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ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

静寂の荒野

2025-05-05 20:31:06 | 読書
 ダイアン・クック『静寂の荒野』


 四六判サイズなのに、通常の本より縦に長く見える。

 それはカバー写真のせいだ。

 廃棄されたトラックが隙間なく整然と並んでいる姿を上空から写したもので、細長い車体が本の縦方向に延々と続くように見えるのだ。

 おそらく何万台とある廃車は、このまま永遠に放置されるように思えてしまう。

 ふと、インターネット上に残された更新されない多くのサイトと重なった。



 近未来の都市は環境汚染が進み、子どもたちの多くは身体を壊していた。緩和ケアを勧められるほど病状の悪化した5歳の娘を心配する両親は、新鮮な空気を求めて都市の外にある最後の原生地域で生活する実験に加わる。それはたった20人の過酷なサバイバルだった。

 彼らは一箇所に留まることが許されず、痕跡を残さず常に移動をしなくてならない。集団にありがちなトラブルも重なり疲弊していく。


 SFの設定で500ページを超える長い小説だが、語られるのは主に人間関係で、母と病気から快復した娘の愛と憎しみの応酬が苛烈だ。

 都市はどうなっているのかとても気になるのだが、なかなかはっきり伝えられない。彼らの行く末もはっきりしない。



 gooブログが終了すると知って最初に思ったのは、これで区切りをつけられるということだった。

 10年以上前に書いたものは、今の感覚と少し違うところがある。それをこのまま放置していていいのか、それとも削除するかを考えていたところだった。

 別の場所で同じことを続けていくのは面白いのか。

 ブログの行く末を決めかねている。


 
『静寂の荒野』
ダイアン・クック:著 上野元美:訳 宮口瑚:装丁 早川書房(2025)
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夜の人々

2025-04-13 12:11:55 | 読書
 エドワード・アンダースン『夜の人々』



 カバーのノスタルジックなイラストは、これから読む物語を想像させる。

 コンバーチブルのハンドルを握るのは、クローシェ帽をかぶった女性。

 咥えたばこで、助手席の男の顔を見ている。

 「あんたどうする? 私についてくる?」と問いかけているようだ。

 このドライブが、行き先の見えない逃避行のように感じるのは、帯にある「犯罪小説」という文字のためだけではないだろう。

 このイラストには、明日への希望が見えない。


 刑務所を脱獄した男たちは、手っ取り早く金をつかむため銀行強盗を繰り返す。

 そんな男の1人ボウイと、囚人仲間の姪キーチーはお互いに惹かれる。

 彼らの浅はかな思考は、無理矢理かもしれないが、最近の闇バイトを連想させる。簡単に稼げる仕事、それが犯罪だとしても加担してしまう。

 2人の行く末がハッピーエンドになるわけがない。

 
 原題が『Thieves like Us』だと読後気づき、1930年代の貧しさを思う。

 『俺たちのような泥棒』とは、搾取される労働者たちを指しているのだろう。

 富む者と貧しい者との差は、小説が書かれたおよそ100年も前から一向に埋まらず開くばかりなのだ。

 希望の見えないドライブをしているのは、現代のぼくも同じだったのだ。


 装画は岡田成生氏、装丁は新潮社装幀室。(2024)
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恐るべき緑

2025-03-21 22:34:18 | 読書
 ベンハミン・ラバトゥッツ『恐るべき緑』



 これは小説なのか?

 最初に読んだときは、ノンフィクションにしか思えなかった。

 しかし、軽快にジャンプを繰り返してあちこちに飛ぶ話についていくうち、いつしか頭の中には史実の断片が散りばめられていて、こういったスタイルの小説なのだと気づいた。

 そのときには、最初の短編「プルシアン・ブルー」を読み終えようとしていた。

 少し時間を空けて、もう一度「プルシアン・ブルー」を読んでみた。

 どこで話はジャンプしているのか。

 注意して読んでみても、そのスムーズなスライドは、移る瞬間を見逃してしまうほど見事になされていて、あまりの上手さに唸るばかり。

 ストーリーと言えるようなものは、あるけれどないようなもので、ここに書き連ねると科学の歴史を勉強しているノートのようになってしまうだろう。

 では、真面目で堅物なつまらない小説なのかというと、そんなことはない。

 退屈はしないし、有意義な時間になるのは間違いない。

 こんな言い方では、この小説の魅力が伝わらない。

 「恐るべき」小説なのだ。

 これで伝わるだろうか。


 装画はAdrián Gouet氏、装丁は緒方修一氏。(2024)

