主人のクラッシック・音楽評論です♪ 本日は、指揮者に焦点をあてます。
指揮者 ロスバウトについて
ハンス・ロスバウトは1895年にグラーツで生まれ、1962年にルガーノで没した知る人ぞ知る
指揮者です。ヘッセン(フランクフルト)放送響、ミュンヘン・フィルなどの主席指揮者を歴任、最終
的に南西ドイツ放送交響楽団(現SWRバーデン-バーデン・フライブルク交響楽団)のシェフを務
めました。
現代音楽(当時の)のエキスパートとして、ドナウ・エッシンゲン音楽祭の再興に尽力し、録音で
は一握りの正規録音と膨大な放送用録音とライヴ録音の存在が知られています。彼の手で初演
された著名作曲家の作品は枚挙に暇がありません。
また、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといった古典でも名演を残し、コンチェルトの伴奏で
も巧みなバトン・コントロールを示しました。最晩年はアメリカのオケも振り、そちらのライヴも発掘
されています。
マーラー&ブルックナー指揮者の先駆者
今でこそ、ハイティンク、シャイー、インバルと、マーラーとブルックナー各々を得意にし、名演・
全集を残している指揮者はそれなりにいますが、1950年代にはほとんどいませんでした。
クレンペラーのレコードが出るのは60年代ですから、如何にロスバウトの食いつきが早かった
かがわかります。
同郷のほんの数世代前の作曲家ということで思い入れは強かったと思います。演奏もその共感
に支えられて大変素晴らしいものです。
ロスバウトこそはマーラー、ブルックナーそれぞれに名演を残した指揮者の草分けです。
ロスバウトのマーラーは1番(二種類)4、5、6、7(二種類)、9、大地の歌(二種類)が残され、
ブルックナーは2、3、4、5、7、8が残されているようです。
アーカイヴの整理が進めば、ディスコグラフィーはさらに増える可能性があります。
ANDROMEDAレーベルでまとめられたブルックナー選集
今回ANDROMEDAレーベルでまとめられたブルックナー選集は2、5、7、8番であり、モノ
ラル録音ながら、なかなかの高音質で楽しめます。以下簡単なコメントを付けます。
2番(1956年12月10日&13日録音)
所有するディスクではコンヴィチュニーに継ぐ古い録音となります。使用する版とカットの有無が
鑑賞のポイントとなりますが、ロスバウトはカットなしのハース版を使用しています。
一楽章第二主題で思い切ったアゴーギグが現れるあたり、ロマンの香りが漂います。作品への
信頼と共感溢れる、快速の演奏です。
5番(1953年10月21日録音)
20年ほど前、ARKADIAレーベルで聴いた時、なんと素っ気ない演奏だろうと思いましたが、
単にこちらがロマンかぶれしていただけでした。ロスバウトはバロック→ハイドンの流れの延長で
ブルックナーを演奏しています。改めて聴きなおすと感動ひとしおです。スケルツォの丹念な指揮
振り、フィナーレのコラール主題の独特の歌い回しなどが印象に残ります。
ある意味、シューリヒトを越えているかもしれません。
7番(1957年12月27日&30日録音)
昔のレコードカタログに載っていたロスバウト唯一のブルックナーでした。ハース版使用、二楽章
のクライマックスでは金管は抑えられています。曲想の繋ぎが難しく、指揮にやや神経質な面が
出ていますが、優れた演奏に間違いありません。
8番(1955年11月17日録音)
最初出たUraniaのCDは、録音日付は正確でない、長大な三楽章に致命的なカットがあるという
言わば欠陥商品でした。こういうのを平気で商品化してしまった天晴れな生き証人なので未だに
手放さないでいます。
今回の三楽章はもちろんカットなしの完全版です。ブルックナーの音楽を聴くことは登山に喩えら
れますが、この三楽章の高峰は登るに値すると思います。全体は快速のテンポです。
まとめ
ブルックナーはローカルな田舎じみた洗練されていない作曲家というイメージがあるのですが、
ロスバウトの贅肉を落とした引き締まった演奏は、そういうイメージを刷新させるものです。
こういう優れた指揮者・ディスクの評価がすっぽり抜け落ちてしまったのは、如何に日本のブルッ
クナー受容がロマン派寄りだったかを示すものでしょう。
今回の選集の発売がそうした再考を促すきっかけになればと思います。