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『夜の片鱗』 at 神保町シアター ~桑野みゆきのダークな魅力横溢~

2014-12-02 | 主人のこだわり・クラシック&本棚

桑野みゆきのダークな魅力横溢

『夜の片鱗』 1964年 カラー 松竹大船 主演 桑野みゆき

2014年11月29日 神保町シアターにて鑑賞

 

あらすじ

電気部品工場で働くティーンの芳江は、知り合いのバーでアルバイトすることになった。ある日そこに自称サラリーマンの英次が訪れる。ハンサムで人当たりのいい態度に一目惚れした芳江はデートを重ね、女として成熟していく。

だが、英次の素顔はその辺り一帯を縄張りとする暴力団兜組の下っ端組員だった。定職を持たず、組からのピンはねに困窮する彼のために、やがて芳江は体一つ夜の街に立つことを決意する。

だが、せっかくの客からの上がりもほとんど組の資金となり、果ては英次自らがギャンブルですってしまっていた。そうして月日が流れ、ある夜、一人の堅気の若いサラリーマンが芳江の客となった。その男藤井は建設会社に勤め、芳江と逢瀬を重ね身の上話を聞くうちに、何時しか彼女に情が移り、ついに結婚を申し込むまでに至る。

その藤井に転勤の日が訪れた。一緒に駆け落ちして生活を一からやり直そうと熱っぽく諭す藤井。運命の夜、芳江は彼の待つ新宿駅へと歩む。「止まってはいけない。歩きつづける」だが、芳江の頭の片隅では同じ境遇から逃れようとして無残にも殺されたケイコのことがちらつく。芳江の歩みは違う方向へと逸れはじめた……。

 

映画評

ダークな役所に桑野さんがどう挑んだか楽しみな一本でした。予想どおり、声を低くし、余韻たっぷりです。スタイルはスリムなのですが、それが逆にリアル感を出していると思います。ストーリーは悲劇に終わる結末などありきたりと言えば、ありきたりですが、色々考えさせられました。

時はオリンピック開催期で高度成長真っ只中です。次々と鉄筋コンクリートの高層建築が立ち並びはじめました。ファッションも見違えるほど華やかになりました。しかし、庶民の生活空間は、まだまだみすぼらしく、未舗装道路の周囲に風呂なし木造アパート、木造家屋がびっしり立ち並んでいます。この「木」の空間が社会の底辺の人々の現在と貧困を象徴し、未来と富がコンクリートのビルに象徴されています。

芳江の父親は風呂桶職人で黙々と木を打ちつけており、方や、未来を約束する藤井の職業は水道事業でコンクリートを扱う建設技師です。この現在と未来の挟間に投げ込まれ、芳江は懊悩します。未来を象徴するビルディング、憧れの象徴は遠景で意図的にぼかされており、心憎い考え抜かれたカメラワークだと思います。

「そんなこと言っていいの」藤井から愛の告白とプロポーズを受けた芳江はぽつりと呟きます。既に心と体を破壊されつくした芳江の表情は氷のようです。この外面如菩薩の表情を斜め上からとらえるカメラのアングルも秀逸です。

芳江は藤井を愛し、幸せな家庭を築けるのでしょうか。しかし、そもそも藤井は芳江を商売女として買っているのです。その眼差しに蔑みは含まれていないでしょうか。藤井の口調は妙に浮つき、説得力なく感じられます。結局芳江は英次を愛していたのでしょう。互いの身分を打ち明けないまま付き合いはじめ、結ばれた純愛なのです。だから芳江は英次のために身を売り、英次の元に留まったのでしょう。結末も愛のなせる業なのでしょうか。

脚本も優れています。現在から過去への切り替えがスムーズですし、ラストでは未来の声も聞こえるではありませんか。シーンの切り替わりでブルーに変色しフェードアウトする効果、随所で挿入されるネオンサインや「あいまい屋」の灯火、女の心理に寄り添うカメラ・アングルなどお手本と言っていいでしょう。

芳江の暴行シーンなど、数年前の『青春残酷物語』から影響を受けているかなと思われるシーンもありました。けだるい音楽はまさに『残酷物語』の延長線上にあります。

 

 



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