ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

インヴェンション・オブ・サウンド

2023-03-31 18:33:04 | 読書
 チャック・パラニューク『インヴェンション・オブ・サウンド』



「キャー!」

 恐怖に慄く女性の悲鳴。

 瞬間、身体が硬直し、頭の中は真っ白になる。


 そんな悲鳴を、いままで間近で聞いたことがない。

 記憶にあるのは、俳優が演じる映画やドラマの中だけだ。

 それは本当の恐ろしさ、痛みが伴うものではないはず。

 では、真実の苦痛がもたらす悲鳴とはどんなものなのだろう。


 肉体を傷つけ悲鳴を上げさせる。

 それを録音して、映画の音響として使用する。

 考えるだけでもおぞましい。

 この小説では、それを職業にする女性が登場する。

 嘘のような話なのに、実在する映画のタイトルが散りばめられると、どことなくリアルに感じられる。

 世界は陰謀に満ちていると信じてしまう人の気持ちが、少しだけわかる気がする。


 カバーの紙は傷だらけで、平積みにされていた書店で、思わず下の本を探ってしまった。

 傷は、写真に意図してつけられたもの。

 不快なところを突いてくるデザインと物語は、悪夢を見そうだ。


 装丁はコードデザインスタジオ。(2023)



ここから見えるもの

2023-03-19 18:58:00 | 読書
 アリアナ・レーキー『ここから見えるもの』


 カバーの絵は、少女やオカピだけでなく、雲や山さえ可愛らしい。

 けれども、どことなくつかみどころがない、手ですくっても零れ落ちてしまうような不安も感じる。


 ドイツの小さな村に住む人びとの物語。

 おばあちゃんのゼルマが、オカピの夢を見たと孫のルイーゼに言う。その夢は、24時間以内に身近な誰かが亡くなる暗示だと皆が知っている。

 なんでオカピ?

 ライオンやキリンのような、容易に頭に浮かぶ動物でなくてオカピとは。

 オカピが気になって物語が頭に入ってこないので、読書を中断しオカピを調べた。

 なるほど。納得。

 後ろ姿が独特で印象的、曖昧な夢の中でもはっきり認識できる。だからオカピかと。

 不吉な夢は、最悪な死を現実にもたらした。


 帯に「ドイツの独立系書店が選んだ今年の愛読書賞受賞」とある。

 愛読書にしたくなる気持ちがよくわかる。


 ゼルマを愛しながら一度も告白をしないまま側に寄り添う「眼鏡屋」。

 マルティンは重量挙げの練習としてルイーゼを抱き抱え、彼女は黙ってバーベル代わりになってあげる2人の優しい関係。

 時は静かに流れ、人は少しずつ年をとっていく。

 いま見えるものを大事にしていきたくなる。


 装画は三好愛氏、装丁は塙浩孝氏。(2023)




だからダスティンは死んだ

2023-03-09 17:26:51 | 読書


 ダスティンはすでに死んでいる。

 殺されたのだ。

 犯人の回想で、殺された理由はおざなりに明かされるが、詳しくはわからない。

 生前のダスティンについても、過去の人という遠い場所に置かれて実態がつかめない。

 ところが。


 ダスティンを殺した犯人と思われる男が、隣家に住んでいた!

 確信はあるが証拠はなく、過去に自分が起こした事件のため誰からも信用されないヘンリエッタ。

 ヘンリエッタが知っていることに気づいた殺人犯のマシュー。

 ヘンリエッタは危険な状況に陥ったのか?


 ぼくの思ったようには行動しない登場人物たち。

 どこへ転がるのかわからず死体が増えていく。

 そうか、だからダスティンは死んだのだ。


 装丁は鈴木久美氏。(2023)