Risa’s 音楽雑記

ピアニスト 山形リサのブログです。
音楽の話を中心に、日常の出来事などを気ままに綴っています。

セケイラ・コスタ先生 裏話パート2

2006-12-19 06:06:15 | Weblog
コスタ先生流『国際コンクールの内情』

「多くの人がピアノコンクールに参加します。コンクールは経験として考えるなら、確かによいのですが・・・・。
いろいろ難しいですね・・・。
受賞しますと、世界的に有名になれますから、多くの音楽家がチャンスを求めてチャレンジします。
でも。
一位をとった者が一番すばらしいピアニストかというと、そんなことはないんですよねぇ・・・。

私はチャイコフスキーコンクールの第1回目の審査員もつとめていますし、数々の国際コンクールの審査員になっています。

コンクールが始まる前は、審査員どうし、みんな和気あいあいと非常に楽しい雰囲気なんですよ。

ところがねぇ。。。。

コンクールが始まるにつけ、どんどんみなさん険悪な雰囲気になっていきましてね。

「私の弟子だから・・」
「私の先生の弟子だから・・・」
「私の友人の紹介がだから・・・」

などなど、まるでゴッドファーザーの映画さながらのマフィアの世界になるんですよ。
それで、たいがい最後はみんな喧嘩になります。

コンクールにはスポンサーがいますから、それらとの関係もありますし、なんやらかんやら縛られて、コネクションがないとなかなかうまく進まないこともあるんですよ。

私、本当にうんざりしました。

ですからね、もう最近になりますと、私になかなか意見してくる人もいなくなりましたからね、すきかってやるようにしてるんですよ。
というか、好き勝手できるようになりました(笑)
(※先生は齢80過ぎでいらっしゃいます)

だから、今度の私のヴィアンナ・ダ・モッタ国際ピアノコンクールでは、演奏家以外は審査員に入れないことにしたのです。
どこそこの大学で教えているとかそういうのがあると、またもめるだけですからね!
私は純粋に音楽を聴きたいのです。」


先生のお話は洒落たトークですから、多少、文面が誇張されていることがあるかもしれません。
コンクールの問題点を指摘しつつ、ご自身のコンクールを上手に宣伝されていらっしゃった・・・ということで、ご理解お願いいたします。

でも、実際、この手のお話はよく聞きます。

とある国際コンクールでも、日本人のすばらしい男性ピアニストが1次予選で落とされてしまったそうです。
すぐに他の有名な国際コンクールで優勝されたから「さすが!!」ですけど、
落とされてしまった理由が、審査員を務めている日本人のピアニストのレッスンを、コンクール前に受けに行かなかったから・・・だそうです。
留学前にその先生のレッスンを受けていらしたそうなのですが(ちなみに1レッスン10万円です)、留学先からコンクールを受けに行くこともあり、先生からのお誘いをお断りしたところ、先生の逆鱗に触れてしまったそうで。。。
その先生はすごい剣幕で審査員の先生方に袖の下をわたして「落とす」ように手配してしまったそうです。
スポンサーである日本の企業の関係で、力関係が強かったようです。

これは、当時、審査員をしてらっしゃったモスクワ音楽院の先生からお聞きしたお話です。
真偽のほどは・・・・。


でも、フィギュアスケートでも「芸術点」というものが問題になり、新審査基準に変わりましたよね。
それはスポーツだからできることですけど。

音楽や美術といった「芸術」は個人の価値観の問題ですから、やはり好み以外のなにものでもないように思います。

有名な国際音楽コンクールに参加されるピアニストは、技術も、音楽性も、個性もすでに並々ならぬものをお持ちかと思います。
順位に関係なく、自分の好みの演奏家をみつけようとするのも、コンクールのひとつの楽しみ方かもしれませんね。

セケイラ・コスタ先生 裏話

2006-12-18 19:30:03 | Weblog
先日のセケイラ・コスタピアノマスタークラスの記事が音楽雑誌ショパンに掲載されたそうです。

早速記事を読んでみましたが・・・・。

無難にまとめられて読みやすい内容になっていました。
ですが!
お話の内容はその通りですなのですが、ちょっときれい過ぎるかもしれませんね。
内緒ですけど(笑)

実はセミナー時のコスタ先生は、かなりのコスタ節を発揮されていて、それがとても小気味よく、もっともっと面白かったのです。

なので、ここでこっそり裏話をご紹介してしまいます。


コスタ先生流『売れるピアニストになるためにはどうしたらよいか』

「まず一番最初にIT事業系のお金持ちとお知り合いになることをお勧めします。
そしてスポンサーになってもらい、たくさんの宣伝と演奏会を用意してもらう。
これが確実で最短な方法でしょう。
真の実力があるピアニストと、売れるピアニストというのはかならずしも一致しません。
人生は短いですから、早く売れたいと思うのなら、社交性を身につけ、人脈を広げること、そのための初期投資を惜しまないことですね。

