ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

サンカの民を追って

2019-01-30 18:53:00 | 日記
『サンカの民を追って』





 十代の青年が、無計画の放浪の中で出会った人たちの話。

 小栗風葉、明治41年の小説「世間師」。

 青年がたどり着いた煤けた旅館は、六畳二間に10人近くが雑魚寝する悪臭漂う空間。

 垢で汚れ、じめじめしたぼろ布団にはシラミがたかる。

 しかしそんな宿代さえ払うことができない青年は、日銭を稼ぎながら旅をする男の世話になるのだったが。


 『サンカの民を追って』(河出文庫)に収められた一編。

 サンカ小説を集めた一冊だが、表紙は小説というよりノンフィクションの雰囲気。

 隣にいたのに実態を知らない集団となれば興味がわく。

 何冊か本を読めば、実像らしきものは、なんとなく見えてくるものの、それでもサンカとは一体何だったのか? という疑問は漂い続ける。

 そんな隙間にサンカ小説は入ってくる。


 「世間師」をサンカ小説集に入れることが、ふさわしいのかわからない。でも、ここで読めてよかった。

 カバーデザインは山元伸子氏。(2015)
コメント

子供時代

2019-01-28 18:58:27 | 日記
リュドミラ・ウリツカヤ『子供時代』




 この小さい本はなんだろう。

 新潮クレスト・ブックスの棚で、ひときわ目を引く小ささ。

 大人に混じった子どものような、それでいて間違いなくクレスト・ブックスだ。

 書店で最初に見かけた瞬間、販促用のフリーペーパーかと思った。


 リュドミラ・ウリツカヤの『子供時代』。

 表紙の絵は、やや不気味なのに、見慣れてくるとどことなく可笑しい。

 とても細かく、目を凝らして奥の方まで見たくなる。

 パラパラめくると、中にも何枚か絵が入っている。

 わくわくしながら読み進めると。

 文章と絵がリンクしていない。

 でもなんとなく合っているような。

 リュドミラ・ウリツカヤの文章と、ウラジミール・リュバロフの絵は、それぞれが自身の子供時代を描いたもの。

 それが奇跡的に似たような雰囲気を持っているのだ。

 著者と同じ体験をしていないのに、読んでいると、不思議に自分が子どもだった頃を思い出す。

 何度も何度も手に取って、眺め、読んでいたくなる。(2015)


 通常の本と並べてみる。
 少し低い。

コメント

親愛なる

2019-01-25 19:31:01 | 日記
いとうせいこう『親愛なる』





 小説の文中、突然自分の名前が出てきたらどんな気分だろう。

 そんな気分を味わえる。


 それは偶然ではなくて、あらかじめ、こちらから名前やメールアドレスの情報を送っておいたもの。

 知っていても、思わず後ろを振り返ってしまう、背後から見られている感覚になる。

 そんな仕掛けが施されている。
 

 オンデマンド印刷、簡単にいうとプリンターで印刷した本。だから、こんなことができる。

 カバーはない。

 表紙には、郵便物のごとく自分の住所と名前が印刷されている。

 知らない人からの手紙?

 印刷の精度のため、文字のふちがギザギザしていることさえ、手紙らしさを演出しているように思える。



 ネット限定4000部の本。

 現在書店で売っているものは違うはず。仕掛けはどう変わったのだろう。(2015)
コメント

アメリカを変えた夏 1927年

2019-01-23 19:24:24 | 日記
ビル・ブライソン『アメリカを変えた夏 1927年』





 表紙のイラストは、ごちゃごちゃした感じが遊園地のようだ。

 観覧車、ジェットコースター、メリーゴーランド。

 いろんなものが詰め込まれた、昔ながらの遊園地。ニューヨークのコニーアイランドのような場所。

 オリジナルの英語版とほぼ同じ表紙。違うのは、日本語タイトルが入っているところに、英語版は著者名だけが大きく入っている。

 日本語版の帯を取って気づくのだ。

 「ONE SUMMER AMERICA 1927」という書体の雰囲気が、一気に1927年に連れて行ってくれると。

 その点、英語版の方は、見た瞬間、古い時代へ飛ばされる。


 丁寧に、人を、事件を調べ上げ、1927年のアメリカを描写する。

 退屈な箇所はひとつもない。

 まるで遊園地。

 時代が特異だったのか、著者の視点がユニークなのか。

 ページのあちこちにリンドバーグが登場する。それは常に上空を飛んでいるような感覚。

 600ページに近い、長い読書だったが、少しずつ進む時間が楽しかった。


 装丁は小林剛氏、イラストはNeil Gower。(2019)



コメント

もの食う話

2019-01-21 18:41:00 | 日記
文藝春秋編『もの食う話』





 「老人の食意地のきたなさは…」で始まる大岡昇平「食慾について」。

 文春文庫『もの食う話』に収められた一編。

 年をとると食への興味が薄くなってガツガツしない、なんてことはないと感じていたところ。

 むしろ食にしか興味がないのでは、と思しき老人の姿を目にすることもある。

 しかし、文章はそのあと「中年男自体それほど意地がきれいだったわけではない」と続く。

 そんな人も、いる。


 食べることは生をつなぐこと。

 生への執着も、老人だからといって霞んでくるわけではないと思う。

 ぼくもできることなら、死ぬ間際まで、あれが食べたい、これが食べたいと食欲旺盛でいたい。

 それなのに、まだ老人でもないうちから、油物がきついと感じるようになった事実。

 量より質、美味しいものを少量でも、楽しく食べて生きたい。


 表紙に描かれた卵男の、ゆで卵一つを食べる幸せそうな表情。これが食の楽しさ。

 装画は古知屋恵子氏、デザインは関口信介氏。(2015)


コメント