国連宇宙部の会合であいさつするホラ・マイニ宇宙部長(中央)と
海部篤ウィーン国際機関代表部大使(左)
【ウィーン=田中孝幸】
宇宙関連の国際法づくりを担う国連宇宙部への各国の任意拠出金で、中国の存在感が高まってきた。かつては米欧諸国が上位を占めたが、中国は2022年までの5年間のうち4年でトップとなった。日本も拠出額の増加で対抗し、関連事業の拡大などへ動き始めた。
宇宙部の任意拠出金は人件費などの通常予算とは別に、独自プロジェクトの運営資金などに充てる。各国は自らが宇宙部とともに主導する事業に拠出金として運営費を出すケースが多い。
22年に各国が宇宙部に支出した任意拠出金は総額で約139万ドル(約2億2000万円)だった。
専門家の派遣など多額の資金を要しない事業が多く、他の国連機関と比べて規模は小さい。ただ具体的な事業とひも付いた各国の支出額は国際法策定への関与度を映す。
宇宙部が発表した18〜22年のデータをみると、中国は21年を除いてトップだった。22年も約34万ドルで、全体の任意拠出金の4分の1を占めた。
中国が重視するのが衛星データを使って災害時の国際協力を担う「災害管理・緊急対応のための宇宙ベース情報プラットフォーム」だ。
宇宙部の関係者によると、任意拠出金の大半をこの運営に充てている。同事業の拠点は北京にあり、中国は宇宙分野の協力で存在感の向上を狙う。
米国との対立を深める中国は近年、宇宙ステーションを他国に開放するなど国際協力を前面に打ち出してきた。
主要7カ国(G7)の宇宙政策担当の高官は「月資源の利用など国際宇宙法は形成途上であるだけに、中国は自国の利益をできるだけルール作りに反映しようと躍起になっている」と語る。
宇宙大国の一角を占める日本も国連宇宙部への任意拠出金を増やす。18〜20年はゼロだったが、21年に約12万ドルを拠出した。22年は約19万ドルを支出し、中国に次ぐ拠出国となった。
日本の拠出金はフィリピンやマレーシアなど中国に近いアジア太平洋諸国の宇宙関連法制づくりの支援に充てている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が宇宙部と共同で国際宇宙ステーションの日本実験棟から新興国の超小型衛星を放出する事業にも使っている。
背景には、法の支配の原則を脅かす中国が宇宙分野で影響力を高めていることへの警戒感がある。
5月にウィーンの国連宇宙部で開いた日本の任意拠出金の関連式典で、海部篤ウィーン国際機関代表部大使は「宇宙における法の支配を促進しなければならない」と強調した。
ホラ・マイニ国連宇宙部長は日本経済新聞に「宇宙部は過去には各国との協力に関する戦略が不足していた」と語った。
メンバー国の関心事項に基づく戦略の策定に着手し、今後は米国などの任意拠出金が増えると見通した。拠出国が一国に偏らないように各国に負担を呼びかけている。