今日はソチ五輪でメダルが期待されている、男子フィギュアの羽生結弦選手について。
団体・ショートでは、ミスのない華麗で色気のある滑りが観客を魅了し、プルシェンコ(91.39点)
やパトリック・チャン(89.71点)を上回る97.98点という高得点で、トップに立ちました。
そんな羽生選手には、自己分析という『極秘メモ』が彼のスケーティング技術と精神力を高める
カギなのかもしれません。
以下Number846号の記事を抜粋しながら、羽生選手の気持ちに迫ります。
以下の写真は記事とは無関係です。
羽生 結弦 『王者への秘策』 より
2013年12月のグランプリファイナル・ショートで、世界レコード更新となる99.84点をたたき出すと、羽生結弦はちょっと自慢げにこう言った。
『極秘メモがあるんですよ、頭の中に。自分がどういう気持ちの時にどんな演技になるか、どんなミスをするのか、しっかり書き出してある。そのメモのお陰で、自分の気持ちをしっかり分析しきれているんです。』
フリーも好演し、世界選手権三連覇のパトリック・チャン(カナダ)を破って優勝。
仙台でスケートを始めた頃は、コンプレックスばかりの少年だった。子供の頃は喘息持ちでヒョロヒョロの貧弱児。しかし、性格は男臭く極度の負けず嫌いだった。
『小学校の頃、同期がみんな3回転を跳べても、僕だけパワーがなくて跳べない。悔しい、絶対に追いついてやる、って毎日思ってた。あの悔しさが、僕をここまで成長させてくれた、僕の原点。』
チャンが世界王者になる前から強烈にライバル視してきた。初めて同じ試合にエントリーしたのは、シニアに上がったばかりの2010年11月、ロシア杯。
『こんなにエッジを倒しても転ばないんだ。スピードも凄い。』 それ以来、視線の先には常にチャンがいた。
『スケーティングで勝とうなんて思っていない。僕の長所はジャンプ。もっと難しいジャンプをどんどん跳ばなくちゃいけない。』
『ライバルがいると、僕は跳べる。』 と確信した羽生は、2年前に海外コーチを決める際にも、4回転サルコウが得意なフェルナンデス(スペイン)を間近で見たくて、同門生になろうとブライアン・オーサーに師事した。その選択はすぐに実を結ぶ。昨季は、ショートで世界記録を2度更新。一足飛びで、チャンを脅かす存在にまで成長した。
2013年10月 スケートカナダで、初のパトリック・チャンと対戦。
『絶対にパトリックに勝ちたい。昨季の世界選手権で、ショートのワールドレコードを塗り替えられていますし。』
だが対抗心をあらわにして臨むと、ジャンプのミスで自滅して、2位。勝ちたい気持ちだけが空回りしていた。
『周りに目が行っていた。公式練習も周りの選手を見ていたし、自分を客観視できていなかった。』
コーチのオーサーは、
『ユヅルに必要なのは”成熟”だ。公式練習で、他の選手へのライバル心をむき出しにしてムキになって練習する。”自制と自信”。これがユヅルに足りないものだ。』
コーチの言葉と自分の分析。それを頭の”極秘メモ”に記録した。
2013年11月のフランス杯は、チャンとの2度目の対戦。
羽生は別人のように落ちつき、ショートをミスなく滑る。しかしチャンもミスなく滑り、世界記録を塗り替えていた。
『同じノーミスで3点差は大きいな。演技を磨くか、ジャンプを磨くか....。』 頭がフル回転のまま、記者会見ではチャンの隣に座り、彼の演技構成点が高い理由を聞き入り、早速『極秘メモ』に加えた。
チャンに気を取られると、翌日のフリーでは雑念が入り、冒頭の4回転を2つ連続で失敗して転倒。それでも、残る演技はミスなくまとめ、2位をキープ。
『悔しいです。思わぬミスで焦りました。ただし、これまでの試合だったら気持ち的に落ちてしまうところを、後半にかけて集中し直せたことが収穫です。』
『以前は勝ちたいだけだったけど、今はバランス。集中の仕方が少し変わってきた。』
2013年12月のグランプリファイナル。今季、チャンとの対決は3戦目だ。
『自分の気持ちをしっかり分析できている。』ショートを落ち着いて臨み、ノーミスで演技を決めた。自己ベストを4点も上回る、99.84点の世界記録だ。羽生の”極秘メモ”には、過去の反省がびっしり書いてあった。
『ショートはショートで一旦喜んで忘れる。フリーは自分に集中しなければならない。』
一方のチャンは、ジャンプミスが多く2位発進となった。羽生は冒頭の4回転サルコウで転倒。しかし、その悔しさも優勝への欲も捨てた。その後の演技は、ジャンプにこだわらずにジャッジに訴えかけることだけを心がけた。
結果、技術点102.03点で世界最高点。総合点もチャンの世界記録に迫る得点で、優勝を決めた。
『パトリックへの対抗意識による緊張の中、自分に集中すると何が出来るか。パトリックと今季3戦連続で当たったことで自分のスタイルを研究し、摑むことができた。だからパトリックには感謝しています。』
『昔は”勝ちたい”とだけ考えていた。試合では”勝ちたい”と”自分に集中”のバランスが大事。自分だけの方法を今回、確立しきれた。』
フィギュアのトップレベルの選手達の力量は僅差です。五輪でメダルを勝ちとるには、この4年に1度の大舞台でいかにプレッシャーに打ち勝ち、自分をコントロールできるか。羽生選手の『極秘メモ』を有効に使い、オーサーコーチが言うところの”自制と自信”が保てたとき、羽生選手が栄冠を勝ち取ることができるでしょう。
2013年グランプリファイナルの動画で振り返ります。