風の回廊

風を感じたら気ままに書こうと思う。

年次改革要望書の廃棄とTPP―TPP加盟問題(3)

2011年02月25日 | 政治・時事
これまでの政治記事と異なり、よく解らないうちに書いてきたTPP問題ですがここにきて、その本質がかなり鮮明に見えてきました。それまでまったくと言っていいほど、政治・経済の話題として上げられてこなかったTPPが、昨年の秋に突如として、菅総理の所信表明演説に現れ、何かに追われるようにAPEC横浜、ダボス会議という国際舞台で、「第三の開国」宣言。以降TPP加盟に向けて積極的な政府の姿を国内に向けてアピールし、実際取り組んでいます。

昨日(23日)民主党中間派議員主催のBBL(Brown Bag Lunch Seminar)が、内田樹・神戸女学院大学教授を講師を招き行われました。テーマは、TPPに関することが中心だったらしいですが、(冒頭部分以外、撮影禁止)この席で、突如仙谷前官房長官が現れ、一冊の本を手にこんな発言をしたそうです。

「小泉・竹中構造改革は、アメリカを内部から壊した。TPPでもそれは可能じゃないかな」

このBBLは、民主党内でもほとんど理解されていないTPPの勉強会の色彩が強く、参加者は、TPPを慎重に考え、扱うべきだ。という姿勢の議員がほとんどで、そんな状況での仙谷さんの発言は、まるでTPPこそ、小泉・竹中構造改革の後継である、というような言い方なんですね。
そして、実際、そのとおりです。
これまで書いてきたように、(おさらい的に書きます)TPPは、2006年にシンガポールの提案の下に、ブルネイ、チリ、ニュージーランド4カ国が提携した経済協定で、関税自主権を放棄すること、国内制度、規制を緩和させることで、協定を結んだ加盟国間のあらゆる分野での流通を促進することが目的です。
この4カ国は、世界的に見れば、それほど影響力のない貿易量の国ですが、ここにアメリカはなぜか目をつけ加盟を表明します。さらにベトナム、オーストラリア、ペルー、マレーシア(微妙)が加盟することになっています。そして、日本も積極的に加盟しようとしている。

そこで加盟国、加盟表明国と日本のGDPの割合ですが、

アメリカ67% 日本24% オーストラリア4%で残りの5%に7ヵ国がひしめいている。

顔ぶれを見れば分かるとおり、中継貿易立国シンガポールを除けば、一次産業国、石油、鉱物輸出国で、必然的にアメリカの輸出先は日本で、日本の輸出先もアメリカで、どちらが欠けても、TPP加盟は日米双方にとって大きな意味はなく、そのアメリカは、5年間で輸出を倍増し、2000万人の雇用を創出する政策をオバマ大統領量が掲げ、ドル安をさらに強化する方向を示しています。
つまり、日本なくしてアメリカのTPPのメリットはほとんどないのも同じです。

では日本にメリットがあるのかというと、少し乱暴な言い方ですが、アメリカが輸出政策で、ドル安を進める以上、輸出先がない、輸出しても利益にならない、輸入しかない、それも関税自主権が放棄され、制度と規制を取り払われるような状況にメリットは見つからないばかりか、デメリットだらけです。

ではなぜ、日本はこうまでして、TPPに加盟しようとしているのか?アメリカの意をそこまでして汲もうとしているのか、理解に苦しみますが、考えてみると、戦後日本は、アメリカの意を言われるままに組み入れ続けているんですよね。
占領時代、冷戦時代は、アメリカの対共産主義政策(封じ込め政策)の下で、アメリカの意を汲みながらも恩恵も受け、共に経済成長を続けてきた実績があり、冷戦崩壊後も日本は、スピードは落ちたけれど緩やかな成長を遂げてきました。しかし、90年代に入りアメリカ経済に陰りが見え始め、今世紀に入ると、日米共に凋落が明らかになり、特にアメリカの経済的衰退は甚だしく、米国債の購買推進など日本への依存度は増すばかりでした。
こうした状況を明確に示しているのが、ほとんどメディアが取り上げてこなかった、アメリカの日本への『年次改革要望書』(日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書)です。

アメリカ大使館HP
http://tokyo.usembassy.gov/j/policy/tpolicyj-econ.html
(規制緩和参照:06年から08年年次改革要望書)
http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-j20041020-50.html#denki
(04年年次改革要望書)

年次改革要望書は、94年宮沢政権時代から『日米規制改革委員会』で双方イニシアティブを取りながら、相手国の制度や規制に関し透明性や緩和を求め、相互に開き円滑な関係を築き相互発展できるような双方の改革要求ですが、実態は、アメリカの要望が強く、日本の対米協調路線、従属化を強化し、日本にとって厳しい圧力の要求書で、『反抗できない要望』として知られ、その範囲は広く、『農業、電気通信、情報技術、知的財産権、医療機器・医薬品、金融サービス、競争政策、透明性、司法制度改革、商法、流通』などの主要分野で日本が講じている措置が列記されています。
こうした広範囲にわたる分野の開放要求を自民党政権は、もろ手を挙げて賛成し、実行してきたわけではありませんが、国内既得権益者の意向を重視しながら、取り入れてきたことは事実です。それが必ずしも国益になってきたかと言えば、そうではなく、最大の利益者は、アメリカのコングロマリット企業と日本の既得権益者で、国民が直接的に感じる利益とは遠いものだったと僕は評価しています。もちろん利益が叶ったものもあります。それには、大量の犠牲もあったことは忘れてはなりません。