まぁ、私はそんな時間があったらピアノに向かって練習したいと思いますが、私がピアノを学んできた時代と現代ではずいぶん差がでてきましたね。
私の時代は、すばらしい芸術家であることが真のピアニストでした。
芸術家に短期育成はありえません。
立派な木を育てるには時間と栄養が必要なように、芸術家にも膨大な時間と栄養が必要なのです。」


どうですか?
明日も引き続き、コスタ先生のピアノコンクールに対するお話をご紹介することにします。
これを読んでからショパンの記事を読んでみてください。
もっといろんな意味で楽しめるかと思いますよ~。





続・ネルセシアン先生

2006-12-16 20:50:45 | Weblog
ネルセシアン先生ネタ第2弾です。

公開レッスンを聴講していたときのお話です。

生徒の方がレッスンの最初に曲を通して演奏しました。
会場から小さい拍手が起こりました。

ネルセシアン先生
「どうしてあなたは拍手に対して何の反応も示さないのですか?今は公開レッスンで聴衆がいるのですから、聴衆から拍手をいただいた時には演奏家として何らかの返礼をすべきですよ。

我々クラシックの演奏家というのは特別です。
世の中のあちこちにはポピュラー音楽やロック音楽があふれていますが、彼らのコンサートと我々のコンサートではまったく違います。
彼らのコンサートでは、聴衆も一緒に歌ったり、踊ったり、お祭りのようですし、ときには演奏者が聴衆に話をします。
それは聴衆と意思疎通するという意味ではとても簡単な方法ですし、非常に効果的です。

ですが、我々クラシック演奏家は聴衆に話しかけたりすることはできませんし、そんなことは意味がありません。
私たちは言葉ではなく、自身の演奏、音のみで聴衆と意思疎通を図らねばなりません。

なぜなら、クラシックの演奏会に来る聴衆も特別だからです。
彼らは私たちの演奏を聴きながら、演奏家や作曲家の心、意図を感じたり、音楽そのもの、もしくは自分の心を感じるために精神を集中させています。
瞑想であったり、回想であったり、それぞれに違うでしょう。
普段とは違う非日常的なこと・・・・。
きれいな服を着て、いつもにはない時間を過ごしに、「特別なひととき」を大切に来ているのです。

逆に言えば、私たちの演奏はそうした聴衆がいて初めて成り立つのです。
「聴こう」という意思を持って静寂を保ってくれる場所でこそ、私たちの演奏は生きてきます。
ですから私たちは正装をして、演奏で聴衆に応えなければいけません。
他に与えられている自由といえば、お辞儀をすることくらいでしょうか。」

素敵なお話ではありませんか?
当たり前のことではあるのですが、こんなにわかりやすくお話してくれる方はなかなかいないと思います。
そして、私自身演奏家ではありますが、その「特別なひととき」の虜にされている一人であることは間違いないと確信します。



パーヴェル・ネルセシアン先生

2006-12-15 09:38:04 | Weblog
パーヴェル・ネルセシアン先生は国立モスクワ音楽院の教授をされていらっしゃる方ですが、一言でいうなら「超かっこいい!!」先生です。
ハリウッドのアントニオ・バンデラスのような外見で、初めてお会いしたとき、思わず目がハートになってしまいました。
でも、実際にはお爺さんの年齢だそうで、とても信じられません!
まるで女優さんのようです。
通訳の一柳先生のお話によると、ネルセシアン先生は非常に「美」というものにこだわってらっしゃっていて、自分のスタイルを保つ努力をかかさないのだそうです。
芸術家らしい一面ですね。
ネルセシアン先生は社交的で熱心、ユーモアたっぷりな素敵なレッスンをされます。

私がとても影響を受けたお話を紹介します。

ネルセシアン先生「ヴィルトゥオーソと普通のピアニストの違いがわかりますか?ヴィルトゥオーソと呼ばれる偉大なピアニストはトリルなどの装飾音のすべてを完全にコントロールできるのです。無意味な音の連続ではなく、コントロールされた音色で音に一つ一つ意味を持たせているのです。」

私はこのお話にとても感銘を受けました。
時に「その日まかせ」な弾き方で練習してしまうトリルですが、そんな事では演奏家として恥ずかしいですよね。
私は決してヴィルトゥオーソタイプではありません。
だからこそ、一つも無駄な音をだしたくない。
大事に大事に音を紡いでいきたいと思います。

