ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

魔法にかかった男

2019-06-29 19:38:52 | 日記
ディーノ・ブッツァーティ『魔法にかかった男』




 表紙いっぱいに折り返し階段の写真。

 階段の中央から階下を見下ろしているものだが、じっと見ていると、果てしなく、異界に落ちていくようだ。

 一般的な新書より若干大きいサイズ。

 天地が短めの黒い帯が巻かれている。

 その上辺に「Buzzati」と、白抜きの文字の下半分だけが大きく入っている。

 帯を取ると、カバーの同じ場所にまったく同じ文字が入っている。

 カバーと帯が一体になっているのだが、わずかに左右のズレがあって、文字は綺麗に重ならない。

 これは仕方がないことだ。

 パソコンのデータ上のようにはいかない。

 印刷して折った紙がぴったりうまく重なるのは難しい。

 でもそのズレがあるために、文字に奥行きが生まれている。

 文字の先には、吸い込まれそうな階段がある。

 
 イタリア人作家の短編集。

 不気味で、ちょっと怖い感じの話。

 恐る恐る歩いていると、突然落とし戸が大きな音を立てて閉まるような終わり方をする。

 文字のない、ページの白さに戸惑う。

 引き返して、もう一度読んでみる。

 一体何が起きたのだろうと。
 

 デザインは塙浩孝氏。(2019)




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ありきたりの狂気の物語

2019-06-24 17:55:01 | 日記
チャールズ・ブコウスキー『ありきたりの狂気の物語』



 ちくま文庫のブコウスキーは3冊。

 いずれもカバーにサヌキナオヤ氏のイラストが使われている。

 ブコウスキーの文章から感じる色は暗めの茶系。

 だけど、こうして鮮やかな色を見せられると、これも悪くない、本当はこんな世界なのだろうと気づく。

 この『ありきたりの狂気の物語』には、手書きの帯がついていた。

 これもまた鮮やかな色合いで、賑やか。テンションがあがる。
 

 酒を飲んで女を追いかけて、吐いて競馬をしてまた酒を飲む。

 これは小説なのか実話なのか、とにかくしょうもない話が延々と続く。

 短い話ばかりだが、立て続けに読むと疲れる。

 でも、雑誌の連載のように次は来週、といった間をあけたくはない。

 ヘトヘトになりながらブコウスキーにつき合う。

 なんだか自分の人生が、ちょっとマシに思えてくるのだ。

 
 デザインは加藤賢策氏。(2019)



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間道

2019-06-17 17:35:32 | 日記
坂入尚文『間道』





 この本の中に、写真は1点も入っていない。

 にもかかわらず、古いモノクロ写真を目にしているような感じがしていた。

 あるいは、音のないフィルム映像。

 荒い画質の中、男たちが酒を酌み交わしている。ときおり破顔するが、どんな話をしているのかわからない。


 1979年、著者は誘われて見世物小屋の旅に出る。

 全国の祭りにあわせて移動し、露店が並ぶ中、蝋人形館を設置する。

 何年も旅を続けるうちに、ほかの見世物小屋の人たちとも親しくなり、高市(たかまち・祭り)のしきたりにも慣れてくる。
 

 見世物という言葉には、いかがわしさがついてくる。

 見てはいけないものを、こっそり見るというやましさもある。

 その裏側を、著者は丁寧に書き綴る。

 ときおり「残雪があったかもしれない」という不確かな記憶が混じり、あやふやで怪しげな膜に覆われる。

 後半、飴細工師としてテキヤになった著者の話も興味深い。

 一般の世界とテキヤの世界の狭間で、両方を見ているような気分になる。


 カバーに使われている、フランス語混じりのチラシと、タイトルなどの配置のアンバランスさが、普通ではない雰囲気を醸し出している。


 デザインは赤崎正一氏。(2019)




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パルプ

2019-06-10 17:54:27 | 日記
チャールズ・ブコウスキー『パルプ』




 このイラストはいい。

 ちくま文庫のチャールズ・ブコウスキー『パルプ』の表紙。

 こんな雰囲気の小説だったと思う。


 以前読んだのは学研の本で、図書館で借りたものだった。

 だから今は手元になく、どんな表紙だったか覚えていない。

 気になったので調べてみると、95年版の表紙を古書店のサイトで見つけた。

 こんな感じだったのか。

 生きているように見える太いタイトル「パルプ」と、小さく入った英語。

 そのバランスが格好いい。

 でも、もう少しコミカルな味でもいいかもしれない。

 この表紙で、最初の数行を読むと、スマートなハードボイルド小説を想像する。


 久しぶりに読んでみると、ただお馬鹿な小説ではないと思えてきた。

 55歳の太った探偵は、それなりに一生懸命に生きているのに、周りの人間からカモにされ、いじめられているように見えてくるのだ。

 以前は、ただ笑って読んでいたと思うけれど、どうしたのだろう。年をとったのか。


 ちくま文庫のカバーデザインは加藤賢策氏、イラストはサヌキナオヤ氏。(2016)

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ボートの三人男

2019-06-03 22:47:10 | 日記
 ジェローム・K・ジェローム『ボートの三人男』



 1889年に出版されたイギリスの小説。

 なんて古い小説だと思ったけれど、夏目漱石がほぼ同時代。

 ぼくが持っているのは、筑摩書房の世界ユーモア文庫というシリーズ、その新装版。といっても1977年刊行の古本。

 B6サイズの二段組。ビニールのカバーがかかっている。


 シリーズ名の通り、ユーモア小説。

 130年前の小説のためか、丸谷才一氏の翻訳のためか、格調高い雰囲気。大きな口を開けて笑ってはいけない、手で口元を隠して笑う、そんな上品さ。


 過労のため、休息が必要だと信じている三人の男たち。

 テムズ河を、キャンプをしながら、のんびりボートで遡上しようと旅に出る。犬一匹を連れて。

 まるで引越しのような荷物の多さ。

 現代のオートキャンプ並みの優雅な食事。

 彼らは、自分たちの行動がおかしいとは、微塵も感じていないらしい。

 印象的なのは、語り手が訪れた先で、かつてその地を治めた王に思いを馳せ、歴史を感じ取るところ。

 少し風変わりなガイドブックを読んでいるような気分にもなる。

 この小説、クセになりそう。

 だからいまだに、中公文庫、光文社古典新訳文庫などで新刊が手に入るのだろう。

 装画は小島武氏。(2019)


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