風の回廊

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検察を考える

2010年10月30日 | 日記
検事は、警察官のように身分証(警察手帳)を有することもなく、「秋霜烈日章」をスーツの襟に付け、自分で発行できる捜査令状と簡単に手に入る逮捕状を持って強制捜査でも何でもできてしまう……

その最前線部隊が、東京、大阪、名古屋各地方検察庁に属する特別捜査部です。(以下特捜)
前回も書いたように、一行政機関の検察が、本来有し得る公訴権の他に逮捕・捜査権を持つこと認めている国は、世界でも稀有な存在で、権力分立を国家権力の体形とする近代民主主義の原理から明らかに外れています。日本国憲法の正当性の基盤は、民主主義の原理に基づくもので、日本国憲法からも逸脱していると思います。国民の人権に対し、これほど危険性を有する公権力を同時に持っている組織は他にはありません。

ひとつには、戦後日本の民主化を担ったGHQが、検察を解体しなかったこと。検察の権力を逆に利用し、占領政策を推し進める手段としたことは、前回書きました。
つまり明治憲法下での“天皇の官吏”としての検察が、そのまま残ってしまいました。

認証官制度をご存知でしょうか?
天皇の国事行為として「天皇が官吏を認証」する制度で、明治憲法下での絶対君主、国家元首だった天皇からの権力の代行委譲が、象徴天皇の下、現在も行われている形骸化した儀式です。国家元首でもない天皇から認証されるというのはおかしな話で、国民主権という民主主義の原理からもかけ離れた実にお粗末な制度です。

この認証官には、国務大臣他副大臣、内閣官房副長官、会計検査院・検査官、人事院・人事官、宮内庁長官、侍従長、公正取引委員会・委員長、特命全権大使、特命全権公使、最高裁判事、各高裁判事の他に、『最高検察庁・検事総長、次長検事、各高等検察庁・検事長』が含まれています。

ざっと見ただけで、検察組織の人間が突出していることがお判りかと思います。天皇の国事行為も認証官制度も民主主義の見地に立てば、到底容認できるものではありませんが、仮に本来の民主主義への過渡的な措置として、認証官制度を許容したとしても、国民から選ばれた代議士や内閣総理大臣に任命された民間人からなる国務大臣と三権の長のひとつである最高裁判事以外は、受け入れられるものではありません。
国民主権に照らせば当たり前のことです。まして、行政の一機関に過ぎない検察官僚をこれほど権威ずけるのは、ひじょうに危険です。
検察を司法機関だと誤解されている人がいますが、司法権は、裁判所だけが有するもので、検察はあくまでも行政の一部です。

法務省の人事を見てみると、各省庁官僚のトップは次官なのに、法務省の次官だけが、序列5、6番目というのが現実です。認証官の形がそのまま露われているように感じます。
つまり、法務次官の上に確実にいるのが、最高検の検事総長と次長検事です。さらに法務省でもっとも権力を持っている部署が刑事局で、ほとんど検察官によって占められています。

法務省のトップは、当然法務大臣ですが、法務省の一機関に過ぎない最高検、各高検、特に最高検が、法務大臣と並ぶ認証官であることは、国民が委譲したはずの法務大臣との現実的な力関係を現しており、法務省と最高検を頂点とする検察の間に高くて厚い壁が存在することを物語っています。さらに法務省も検察官が、上層部を占めている状態では、法務大臣、副大臣、政務官の政務3役の力の発揮もあまり期待できません。

閣議決定の書面を見ると、内閣総理大臣の隣りに法務大臣の署名があり、いかにも重要なポストでそれに見合った力が、大臣にも法務省にもあるように見えますが、明治政府は、法律を作る必要があり、最重要視され実際権限を有し重要なポストでした。その名残に過ぎません。

また長い自民党政権を見ても判るように、法務大臣経験者が総理の座に着いたことはなく、戦後全体を見渡しても、臨時で務めた片山哲、石橋湛山、吉田茂の他は皆無です。“閑職”と言っては語弊がありますが、内閣の中でそれほど力を期待されているポストではありません。
なぜなら……。それから先はお分かりかと思います。
あえて言えば、“内閣総理大臣も持て余すほど検察が強大な組織になっているからです。”
このような組織の最前線部隊の特捜だからこそ、強引な捜査、恫喝的取り調べ、強権的起訴が可能なのです。

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◇東京地検特捜が捜査、起訴した長銀事件では、捜査・取り調べの過程で実に7人の関係者が自殺しました。最高裁の判決は無罪でした。

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◇福島県の官製談合汚職事件では、被疑者の関係者3人が、自ら命を断とうとし、二人が死亡。ひとりの方は植物人間になってしまいました。
この痛ましさは、どこから生まれるのでしょう。

