『アンコール!!』 (2012) / イギリス・ドイツ

原題： SONG FOR MARION
監督・脚本：　ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
出演：　テレンス・スタンプ　、ヴァネッサ・レッドグレイヴ　、ジェマ・アータートン　、クリストファー・エクルストン

映画『アンコール！！』　公式サイトはこちら。　（2013年7月5日公開）


またもやTOHOシネマズ全国一斉試写会に行きました。今月は試写当選が多くて嬉しいんですが、当たる時と当たらない時の差が激しい。近所のシネコンで試写が一番嬉しいけど（笑）

　

まず本作のアウトラインを見て思うこと。5年前に公開がされた『ヤング＠ハート』に非常によく似ているシチュエーション。老人ホームに入っている人たちが互いの健康や気分転換、趣味を兼ねてコーラスをする活動は最早とてもポピュラーなのだろう。
ついこの4月にも『カルテット! 人生のオペラハウス』という作品があり、やはりこれも同じように「老人たち＆音楽」というテーマだった。また2月には『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』もあり、これも老人ホームが舞台。映画人口の年齢層の上昇もあってか、数年前から老人たちをクローズアップしたものが年に何本も公開されてきている。共通しているのは孤独ではないということで、寿命も延びてきた今、健康に年老いたら、そこから如何にして生きるのかということを考えたいという声も多いからなのだろう。やたら健康な老人でも無意味に過ごしたくないという意欲の表れなのだろう。

そんな設定の映画が多い中、本作のように、老人ホームに入っている老人とそうでない老人とを混在させて主人公にするのはあまりない。身体が弱く、余命も恐らくは察知しているであろう妻は好きなことをして人生を過ごしたいと思うが、そんな妻を見て夫は、好きなことをするのはいいが身体が動かなくなった時が無念だろうと予想して、妻の行動に制限をかけて行く。どちらも自分が充実したいとか、相手のことを思いやった上での行動なのにどこか噛み合わずにぎくしゃくしてしまい、周辺の人間関係にも影響していく。

何となくうまくいかない・・・　と思いがちな、長年連れ添った夫婦仲。そんな時は原点に帰っていくこと。出会った時はどうだったのか、どんな気持ちだったのか。今よりもっともっと素直だったに違いない。いろいろな理屈をこねないで、そのままでいいのに。そのままのあなたを好きになったのだから。

素直になって想いを差し出すことはなかなかできないことだけど、思い切ってやってみると実に訴えかけてくるものがある。そしてこれほど人を輝かせるものもない。

妻のそんな可愛らしい想いが、頑固だった夫の心をどんどん変えていく。妻を心配するあまりに、年月を重ねるうちにいつの間にか生活スタイルや人づきあいが意固地になってしまっていたことはなかっただろうか。妻は思い切り好きなことをしたかっただけなのだ。その妻の想いに立派に応えようとする夫の姿は堂々としていた。


今更何をしても無理とか、どうせやってもこんな返事しか帰っては来ないから、と、始める前から匙を投げていることはないだろうか。悩んだり自分の殻に閉じこもる前に、では自分はやるだけのことをやりきったのだろうかと、たまには自問自答してみてもいい。何かやり残したことがあるならそれはやっておいた方がいい。相手は、思い切って今までの殻を破る、そんなあなたの前向きな姿をきっと喜んでいるはずなのだから。
年を取ると言っても皆が一様ではない。それぞれの条件の中で精一杯生きることとは一体何なのか。周辺の人は、その人にどんな力をかしてあげればいいのか、またその人の持てる力を引き出すにはどうしたらいいか。そんなことを考えさせられる作品でもある。


★★★　3/5点