日鉄は構造改革を進めてきた(休止を決めた東日本製鉄所鹿島地区の第3高炉)
世界の鉄鋼大手の中で、日本製鉄の稼ぐ力が際立っている。2024年4〜6月期の粗鋼生産1トン当たりの利益を世界の鉄鋼大手で比べると、欧米や韓国大手の2倍を超える。
買収をめざす米USスチールの3倍にのぼる。需給悪化に先駆けた構造改革が奏功している。世界的な市況悪化で他社が苦戦する中でも底堅さをみせている。
「構造改革は需要減少の後追いになりがち。日鉄の改革はプロアクティブ(先見的)だった」。
SMBC日興証券の山口敦シニアアナリストは日鉄をこう評価する。日鉄の粗鋼生産1トン当たりの利益は約150ドルと、世界の高炉大手の中では断トツだ。
日鉄は本業のもうけである事業利益が前年同期より5%減ったが底堅い。20年3月期に過去最大の赤字を計上して以降、収益構造にメスを入れた。
高炉閉鎖で固定費を圧縮し、自動車など大口顧客への販売価格(ひも付き価格)を引き上げた。損益分岐点は24年3月期までの4年間で4割下がり、少ない鋼材出荷で利益が出る体質になった。
中国発の鋼材不況の影響などで欧州アルセロール・ミタルや韓国ポスコホールディングスといった世界大手は軒並み2ケタ台の減益率だ。
ポスコでは「東南アジアの鋼材市況は厳しく、欧州への輸出も難しくなっている」ことも響いているという。粗鋼生産1トン当たり利益はそれぞれ70ドル程度にとどまっている。
米国勢の苦戦は一段と際立つ。日鉄が買収を計画する米大手USスチールの粗鋼生産1トン当たり利益は40ドル台だ。
高金利や景気減速の影響から欧米で自動車や建材など産業向け鋼材出荷が減っている。2024年4〜6月期の北米における鋼板の平均販売価格も3%下落し、粗鋼生産の設備稼働率は63%と前年同期から14ポイント下げた。
USスチールでは脱炭素への対応も含めて環境負荷の少ない電炉に投じる費用も重い。
21年に完全子会社化したビッグリバースチールが手がける最先端電炉の工場新設投資額は33億5000万ドルと22年想定の1割以上膨らんだ。電炉は高炉よりコスト負担が軽く利益率は比較的高い。収益性の向上には電炉投資を優先せざるをえない。
USスチールが閉鎖を示唆した製鉄所などを買収するという米クリーブランド・クリフスは、営業利益が前年同期から99%減った。
資源大手だった同社は20年から製鉄事業を数多く買収しシェアを高めてきたが、足元では膨らんだ負債の圧縮を急ぐ。
「ラストベルト(さびた工業地帯)」を代表する米鉄鋼業は斜陽産業だ。
最新の電炉導入と徹底したコスト改革で稼ぐ力を高めるニューコアがただ一社、収益を伸ばす以外は厳しい状況が続く。1970〜80年代に日本企業の後手に回り、90年代からは中国勢に押され続ける。経済のグローバル化から取り残され、競争力低下を招いている。
こうしたなか日鉄の稼ぐ力が際立つが、株式時価総額ではニューコアやインドのJSWスチールを下回っている。電炉を軸に収益を伸ばすニューコア、人口が増えるインド地盤のJSWスチールで市場の成長期待が高い。
日鉄はこのほど、鉄鋼最大手、中国宝武鋼鉄集団傘下の宝山鋼鉄との合弁事業から撤退すると発表した。米印、東南アジアに経営資源を集中し、3極それぞれで高炉など上工程から一貫生産に取り組む。USスチールの買収で米国需要を取り込み、中国発のアジア市況低迷に左右されにくい基盤を築き、企業価値の一段の向上をめざす。
(本脇賢尚)
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日経記事2024.10.10より引用