ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

スエロは洞窟で暮らすことにした

2019-11-09 10:20:35 | 日記
マーク・サンディーン『スエロは洞窟で暮らすことにした』





 読む前の、表紙の印象から届くささやかな希望は、読後、やや失望に変わる。

 表紙に写る穏やかな男の表情と、背景の茶色い台地、果てしなく白い空、そしてタイトルや著者名などの要素が、とても素敵で、ひっくり返して背、表4を見ても好きな気持ちが減ることはない。

 原題は『THE MAN WHO QUIT MONEY』だが、『スエロは洞窟で暮らすことにした』の方がはるかにいい。

 でもそれが、読む前にぼくを違った方向に導びいてしまったのだ。

 洞窟で暮らすことに、自給自足のユートピアのようなイメージを持ってしまったのだ。

 スエロの生き方に、共感できる部分は少ない。

 お金を介在させない生き方は、つまるところ、周囲の人たちの好意に支えられている。

 無駄なものは買わないなど、極力シンプルな生き方は実践できる。

 でも、まったくお金を使わず、環境に負荷もかけない生活というのは、社会からこぼれてしまわないと難しいだろう。

 社会の束縛から自由になろうと思うと、不自由な考え方に縛られる。

 ただ、栞を本の頭からちょこっと出し、机の上に何気なく置いておくと、つい手に取りたくなる、魅力的に見える本ではある。


 装丁は鈴木成一デザイン室。(2017)




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わたしは英国王に給仕した

2019-11-01 13:53:52 | 日記
ボフミル・フラバル『わたしは英国王に給仕した』
 




 カバーのイラストが可愛らしい。

 背筋をピンと伸ばした給仕が、ドームカバーがのったトレイを指3本で持ち、顎を上げて澄ましている。

 明るく賑やかな色合いが、楽しそうな物語をイメージさせる。

 
 ホテルのレストランで、給仕見習いとして働き始めた少年。

 職場を移り、少しずつ出世していく半生が綴られている。

 イラストのように、コミカルで、楽しい雰囲気に満ちている。

 ちょっと嫌な人も登場するけれど、愛に溢れた安心感がある。

 ところが、暗い影が少しずつ広がってくる。

 戦争が引き起こす混乱と、露わになっていく人間の醜さ。

 辛い出来事を経験し、年を重ね、かつての少年はホテルのオーナーにまでなる。

 しかし、心は満たされない。

 他人と人生に対して理解をしつつも、諦めの気持ちが強くなり希望を失っていく。

 それでも、エチオピア皇帝に給仕し勲章をもらったことの誇りはなくさず、それがこの物語の愛らしさを最後まで支える。

 
 カバーデザインは加藤賢策氏、カバー装画はアイハラチグサ氏。(2019)



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