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病欠は罪なのか。地方公務員が年休を使い切って傷病で休むと懲戒処分?

2021-05-01 12:56:26 | 労働問題
※山陽新聞さんデジより引用
https://news.yahoo.co.jp/articles/5f7648a07152ad770dabe927c7098029cb6ec5bf
「岡山県倉敷市は30日、過去に注意を受けたにもかかわらず有給休暇を使い切った上で欠勤した市土木部の課長補佐級男性職員(54)を、地方公務員法の職務専念義務違反に当たるなどとして、同日付で戒告の懲戒処分にしたと発表した。 市によると、男性職員は2020年度の年次有給休暇(20日)を使い切った後、私傷病で1月26日と2月3日に欠勤した。2日とも所属長に届け出ているものの、男性は14年度に同様の欠勤で文書厳重注意を受け、20年度にも休暇使用に関する指導を受けており、公務員の自覚に欠けるなどと判断した。」
(※倉敷市の公表のアドレスと、その写しも文末に貼り付たが同内容。)

 このニュースでは有給休暇を使い切った上で傷病で欠勤した職員を懲戒にしているのだが、傷病のために有給休暇制度が存在する訳ではない。
 労働者が有給休暇を使い切るのは、法制度上は当たり前のことだ。本来、有給休暇制度は使い切ることが前提であり、有給休暇を残して使用するのは有給休暇制度本来の在り方ではない。
 地方公務員が労働者であることは、労働基準法の適用があることから明確なことだ。
 その上で、「労働者が有給休暇を使い切り、傷病により欠勤する事」が「公務員の自覚に欠ける行為」という倉敷市の主張は理解ができない。
 公務員の自覚が欠けるというのであれば、「労働者たる公務員が、有給休暇を使い切り、傷病で欠勤すること」が、何らかの法令違反や脱法行為を構成するのであろうか?
 法令違反の根拠を示さず、「公務員の自覚」という具体性のない、基準にならない「自覚」を根拠に、懲戒処分を行う倉敷市は労働基準法上の「使用者としての自覚」が欠如しているのではないかと思う。
 この点、倉敷市は懲戒処分の対象となる職員の違法行為を明確に示すべきであろう。
 職員が、労働基準法に定められた有給休暇の時季を指定し、これを取得し、その上で、異なる日に傷病が原因で止むなく(所定の手続きを取り)欠勤したのであれば、なんら自覚が欠けると言われる理由はない。傷病により休むこと自体は、誰も自覚や責任を問われることではない。
    労働基準法上、有給休暇の「時季」は、「時期」ではない。これは、バカンスのように本来、有給休暇は一時季にまとめて指定、費消されることを予定している由縁である。ちまちまと日本人は有給休暇を指定するがこれが当たり前と考えるのは、前時代的な発想、労働者は温情で使用者に休ませてもらっていると考える所為だろう。この発想が、信用失墜という表現に繋がっていると思うが、労働者が年休を使い切って傷病で休んでも労働者固有の権利の一環にある範囲である。権利を行使して信用失墜は、お門違い、権利性を踏みにじる主張だ。傷病で欠勤する日数が公務員の制度上、許容出来ない時に初めて解雇等の問題が生じるのであって、この際でも、信用失墜を問うのは的外れだろう。
 有給休暇の取得率が日本では問題になるが、EU圏では有給休暇は労働者がバカンスに取る休日であり、休日を自ら残すという発想がなく、取得率という発想自体がない。
 有給休暇を使い切った上で傷病による欠勤が生じるのは、誰にでも傷病になる可能性があるのだから、有給休暇制度の本来的な運用を図れば法制上、もとより当たり前の話である。
 有給休暇を傷病にあてるために、予め一定日数を準備しておかなければならないのであれば、倉敷市は一体何日を予め労働者に要求するのであろうか。労働者が傷病の日数を予め予定して、その残余を傷病以外の目的に有給休暇を指定して取得する。このような発想は、労働基準法上、年次有給休暇の制度に予定されていることではない。
 労働者が有給休暇の取得目的を自己規制する、使用者に対して有休の使用を忖度することに、現実の社会がこのようになっているが、このような運用は労働基準法で定める有給休暇制度からかなり逸脱しているものと考えられる。
 この傷病が仮病だとか言うのであれば、別の話だが傷病であること自体が疑われているような疑義は記事にはない。
 こんなことで処分されるのであれば、労働者は安心して年次有給休暇を取ることはできないだろう。
 繰り返しになるが、傷病のために年20日の有給休暇を残していても、それを使い切ることは傷病によってはありえるだろう。この時、傷病で欠勤した者は処分対象となるということになる。
   年次有給休暇の使用目的、理由は、労働者が年次有給休暇を指定する際に労働基準法の法制上、不要、不問の問題だ。遊びで年次有給休暇を使い切った者は処分対象、傷病のために有給休暇を使い切った者は処分対象外となるのであれば、結果的に同日数を傷病で欠勤した者が生じても、本来不問である有給休暇の使用目的により、処分される者とされない者が生じる事になり、不平等な取り扱いになる。初めから、この処分の運用自体が労働基準法で有給休暇の使用目的を問わない趣旨に抵触すると考えられる。
 この記事の対象者の場合は、今回が2回目ということを強調しているが、始めから年休利用でない病欠を懲罰対象と考えてカウントしていること自体が問題であり、使用者の労働基準法の理解の低さから生じた懲罰思想、錯乱であり、労働者が懲罰される所以は何もない。
 また、二次的な問題だが、倉敷市は「職務専念義務違反」を主張しているが、職務専念義務は基本的に勤務時間について要求されるものであり、所定の手続きを経た傷病による休暇や欠勤について職務専念義務違反を問うこと自体が的外れだろう。
 地方公務員法で、職員が職務専念義務を負うのは勤務時間についてであり、所定の手続きを経た傷病による欠勤は、そもそも職務専念義務を負う勤務時間に当たらないだろう。
地方公務員法
(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)
第二十四条 職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない。
2~4略 
5 職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める。
(職務に専念する義務)
第三十五条 職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
 