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おきざりにした悲しみは

2025-03-19 11:45:51 | 読書
 原田宗典『おきざりにした悲しみは』




 ファンタジー。

 65歳の男が見るファンタジーだ。

 甘く切なく、初恋の物語を読んでいるような気分になるのはどうしてだろう。

 初老と男と、母親に置き去りにされた幼い姉弟との、束の間の交流。


 タイトルの「おきざりにした悲しみは」は、中原中也の「汚れちまつた悲しみに」
を言い換えたものだろうと思っていたが、吉田拓郎の歌だった。

 1975年の曲で、1959年生まれの著者は当時16歳。この曲に鮮烈な思い出が詰まっているのだろうと想像する。

 70年代のフォークソングが、小説の一部となって頻出する。元の歌を知らなくても、その歌詞の強さに震える。


 65歳はまだまだ若い。

 体調が悪くても、どんな暮らしをしていようとも、希望があれば楽しく生きられる。

 同世代に向けての応援歌だが、下の世代が読んでも明るい気持ちになれる。

 YouTubeで吉田拓郎を聴きながら、ギターを練習しようと思う。


 装画は長岡毅氏、装丁は原研哉氏。(2025)
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愚か者同盟

2025-03-09 11:10:41 | 読書
 ジョン・ケネディ・トゥール『愚か者同盟』


 表紙に描かれた男のイラストは、一見コミカルだが、よく見ると何を考えているのかわからない薄気味悪い雰囲気がある。

 帯の「爆笑 労働ブラック・コメディ!!!」の文言で、普通ではない笑いなのだろうと想像する。

 
 1行目から登場するイグネイシャスの描写は、表紙の男そのもの。ただその書き方は、若干悪意を感じられなくもない。

 大きな頭に無理やりかぶったハンティング帽、耳から生えている剛毛は耳当てに押し潰され、口髭にポテトチップのかけらが詰まっている。

 彼は百貨店の前で母親を待っていて、肥満体を支える足が腫れてきている。これは母親に言って聞かせなければならないと叱責の言葉を考える。

 そこへ警官がやってきて彼に職務質問をする。

 イグネイシャスははなから喧嘩腰の対応で、2人の言い合いに、徐々に人だかりができてくる。

 ついに警官は警察署への同行を求め、側で見ていた老人がイグネイシャスを弁護する。そこへ母親がやってきて、何か問題を起こしたのかと問うと、イグネイシャスは面倒を起こしたのはこの人だと、老人を指す。さっき庇ってくれたのに。


 変なのはイグネイシャスだけではないが、彼の変人ぶりが際立っているので、この小説世界そのものが少し歪んでいることを忘れる。

 読んでいるうちに気づく。

 イグネイシャスは、いまなら発達障害と思われるのではないかと。40年以上前に書かれたもので、障害に関する知識はいまとは異なる。

 変わった人を小馬鹿にし面白がるのは、いまでも変わらないが、そこに障害者という認識が入ると笑ってはいけないと自重するようになる。

 でも、悪意を持って愚弄するのでなければ、笑いは許されるのではとも思う。笑われる当事者がどう感じるかにもよるが。


 イグネイシャスは、彼の理念に従って行動しているだけで、ある意味真っ直ぐだ。常軌を逸した部分もあって、それが周囲の人たちと軋轢を生む。

 そこを面白がらないと、この小説は成り立たない。

 厄介な感覚になってしまったと思う。


 装画は塩井浩平氏、装丁は山田英春氏。(2024)



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