たとえば、
・1997年 独占禁止法改正・持株会社の解禁
・1998年 大規模小売店舗法廃止、大規模小売店舗立地法成立(平成12年(2000年)施行)、建築基準法改正
・1999年 労働者派遣法の改正、人材派遣の自由化
・2002年 健康保険において本人3割負担を導入
・2003年 郵政事業庁廃止、日本郵政公社成立
・2004年 法科大学院の設置と司法試験制度変更、労働者派遣法改正(製造業への派遣を解禁)
・2005年 日本道路公団解散、分割民営化、新会社法成立
・2007年 新会社法の中の三角合併制度が施行

こうしたアメリカ側からの要求で行われる改革は、日本の政界、官僚、財界に不利益があってならず、当初財界に不利益だと思われた要求も、利益に変えてしまう能力を、官僚と財界は持っていて、政治は、財界の意向を汲み、官僚と一体となり法律と制度を変えてきました。もちろん変革に犠牲はつきものですが、たいていの場合国民が被ることになり、実感として国民がもっとも感じているのは、郵政民営化をはじめとする市場経済原理に基づいた、小泉・竹中構造改革から、いっそう酷くなった格差社会という歪です。この歪から生まれたものは、たいていの国民が受けているはずです。負の成果として。

ここでお気づきかと思いますが、TPPでアメリカが日本に求めているのは、求める分野も方向性もかたちとしてアメリカの年次改革要望書そのままなんですね。しかし年次改革要望書は、あくまで要望で、実行されないものもたくさんあります。しかし、いったんTPPに加盟すれば、実行しないわけにはいきません。仮にある分野のある部分で、意見がまとまらず、その部分だけ調印に至らなかったとしても、『ネガ方式』が採用されるから、規定されなかったもの、調印に至らなかったものは、すべて自由化されてしまうんです。
年次改革要望書で示された分野で、丸裸状態になるのが、TPPの顔と言っても過言ではないでしょう。

では、なぜアメリカは、日本にTPP参加を促し、急がせるのか?

鳩山政権は、日米対等、東アジア共同体構想など、真の自主独立を図る壮大な構想を持っていました。こうした姿勢の表れから鳩山さんは『日米規制改革委員会』を廃棄したため、年次改革要望書もなくなったんですね。
つまりアメリカにとって、年次改革要望書の廃棄は、日本の制度や規制を緩和させ、そこから利益を上げる道を閉ざされることになったからです。これはアメリカにとって急を要する案件で、何らかのかたちを作らなければいけない。それもこれまで以上の優位な形態ができればアメリカの国益は膨らむ。それがTPPへの日本の加盟要求です。

鳩山さんの決断は、まさに歴史的英断でした。対米従属路線から、実質的に全方位外交に切り替え、真の自主独立へ向かおうとした総理は、戦後の長い歴史の中でも、石橋湛山、鳩山一郎、田中角栄、そして鳩山由紀夫だけでしょう。
アメリカにとっては、ル―ピーだったかもしれませんが、日本にとってこれほど賢い政治家は、そういないんですよ。しかし、鳩山さんだけではなく、(石橋湛山は病気で自ら総理の座を降りた)なぜかみんな短命で、しかも大きな力が働き、志半ばで挫折の憂き目に会い、なぜかその後の総理は、一気に対米従属路線を走っている。

そして今、菅内閣は自民党と同じ路線を走っていると評価されています。今や自民党路線と明確な対立軸だった、社会民主主義的な政策が活かされていた『国民の生活第一』の香りも色もほとんどないに等しく、TPPへの加盟推進と日米同盟の深化は、小泉政権時代の露骨なアメリカへの擦り寄りを超えています。
仙谷さんの発言から、僕は一気にここまで来てしまったわけですが、これがTPPの実体を大きく占めていると思います。

TPPへの手続きも、小泉構造改革の手続きととてもよく似ています。
小泉さんは、郵政民営化を叫び改革派とし、反対派を守旧派とイメージづけることに成功しました。これには、官報複合体(フリージャーナリスト、上杉隆さんによる造語。官僚とマスメディアの一体化を表現)も一役も二役も買っています。あのときの騒ぎようはなかったでしょう。そしてまんまと国民は、騙されてしまったのです。

TPPでは「第三の開国」という改革イメージをAPEC横浜とダボス会議という国際舞台で総理が披露し、前原外相は、「GDPの1.5%未満しかない1次産業の農業を守るために、残り98.5%のかなりの部分が犠牲になっている」とアメリカで講演し、農業一分野に注目させ、農業を守ろうとする勢力を守旧派、開こうとする勢力を改革派と印象づけることに成功。メディアもTPPは、あたかも農業の関税問題だけのように報道し、農業を守ろうとする守旧派VS工業製品の輸出を歓迎する改革派という対立構造としてのイメージを植え付けました。
小泉さんの手法そのままです。

さらに、マスメディアが、実際以上に虚飾している小沢支持派VS菅支持派という政局にも結びつけ、TPP反対派は、古い政治の小沢支持派でTPP推進派は、改革路線の菅支持派というイメージ操作を行っています。(しかし菅さんの側近にも、菅支持派の議員にもTPP慎重、反対論者がいる。党内での慎重論、反対論者で実際行動に移している人は、200人以上)
実際はどうかと言えば、小沢路線こそ熟成した改革路線であり、菅路線は自民党と同じ古い対米追従路線です。
それを示しているのが、政局が慌ただしくなり出てきた、菅政権側からの本音です。
たとえば
「09マニフェストは、小沢主導によるもので内閣が変わったので、必ずしも順守するものではない」(岡田幹事長発言)―小沢の自民党との明確な対立軸こそ改革路線で、そこからの脱却を正当化する発言。つまり菅さんの変節は、自民化路線であること。

