小泉龍司法相は5日、ウクライナを訪問する
小泉龍司法相は5日、ウクライナを訪問し、首都キーウでマリウスカ司法相と会談する。
法整備や汚職対策支援に向けた覚書を交わす予定だ。法務・司法分野の支援を通じて日本の経済支援や企業進出を受け入れやすい環境整備につなげる。
ロシアの侵略後、日本の法相によるウクライナ訪問は初めて。司法トップで直接連携を取り合い、具体的な支援の策定を進める方針で合意する見通しだ。
小泉氏はウクライナの法曹関係者を日本に招き、人材育成などを巡り協議する協力策を提案する。裁判官や検察官の試験・任命といった法律家の養成を含む司法機関の能力構築をサポートする。
法整備や汚職対策はウクライナにとって復興の前提条件になってくる。
岸田文雄首相が6月にイタリアでゼレンスキー大統領と交わした文書には司法制度や汚職対策の改革にウクライナ側が取り組むことを盛り込んでいる。首相は発電機の供与や財政援助を伝えていた。
欧米ではウクライナへの巨額の支援継続に「汚職によって資金が無駄になっている」との批判もある。欧州連合(EU)加盟を巡ってはEUが厳格な汚職対策を要求していた。
企業進出や投資の支障にもなる。国内法の整備が十分でなければ日本を含む外資系企業は駐在員を置きにくく、本格的な進出に二の足を踏むためだ。
日本の閣僚が相次ぎウクライナ入りしている。7月に盛山正仁文部科学相が訪れ留学生支援を表明した。
1月には上川陽子外相が現地でゼレンスキー大統領と面会した。林芳正官房長官も前外相時代の23年9月に訪問した。首相は同年3月に訪れている。
法務省は1990年代から途上国の法整備を支援する「司法外交」を進めている。東南アジアが中心でそれ以外の地域との接点は薄かった。
法相自らウクライナ入りすることで「引き続きコミットしていく強い決意を伝える」(法務省幹部)狙いがある。
24年7月には太平洋島しょ国と初の法相会合を開き「法の支配」の重要性の共有と司法分野での協力強化で合意した。
南シナ海で軍事拠点を拡大するなど力による現状変更を試みる中国が念頭にあった。
小泉法相はウクライナを訪問後、ポーランドでウクライナ難民の受け入れ施設を視察する。オランダで赤根智子国際刑事裁判所(ICC)所長との面会も予定している。
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慶応義塾大学総合政策学部 教授
ウクライナは旧ソ連の中でも汚職が深刻な国であり、ハイレベルの人間が豪勢な生活をする「悪しき汚職」と一般人が日々を生きるための「必要悪としての汚職」が存在し、特に後者は社会の潤滑油的な存在でもあった。
それは戦争が始まっても改善せず、欧米からの支援獲得の必要からも、汚職をめぐる高官の更迭が続いてきた。
だが、汚職体質を改善できれば欧米からの支援獲得への障害を減らせるばかりか、EU加盟についても加速要因となり、加えて日本を含む国際的なビジネス関係を強化しうる。
よって、このような支援は、ウクライナの政治経済体質や社会基盤を欧米基準に向上させ、長期的に同国の政治経済の発展に寄与する極めて重要なものだ。