、でもイマイチだなと感じたものはここには書いていませんのである程度信用して下さっても宜しいかと思います。好みの問題は別としてですが・・・。さて幸いにしてこの本はまだ未読だったと仰る人が居られましたらぜひ手にしてみることをおススメします。このスタイルの最後の一行の衝撃なんていう本がけっこうあったりしますが、それらは皆この本の後で書かれたものといっても過言じゃないでしょう。先の『ハサミ男』もそうです。

両方読み比べてみるのも一興でしょう。最後にこのブログにいつも目を通して下さっている人や偶々縁あって初めて読んで下さった人などすべての方に今年一年ありがとうございました。来年が皆様にとって良い年でありますようにお祈りいたします。 ありがとうございました。感謝。




「楽園のカンヴァス」原田マハのルソー史

2014-12-21 10:08:41 | ミステリ小説
                                  

アンリ・ルソーにスポットを当てミステリのテイストで書かれている物語です。最後の意外性など美術に興味や造詣がなくても楽しめる内容です。
私自身のように美術館などには一度も足を運んだことの無い人間でも楽しく読めました。天才なのか日曜画家なのか評価の定まらない人物アンリ・ルソーの作品の真贋を競うという物語が興味深くその判定に使用する
材料が未発表の謎めいた文章で、七章まである文章を競う二人が交互に読み進めて最後に判定をするという設定がとても面白いと感じました。その二人にも縁があり人物描写がこの物語の彩をさらに高めている趣向です。

はるか昔に生まれその生涯を閉じた人の謎めいた部分にスポットを当てる書き方はとても興味を惹くものです。著者の経歴を生かした絵画の世界の裏側や仕組みなども少し見せて対決の場バーゼルに舞台は移ります。
そういうスイッチが入る人がいる、それはどの分野でもそうでしょう。絵画の、一枚の絵画の前から身動きできないほどの衝撃を受ける人。キュレーターとなり美術界に身を置く人を主人公にしたこの物語はとても新鮮で
読み応えのある内容でした。著者の得意分野であるこの世界を舞台にした次の作品も読んでみたいと思いました。次はハヤカワオリエの娘真絵を主人公にした新しい冒険の旅の物語を。


「逃げる幻」ヘレン・マクロイのミステリ

2014-12-21 09:13:57 | ミステリ小説
                                          

本国刊行が1945年のミステリですが今読んでも楽しめる内容です。人間消失と密室殺人が彩る事件となっていますがそれはホンのおさわりのようなものです。
初めから見え隠れしていた問題がありますがすっかり意識の他に追いやられていきます。それは家出を繰り返す少年という不可解な様子から開けた荒野で忽然と消える出来事や正体のハッキリしない人物が二人もいたりとするからです。事件の目撃者でありこの物語の語り手であるダンバー大尉は精神科医ということで関係者の格好、顔つき、視線、仕種、経歴、そして会話の内容などから登場人物の性格などを細かく分析します。ですがここにひとつ穴があります。それは登場人物の中にマドンナがいることです。そのマドンナにダンバー大尉は一目惚れします。このため彼の眼は少し曇ってきますので彼の視線で物語を追う読者も当然少し曇ってきます。ここがこのミステリのミソです。

後半過ぎから登場するこのミステリの探偵役のウィリング博士は部下であるダンバー大尉のように思い入れなどありませんから彼からこれまでの経緯を聞いて冷静に分析します。色々な謎も彼による明確な答えは至極もっともな話です。でも読んでいるコチラにはその答えが中々見えませんでした。ダンバー大尉同様に目が曇っていたからです。登場人物の会話などもその態度などもヒントになっていたのですが真相には気付かないように作者は周到に計算された書き方で読ませます。伏線もちゃんと書かれています。ラストの驚きの事実もなるほどと感じ入るほどですっかり作者の手の内で遊ばされていたことに気付きました。女性らしい繊細な言葉で表わす情景や雰囲気などに加え舞台になっている土地の風景や時代背景としての興味深い史実などもこの物語の重要なファクターです。心理のアヤがヒントにも目くらましにもなっているこの本のトリックにすっかりやられました。


