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80歳に向けて・「新風来記」・・・今これから

風来居士、そのうち80歳、再出発です。

「短編小説」のつもり ― ユウコちゃん (その 3 )

2018年04月11日 17時56分13秒 | 創作
ユウコちゃん (その 3 )

今回の旅行に出て以来、ずっと繰り返し考え続けてきた。

今さら・・・、いや、今だからこそ・・・、そう、今しかない・・・。
しかし、本当にこの先、何かが待っていてくれるのか? ・・・と。

青春期、私も人並みに、何度か恋を経験した。
しかし、結局はどの恋も実ることはなかった。


初めての恋・・・、気持ちを打ち明け、即座にはっきりと断られた。
「悪いけど好みじゃない。あんたとずっとやっていく自信がない。」

また気持ちを打ち明けたが、返事すらもらえずに無視されたことも。

さらには片思いのまま、打ち明けることすら出来ずに終わったことは
二度、三度・・・。 ()

恋多き男と言わば言え。
それが青春期というものではないだろうか。


そう、ユウコちゃんの話だった。
彼女と別れてから、すでに60年以上になるだろうか?

無論、今もなお、ずっとこの街に暮らし続けているとは考えにくい。
それならそれで、その後の消息が気になってくる。
どうなんだろう・・・?

そう、初恋と言うにはあまりに幼なすぎた。

思えば、学校で彼女と過ごした時間は、ほんの一瞬とでも言うような
短期間だったが、あの日、それが蘇ってから以降、ずっと気になって、
時折、彼女の幼くかわいい姿が眼の前にちらつくようになった。

人は希望があるかぎり若く、失望と共に老い朽ちる。 S・ウルマン

ユウコちゃんへの思い・・・。
そう、それだけが今、やっと仕事から解放された男の、ただ一つの夢。
ひょっとしたら、それが私に心の安らぎを与えてくれそうな、そんな
気がする。

しかし、これはあまりに身勝手な、また虫のいい話だろう。

もしも、ユウコちゃんの消息が知れたならそれだけでいい。
そのまま黙って帰ってこよう。

考えてみれば、それは当然の事だ。
どうして、今まで気づかなかったのか?

私は、自分の思いつきに思わず指を弾いた。
(続く)


「短編小説」のつもり ― ユウコちゃん (その2)

2018年04月11日 01時59分00秒 | 創作
ユウコちゃん (その2)

しかし、職場が東京だったため、その後、私は一度も故郷、そして
ユウコちゃんの住んでいた隣町に帰ることはなかった。

あれから40年、いや50年たつだろうか?

会社は無事に大過なく定年退職出来たものの、結局、夜間大学を卒業
して教師にという当初の希望、目的を実現することはできなかった。

今日、思い切ってわずかな貯金をおろし、電車を乗り継いで、この小
さな町に戻ってきた。
町も人もそして風景さえも、当時とはすっかり変わってしまっている。
目に映る町並みは、50年前の、あの日とは、まるで違った風景だ。

長い間、シャッターを下ろし続けているような寂しい商店街。
人通りは、時間のせいかもしれないが、ぽつり、ぽつりでしかない。

私は、この町に、一体何を期待して戻ってきたのだろうか?
冷たい風が、首筋をかすめていく。
この町は、本当にあの町なのだろうか?
私の知っている故郷はどこへ行ってしまったのか?

いずれにせよ、今の私は、ただの通りすがりの旅人でしかない。
急にひどい疲労感を感じて、道路脇の縁石に腰を下ろす。

年と共に、人も街も変わっていく。
それは分かる気がする。

それでも隣の町は、駅前こそ静かだが、ちょっと歩いて町中に出ると
それなりに人通りも多く、賑やかだった。

人が生きていくということは、言い換えれば人間同士のしがらみを、
引き続き、背負い続けていくということでもある。
それを改めて確認をするためにというのは、ちょっと飾りすぎだろ
うか?

実際のところ、私は何をしに来たのだろうか?
今さら、昔の人間関係を確認する意味が果たしてあるのだろうか?
今回の小旅行の間、列車の中でずっとその疑問を繰り返していた。

私は、この町で、誰に、何を期待しているのだろうか?
過去の私を忘れこそすれ、今の私を知っている人間など、無論、この
先にはいるはずもない。

思えば、私には、自分を変えてくれるような「出逢い」というものが
無かった。
いや、もしかすると、私がただ気づかなかっただけで、「出逢い」
私の横を黙ってそのまま素通りしていってしまったということなのか
も知れない。
(続く)