ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

地球の中心までトンネルを掘る

2019-12-12 23:04:05 | 日記
ケヴィン・ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る』



 10代の終わり、いろいろな意味で不自由だった高校生活を終えると、規則や制約の支えがなくなって、気持ちのバランスが取れない時期があった。

 目的を失い、何をしていても惰性で、ただ毎日を送っていた。

 後から考えると、意味もわからず穴を掘っていたようなものだ。


 表題作の「地球の中心までトンネルを掘る」は、大学を卒業したばかりの青年たちが、穴を掘り続ける物語。

 彼らは、実社会で生きていくための心の準備ができていなかった。

 両親は、そんな息子と友人たちを温かく見守る。

 何をしたいのかさっぱりわからない、でも幸せになってほしいと願っている。

 穴を掘るだけの彼らに、黙って差し入れをしてくれる。

 しかし、経済的なことから、それがだんだん難しくなっていく。

 穴を掘る生活に、終わりが近づいてきていた。


 ほんとうのような嘘が並ぶ短編集。

 現実にありそうだけれど、ちょっと違う世界。

 そこには自分のような人がいる。


 表紙の絵、穴を照らすライトの灯りが、ほんのり気持ちを暖かくしてくれる。

 奇妙な物語ばかりだけれど、根は優しい。


 装画は塩田雅紀氏、装丁は中村聡氏。(2015)



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犬の心臓・運命の卵

2019-12-01 13:15:34 | 日記
 ミハイル・ブルガーコフ『犬の心臓・運命の卵』




 白衣を着た男性と、彼を睨む犬。

 犬の首から下は普通の人間で、二人羽織のような違和感がある。

 そんな二人が描かれたカバーのイラストは、とてもお洒落。

 スマートな小説を想像するのだが。


 『犬の心臓』は、野良犬のモノローグから始まる。

 空腹な犬は、いじめられて怪我をし、死を覚悟している。

 1920年代のソ連。

 その犬の目を通して、いかに人々の食が貧しいのか、生活が苦しいのかが示される。

 そこへ、裕福な身なりの、ソーセージを持った男が通りかかり、犬は必死に這って近づく。

 こうして、医者と犬は出会う。


 犬が思うことを、まるで漫画の吹き出しのようにはさみながら進行していく物語は、馬鹿馬鹿しくも滑稽な味わい醸し出す。

 体制を小馬鹿にしたような箇所もあって、当時の状況を考えると、おかしいけれど、これ大丈夫? と思ったりする。

 手術を施された犬が、徐々に変わっていく様子は、グロテスクでもあるが、どこか物哀しい。

 ドタバタの喜劇なのに、ちょっとホロリとさせられるときの、気持ちの揺さぶられ方にも似ている。

  
 装画は坂本奈緒氏。(2019)
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