以下、フリージャーナリスト、岩上安身さんが取材を基にしたツイートです。
(引用開始)
膨大な数の、佐藤元知事の関係者が、絨毯爆撃のように取り調べを受け、「嘘でもいいから、佐藤の悪口を言え」と強要されたといいます。苦しくなって、虚偽の証言をした人は、良心の呵責に耐えられず、死にたくなったと、何人の方々が告白したそうです。

佐藤氏の妹さんは、東京地検に、連日の事情聴取を受け、倒れました。
郡山の家族が上京し、地検まで駆け付けると、医者も呼ばず、病院にも連れていかれず、意識不明のまま。
家族が、救急病院に連れていったときには、脱水症状で危険な状態にあったそうです。
(引用終わり

さらに、佐藤氏がブログの中でこう語っています。

(引用開始)
ある会社社長はこう言われました。
「お前らが東京地検に喧嘩を売るなら、こちらも考えがある。
お前らみたいのはどうにでもなるんだぞ。お前には7年くらい入ってもらう。
出てきた頃は会社もなくなっているし家族もばらばらになり浦島太郎のようになるぞ。
そうならないためにも真実を話せ。」
知らない、というと
「お前の立場だったら知らないはずは無い。知らないのなら想像して言ってみろ」
そして想像して言ったとしたら、どうなっていたのでしょうか。

私を支持してくれていた会社の経営者たちは、多数「会社をつぶすぞ、すぐにでもつぶせるのだ」という検事の言葉を聞いています。

経営をした方ならわかると思いますが、「お前の会社をつぶす」と言われたら、社員たちが路頭に迷わないように、何でも言うがままにならざるを得ないでしょう。国家権力であるだけに、暴力団より強力な脅しになるはずです。

また、ある後援会関係者は以下のようなやり取りをしたそうです。
「あなたが来ない場合は200人よびますがどうですか」
と電話で呼び出され

「いろんな事分かってるだろう、金のこと」
―― 一切知らない
「20年間支えてたんだから。わかってるんだろう 佐藤栄佐久はうそつきで…(罵詈雑言)…」
―― 栄佐久はすばらしいから20年間も支持してきたのだ
「とぼけるな。ふざけるなよ。 一つでもいいから(具体的に)悪いことをいえ」
―― しらない
「栄佐久の 悪いことを知ってるような人を一人くらい言え。しらないことでもいえ」
「知らないこと知ってると言ってもこの部屋の中だけで外には出ない」
―― もし栄佐久がそういう人間であるなら県民を裏切ることになる
「『もし』だけ削除して調書作成していいか」

最後のやり取りは、いかにして検察官が供述を曲げて調書を作成するか明確に表しています。
この後援会の方はやり取りを詳細にメモに残していました。

最後に、
「あなたは私を人間としてみていない。 野良猫か野良犬としかあつかっていない。人間として扱ったのか、野良猫として扱ったかったのかはっきり言ってくれ」
と言って最終電車で帰ってきたそうです。

「嘘でもいいから言え」「作ってでも言え」「想像でもいいから言え」「想像できないなら教えてやる」

検事から全く同じようなこの類の言葉を言われたということは、2,3人に留まらず身内含め私の事件で聴取を受けた多くの人から聞きました。日常的にこのような手法で供述を積み上げていくのでしょう。

苦痛を与えて、強制的に自白させる拷問は古くから犯人探しの手段として用いられました。
近代では拷問は否定され、先進国では明確に法律で禁じられています。
何故かといえば、拷問、苦痛から逃れたいという一心から絞り出した供述は虚偽である可能性が高く、真実を追求するに当たっては、邪魔にしかならないからです。
中世の魔女狩りを見て分かるとおり、とでも書くことができればいいのですが現実は前近代的な、相手の人格を破壊することによって、望む供述を得ようとする精神的拷問は前述の通り今、起こっています。
(引用終わり)

この裁判では、一審では、賄賂性を認め有罪。二審では、“収賄はなかった(追徴金ゼロ)、利益の供与はなかった、そう言っているにも等しい判断をしながら、執行猶予付き有罪判決が出され現在最高裁に上告中です。

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◇大阪地検特捜に大阪府枚方市の談合容疑で逮捕、起訴された元副市長・小堀隆恒さんは最高裁で無罪判決を勝ち取りました。小堀さんは取り調べの実態を、こう語っています。

(引用開始)

