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【EU Film Days 2014】『アレクサンドリンカ』 (2011) / スロヴェニア・イタリア

2014-06-22 | 洋画(あ行)


原題: Aleksandrinke (The Alexandrians)
監督: メトード・ペヴェツ
鑑賞劇場: 東京国立近代美術館 フィルムセンター

【EU Film Days 2014】『アレクサンドリンカ』ページはこちら。

19世紀後半から20世紀前半にかけて、スロヴェニアから大勢の女性たちがエジプトに出稼ぎに行った。乳母や女中としてエジプト人に雇われた彼女たちは「アレクサンドリンカ」と呼ばれ、本国に残してきた貧しい家族を支えた。当事者や縁のあった人々へのインタビューを通じて当時の様子を浮き彫りにしたドキュメンタリー作品。(【EU Film Days 2014】公式ページより)



「エジプトへ行ったスロヴェニア女性たち」の映画! そんな作品があったんですね・・・ というような、絶対にここでしか観れない作品が必ず1本は入っているのが EU Film Days の魅力だったりするわけです。こういう作品を見逃していはいけないですね。他では絶対にお目にかかれない、知っておきたいようなタイトルも興味をそそります。

スロベニア wiki

スロヴェニアは過去にはハプスブルグ帝国領、ユーゴ構成共和国の1つとして存在し、ようやく1991年に独立している。位置的に被支配の歴史が長かった影響もあるのだろうか、経済的にも豊かとは言えず、リーマンショック後の現在も経済状態は悪い。この映画に出てくるアレクサンドリンカ達が異国に渡った時代は19世紀後半から第2次世界大戦頃が中心だったが、そのことを決して過去の一時期の話として片づけられない現状が今に至るまで存在している。

19世紀後半、スロヴェニアから他国へ出稼ぎに行くのが女性しかいなかった状況がまず興味深い。男性たちは地元でのことがあるから行かない、という図式がまず珍しい。通常出稼ぎにに行くのは男たちのような気もするんだけど、当時のエジプトではメイドとか、女性向けの仕事の方がたぶん多かったんでしょうね。そして残った男たちも仕事がほとんどないから活躍もできず、というのは本国で失業していたら当然そうなって来るんでしょう。不況時には女性の方が柔軟に職業を探せるような気がするのは今も昔も変わらないのだろうか。
それでも今から100年以上前に女性が異国に渡って仕事をするというのは並大抵の覚悟ではない大変さだったと予想する。交通網だって発達していないし情報だってない時代に、彼女たちを動かしたのはやはり生活のためなのか。

稼ぎ手として女性が移民するということは単に経済的な問題には留まらず、郷里との関係、出稼ぎ先での人生までも左右する。
労働者として移民すること、現在のように情報手段があまりない時代、それは郷里に残した家族とは必然的に連絡や交流が途絶えることとなる。連絡が取れなくても心がそこにあればいいのだけど、往々にして気持ちが離れてしまう場合も多い。故郷に残した家族とは、単に送金するだけの関係となってしまって、今働いている物質的に豊かなエジプトの生活に慣れてしまい、そこが中心となってしまうこともあったようだ。ましてよく働いて奉公先の人から必要とされれば尚更だろう。更に加わるのが異国での新しい人間関係であり、中には新たな運命の出会いを得てしまって完全に故郷に気持ちが向かなくなり、第二の人生へ進むケースもある。
貧しい郷里を助ける為に異国に渡った女性達が、そこで富と幸福に出会ってしまったら、そこを選ぶ可能性があったことも否定できない。彼女たちに選択のチャンスがあった以上は、よりよい人生を追うことは誰にも責められない。

最も第二の人生を選べた女性ばかりではなく、中には身を持ち崩していく女性もいたようだ。スロヴェニアのカトリック関係者が彼女たちについてあまり快く思えないコメントを残しているが、経済的な事情で他国に渡ったことは斟酌しないようで、ここにも結構身勝手な批判を感じる。中には敬虔なカトリック教徒も当然いたのだろうが、働かされているのに現地で故郷の宗教まで構ってなんかいられるかというのが女性たちの本音ではなかっただろうか。生活のために、自分の人生のためにエジプトで結婚し、異教に改宗したスロヴェニア女性もいるというのに、教義を守れないことへの批判だけはしっかりしているのは何となくお門違いだろう。

そして映画で描いているのはこの女性たちだけではなく、故郷に残された家族とその子孫までもを描いている。出稼ぎスロヴェニア女性たちは子どもを残してエジプトに渡った人も少なくなく、彼女たちの子の世代は今70~80代となって存命している人の証言が聞ける。これがまたどれも切ないものばかりで、生まれて間もなかった子、幼児だった者にとっては、生まれながらにして母の不在を噛み締めながら生きる宿命が待っていた。帰国した母親たちと良好な関係を持てていた者は少なく、40代になって初めて母と会ったという証言もあり、何を今更のこのこやってきて・・・という心境になるのも無理はない。そこまで故郷を放置した母親たちにも当然責任はある訳だから。こうして母と再会したとしても関係は冷え、親子とは呼べない関係となってしまっている結果が何と多いことか。現在老いてなお、母に対して恨みつらみを述べる子どもたちは本当に不憫でならない。母の愛に満たされない代償は生涯拭えない心の傷となる。そんな子を振り向かせようといろいろな物を与えても、心は金では買えないということだ。

ドキュメンタリーとしては至って真面目に、オーソドックスに作られているのだけど、とにかく内容が深刻でしかもマイナーな話題だけに、このことを知った重みをずっしりと感じさせてくれている。後世に語り継ぐにふさわしい作品。


★★★☆ 3.5/5点







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