「政治主導などと言うべきではなかった」(枝野官房長官発言)

そして仙谷さんの「小泉・竹中構造改革は、アメリカを内部から壊した。TPPでもそれは可能じゃないかな」という言葉が何を意味しているか明らかです。
アメリカの年次改革要望書を受けた小泉構造改革で、日本は疲弊し、壊れようとしていました。それをセーフティーネットを張り、回復させ、古いシステムを解体し、既得権益者に多く分配されていた利益を本来受けるべき国民に正当に分配するシステムを作ろうとしたのが、09マニフェストであり、国民との約束です。鳩山さんは、沖縄基地問題で抵抗勢力に負けましたが、果敢にシステム改革を進めました。一方菅さんはろくに手を着けずに変節し、TPPに臨もうとしている。
『拒否できない要望』の年次改革要望書時代以上の、言ってみれば、アメリカの再占領を導いているに等しい総理です。

今日、フリージャーナリストの岩上さんによる、菅さんの側近とも言える首藤信彦議員に1時間半を超えるインタビューが行われUstreamで流しました。首藤さんは、経済学者でもあり、外交にも明るくTPPについてもよくご存じでとても参考になりました。その中でこんなふうに言っていました。

「代表選の時、菅さんはTPPについて何も言及しなかった。その後所信表明演説で明らかにしたが、詳細は何も解っていなかった。最近になってある程度解ってきた」

この程度の総理が、「第三の開国」「平成の開国」と言って進めるTPPってなんでしょう。
こんな総理に、このような状況下のこの国の舵取りを任せていいのでしょうか。

これまでも僕は、アメリカを批判してきました。しかし批判すべきアメリカは、軍産複合体であり、コングロマリット、多国籍企業とその手続きをしているホワイトハウスと、今やこうしたシステムに組み込まれてしまった福音派と言われる団体やマスメディアです。
アメリカと日本は、開国以来もっとも密接に歩んできた関係があり、双方が大切にしなければならない国であることは、今後も変わりないし、どちらにとってもなくてはならない、いちばん必要とされる国です。しかしあくまで関係は対等でなくてはならない。対等でなければ佳い関係など築けるわけはなく、歪んだ関係に陥り、被害を受けるのは、両国の国民です。だから、歪んだ関係を作ろうとする勢力は、徹底的に批判します。


武井繁明


記情報公開されないTPP―TPP加盟問題(2)

2011年02月15日 | 政治・時事
情報公開されないTPP―TPP加盟問題(2)

2月8日、前原外務大臣の定例記者会見で、フリージャーナリスト岩上安身さんが、TPPが本当に必要なのか、その正当性について質問しました。

*外務省ホームページ、外相記者会見を参照http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_1102.html#3-D

これまで、TPP推進派の閣僚たちは、菅総理が「第三の開国」と位置づけたTPP(環太平洋パートナーシップ協定→実態的には“地域限定戦略的自由貿易協定”)を自由貿易体制の強化、拡大・拡充していく上で加盟しなければならない協定と説明してきました。
たとえば江田法相は、今日の記者会見で「世界のイニシアティブを取ることを求められている日本にとって、TPP加盟は、ひとつの手段に過ぎない」と大局的見地からの必要性を説き、一方でTPPを矮小化するような発言をしました。そこに具体性はなく、さらにTPPは「国を開き、日本社会を国際化するために必要な協定である」とも言っています。
すべての閣僚の会見を聞いたわけではありませんが、推進派(内閣は推進派一色。そのための内閣改造でもあった)は、江田さんの発言と同様なもので総論的抽象論にとどまり、参加の意義を肯定するだけの論拠に留まっています。

このことは、前原外相の岩上さんの質問に対する答えで明らかにされます。
「情報がしっかりと開示されない状況においては、その制度を変える、あるいは可能性があるということについて、極度にお化けのように大きくなっている部分があるのではないかと思っております」
このようにTPP加盟反対する人たちには、情報の少なさから疑心暗鬼に陥っている状況にあり、情報公開の必要性を認めています。
「その中にあってどういう整合性をお互い規制緩和の中で取っていくのかという議論が行われるわけであって、そこの情報収集をまさに我々外務省が中心となって行っていて、正確な情報に基づいて議論をする環境を我々としてはしっかり整えていきたいと思っております。情報がないから恐怖感が広がる」
このように、情報公開の必要性が、正しいTPPの理解に繋がると再度強調し、頼もしい限りですが、さらに岩上さんは、次のように質問しました。
「お話の中に、情報を収集してということですけれども、現時点で収集は終わって分析判断が終わっているのではなく、まだ大臣ご自身も外務省も政府も十分な情報を収集し終えてないということなのか、その点を確認でお尋ねさせていただきます」

岩上さんの「確認でお尋ねさせていただきます」というところが、重要なポイントです。岩上さんは、TPP問題に取り組むのも早く、かなりのスピードと多彩な取材を重ね、取材の状況をUstreamでノーカット放映(ダダ漏れ)しています。この段階で、各省庁の情報集中と解析は終わっておらず、ようやく取り組み始めたような感が否めなく、菅総理と内閣の見切り発車であることを視聴者に伝えています。