「その女アレックス」ピエール・ルメートルのミステリ

2014-12-13 17:28:56 | ミステリ小説
                                      

第一部はアレックスが帰宅途中の路上で拉致され誘拐されるところから始ります。男の容赦ない暴力でアレックスは小さな檻に閉じ込められます。少女と呼ばれるその檻は
立つことも座ることも出来ない拷問用の檻で関節が固まり筋肉が萎縮してじきに発狂するといわれる檻です。アレックスと謎の男。そして目撃者の証言から警察が誘拐事件として捜査を始めます。誘拐捜査は
時間との戦であり時間が経つごとに被害者の生存の可能性がなくなります。上司と衝突しながらも必死に捜査するカミーユ警部ですが、その彼も妻を誘拐され殺害された過去を持っています。長い療養の末職場に復帰した警部ですが誘拐事件はやらないと上司の部長とさんざんケンカをしますがいつしか捜査に熱中していきます。しかし、いくら調べても誘拐された女の身元が分かりません。どこからも問い合わせが無いことに警部は不審を覚えます。
「この女はうさんくさい」そう警部は呟きます。そして一人の男が浮かび上がりその男がいる今は使われていない工場に行きますが、予審判事と捜査方針で揉めていると帰ってきた男が警察に気付き車で逃走します。

そして追跡する警察車両に追いつめられた男は橋から下の道路に飛び降り死亡します。ケータイに遺された監禁されている女の写真。衰弱がひどく危険な様子ですが場所がわかりません。
焦る捜査陣に偶然発見された監禁場所に急行してみるとそこには壊れた檻があり女の姿は消えていました。ここまでが第一部です。そして第二部はアレックスが次々と殺人を起こす様子が描かれます。様々な人物をカツラをかぶり
カラーコンタクトと偽名で近づき殺害します。理由は不明です。アレックスは何も語らず読者にはその理由がまるでわかりません。警察もやがてアレックスの犯行に気付きます。しかし、犯罪歴が無いため目撃者や現場に
指紋などがあってもアレックスの正体が掴めません。いくら情報を集めてもアレックスと言う名前しか分からず身元不明の女です。そのアレックスという名前さえ疑われます。このアレックスの行動と警察の追跡がメインの
第二部もとてもテンポ良く書かれていて、登場人物などもそれぞれの個性がとても上手く描かれていてストーリーを盛り上げます。アレックスが次々と殺人を重ねるその理由とは、何故繋がりの無い人物たちを殺害するのか。

第三部ではその理由が明らかになってきます。そしてこれまでの読者が感じていたアレックスへの想像などがまるでひっくり返されます。意外性充分の展開です。そして警察と容疑者との対決が待っています。一筋縄では
いかない容疑者との心理戦がこの物語のクライマックスとして用意されています。確証はありません。でもカミーユ警部は追いつめます。そしてある事柄に容疑者は気付きます。周到な罠に嵌まっていたことに。
最後にはアレックスに哀れさを感じますが、警部たちのエピソードなどが良い余韻となって物語を締めくくっています。なかなか良く出来たミステリと思います。展開のスピーディさと構成の妙がこの物語を成功に導いていると思います。



「戻り川心中」連城三紀彦のミステリ

2014-12-07 09:06:47 | ミステリ小説


古い本ですが今読んでもその世界は色あせず、情感たっぷりの文章は読んでいるこちらの胸の中にその情景を映し出します。

五つの短編が収められていますが、花をモチーフにした人の心情とその時代の悲哀などがとても上手く物語りに織り込まれています。

そして隠されていた裏側に見える本当の姿。これがミステリの形を借りた男と女の物語です。

表題作の戻り川心中もまるで近松の世界のような雰囲気から一転して恐ろしい話に変貌します。心中物語にその様な裏側が存在するとは思いもよらず心理の綾に驚くばかりです。

花の命を見つめて人は何を想うのか、哀しい運命に流される一人の女。それらの物語をとても新鮮な気持ちで読みました。

今はこのようなミステリは要求されないのか、時代が違うのか分かりませんがそう多くあるとは思いません。

しかし、日本のミステリ界には残すべき作品であると思います。幸い日本推理作家協会賞を受賞したこの作品は、これからも時期あるごとに復刻され多くのミステリファンに愛されると思います。