Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『モンスター』百田尚樹の大人の絵本

2015-04-19 16:32:34 | ミステリ小説
                              

本音満載の大人の恋愛を描いたといえる内容です。あるいは女の生き方をウソ偽り無く赤裸々に綴ったものと
して読んだ方が良いのかも知れません。それも容姿の醜さから整形を繰り返す女の姿を通して世の男の態度、同性の態度、人間としての尊厳に真っ向から問いかける、形を変えた現代のイソップ童話として
読むべきなのかもしれません。

きれいごとは一切省いています。醜さゆえに受ける屈辱に対して主人公の和子の心の叫びが、掛け値なしの本心がズバリと語られています。
和子のモノローグに圧倒されますが、それ以外の真実があるとは思えません。第一印象で心の美しさなんて解かりません。判断の材料となるのはその容姿です。

人の感情を左右するのも容姿であれば、有利不利があるのも否めません。ひとつの線を越えた和子は突き進みます。その行く先には何があるのか和子にも解かっていなかったのでしょう。
復讐なのか新しい生き方に目覚めたのかその究極の行為の代償には哀れさを感じますが、辛口の男と女の物語でもラストはありきたりの恋愛ドラマのような幕切れで終わる所が

またこの物語の面白さと云えるかも知れません。どう読むかは人それぞれですが著者の懐の深さを感じる一冊です。

美人とはそれぞれのパーツがもっとも平均的であるというデータも面白かった。
  

『チェーン・ポイズン』本田孝好のミステリ

2015-04-05 09:33:04 | ミステリ小説
 

最後にそうだったのか、と騙される構成でみせるミステリです。
しかし、内容的には少々暗い話といわざるを得ません。この内容で最後のオチがこういったドンデン返し的なものでなかったとしたらおススメは難しいと思います。

でも自分の個性を充分に出した文章とキッチリ描かれた人間やその内面の細々としたところをしっかり書き分けられたところが一冊の本としても好評価できます。
ミステリとしても主人公の揺れ動く心理を追いながら、体験する出来事がドラマチックに盛り上がっていくところが一気読みを誘います。

死を誘う謎の人物と、二点のキーワードで結びつく二つの自殺事件。その不自然さを追う一人の週刊誌記者。この記者が世間の片隅に追いやられて行くような
ありふれた出来事をドラマチックなミステリに仕立てていくわけです。

その記者も規範やポリシーをしっかりと持った人物に設定されていて好感が持てる人物になっています。
生きること、そして死。それらの重い問題を絡ませながら主人公の動きがとても共感を呼ぶ内容で、暗く重い話と言えますが最後のオチがそして交差が
このミステリを成功に導いていると思います。

                                      

『夢幻花』東野圭吾のミステリ

2015-04-05 08:40:07 | ミステリ小説
                                  

黄色いアサガオが謎の中心をなす物語です。自然界には存在しない黄色いアサガオというものを巡って
いろいろな人物が関係してくるストーリー構成になっています。この辺の描き方はベテラン作家らしい巧みさで読み易い文章と人間ドラマの面白さでいっき読みを誘います。

ただ、本格ものを好むミステリファンからしてみればテレビの2時間ドラマのような印象を持つのも否めません。
それは多彩な人物とその相互関係がいろいろなエピソードで語られているからです。
いろいろと人間関係を盛り込む手法が通俗小説のような印象になります。

ミステリーとしては一人の老人が殺害され、その孫が知り合った一人の男と老人の生活の中で不可解な点を追求していく内容です。その謎めいた不確かな部分を探っていくと
孫に協力している若い男の生活の一部にも関連している謎として黄色いアサガオが浮かび上がってくることになります。

自然界には存在しない黄色いアサガオ。かっては存在していたとされる黄色いアサガオ。そのアサガオに関するウンチクなども紹介されて消滅した理由なども想像を交えて
書かれていて、このあたりも興味深い話しとなっています。

登場人物たちが抱える問題や想いが黄色いアサガオに集約されていく過程が謎解きにもなっている展開で、手法の巧みさが安心して読めるミステリとなっています。
老人が殺害された、その動機探しのミステリですがそこに黄色いアサガオという自然界に存在しない物を持ってきた着想の良さに感心します。

東野圭吾のファンにとっては楽しめる一冊でしょう。