前原外相は、こう答えます。TPP参加9カ国と月1回程度の協議があると認め
「結論から申し上げれば、我々は参加を表明していないにもかかわらず、友好各国の協力の下で、相当程度の情報収集はできていると考えております。ただ、国会でも答弁をさせていただきましたとおり、まだ固まっていないものについて、情報公開、情報開示をするわけにはいきません。特に入ると決めていない国が、今まだ固まっていなくて、9か国でこんな議論をしていますよということを第三者が情報開示をするわけにはいかない。しかし、こういう議論、途中経過も含めて、9か国は相当程度日本には情報提供をしてくれているということであります。
我々としては、参加表明もしていないし、まだ固まっていないものについて、国会や国民に情報開示をするわけにはいかないということで、出せる情報のみを、今、お出しをしているという状況でございます」

つまり情報公開の重要性を認め、公開を約束しながらも、協議の過程での情報公開はできない。ということです。菅総理は6月に参加するかどうか決める。と強い口調で表明しています。6月に方向性を決定しなければいけない理由は、国内の政治日程や状況もありますが、どうもアメリカ側のTPP加盟への日程につき合っているらしい。とういうか現段階では、詳細に書くに至っていませんが、アメリカの強い日程的な要望があるようです。
菅総理は、「このチャンスを逃しては、日本は国際社会から取り残される」とまで言って、早急にことを進めていますが、この早急さが、情報収集に拍車をかけ、混乱させ、一方で前原外相が、もっともらしく説明する、「情報公開の重要性を認めながらも、協議の途中での開示はない」という何とも苦しい言い訳のような、二律背反的な自己矛盾に陥っているように感じます。
(前原さんは、まるで自身の特性のように二律背反的自己矛盾に年中陥っています)

情報が開示されていないのは、国民だけではありません。民主党内でも議論されたふうはなく、
多くの議員が、狐につままれた表情で「何も聞いていない」と困惑し、民主党議員のほぼ半数以上が、TPP参加に慎重な構えをみせ、その中の70~80人は、強い調子で慎重でなければならないと明確に態度を表しています。
「TPPを慎重に考える会」が民主党内で生まれ、近いうちに議連化しますが、参加者は180名に上り、(政務三役は議連に入れないことを考えると、たぶん200名を超える議員が慎重であるべきだと推察できる)会議の様子から(岩上さんのダダ漏れ放映から)、「慎重」という言葉を使っていますが、「反対」と受け取れる議論をしています。

つまりTPPの詳細は、関連省庁の一部と内閣と菅総理を取り巻く一部の議員という、ごく限られた範囲でしか、語られていないと推察できます。

“地域限定的な自由貿易協定が、限定的な人たちの間で、情報公開されることなく進められ、国民は判断に不自由している”

という現実を、私たちはどう考えるべきか。

こうした中で、TPP加盟に慎重な議員からは、推進派議員と異なり、専門家のレクチュアーや自ら調査した内容から、具体的に語ります。
共通するのは、推進派とメディアで集中的に取り上げているように、TPPは農業だけの問題ではないこと。
農業問題もさることながら、24の分野で必ずしも日本の国益とは遠い変革が、TPPに加盟することによって生まれる可能性が高いこと。

いくつか、これまで聞いたことをいくつか書きましょう。
◇国民皆保険制度が崩壊する。
アメリカは、自国医療保険会社と株式会社化した医療機関の参入を要求しています。これが実現すれば、高度の高額医療化は推進するが、ごく富裕層に留まり、富裕層が国民皆保険から離脱することで、相互扶助的な国民皆保険は崩壊し、日本の医療機関の崩壊と再編成が現出し、利益追従だけの株式会社化する医療機関と保健機関に変わり、低所得者層は、段階化される保険料に見合った段階化した医療しか受けられなくなり、医療の均等が崩れ、医療の格差が起る。
アメリカのように国民の40%が医療保険に入れないような状況が、日本で生まれる可能性がある。(日本医師会はTPP反対表明)

◇牛丼が50円で食べられるようになる。
食料品の関税完全撤廃が行われれば、安い食材が大量に輸入され、食品の低価格化が現出するが、それに加えてに低価格となるのは人件費です。TPPは、労働力の移動も緩和される。結果、たとえばTPP参加を表明しているベトナムからおよそ月収1万5千円の労働力が、提供され、牛丼は安くなるが、日本人の雇用機会が失われ、さらなる失業率の増大が生まれる。
こうした状況が、各産業で起こりさらにデフレを増長させる。
住宅ローンを抱えている方は、ローンを払えなくなることは必至の状態になる可能性がありますね。
マレーシアがTPP参加に踏み切らなかったのは、雇用の面で丸裸にされることに危機を感じたからです。

◇アメリカの弁護士に依頼することができるようになる。
アメリカには、弁護士が多数存在し、なかなか食えない弁護士がアメリカの弁護士資格で日本へ参入することができるようになる。しかし、日本の弁護士は米国基準を満たしている訳でないから日本の弁護士資格で米国に進出することが出来ない。
これは、弁護士業界のみならず医療など各方面で実施される。サムライ(士)業の全てにカウボーイ(アメリカの士業)が席巻することになる。


