エドワード・アンダースン『夜の人々』

カバーのノスタルジックなイラストは、これから読む物語を想像させる。
コンバーチブルのハンドルを握るのは、クローシェ帽をかぶった女性。
咥えたばこで、助手席の男の顔を見ている。
「あんたどうする? 私についてくる?」と問いかけているようだ。
このドライブが、行き先の見えない逃避行のように感じるのは、帯にある「犯罪小説」という文字のためだけではないだろう。
このイラストには、明日への希望が見えない。
刑務所を脱獄した男たちは、手っ取り早く金をつかむため銀行強盗を繰り返す。
そんな男の1人ボウイと、囚人仲間の姪キーチーはお互いに惹かれる。
彼らの浅はかな思考は、無理矢理かもしれないが、最近の闇バイトを連想させる。簡単に稼げる仕事、それが犯罪だとしても加担してしまう。
2人の行く末がハッピーエンドになるわけがない。
原題が『Thieves like Us』だと読後気づき、1930年代の貧しさを思う。
『俺たちのような泥棒』とは、搾取される労働者たちを指しているのだろう。
富む者と貧しい者との差は、小説が書かれたおよそ100年も前から一向に埋まらず開くばかりなのだ。
希望の見えないドライブをしているのは、現代のぼくも同じだったのだ。
装画は岡田成生氏、装丁は新潮社装幀室。(2024)
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