前回のヒラリーハーン・演奏記録に次いで、今回も主人の演奏記録をどうぞ
小林倫子リサイタル in 東京オペラシティ・リサイタルホール
(2013年11月24日)菊地裕介(pf)
小林さんのヴァイオリンは2年前に地元でバッハを聴いて以来です。バッハの時、オペラシティでのリサイタルが既にアナウンスされておりましたので、今回はまさに待ちに待ったコンサートでした。
バッハの演奏は堂に入ったものでした。日本人の情感に支えられた骨格のしっかりした演奏でした。
今回のリサイタルはどうだったでしょうか。改めて聴いてみると、
まず音がひじょうに明瞭です。音に無駄がない。無駄を省いて尖らせた感じです。
また音楽作りのフォルムがしっかりしている。音楽に明瞭な骨格を与えています。だから、曲が聴き取りやすいし、音楽がわかりやすいと言えるでしょう。
まず一曲目はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの2番です。
これはシンプルで聴くにはちょっと物足りない曲ですが、明快なフレーズと堅固な構成をもった、小林さんにはぴったりの曲ではないでしょうか。逆に古典ゆえのごまかしの効かない怖い曲だと思われます。そういう曲をリサイタルの冒頭に持ってくるという自信の程が窺われました。
二楽章はいつものベートーヴェン節が聴かれます。
二曲目はディーリアスのソナタでした。
これは小林さんの高音が冴えわたった素晴らしい演奏でした。この日の白眉といえる演奏です。演奏前の解説でとても若々しい曲と仰っておりましたが、若さのみならず幻想味豊かな曲調です。二つの主題が交錯する長い二楽章はもう一度聴きたい気分です。
是非この曲をレパートリーの定番にして広めていって頂きたいと思います。
続いてはドビュッシーの遺作のソナタ。
シノワーズの雰囲気漂う曲です。技巧的ですが実は折り目のきちんとした曲です。中低音がもう少し鳴っていればと思います。ヴァイオリンの中低音は鳴らすのが難しいのでしょうか。
最後もピアノと決めが一瞬ずれたのも惜しかったです。
最後はレスピーギの珍しいソナタ。
悩ましい一楽章の主題。地鳴りのするピアノの伴奏など、とてもソナタの枠内で表現するような音楽とは思えません。もう少し暴れても面白かったかもしれませんが、小林さんは最後まで持ち前のアプローチを崩さず正攻法で奏しました。
品位の感じられた演奏でした。
アンコールはアイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」。
心暖まる素晴らしい演奏でした。
振り返ると、プログラムはヴァイオリン・ソナタによる英独仏伊の音楽散歩でした。
次回もこういう意欲的なプログラムで音楽ファンの蒙を啓いて頂ければと思います。
小林さんは日本を代表する知性派ヴァイオリニストだと実感させたリサイタルでした。