我がさいたま赤十字病院では、リウマチ膠原病内科と呼吸器内科で週に1回合同の膠原病肺カンファレンスを開催しています。
最近のカンファレンスに提示された症例を報告させていただきます。
関節リウマチ(RA)にて約3年間MTXと他のDMARDを内服している70歳代の女性の急性経過の発熱、呼吸困難です。
RA自体は上記薬物治療にてコントロール良好のようです。
週末の夕方緊急入院しましたが、呼吸不全も認めていました。
胸部レントゲンは両側びまん性にすりガラス陰影、浸潤影を認めています。通常見る細菌性肺炎とは異なるレントゲン所見です。
胸部HRCTではびまん性に小葉間隔壁肥厚を伴うすりガラス陰影を認めています。
考えられる鑑別疾患はどうでしょうか?
RAにてMTX投与中に出現したびまん性陰影の鑑別疾患は以下の3つとされています。
①RA自体の間質性肺炎 ②MTXによる薬剤性肺炎 ③PCPなどの感染症 です。この3疾患は何も考えずに上げなければいけないかと思います。
①についてはRA自体のコントロールがついている状況では考えづらいでしょう。
②MTXによる薬剤性肺炎はどうでしょうか?MTX内服後何年経ってもMTX肺炎の可能性は否定出来ないといつも聞かされていますが、内服後3年は決して頻度が高いとは思えません。MTX内服時期(週初めか週末か?)と症状発現時期が重要だと以前指導してもらいましたが、そのような経過でもないようです。
そうすると素直に考えるとPCPなどの感染症の可能性が一番高いことになるかと思います。(経過からはPCPではないかとコメントする先生はまあまあいました)
緊急入院時、週末夕方ということもあり、β‐D-グルカンの結果が出ず、それ以外としては炎症反応亢進のみで、KL-6値は正常範囲、好酸球増多もありませんでした。
入院時の胸部CT所見はどうでしょうか?特にMTX肺炎とPCPの鑑別はいかがでしょうか?
呼吸器内科スタッフの〇〇先生がひと言「胸部画像所見からMTX肺炎とPCPは鑑別困難で実診療では両者の可能性を考えて治療するしかないですよね。」という素晴らしいコメントがありました。その通りですね。
ただ、本例の胸部HRCTをよく見てみると小葉間隔壁肥厚のすごく目立つ陰影、つまり広義間質病変を伴っています。胸部画像研究会で胸部放射線科専門医がいつもコメントする小葉間隔壁肥厚。広義間質病変の有無によって鑑別が大分絞れてくるということで、我々もいつも意識しているかと思います。PCPでここまで広義間質病変が目立っていいのか?Webb先生のHRCTの教科書には広義間質病変の鑑別疾患にPCPは入っていないのでは?と思いました。
さらには血清KL-6値が正常という点です。PCPというとKL-6値著明高値を来す疾患の代表例であり、こんなことがあっていいのか?これも疑問でした。
カンファレンスで色々討論したあと、リウマチ膠原病内科の先生の方でMTX肺炎、PCPの可能性を考えて、両者の治療(ST合剤内服+ステロイド内服)を開始したところ、自覚症状、呼吸状態、レントゲン所見の著明な改善を認め、経過からはPCPらしくなくMTX肺炎ではないか?というリウマチ膠原病内科の先生の推察でした。
週明け提出していた血液検査でβ-D-グルカン値の上昇を確認できたため、PCPの診断が確定しました。現在PCPに対する治療に軌道修正しているところです。
この症例は細かい情報を持たなければPCPを最も疑い、その通りの診断だったということで何もないのですが、血清β-D-グルカンの結果が出ないだけでこれだけ悩むことになったということで、とても教訓的な症例だったと思います。
PCPの経過(治療反応性)ひとつとっても非典型的な症例があっていいということです。たくさんRA症例のPCPを診ているリウマチ膠原病内科の先生でも騙されてしまったわけです。
先ほど胸部HRCT所見で小葉間隔壁肥厚をコメントしましたが、成書を読むと、PCP全体の10%台に小葉間隔壁肥厚を認めると記載されていました。小葉間隔壁肥厚を認めること、PCPでは決して稀ではないということです。教科書にはきちんと書いてあるのですね。
血清KL-6についてはいかがでしょうか?教科書をきちんと読むとPCP診断における有用性についてはKL-6はβ-D-グルカンより劣り、non HIVのPCPでは66%しか上昇しないと記載されています。(〇〇先生がすぐに高柳先生の論文をチェックし、KL-6値の値には幅があることを確認してくれました)「PCPではKL-6が著明高値になることがある」ということから常にKL-6が上昇すると理解してしまっていたこと、本当に反省している次第です。きちんと基礎に戻り、教科書にて確認することが必要でした。
たった1例の検討ですが、本当にたくさんのことを勉強出来、色々再確認することが出来ました。目の前にいる患者さんが一番の教科書ということを再認識できた症例だったと思います。
呼吸器内科医としては、膠原病をはじめ全身疾患についてたくさんの知識を持っていなけばならず、今後もリウマチ膠原病内科の先生方と一緒に勉強していきたいと思います。