ひとつひとつ相手国と取り決めを行えばよいではないか。それがTPPでは可能であるし、それほどの混乱が起らないだろう。むしろさらなる自由化は、日本にチャンスを拡げる。と推進者は軒並み言いますが、TPPの原則は、加盟国間の関税の完全放棄と自由化障壁になる規制撤廃にあります。日本に輸出、参入したい国が、容易に日本の主張を呑むとは思えません。
さらに、TPPには、『ネガ方式』というものがあります。
これはほとんど報道されていません。それほど重要なことです。日本のメディアは重要なことほど報道しない習性があるから要注意です。
(エジプトの民主化デモと、小沢さんの元秘書の公判で明らかになった検察の無理筋捜査の実態が、大相撲の八百長問題で、消されてしまった)

『ネガ方式』というのは、“加盟国間で規定されなかったことは、すべて自由”という“裸になる”ということです。

つまり、取り決めに至らなかったものは、“完全に自由”になってしまうのです。

情報公開の重要性を認めながらも、公開せず進められているTPP加盟。今の状況で事が進めば加盟する可能性が高い。
私たちも、状況を見守っているような呑気を構えているわけにいかなくなりました。大人しく見守っているうちに、事は着々と水面下で進んでいくのです。
後の祭りということになりかねないし、現状ではその可能性が高いですね。




開かれた記者会見―日本自由報道記者クラブ協会(仮称)設立

2011年02月10日 | 政治・時事
開かれた記者会見―日本自由報道記者クラブ協会(仮称)設立

引き続きTPP加盟問題について書こうと準備していましたが、それ以上に日本自由報道記者クラブ(仮称)について書きたくなってしまった。
日本には、ご存知のように日本とジンバブエにしか存在しない、会が主催する記者会見に会員以外の記者が加われない閉鎖的、独善的なプレスクラブ、『日本記者クラブ協会(以下記者クラブ)』があります。
諸外国にプレスクラブがあっても、セキュリティーチェックで問題がなければ、主催が政府だろうがクラブだろうが、会見の参加を妨げないのがほとんどで、事実を広く伝えるマスメディアの使命からすれば、当たり前の話だけれど、残念ながら、日本の大手マスメディアの記者たちで作る記者クラブは、会員以外の記者の記者会見参加を拒絶し続けてきました。また加入資格審査についても公表されてなく、フリーランスのジャーナリスト、外国人特派員、週刊誌記者などは加盟できません。
このようにマスメディアに在らざるべき排他的な記者クラブは、中央官庁、都道府県庁、市町村(置かれていない市町村もあります)、経済団体など各業界の団体など全国津々浦々置かれています。

マスメディアの在り方から、中央官庁、地方行政の公的な記者会見を排他的に行うことが、民主主義国家にあって大問題だけれど、それに加えて大問題なのは、各省庁、都道府県、市町村に置かれる記者クラブの記者室、記者会見場が、無償で貸与されていることです。「諸経費はクラブが応分の負担をする」「実情に合わせて負担する」としているものの、たとえば中央官庁の記者クラブでは光熱費は、全額国費負担。電話、ファックス代の一部も国費で賄われているのが実態だというから聞いて呆れる。つまり家賃も光熱費も払わずに、国営施設(100%税金で賄われている施設)で営業活動しているわけで、それも公的な情報を広く開くことを拒否し続け、独占的に得ているという、いったいどこの国のメディアなのか?と考えた時、北朝鮮とか中国を思い浮かべてしまうわけです。
その設置費用は、中央官庁の記者クラブ設置費用だけでも年間13億4千万円にも及ぶと試算されているんですね。
民主党が政権を獲ってから、総理官邸を始め、ほとんどの省庁で、全面開放、一部開放が行われていますが、まだまだ独占的な部分は多く、たとえば記者室は記者クラブ以外使えないとか、フリー記者の撮影は禁止だとか、フリー記者の助手が髪の毛を引っ張られたとか、暴言を浴びせられたとか、酷い話ばかりが伝わっています。

私たちは、そんな記者クラブメディアから、毎日報道されるニュースや記事を見て、あれこれ判断するわけですが、とてもまともなことが書かれているとは思えません。
たとえば、新聞を読んでも、文化、生活面などは読むに値するけど、政治、社会面は参考になるけれど、根っから信じるには行きませんね。不公正で開かれないプレスクラブの記事が、公正で開かれた記事とは到底思えないし、現実に恣意的な記事ばかりが目立ちます。
視聴者の心得として、ニュースや記事の内容について、「線」として見るのではなく「点」として見ることが大事かなと思うわけです。

そんな記者クラブに対し、フリージャーナリスト上杉隆さんをはじめ、フリーランスの記者や雑誌記者などが中心となり、『日本自由報道記者クラブ協会(仮称)』(以下、自由報道協会)を設立したわけです。(11年1月27日)
「記者クラブに対し」と書きましたが、自由報道協会は、記者クラブと記者を敵対し、拒絶するわけではなく、個人としての参加をむしろ歓迎しているわけで、会見の様子をどこのメディアで記事にするのも自由で、『自由報道協会』の記者会見で取材した旨を入れれば、他に制約はない開かれたプレスクラブです。
今日3回目の自由報道協会主催の記者会見が行われましたが、7時のNHKニュースでも流れましたね。

自由報道協会は、営利を目的とするものではなく、開かれた会見の場を提供することを目的とする非営利団体で、会費と寄付により運営されています。会見する人は、協会の要請によるものが基本ですが、これまで記者クラブの会見で語ったことが、自分の意とそぐわないかたちで報道され社会的に被害を受けていると思っている人の会見の場としても積極的に受け入れていくようです。また視聴者からの要請にも応えていく姿勢でいます。

