Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『黄色い水着の謎』奥泉光のミステリ

2015-05-31 08:40:09 | ミステリ小説
                          ルルーの『黄色い部屋の謎』をもじったようなタイトルですが、桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2です。
日本一下流のたらちね国際大学の准教授桑潟幸一ことクワコーの相変わらずのダメ生活ぶりと遭遇する不思議な出来事が爆笑とともに描かれています。
著者は現在は近畿大学文学部教授で2012より芥川賞の選考委員を務めています。

その経歴からも確かな文章力に的確な語彙を使った美しい日本語ともいえる言葉で書かれた物語ですが、登場するクワコーが顧問を務める
文芸部の面々が話す言葉がいまどきの若者言葉で
それをそのまま書いているのでそのギャップからも笑いを誘う要因になっています。

とにかく良く観察していると感心するほどに
多少の誇張を混ぜていまどきの若者が話す
言葉が綴られていてそこだけ読んでも爆笑してしまいます。そして大学准教授というニュアンスからは想像も出来ないほどの
クワコーの悲惨とも云えるしみったれた日常生活が笑いを誘うベースとなっています。

遭遇する不思議な出来事の謎を解く探偵役のジンジンこと神野仁美も相変わらずのホームレス生活で、
クワコーや彼女らが食事をするシーンなどが食リポのように描かれているところも読んでいて楽しいものです。

クワコーが節約のためザリガニを取って食べるところなども書かれていますがザリガニって本当に食えるのだろうか?
微笑ましくも哀れなクワコーの日常と不思議な出来事に挑む文芸部の面々の探偵ぶりを爆笑で包んだ一品ですが、
コテコテの本格ミステリにちょっと疲れた時などにはおススメの一冊です。





『暗闇・キッス・それだけで』森博嗣のミステリ

2015-05-31 06:24:28 | ミステリ小説
                          

ちょっとハードボイルド風の味付けをした作品です。ミステリとしては例えば三津田信三や
小島正樹のようなコテコテの本格ミステリといった感はありません。さらりと読めます。起きる事件はひとつで、そのなかでの謎めいた部分もそう複雑ではなくシンプルといえます。

でも中身の無い軽い作品とは思いません。前作の『ゾラ・一撃・さようなら』に続く探偵の頸城悦夫を主人公にした物語です。若いころ海外にいて愛する人の死に遭遇するという
心の傷を負い失意のうちに日本に帰ってきたという過去を持っています。若い時は何でも出来る、すべては自分の手の中にある、そのような思いで海外を放浪していた時に
知り合った女性でした。内戦が起きた国でその暴力で彼女は亡くなりました。日本に帰ってからも不眠症に悩まされ立ち直るために探偵になったのかもしれません。

氏の作品の特徴はなんといっても登場する人物のキャラクターの造形の上手さです。犀川助教授、西之園萌絵シリーズや保呂草潤平、瀬在丸紅子シリーズのように楽しい連中が
活躍する物語がなんといっても読んでいて面白いのです。そして理系ミステリと評された主要人物の会話や思考がこれまでにない新鮮さで、謎解きのプロセスも理系的な思考の元
に真相に至るといった様子でとても面白く感じました。

この本も会話や主人公を取り巻く人物たちとの設定が面白く、事件に係わることになるのも自然で、最後には彼の力で解決に至るわけですが、そうアクセクと動き回る事もしないで
時間とともに事態が動きその出来事を繋ぎ合わせて真相に気付くという内容になっています。探偵と云う割には華々しい活躍はしませんが、彼の人間性が周りの人を惹きつけ信頼されて
係わっているうちに事件に遭遇し、自然の流れのなかで真相に辿り着くという事になっています。キャラクターの魅力と会話の楽しさ、そして作中で見られる著者の価値観。
個人的にはとても好きな作家の一人です。


『フライプレイ!監棺館殺人事件』霞流一のミステリ

2015-05-23 19:52:22 | ミステリ小説
                          

さて、この死体どうする?こんなシチュエーションで幕を開けるミステリです。

目前に横たわる女。 それを見下ろす銅像のようなふたり。「さて、この死体どうする?」「どうせなら本格ミステリ作家の名にふさわしい殺人にするべきでしょう!」

切羽詰った売れない作家と編集者による「禁じ手」に、彩りの探偵を据えての推理合戦、すべては怒涛の結末のために!名探偵メントのために!

これがこの本のキャッチコピー。数々のミステリのアイテムとギミック。ポーの見立てとドイルの見立て。ミステリ入門としても中級者用としても楽しめる内容です。

密室殺人講座とアイロニー。「探偵スルース」+「熱海殺人事件」の世界。

しかし、それらはみんな最後の仕掛けのための工作だったという快感。そして本当の最後にはブラックジョークのようなホラーのようなオチが用意されているという手の込みよう。

マニアックとも云える内容ですが著者の直球勝負のこの作品、ズバリと受け止めて楽しんでいただきたいと思います。


『失踪当時の服装は』ヒラリー・ウォーのミステリ

2015-05-03 09:02:00 | ミステリ小説
                                  

一人の少女が消息を絶った。通報を受けて地元警察のフォード署長は捜査を開始する。
高卒で勤続三十三年のフォード署長。そして部下のキャメロンは大卒で十三年勤続の私服刑事。二人の辛らつな言葉のやり取りと信頼で結ばれている様子を描きながら捜査は
進みます。しかし、証言を集めれば集めるほど少女の消えた原因が分からない。少女の人物像が明らかになるほど事故か事件なのかも分からない状態となる。
この辺は読んでいる方も少女の消えた理由が分からないので、捜査しているフォードたちと同じ気持ちでいることになります。
ノンフィクション的要素を取り入れたフィクションという手法がとても面白く、警察の地道な捜査の様子しか描かれていませんが退屈などはありません。

こつこつと歩き回っては情報を集め、そこに何も得られなければまた歩き回って情報を集める。そんな捜査の基本を繰り返すフォードたちですが
いまどきの作品に良くある登場人物のサイドストーリーといったものも無く、ただ読者も捜査の様子を見守るばかりです。

そして物語が半分ほど進んだところで川から死体が見つかります。

この地道な捜査の進展に重要なアイテムがひとつ登場しますが、その扱い方がとても上手いなと感じます。そして謎めいた部分を解き明かすヒントが消えた少女の人間性であったり
性格的なものであるというところが面白いと思います。またそこに着目するフォード署長の推理も並みではありません。出来ることはすべてやるフォード署長とその部下達。
死体が見つかった後の後半部分はいっきに読み終えました。それほどページをめくる手が止まらなかったと云う事です。

1952年に発表されたこの本はミステリの歴史を変えた一冊です。

地道な警察の捜査を描くというだけの内容ですがミステリとしての面白さは一級品です。


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