明日も引き続きネルセシアン先生のお話をご紹介します。

セケイラ・コスタ先生

2006-12-14 19:04:09 | Weblog
昨日に引き続き、スケールつながり・・・ということで、セケイラ・コスタ先生のお話をご紹介します。

セケイラ・コスタ先生は、ヴィアンナ・ダ・モッタ国際音楽コンクールを創設された方で、ショパン、リーズ、モントリオール等、有名な国際音楽コンクールにおいても審査員としてご活躍されています。
CD録音も多岐にわたり、80歳を超えたいまでも現役演奏家としてステージにお立ちになっています。
すごいですよね。
今年の夏、KAWAI表参道で行われたマスタークラスでご指導いただきましたが、その時の模範演奏会ではバッハのシャコンヌ、ベートーヴェンの熱情ソナタなどをお弾きになっていました。

そのコスタ先生のお話です。

「私はリストとハンス・ビューローの最後の弟子にあたるヴィアンナ・ダ・モッタ先生のもとでピアノを学びました。
その時にヴィアンナ・ダ・モッタ先生がおっしゃっていたのですが、リストはスケールをPPPPPからfffffもまで自在に弾きわけることができたそうです。
これはものすごいテクニックでなかなかできるものではありません。

現在、私はアメリカの大学でピアノを教えていますが、ある時、私の部屋にコカ・コーラを片手に持ってガムを噛んだいかにも・・・といった格好の男子学生が入ってきました。
そして私にピアノを教えて欲しいと言うのです。
私はあっけにとられましたが、何を弾くのかたずねました。
そうすると、彼はベートーヴェンのソナタ29番(ハンマークラヴィーア)だというのです。
私は天才か馬鹿かのどちらかだと思いました。
それで、私は彼にまず変ロ長調のスケール(音階)を弾くように言ったのです。
彼はスケールを弾くことができず、すぐに馬鹿だということがわかったので、部屋を出て行くように言ったのです。

最近の学生たちは、大曲ばかりを弾きたがる傾向がありますが、基礎をおろそかにしてはいけません。スケールを練習している時間がないという人がいますが、リストまではいかなくても、そうした練習は必要です。ぜひみなさんもその事を忘れないでください。」


音を外さない事、テンポを上げる事だけでも十分大変なのに、さらに音量まで!!
スケール&ハノン練習のグレードがどんどん高くなっていきます・・・・。
また明日もメトロノーム片手にがんばります。

小川京子先生

2006-12-13 10:18:33 | Weblog
今回のモーツアルトセミナーでは、小川先生によるレッスンが春から続けて行われました。お名前はもちろん知っていましたが、実際にお会いしてレッスンを受けるのは初めてです。
先生はさすがの貫禄。
指一本動かしただけで、比べようのないくらい美しい音が出ます。

「・・・・私はそうは弾かないけれど、あなたがそうやって弾きたいなら、こうしたほうがいいんじゃない?」

わが師、本荘玲子先生と同じ台詞が飛び出します。
相手をいろいろな意味で尊重し、指摘すべきところは指摘する。
私はこうしたタイプの先生が好きで、一瞬にして虜になってしまいました。

余談ですが、昔のピアノの先生は怖い方が多かったです。
灰皿を生徒に投げつける先生、ミスがあるたびに指揮棒で腕をたたく先生、公開レッスン中でも楽譜を床に投げつけて怒る先生・・・・。
昨今の世の中では考えられないでしょうねぇ。

本題に戻ります。

小川先生のお話です。

「ピアニストだからといって、仕事をしていれば毎日何時間も練習できる環境にいれるとは限りません。移動で2日、3日ピアノを触れないままに本番に向かうこともあります。土台がしっかりしていれば、そんな時にも絶対に崩れることはありません。モーツアルトのような古典の曲は、スケールとアルペジオの組み合わせでできています。毎日どんなことがあってもスケール、カデンツ、アルペジオ、属七、減七の和音のアルペジオを30分は弾きなさい。テクニックの安定と、精神的な自信になります。」

私はそれ以来、素直にどんなことがあってもその指練習をやり続けていますが、確かに効果がでてきました。

ですが、本荘先生にその話をしたところ、

「あなた、そんなこともしてなかったの?ピアニストなら当然の話だわね。私も1日でもピアノが弾けない日があるときはね、次の日は一日ハノンを弾くの。あれはすばらしいわよ!1冊通して弾くだけで、曲を練習するよりずっと効果があるわ。」

とバッサリ。。。

ちなみに、その先生の台詞を真に受けて、私も時々ハノン全曲に挑戦しますが、なかなか弾けません・・・・。

ヴァイオリニスト・日比浩一氏

2006-12-12 10:07:46 | Weblog
祝祭・国際モーツアルトIn北海道・弦楽アンサンブルのコンサートマスターを務めていらっしゃるのが、日比浩一さんです。
日比さんは名古屋フィルハーモニーのコンサートマスターでもいらっしゃいます。
きどったり、飾ったりすることのない気さくな方で、とてもやさしくて素敵です。


