ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

悲しみの港

2019-03-28 18:10:16 | 日記
小川国夫『悲しみの港』


 色とりどりのストライプの背が並ぶ棚。

 手に取ると、ちょっとずんぐりした感じのB6サイズ。

 小学館のP+D BOOKSというシリーズだ。

 年配の人向けの本なのか、そう思って開くと、若干文字組がゆったりしている。

 紙は、P+D(ペーパーバックとデジタル)の名の通りいい感じにチープさが漂い、ガツガツと読みたくなる造り。

 渋いラインナップの中から、まだ読んだことのない小川国夫を買ってみた。

 
 とても簡単にいうと、親のすねをかじりながら、小説を書いている青年の話。

 文学を生み出そうと苦しんでいるのに、周囲の人たちの温かいまなざしに鈍感で、青臭い。

 原稿がやっと雑誌に掲載されることになるが、原稿料は出ない。

 一度も働いたことがなさそうなのに、肉体労働ならできると思い込む。

 けれども身体は弱い。

 感情移入がまったくできない主人公。

 恋する女性の家に押しかけ求婚するものの、娘の父親に優しく諭され、無力なまま帰宅する、あまりに不器用な姿が哀れ。

 最後は、苦しまぎれの明るさが、切ない。(2017)
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牛たちの知られざる生活

2019-03-25 18:19:51 | 日記
ロザムンド・ヤング『牛たちの知られざる生活』




 この本にはカバーがない。

 または帯のように短いカバーがある。

 その短いカバーに、日本語のタイトルはないので、やはり帯。

 少しだけ見えている表紙に、空と山の絵が描かれている。

 帯を外すと、柔らかなタッチの牛たちが表れる。

 絵は背から表4へと続いていて、本を広げてみると、牧場の景色が目の前に広がり、思わず深呼吸をしたくなる。

 
 イギリスで牧場を経営する著者は、牛や羊、鶏たちと会話をする。

 いや、そんなことはないでしょう、牛は喋らないでしょう。

 わかっているのだが、読み進めるうちに疑念は消えてしまう。

 どうやら本当に意思の疎通はあるようだ。

 驚くのは(驚きの連続だが)、牛が相当に聡明だということ。

 とはいっても、犬のように人間にべったりではないところに、つき合いの難しさと面白さがある。


 装丁は佐藤温志氏、イラストはagoera氏。(2019)


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待ちながら

2019-03-20 22:51:22 | 日記
ルイ・ズィンク『待ちながら』





 アントニオ・タブッキの『島とクジラと女をめぐる断片』を読んでいて、舞台のアソーレス諸島に、一度行ったことがあるような不思議な既視感を覚えた。

 ポルトガルに行ったことはない。

 後日、ポルトガルを特集した雑誌を眺めていて、それがルイ・ズィンクの『待ちながら』の影響だったのだと気づいた。

 何年も前に読んで、かすかな記憶が残っていた。

 でも大半を忘れていたので、もう一度読んでみた。



 とても美しい本。

 140ページほどの、薄いハードカバー。

 表紙はクリーム色。

 入り江のように、細長く写真が入っていて、白壁に赤い屋根の家々が写っている。

 帯は綺麗な青。

 全体に港、海を意識させる作り。

 

 かつて捕鯨がさかんに行われていたアソーレス諸島へ、ジャーナリストを名乗る男が訪れる。

 まだ捕鯨をやっているのか、あちこちで聞いて回り、やっとトロール船に乗船させてもらう。

 そして昔ながらの捕鯨を目の当たりにする。

 この男の皮肉屋な口調に、最初のうちはイラっとさせられる。

 けれども、周りの人間に翻弄される姿を見ていると、口ほどでもないなとおかしくなる。

 捕鯨の描写は、『島とクジラと女をめぐる断片』の方が素晴らしい。(2019)


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最初の悪い男

2019-03-15 22:46:20 | 日記
ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』





 真っ黒な表紙に、白抜きのタイトル文字。

 黒はダーク、腹黒さを表しているのか?

 それにしては、文字の組み方が素直ですっきりしていて、隠された陰謀は感じられない。

 一方、帯はとても色鮮やかでセンスが良く、物語の華やかさを予感させる。


 読み始めてすぐ、クスクスと頭の中で笑い声がする。

 だんだん、シットコムの笑い声のように大きくなり、ニタニタ笑ってしまう。

 シェリルは、少し変わった女性だが、際立って変人というわけではない。

 感情移入はしにくいのだが、周囲の人たちのズレが彼女を混乱させ、同情を誘う。

 物語はヘンテコな転がり方をしていき、予想のできないところへ向かう。

 なんとなく、みんなが信用できない感じがしていて、きっとこれがダークな黒。

 じゃあ、帯のカラフルさはどこに?

 ラストにあった。


 帯のグラフィックは、映画監督でもあるマイク・ミルズ。(2019)



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武士道ジェネレーション

2019-03-11 19:08:12 | 日記
誉田哲也『武士道ジェネレーション』





 赤、青、緑の背表紙は、本棚でとても目立っている。

 緑の隣に紫の本を並べる。

 それまで広がっていたものが、キュッと閉じたような感じがする。

 多分、これで終わり。

 前作『武士道エイティーン』から6年がたち、いまごろ続編が出てくるとは思わなかった。

 そしてその年月分、登場人物たちは年を取り、大人になっていた。成長していた。

 成長を嬉しく思う一方、変わらない部分を見つけると、それもまた嬉しい。

 親戚のおじさんになった感覚で読んでいると、あの高校生がこんなに大きくなったのかと、涙がこぼれてくる。

 同年代のつもりで読んでいると、ぼくももっと大人にならねばと思うのだ。


 イラストは長崎訓子氏。装丁は池田進吾氏。(2015)


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