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大西洋に臨む漁師町ポルトガル:ナザレ、7のおまじない

2011-05-28 00:27:47 | 街たち
『世界ふれあい街歩き』ポルトガル:ナザレ。
海と空の青、屋根瓦のオレンジ、建物の壁のクリームベージュ、街を囲む緑。
浜辺や路地には、アジなどを並べ干物作り。
ポルトガルは、EUの中でも経済的に貧しい国。
ヨーロッパでも現れた、バブルの影響は薄い。
でも、人々は生き生きとした表情をしていた。
ナザレの女性たち、主に既婚の中年女性たちは、伝統衣装として膝丈のスカートを重ね履きにして、ショールを掛け、髪を結って眼鏡(サングラス)をかける。
街にいるおおかたの女性が、同じような格好をしていた。
その重ね履きのスカート、正式には7枚重ねだという。
7の数には、大切な意味が込められている。
一つのサイクル、区切りとして、週7日、虹の数があり、そこから、7つ目の波が来ると海が落ち着くいわれから、漁に出た夫や息子の無事の帰還を願う、おまじないのためだ。
女性だけではない、男性:漁師たちにも伝統衣装がある。
イギリスから伝わったチェックのシャツに捲り上げやすい形をしたズボンだ。
それに、ポケット代わりの長いニット帽と、いざという時の救命ロープにもなる長い腰帯。
その格好で、フェニキュア人から伝えられた、舳先の反り上がった「アルティシャベガ」という船に乗り、何百年と魚を獲って暮らしてきた。
男が魚を獲り、女が干物を作り家を守る。
そして、自分の役割を果たし、互いを思いやってねぎらい、ささやかな人生をつつましく生きていく。
多くを望まなければ、満ち足りた幸せな人生だ。
衣食住足りて、自分のことを認めてもらえれば(まずは家族から)、ほとんどの人はそれが幸せなのだと思う。
ナザレの街で見かけた人たちは、確かに幸せそうだった。
美しい街並みに、恵みをもたらす海、華美ではないが堅実な生活。

一昨日まで読んでいた本、アントニオ・タブッキ「レクイエム」の舞台は、ポルトガル:リスボンだ。
タブッキが敬愛する詩人フェルナンド・ペソアは、ポルトガル人。
これには、ナザレは出てこなかったが、それより南にあるアレンテージョ地方の人と風物がとりあげられている。
ポルトガルは、ヨーロッパにあってヨーロッパにあらずのような件があった。
ヨーロッパに憧れ、そこに飛び込むと夢破れて失意に沈むと。

かつての大航海時代の繁栄は、教会などに名残をとどめる。
ナザレの17世紀の崖の上の居住区で売り子が売っていた、ナッツやドライフルーツは、その余韻。
さくらんぼのリキュール「ジンジャ」とそれを飲むチョコレートで出来たカップなども、大航海の産物か。
ポルトガルギターの哀愁を帯びた音色のファドの演奏で、船の中で、あるいは陸の酒場で人の心を癒したのだろうか。
繁栄を経験しうらぶれた国の歴史が、一歩ひいた位置で人の繁栄を見られる目を養ったのかもしれない。

物質文明の繁栄は、本当の意味で、人を幸せにすることは出来ない、そんなポルトガルのメッセージを受け取ったような気がした。

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