 3年前の平成19年5月31曰の午後6時ごろでした。数人の検事が突然、副市長室に乗り込
んで来て「事情を聴きたい」と言われました。当時、市の清掃工場をめぐる談合報道があ
り、責任者だった私の元にも捜査機関が訪ねて来ることは予想していました。
 ただ、単なる事情説明で済むと思っていた。ところが、午後10時ごろに逮捕状が執行さ
れたのです。驚いて「私が何をしたのか」と聞いても、検察は「談合の共犯や」と言うだ
け。訳が分からず、一睡もできずに大阪拘置所で夜を明かしたのを覚えています。

 翌日朝から取り調べです。私は当時、腎臓がんで右腎を摘出し、前立腺肥大で手術を控
えていました。それを検事に告げても無視です。7、8時間ぶっ通しの取り調べが続きま
した。案の定、排尿障害になり、医務室で処置を受けたのですが、これが乱暴だった。カ
テーテルを強引に尿管に入れたため、内部が傷つき、血尿が出るようになったのです。検
事に訴えると、与えられたのは介護用の紙オムツ。それもたった1枚だった。家族らが代
用品を差し入れても手元に届かず、保釈されるまでの約1ヵ月間、血だらけの紙オムツ1
枚を繰り返し乾かして使いました。

 不衛生だから当然、尿管などから雑菌が体に入ります。しばらくすると高熱が出て、取
り調べ中も頭がボーッとなった。コップ1杯の水も与えられず、便所で手を洗う際に□を
湿らせてしのぎました。「生きて出られるのか」。私は強い恐怖を感じましたが、取り調
べは容赦なく続きました。

 取調室はコンクリートの小さな部屋で、声や物音が響きます。東京地検から応援に来た
という大柄の検事はパイプイスを思い切り壁に向かって蹴り付けたり、ドアを思い切り閉
めたりして”威嚇”する。大声で私のことを「ごみ野郎、くず野郎」と怒鳴り、「白状し
ろ。カネはどこに隠したのか」と尋問するのです。こんな調子が深夜まで続くから、ある
曰、拘置所の近隣住民から「うるさい」とクレームが来ました。私が否認を続けていると
「カミさんを調べてデキが悪かったら逮捕する」とか、介護施設に入所している90歳の母
親を「ストレッチャーで連れてきて調べる」と言う。「これが法治国家の日本なのか」と
心底思いました。

 マスコミに対しても強い不信感を抱きました。保釈後に緊急入院した病院の中で、事件
を報じた新聞各紙を取り寄せて読んだのですが、すべてデタラメ。一切否認なのに、新聞
では逮捕2回目から「容疑認める」 「1000万円もらった」などと報じられているの
です。愕然とすると同時に、検察からのリーク情報を垂れ流すマスコミの姿勢に呆れまし
た。小沢事件でも、すべての報道を信じる気持ちはありません。

 無罪となっても、検察やマスコミからの謝罪はありません。非人道的な取り調べを受け
た体験者として、こんなことは二度と起こしてはならない。取り調べの可視化は絶対に必
要です。
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特捜のこうした取り調べの実態は、例外的なものではなく、ごく当たり前で日常化しています。
こんな特捜を許容できますか?即無くすべきでしょう。特捜そのものも廃止です。
そして、検察の権力――公訴権と捜査・逮捕権も分立し、検察は公訴権だけを有し、捜査・逮捕権は、警察だけにとどめるべきです。

政府は、有名無実化していた検察官適格審査会のメンバーを改め、辻恵、森ゆう子、高山智司、川内博史議員といった検察の在り方を強く疑問視している人が加わりました。こちらは少しは期待できそうです。さらに検察を検証する第三者会が設立され、座長に千葉前法務大臣が推薦され、引き受けました。こちらはどうでしょう?メンバーに郷原信郎さん、江川紹子さんの名前が国会でも取りざたされ、このお二人に加わっていただければ心強いのですが、問題は座長の千葉さんが、法務大臣時代法務官僚をまったくと言っていいほど主導できなかったことと、現内閣に、検察を改革する気持ちが本当にあるかどうか、システムを基本から変える道筋をつけられるかどうかにかかっています。第三者会で議論されたことを実行するのもしないのも最終的には政府にかかっています。
民主党の看板である事業仕分けのように、システムを根幹から変えるのではなく、庭木の剪定程度の見た目の良さだけに終わりそうであってはなりません。
検察の巨大な壁という、システムがすべての元凶なのですから。


画像:大林宏検事総長

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少し考えてみてください。僕たちはそれぞれ、いまここに実態のある魂を持っています。
システムはそれを持っていません。
僕たちはシステムが僕たちを司ることを許してはなりません。
僕たちはシステムがひとり歩きすることを許してはなりません。
システムが僕たちを作ったわけではない。僕たちがシステムを作ったのです。


       村上春樹 イスラエル賞授賞式でのスピーチより抜粋



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