9日の東京株式市場で日経平均株価が反発し、前日からの上げ幅は一時500円を超えた。
政府は朝方の臨時閣議で衆院解散を決めたが、市場の関心は総選挙よりも米半導体大手のエヌビディアだ。エヌビディアの株価チャートに上昇トレンド入りをにおわせるサインがともり、日本市場では値がさの半導体関連株が軒並み上昇した。
日経平均の午前終値は前日比241円(0.6%)高の3万9178円だった。
「久々のAIトレードの復活だ」。大和証券の柴田光浩シニアストラテジストは9日の半導体株高をこう評する。検査装置のアドバンテストとレーザーテックは一時前日比4%高、製造装置のディスコは3%高、東京エレクトロンも2%高まで上昇した。
きっかけは前日の米半導体株高だ。主要な半導体銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は1%高だった。けん引役のエヌビディア株は5営業日続伸し、4%高で終えた。
台湾の電機大手の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)が8日、エヌビディアの次世代半導体「ブラックウェル」を搭載した人工知能(AI)向けサーバーの生産増強方針を示したことが買い材料になった。
大和証券の柴田氏は「AIサーバーの作り手が発信したことが大きく、エヌビディアのAI向け画像処理半導体(GPU)の需要拡大期待が一段と強まった」と話す。
8日には「AIの父」と呼ばれるカナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン氏と、米プリンストン大学のジョン・ホップフィールド氏のノーベル物理学賞受賞も発表された。この吉報も、AIの恩恵を受けて急成長を遂げたエヌビディアに株式市場でスポットライトが当たる一因となった。
8月下旬の決算発表後に調整色を強めていたエヌビディア株は、足元で上昇基調に転じている。市場関係者が注目するのはチャート上に出現した「三角もちあい」からの上放れだ。
主な高値と高値を結んだ線を「上値抵抗線(レジスタンスライン)」、安値と安値を結んだ線を「下値支持線(サポートライン)」と呼ぶ。
三角もちあいは、この2つの線に挟まれた範囲が三角形を描き、先に行くほど狭まっている状況を指す。三角もちあいの後は相場が大きく動く経験則から、株式市場には「もちあい放れにつけ」という相場格言がある。
エヌビディア株の場合、6月20日と8月26日の高値を結んだ線と、8月5日と9月6日の安値を結んだ線で三角もちあいが形成されていた。直近の株価は三角形の頂点から上方向に突き抜けた。
SBI証券の鈴木英之投資情報部長は「半導体株にとって象徴的な事象で、上昇方向へ株価のトレンドが変わりつつある」と指摘する。
エヌビディア株の上昇サインは日本の半導体関連株にとって大きな意味を持つ。基調転換を嗅ぎ取るように、アドバンテスト株は9日午前に一時7665円まで上昇し、2月16日につけた上場来高値(7456円)をおよそ8カ月ぶりに更新した。
エヌビディアのGPUのような先端品は製造工程が複雑化していることから「後工程」で使う装置の重要度が増しており、製品の出荷前に異常がないかなどを調べる検査装置を強みとするアドバンテストは恩恵を受けやすい。
一方、主力の自動車株は売りが優勢だ。1日発表の日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)では、景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた業況判断指数で、大企業の「自動車」はプラス7と前回6月調査から5ポイント悪化した。業績の伸び悩み懸念が尾を引き、自動車株はふるわない状況が続く。
日経平均には値がさの半導体株の持ち直しが当面の追い風となるが、「半導体株頼み」の側面もある。
9日午前には東証株価指数(TOPIX)が下落に転じる場面もあった。SBI証券の鈴木氏が「製造業の中でも(強弱に)ばらつきがある」と指摘するように、日本株は不安を抱えた上昇となりそうだ。
(桝田大暉)