本番後のひとコマ

私「オーケストラのコンサートマスターをされてらっしゃると、年間のほとんどが本番ですよね。やっぱり緊張なんてしなくなるのですか?」

日比氏「い~や~。毎回本番前の緊張は同じですよ。緊張しなくなったら終わりですよね。本番前のあの感覚がいいんじゃないですか?」

私「適度な緊張はそうですよね。でも、私はもうちょっと緊張しなくなりたいです~。思いもしない失敗をしますから。」

日比氏「あっはっは!!僕もいろいろやらかしてますよ。」

私「ほんとですかー??日比さんの失敗というのは・・・???」

日比氏「いやぁ、ほんとに多々あるからねぇ。自分でもびっくりしたのは、お辞儀をして椅子に座ったら、椅子が壊れたことかなぁ。あれは恥ずかしかったよ~!」

私「え?え?・・・・え?」

注釈:室内楽形式の演奏会で、ステージ上に用意されていた椅子に座ったところ、
椅子が折れて、床にしりもちをついたそう。その椅子は足の部分がパイプでできていて、それ以来日比さんはパイプ椅子には絶対に座らないようにしているとか。日比さんは大柄でらっしゃるので、重量オーバーしてしまったそうです。怪我がなかったそうで何より何より。 

私「それはびっくりですねー。その後どうしたんですか?」

日比氏「椅子を取り替えて普通に演奏しましたよ~。」

私「他にも何か失敗ネタってありますか?」

日比氏「ぷっ。今思い出しても恥ずかしいんだけどね、オーケストラで外人の指揮者が棒を振ってるときにね、本番でなんか違うことをやったんだよ。それでね、あれ?って思いながら、今か!!と思って立ち上がったら、自分ひとりだけ演奏中にたっちゃったんだよー。立てっていう合図かと思ったら、ただ曲が盛り上がってきてるってことだったみたい。他のみんなはわかったのに、俺だけわかんなかったんだよね~~。」

日比氏「その後、気まずくってさ~、一人また何事もなかったかのように椅子に座って演奏したんだよ~。」

私「えーー!!日比さんでもそんなことってあるんですかぁ?」

日比氏「あります。あります。本番なんてそんなものですよ。」


ずーっと自分の失敗が一番派手だと思っていましたけど、なんとなくほっとした一件でした。

12月2日

2006-12-11 19:27:37 | Weblog
12月2日に祝祭・国際モーツアルトIn北海道2007でピアノ協奏曲第12番(Kv414)を演奏してきました。
メインゲストは海老澤敏先生、特別ゲストは小川京子先生、R.アンガミューラ博士、O.ビーバ博士、C.アイゼン博士という大変豪華ですばらしい国際セミナーでした。
1年を通じてモーツアルトのいろいろな作品に取り組み、モーツアルトの音楽の理解を深めるということで、私にとって2007年はモーツアルトに浸った一年となりました。そして、あらためてモーツアルトの音楽の純粋な美しさに感動しています。

こんなに真剣にモーツアルトに取り組んだのはいつ以来でしょうか・・・。
小学校時代はモーツアルトが好きだったのですが、大人になるにしたがってだんだん縁遠くなっていったように思います。
そういえば、大学受験の時のピアノソナタにモーツアルトを選択し、いろいろな先生方から「なぜベートヴェンにしなかったの~~!?」と騒がれたのを思い出しました・・・・。

O.ビーバ博士がセミナーの中で

「近頃になって、ようやくモーツアルトのピアノ作品を、フォルテピアノで演奏するピアニスト、演奏会が増えてきました。これは大変すばらしいことです。もしピアニストとしてモーツアルトを弾いていきたいと考えているなら、ぜひ一度フォルテピアノを触ってみてください。よりモーツアルト作品への理解が深まることでしょう。
 モダンピアノでモーツアルトを弾く事は難しいです。実際、モダンピアノで演奏するならリストやラフマーニノフを弾いたほうが効果的です。しかしながら、モーツアルトの音楽の美しさは普遍的なものです。ピアニストとして、モダンピアノでモーツアルトの音楽の美しさを引き出す工夫、努力を怠らないようにしてください。そうしてモーツアルト作品のすばらしさを後世に伝えていってほしいのです。」

と、お話されたことがありました。

「うーん。なるほど。」
深く考えさせられるお言葉です。

せっかくブログを始めたので、こうした諸先生方の格言、裏話などをちょっとずつご紹介していこうと思います。
明日からしばらく連載予定ですので、楽しみにしていてくださいね。

次回の予定は、Vn.日比浩一氏の面白ハプニングです。