ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

ある一生

2019-10-18 17:36:43 | 日記
ローベルト・ゼーターラー『ある一生』





 冠雪した山と、山小屋、緩い斜面を杖を手にして歩く老齢の男性。

 表紙のイラストからは、雪山の楽しさではなく、厳しさがかすかに感じられる。

 帯に「アルプスの山」とあるのを見て、ハイジのおじいさんが一瞬浮かんだ。

 アニメの印象を引きずったまま読み始めてすぐに、これはまったく違うのだと知る。短絡的な発想を恥じる。


 アンドレアス・エッガーは、ひたすら耐える。

 読む者に同情させず、黙々と苦難を乗り越える。

 ひどい人生だったのか。

 それとも満ち足りた人生だったのか。

 その判断は、傍らで見ている人間にはできないことなのだ。

 ただ生きるために生きる。

 そんな人生を前にしたら、どんな言葉も、力なく消えてしまう。


 イラストは野田あい氏。(2019)



コメント

名もなき人たちのテーブル

2019-10-11 15:20:32 | 日記
マイケル・オンダーチェ『名もなき人たちのテーブル』




 ターコイズブルーの紙が美しいカバーは、書店の棚で目を引いた。

 表紙には、金色のタイトル、著者名と、重厚な雰囲気の客船のイラストが慎ましく置かれている。

 静かな物語の始まりを思わせる。

 読み進めるうちに、カバーは地中海の色だろうと気づく。

 1954年、スリランカからイギリスへ3週間の船旅。

 語り手は、当時11歳の少年。

 離婚した母のもとへ、一緒に暮らすため、一人で向かうのだ。

 身を寄せていた親戚から放り出されたように見え、しかも長らく会っていない母との再会には、漠然とした不安しかない。

 そんな彼は、幸いにも船で同じ年頃の少年二人と仲良くなり、毎日を小さな冒険で満たしていく。

 船中で出会うさまざまな人たちに、子どもらしい興味の持ち方で接していく彼らの姿は楽しい。

 ところが、読み進むうちに、不意に大人になっている現在の話が挿入されると、戸惑う。

 幼い頃の一時期が、いっそうキラキラ輝いて見えるのと同時に、それは子どもで理解できていなかったことがあるからだと気づかされる。

 時代を行きつ戻りつしながら、少しずつ明らかになっていく事実、想いに、深いため息をつきたくなる。


 表紙にある原題『THE CAT’S TABLE』の、アポストロフィと後ろのSの間が、不自然に空いているのが気になっていた。

 あえて空けているのだとしたら、「S」を孤立させるため。

 常に一人だということなのか、いずれは誰かと共になるという暗示なのか。


 装丁は水崎真奈美氏。(2019)



コメント

手創り市

2019-10-01 19:19:57 | 日記
『&SCENE手創り市 BOOKS AND SCENE』に出店します。

 年内で、この『&SCENE手創り市』が終了します。
 ぼくが参加するのは、今回が最後。
 お寺の境内で、ゆったり過ごす一日がとても好きだったので残念。
 

 &SCENE手創り市
 10月27日(日)
 養源寺
 東京都文京区千駄木5-38-3
 http://www.andscene.jp/1027.html







コメント

ひとり旅立つ少年よ

2019-09-29 11:59:08 | 日記
ボストン・テラン『ひとり旅立つ少年よ』




 カバーには、遥かに延びて行く線路の写真。

 線路を邪魔しない右上に置かれたタイトル『ひとり旅立つ少年よ』。

 これだけを見たならば、十代に向けた金言集や詩集のようにも思える。

 しかし、帯の文言を先に読んでしまったので、そうではないとわかっている。

 〈父の罪を贖うため、地平線の彼方をめざす 危うく、でも強いその姿を見よ。〉

 泣かせようとしているのがわかる。

 きっと感動的な話なのだ。

 ところが、主人公の少年は、たびたび自分の行いをセンチメンタルに反省する。

 そのたびに興が削がれ、冷静になってしまう。


 奴隷制度が残っている時代のアメリカが舞台。

 馬車が走り、銃を撃ち、人が死んでいく、西部劇のようなエンターテイメント小説の体裁。

 そこに少年の成長を織り込んでいる。

 すべては少年のため。

 そのためなのか、少年と関わる人たちが小道具程度の扱いなのが残念だ。魅力的な人たちなのに。

 白人の少年が、黒人と一緒に競りにかけられるなど、意外な展開は楽しめる。

 これも、少年を鍛える仕掛けのひとつに感じられてしまうのだが。


 カバーデザインは石崎健太郎氏。(2019)


コメント

ヴェネツィアの出版人

2019-09-21 11:20:00 | 日記
ハビエル・アスペイティア『ヴェネツィアの出版人』
 


 15世紀のヴェネツィアで、本作りに取り憑かれた男の物語。

 帯に「ビブリオフィリア必読の長編小説!」と書いてあるにもかかわらず、ノンフィクションだろう、本好き(ビブリオフィリア)が知っておくべき歴史が書かれているのだろうと思っていた。

 簡潔で主張しない、表紙の静かなたたずまいが、真面目で堅い内容を想像させたのだ。

 ところが、冒頭の数行を読んだだけで気持ちをがっちり掴まれてしまった。

 さらに1ページと進まないうちに、鮮やかな視点の移動に参ってしまい、それからあとは一気読み。

 実際には、何日もかけてじっくり読んだのだが、一気に物語の中を走り抜けような爽快感があった。

 そして、もう一度、最初の章を読んでみる。

 余韻に浸る。


 史実に基づいているのだろうが、著者の想像力は凄まじい。

 人物一人ひとりが、いまを生きているように魅力的に描かれている。

 ビブリオフィリアしか興味を持てないのか?

 とんでもない。

 きっと誰が読んでも楽しめる。


 装丁は水崎真奈美氏。(2019)
コメント