これまで3回記者会見が行われましたが、その最大の特徴であり、評価すべき点は、会見の一部始終を放映していることです。つまり完全ノーカットで放映し、記者クラブメディアが独占的に握っていた「編集権」を視聴者に全面的に委ね、一次情報を視聴者が享受できるシステムを作り上げたことです。
さらに視聴者からの質問も受け付け、会見の場で実行されるという、自由報道協会の会見放映を見る人は、記者と同じ立場になれるというわけです。(もちろん手を上げた記者がすべて質問できないように、すべて質問が実行されるわけではありません)
もちろん会見の様子を参加した記者がどのように放映するかも自由です。

放映は自由報道協会に属している『ニコニコ生放送』、フリージャーナリスト岩上安身さんの『Ustream岩上チャンネル』他フリージャーナリストのネット放送で生中継だけではなく、アーカイブでも見ることができます。
1回目の記者会見では、7元中継していたと思います。今日はそれよりも多かったんじゃないかな。

こうした民主的に開かれた姿勢と報道によって、真実を探る術が視聴者に近づいてきました。大手マスメディアの報道と論調と、ノーカット放送から自分が編集権を得て、視聴者それぞれが、自分で組み立てた論調と比較できる。このことは事実の探求と、真実の積み重ねで得られる、社会観、政治観、経済観、国際政治観などを創造する力となり、自分や社会を取り巻く現実的な世界を自分なりに知る上で重要な役割を果たすソースとコンテンツになるかと思います。

私たちは、これまで閉ざされた記者クラブメディアによる、編集された情報に、変動する政治・経済・社会・国際関係を知る上で頼り切っていました。それによって果たして真実を知り、正しい評価ができたか疑問です。編集には必ずといっていいほど意図があり、編集する側によって隠したい部分があり、偏向があります。
「いつ」「どこで」「誰が」「何を」したという客観的事実は、編集された記事にもあるけれど「何のためにした」というもっとも重要な「事実の意味」に、たぶんに主観が侵入することは否定できないし、「事実の意味」に含まれる「記者の主観」「メディアの主観」が、ジャーナリストの生命線とも言え、否定するつもりはなく、むしろ優れた主観を僕は歓迎していますが、私たちが本来受けるべき利益を損ねるものであってはならないと思います。本来受けるべき利益を享受する側に立った「真実の意味」を報道してくれないことには、マスメディアは、害悪にしかなりません。
そうした「真実の意味」に近づける機会が、新しく生まれたことに僕は、失われつつあったジャーナリズムに一遍の光明が射したように感じました。

自由報道協会の設立の中心的役割を果たしたのは、暫定代表の上杉隆さんだと思います。上杉さんは、NHK報道局員、鳩山邦夫議員の秘書からニューヨーク・タイムズ東京支局記者となり、フリージャーナリストになった人で、12年前から「記者クラブ」の閉鎖性、排他性を批判し、改革を求め、開かれた記者会見を追求し続けてきました。東京支局員といえどもニューヨーク・タイムズでの体験は、議員秘書を経験し、日常的に閉ざされた記者クラブと接してきた彼にとって、新鮮に斬新に映ったに違いがありません。自民党政権時代、官房機密費がジャーナリストたちに流れていたことに手を突っ込み報道したことも、ニューヨーク・タイムズでの体験が向かわせたと思っています。そして彼は、民主党の記者会見開放に一役買っていたと僕は想像しています。強く求める受け皿がなくては、政治家は既存システムを解体することに積極になることはありません。それが政治家の習性のひとつですから。

こうした上杉さんの姿勢と目的は、記者クラブに属さないフリージャーナリストの多くが持っていて、そんな想いがまとまり、具現化した自由報道協会です。その自由報道協会が第1回目の会見に招いたのは、小沢一郎でした。
上杉さんの「協会の目的にもっともふさわしい人」という言葉で会見が始まりましたが、上杉さんが「開放された記者会見」を論じるとき、小沢さんの名前が出ないことはありません。
「なぜなら、小沢さんは、自民党の幹事長時代から(89~91)、記者会見フルオープン化し、野党党首時代から現在まで続けてきた唯一の政治家で先駆者だからだ」と彼は言います。


第一回会見は、小沢一郎。2回目、堀江貴文。そして今日3回目、小沢一郎。
来週も時間が合えば、小沢さんの会見を行うそうです。
リクエストに沿った人とも交渉中だそうで今後の展開が期待されます。
今のところ小沢さんが多いのは、相変わらず時の人、ということもあり、また小沢さんは、これまでのフリー会見を行っても記者クラブメディアの意図的で偏向的な編集報道に辟易し、「意味がない」とも断言し、ノーカット放映の記者会見を積極的に行って行く姿勢と合致しているからです。
昨年の暮れあたりから、小沢さんがネットのノーカット番組に出る機会が増え、たぶんフリージャーナリストでは初めてと思われる、岩上安身さんによる独占インタビュー、生放送が行われましたが、ニコニコ生放送での累計視聴者は、放映数日後で48万人にという人数に膨れ、岩上チャンネルとそのアーカイブを含めれば、どれだけの人が見たんだろうと、その影響力と関心度に驚き。また新しいかたちの記者会見に期待するばかりです。

自由報道協会は、変革の原動力になる可能性を秘めています。もちろん主体は私たちにあります。




『第三の開国』は、第二のポツダム宣言受諾~TPP加盟問題(1)

