子 何故、悲しい物語や話を人は好きになるのだろう。そんな話を聞いて何がおもしろいの。何でそれを聞きたがるのだろう。TVでも、子供が幼くして病気でなくなるような話をしていたり。
父 悲しいことが人は好きなんだと思う。滅びの物語は昔から人に好まれている。滅びの中に美しさがあるからだと思う。平家物語の最後は悲しいし、ホメロスのトロイア戦争にしても滅びの物語だし、ギリシアでは悲劇が人気があった。
子 人気があるのは、分かるけど何故ということを思うんだけど。
父 人は、滅びの中に美しさを見出して、その中に生きている意味を見つけるのだと思う。人は、滅びることへの願望があるのだろう。悲劇には、普遍性があって、誰もが共通する悲劇、悲しみを負うことがある。もしくは、それに近いものを抱えているからだろう。生があるのは、滅びがあるからであって、誰もが必ず消滅する。その滅びの中に輝きを見るから、意味や価値を見る。日本史では、戦いの最中に、正妻、家臣を見捨てて、妾を連れて逃げ出し、天寿を全うするような人もいるけど、この滅びの中に、美しさを見たりしない。ある意味、いさぎ良い、徹底した利己主義とは言えるけど。
子 かわいそうに思っている自分があるのが、好きなのかな。自分はいい人だと思うために、悲しい話を聞くんじゃないかな。
父 そういう面もあるかな。人は比較の中に生きてるから。全てが比較と考えてもいい。人と話すのも比較、他人にああ言われた、こう言われたことを考えるのも比較、自分がこう言われたいということと比較をしている。予想外に褒められるとうれしいし、腹が立つのは、自分の考えていることと比較して違うから。比較をして、自分をみているのだと思う。
子 幼く亡くなるような子供の悲しい話を聞いたりしても元気がでるというのは、何故。
父 その短い生の中に輝きを見るから。自分は、何をやっているんだろう。そう思うことができるから元気がでるんだと思うよ。