郷に入っては郷に従え
シンバヤル
モンゴル語に「水を飲めば決まりに従う」という格言がある。日本語にもこれと同じ意味を表す「郷に入っては郷に従え」という諺がある。どの国や地域や民族にも、それぞれタブーや規則があるものだ。昔のモンゴル人は、どこに行ってもその土地の決まりに従わないなら、そこの守り神に見放される、と考えていた。地元の風習を重んじ、食べ物はまず地元の山や川の神にお供えして手を合わせた。
ここでは、日本人の数における吉凶について、自分自身が体験したことを書こうと思う。
日本人では「4」と「9」は縁起の悪い数とされている。理由はその音による。「4」は「死」と、「9」は「苦」と同音であるからだ。病院には4号室がない。4階がなく3階のすぐ上が5階になっている病院もある。
モンゴルの伝統的な文化では吉数は「3」と「9」である。モンゴル人は酒を薦めるのは三度を良しとする。ただし、漢文化の影響で「4」を吉数とする地域もあり、「一対」つまり二度が良いとする地域もある。
これは、私が日本留学中に学校の休日に印刷工場で働いていた1999年の9月9日に起こった出来事である。
その日私は授業がなく、終日印刷工場で働いていた。午後五時半に仕事が終わって出てくるとき、善意で仕事仲間に警告した。
「今日は1999年9月9日で、五つの9が重なった日です。皆さん気を付けてお帰りください」
彼らも答えて、
「あなたはバイクに乗っているのだから、いっそう注意してね」
と言った。
「大丈夫。モンゴル人にとっては、9はいい数です」
私はこう答えてバイクに乗り、慣れた道を鼻歌を歌いながら進んだ。一日中働いた満足感、バイクにまたがり風を切って行くのは楽しく快かった。年齢も40歳に近づき慎重になっていたので、路上の車や信号には気を付ける習慣になっていた。
職場から家まで1時間ちょっとの道である。日本人は交通規則を守るので、既定の速度を保っていれば交差点も減速しないで通過するのが一般的だ。私は経験を積んだとうぬぼれていた。
家から300m程にある交差点を横切るときだった。右側から入ってきた車が私を跳ね飛ばした。車の左から前にぶつかった私の体は車を飛び越えて右側に落ち、意識を失った。
気が付くと、私より年下の青年が
「大丈夫ですか!」
と、呼びかけていた。一瞬、息が止まっていた状態から、息を吹き返したようだった。その人は、
「携帯、持ってますか?」
と言ったようだ。
かなり離れた道路の上にバッテリーが外れた携帯が転がっていた。彼は携帯を拾い上げて電源を入れると、すぐさま救急車と警察を呼んだ。手、肘、膝、頭などのあちらこちらに怪我をして出血しているようだ。息をすると肋骨が引きつって痛い。彼は私に何度も謝り、許しを乞うた。
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