2011年02月05日 | 政治・時事
『第三の開国』は、第二のポツダム宣言受諾~TPP加盟問題

昨年の秋に突如として表面化した「TPP=環太平洋パートナーシップ協定への加盟」について大手メディアは、痛みを伴うが、加盟すればバラ色の未来が待っているかのような論調で書いています。加盟の方向を打ち出した菅総理は、TPP加入は、自由貿易の行きつく場所であり、アジア、太平洋諸国との完全自由化貿易を通じた友好エリアが構築され、国内においては、さらなる産業発展と強い農業を生み出し、大幅な雇用に繋がると主張。TPPへの加盟こそ、明治維新の第一の開国、第二次世界大戦で敗れた後の第二の開国に継ぐ、『第三の開国』と位置づけ、横浜APEC、ダボス会議という国際舞台で加盟への意欲を表しました。

しかし、実際どうなんだろう……それほど素晴らしい協定なのか?という疑問符ばかりついてどうもしっくりきません。ツイッターで、ここでも僕なりの反論みたいなものを書いてきましたが、反論するにもそれほど理解しているわけではなく、そこで菅総理ではないけれど、経済に“疎い”僕は、自分なりに調べてみることにしました。調べるといっても、関係書籍を読む時間もなく、読んでもたぶん途中で挫折する可能性が高いので、手っとり早く識者の主張を聞くことにしました。
ソースは、BS11の田中康夫「ニッポン サイコ~」から、京都大学大学院工学研究科助教(経済産業省から出向)の中野剛志さん、民主党議員・福島伸享さんの話。フリージャーナリスト岩上安身さんの取材映像から、民主党・TPPを考える会で講演された同志社大学ビジネス研究科教授・浜 矩子さんの話で、メモを取りながら聴き、僕なりにまとめ、考えたものです。

昨年11月に突如菅総理の口から湧きだした、バラ色の未来を約束するTPPですが、中野さんと田中さんが英語で検索したものの、ほとんどヒットせず、英語圏での話題性はないにも等しく、感じていたように突如湧きだしたというのが現状らしいです。
またメディアは当初、TPP=環太平洋パートナーシップ協定ではなく、TPSEP=環太平洋戦略的経済連携協定という厳めしい名称を使っていました。なぜTPPと呼ぶようになったのか。話を聞きながら思ったのは、実態にふさわしい名称はTPSEP=環太平洋戦略的経済連携協定だということ。パートナーシップでは弱く、かなり戦略的で危険な匂いがする経済協定だということです。だからイメージを柔らかくするために「戦略的」という部分を意識的に外した。そして隠そうとするところに重大な問題があると思いました。

まずTPPは、各国間で結ばれるFTP(自由貿易協定)の環太平洋版であること。原則的に内包される品目に例外品目なく関税を取り払い、あるいは規制緩和し完全自由貿易化(関税自主権の放棄)する協定です。農業が取り上げられ問題になっていますが、ここにも問題の軸をぼかそうという意図が見え隠れしています。対象品目は工業製品、農産物、繊維・衣料品。医療・保険。金融。法曹。電子取引、電気通信などのサービス。公共事業や物品などの政府調達方法。技術の特許、商標などの知的財産権投資のルール。衛生・検疫。労働規制や環境規制の調和などなど24品目に及び、さらに細分化され、規制緩和、自由化が推し進められます。

こうした規制緩和、自由化を結ぶTPPの実態は、実はベースとなっているFTA(自由貿易協定)と正反対の性格で、環太平洋という一定のエリアを設定し、囲い込み、内側と外を区別、外の国(未加入国)は、その恩恵にあずかれないという、“地域限定排他的経済協定”で、逆に自由貿易を不自由にします。グローバル化した時代、さらにグローバル化する時代にふさわしいのかどうか、僕は時代にそぐわないと思う。

21世紀の自由貿易を考える上で重要ポイントのひとつは、自由貿易への変遷です。
第二次大戦前の貿易に対する考え方は、「相互主義」でした。相互主義とは、相手と同じ程度の譲歩しか相手に与えない。相手と同等以上の損はしないという考えで、ここに差別的で極小的なブロック経済が生まれ、第二次世界大戦が勃発する大きな原因となりました。
こうした反省から戦後、GATT(関税、貿易に関する一般協定)が生まれ、差別化を解き払い、全方位的な自由貿易、貿易のグローバル化、互恵主義的自由貿易を求めました。
相互主義から、互恵主義への大転換です。相互主義と互恵主義は、まったく別物で正反対の論理です。相互主義が、国家レベルで個やブロックに享受されるのに対し、互恵主義は、全方位的に恩恵が享受されるという考え方です。

GATTからさらに発展し、GATTでなし得なかったものを実現しようと作られたグローバル機関が、WTO(世界貿易機関:1995設立)です。WTOは三大原則を示しています。
1)自由 2)無差別 3)互恵 です。

TPPは、限定的なエリア内の完全自由化であり、差別的で、互恵主義に反します。こうした性格から、グローバル化時代への逆行、エリア外との新たな経済摩擦、経済の断絶を生む可能性を多分に含んでいます。つまり開国などと言えた代物ではなく、鎖国とは言えないにしても、“閉ざされた貿易圏構想”ということが言えます。