 この倉敷市の処分は一体、労働基準法制の安定性から見て有害だと考えるのだが、何か記事に書かれていない事実があるのだろうか。
 この倉敷市の職員が労働組合に加入しているか否かは不明だが、このような場面で労働組合は声をあげる必要があるであろう。
 こういうところで、誰もが使用者側に立ち、強者の長い物に巻かれろ、という風潮にあるから日本の年休取得率は上がらないのだろう。

倉敷市の公式発表
https://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/140133/shobun_r030430.pdf
              懲戒処分について(公表)
 次のとおり懲戒処分を行ったので,公表します。
                  記
処分対象者及び処分内容
 当事者
 所属部局名  格付    年齢 性別 処分内容
建設局土木部 課長補佐級  54 男   戒告
処分年月日  令和3年4月30日
 処分に至った事実の概要 
 戒告処分とした職員は,平成26年度に届出欠勤により文書厳重注意を受けており,令和2年度も管理 監督者から休暇使用に関する指導を受けていたにも関わらず,年度当初付与されていた年次有給休暇(付 与20日,繰越0日)を全て使用した状態で,私傷病により令和3年1月26日及び同年2月3日(合計 1日3時間30分)に出勤が不可能になり,欠勤を届け出たものです。
  当該職員の行為は,公務員としての自覚と遵法精神に欠けるとともに,市民の信頼を損ない,市職員全 体の職の信用を失墜させる行為です。 
 このため,地方公務員法第29条第1項の規定に基づき処分を行ったものです。

 


2 コメント

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Unknown (一公務員)
2021-09-09 13:03:21
公務員には年休以外に傷病時の休暇を想定した有給の私傷病休暇等、手厚い休暇制度があります。そのため、今回の処分になったものだと思われます
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Unknown (reopard2a7)
2021-09-11 04:22:22
使うと懲戒処分される手厚い休暇制度は、使えないのでは?手厚い休暇制度は、使うと論理的に、必然性をもって、懲戒処分に至る。これは、手厚い休暇制度?
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