ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

東の果て、夜へ

2018-12-14 19:59:36 | 日記
ビル・ビバリー『東の果て、夜へ』


 帯を外してカバーを眺める。

 赤い文字で惹句がびっしり詰まった帯は目に痛く、外すと一気に静寂が訪れた。

 誰もいないガソリンスタンドの写真。

 手前の道路が白く見えるのは靄か、雪か。奥の山の斜面も白いので、雪だ。

 地元のスタンドというより、どこか見知らぬ土地に来た気分。

 左右いっぱいに広がった「夜へ」「果て、」「東の」の文字が、まだ旅の途中という思いにさせる。


 少年たちの奇妙な旅。

 これから人を殺しに行くという。

 不安定な人間関係と、心もとない情報。案の定、トラブルだ。

 人生に疲れ果てた大人のような1人の少年は、ときおり子どもっぽさを露呈する。

 この小説に希望が見える気がするのは、その一瞬だ。


 何度カバーを見ても、そのたび「夜へ果て東の」と読んでしまうので、最後までタイトルを正確に覚えられずにいたが、この本のことは忘れずにいよう。

 ほぼ完璧な小説なのだから。


 デザインは鈴木久美氏。(2018)
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冬の日誌

2018-12-12 21:41:52 | 日記
ポール・オースター『冬の日誌』『内面からの報告書』








 2冊とも、同じ位置に英語のタイトル、著者名などが金文字で押されている。

 手帳、あるいは高級な日記帳のように。

 「日誌」と「報告書」。帯には「回想録」とある。

 著者の64年の人生を振り返ったものだが、いわゆる自伝ではなく、おおいに楽しめる読み物だ。



 ポール・オースターが64歳とは信じられなかった。

 この年齢は執筆当時のもので、いまは70歳を越えている。

 ぼくの中では、一番最初に読んだときの印象のまま、若いポール・オースターしかいなかったのだ。



 語られる出来事は、時間の流れに関係なく、まるで思いつくまま、筆の進むままに並べられている。

 自然な水の流れのように、淀みなく軽やかに文章に乗せられて読み進む。

 幼少期のことを、驚異的な記憶力でつづる。

 たとえそれが虚構だったとしても、十分に面白く、ぼくは満足だ。

 子どもの頃に見た映画のストーリーを語るところでは、一緒にその映画を見ているような気分になる。



 2冊のデザインの違い、帯の色。白と黒。

 外して並べると、どこもつながっていないのに一体化する。


 装丁は新潮社装幀室。(2018)



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天国の南

2018-12-10 17:16:35 | 日記
『天国の南』(ジム・トンプスン)





 表紙のモノクロ写真は、古い映画の一場面のようだ。

 銀色の英文字は、角度によっては光って見えにくくなるので、一瞬、劣化した、本当に古い本だと感じてしまう。

 でも、ジム・トンプスンの新刊。

 古書店でなく、新刊書店で見つけたのに、いまこの作家の本が新しく出版されたのが信じがたく、古本を手に取るような気分だった。

 読み進めていくうちに、これは個性的な犯罪者の物語ではないのだとわかってくる。

 想像していた世界と違う。

 ぶっきらぼうな中に、ときおり、真っすぐな気持ちが見えてくる。

 まるで21歳そのままの文章。

 ジム・トンプスンは、こんな物語も書いていたのか。

 軽い造本もいい。

 膝を立てて床に座り、片手で本を開く、そんな格好がきっと似合う。

 写真はドロシア・ラング、装丁は黒洲零氏。(2018)
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愚か者

2018-12-08 18:09:11 | 日記
車谷長吉『愚か者』





 『夫・車谷長吉』(高橋順子著)を買ったけれど、車谷長吉を読んだことがなかった。

 でも、一冊だけ本を持っている。その『愚か者 畸篇小説集』を本棚から出してみた。

 黒い函に入った本。

 その表紙を見て、なぜこの本を買ったのか思い出した。


 函の表1側に、タイトルを印刷した紙が貼ってある。

 そこにはキャッチコピー、さらに価格とバーコードも入っている。

 こんな変わった表紙をほかに知らない。

 下のバーコード部分の背景は白だが、上3分の2は黒。

 その中でタイトルは薄い黒で、全体の中でもっとも目立たない。

 むしろ「お前も勉強しないで、あそんでいると、くるまたにさんみたいになってしまうよ。」という白抜きのコピーの方が目に飛び込んでくる。

 本を抜き出していくと、水彩の自画像が出てくる。

 青々した頭、真っ赤な頬、焦点の定まらない瞳。

 それが天地いっぱいに、本の背側ぎりぎりに入っている。

 全部出してみると、人物画は端に寄っていて、しかもタイトルなどの文字はなく、ほとんどは白い紙のまま。

 黒い函とのコントラストに、もうこの本に満足してしまう。


 絵は自画像かと思っていたが、味のある題字ともに村上豊氏の作。

 装丁は鈴木成一デザイン室。


 読んでみると、この本一冊では、とても車谷長吉を読んだとはいえないと感じる。

 深い穴に落ちてしまうか、ここで踏みとどまるか。(2017)


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代書人バートルビー

2018-12-06 18:54:00 | 日記
メルヴィル『代書人バートルビー』





 国書刊行会のこの本は、函入りで、手に収まる幅の、縦に長い変わった判型。

 表紙の装飾は、本だというのを忘れてしまう不思議な空気を生み出している。

 多分、不思議さは、どれがこの本のタイトルなのか、すぐにはわからないことにも起因している。

 一番大きな太い明朝体は「メルヴィル」で、次に「バベルの図書館」、さらに「代書人バートルビー」と「J・L・ボルヘス」が続く。

 で、この本はメルヴィルが書いた『代書人バートルビー』。



 こんなこと言わずにすめばありがたい

 それならば言わずにいてくれればありがたいのですが

 でも言わなくてならない

 残念ながら聞きたくありません、でもわがままは言いません



 そんな、話。(2015)


函から出す




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