まず加盟国ですが、当初はシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドで、あらたにアメリカ、ペルー、オーストラリア、ベトナムが加盟表明、そして現在日本が、前向きに検討しています。
加盟国、加盟表明国と検討中の日本のGDP(実質国内総生産)を比較すると、日米で90%を占めます。つまり、日米二国間による完全自由貿易化がまず続伸されることになります。また日米を除けば、それぞれの国の産業形態から、輸出することが目的の国ばかりで、輸入を受け入れるのは、日本だけです。「超大国アメリカ」があるじゃないか、ということになりますが、アメリカの政策は、オバマ大統領が、横浜APECで表明したとおり、輸入を抑制し輸出を増やしていく姿勢であることが解かります。為替もドリル安政策で明らかに輸出第一を念頭に置いたものです。
オバマ大統領は、今後5年間で輸出を倍増させる「国家輸出戦略」を進めていることを表明しています。
「それが、今週アジアを訪れた理由の大きな部分だ。この地域で、輸出を増やすことに米国は大きな機会を見いだしている」と中国やインドなどの新興国を評価し、世界経済を引っ張るアジア地域を重視していることを認めています。
アメリカがここまで輸出増に傾くのは、リーマンショック以降、以前のように「アメリカ人の旺盛な消費」に経済のエンジン役を期待できなくなっているからです。
アメリカでは失業率は9.6%と高水準が続き、国民は住宅価値の下落に伴う逆資産効果と、借金の返済に苦しみ、GDPは5四半期連続でプラス成長を記録しているものの、GDPの70%を占める個人消費は力強さを欠いたままです。
それだけにオバマ大統領は「今後は、どの国も、米国への輸出が繁栄への道だと、思うべきではない」と訴え、中国や日本などの輸出国に、内需拡大に注力するよう強く促しました。危機を招いた世界経済のバランスの悪さを改善すると同時に、中国などの内需が拡大すれば、アメリカからの輸出が増えるとの期待が現れています。
さらに、大統領は「輸出が10億ドル増えるごとに、米国では5000人分の雇用が支えられる」と説明します。輸出増で、雇用情勢を改善させたい考えを露わにし、APECやTPPへの加盟に力を入れている理由も、「米国で新たな雇用を生み出す機会を失いたくない」からだと言っています。
こうした輸出重視政策は、オバマ大統領任期の短期的政策ではなく、中間選挙で敗北したため、共和党の意見も十分取り入れたもので、次期大統領がどちらから生まれても大きく変化することはないと思います。

オバマ大統領の横浜APECでのこの演説で重要なことは、APEC加盟国に向けられているというよりも、むしろアメリカ国内に向けて発しるということです。オバマ支持基盤が崩れ、中間選挙に負けたのは、アメリカの国民生活が、一向に向上しないばかりか、むしろ悪化している現実があるからです。
このことは、どこかの国とそっくりですね。

そこでTPPです。
加盟国、加盟表明国と検討中の日本のDGPと産業形態を考えると、アメリカのTPP戦略は、日本に向けられていることは明らかであると書きました。つまり日本への輸出の増大化が図られます。これまでも日米貿易は膨大な量がありますが、あくまでアメリカは対日赤字です。だからさらに輸出を増やし、黒字にするのは、あらゆる分野の関税を取り払うしかありません。他の国の顔ぶれを見ても、アメリカの政策が油種に傾いている以上、資源貧国日本に目を向けるしかありません。日本への輸出こそが、TPP加盟国のゴールドカードです。
アメリカはドル安を維持、あるいはさらに進めながら、これまで以上に日本に向かってきます。
農産物ばかりではなく、金融、医療、保険、通信などなど、あらゆる産業を網羅する関税撤廃、規制緩和状況が生まれます。
痩せても枯れてもアメリカは超大国です。あらゆる分野に自由な状態でアメリカの産業が進出すれば、日本の産業の行く末は明らかです。
経団連や中小製造業界は、輸出が増大すると歓迎していますが、ドル安が続くことは明らかで、さらに雇用賃金の垣根も取り払われ、思っているようなバラ色な輸出増大は見込まれないと思います。

菅総理は、「開国、開国」と夢を与える一方で、日本はまだ開かれていないというイメージで語っています。それも国際舞台で日本は開かれていないような意味合いで語ったのです。「第三の開国」とは、開かれていないという観点から語られるはずです。しかし日本は自由貿易立国としてここまで発展してきました。関税が欧米に比べ高い時期はありましたが、現在では、農産物とその他の関税の平均を比較しても、共にEUより低く、農産物もアメリカより少し高い程度、その他の品目の平均ではアメリカよりも低いのです。
日本と同じように国土が狭い韓国も経済発展を遂げてきましたが、韓国の関税と比べると日本の農産物の関税は、かなり低くなっています。もちろんその他の品目もです。つまり日本の関税の低さは世界でもトップレベルで、開かれていないどころか、十分過ぎるほど開いているのです。

このような状況で、TPPに加盟する意味はあるのか?金がないといって社会保障費は、マニフェストに示したほど伸びず、消費税増税を視野に入れているような状況で、これ以上の自由化を促す必要があるはずはありません。それも地域限定排他的経済協定です。
TPPは、中国包囲網の形成というアメリカの戦略的な意味合いもあります。日本が加盟しなければその意味合いは薄れます。また日本が加盟すれば、中国やロシア、韓国との貿易は、おそらく悪化するでしょう。加盟国以外に恩恵は与えられないわけですから。

もし日本がTPPへ加盟すれば、排他的経済ブロック化でアメリカにこれまで以上に収奪されるでしょう。このことは『日米同盟の深化』という枠組みの中で戦略的に組み込まれるのです。
日米関係は、水平的、互恵的関係ではなく、従属的関係にあり、TPPの参加は、従属性を助長させ、あらゆる分野でアメリカの支配を受けるというポツダム宣言受諾の下でのような状況を生み出します。