USスチールのブリットCEO(=写真)らが日鉄による買収完了後に受け取る
報酬を巡り、民主議員が批判した
【ニューヨーク=川上梓】
米鉄鋼大手USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)ら幹部が日本製鉄による買収完了後に受け取る報酬を巡り、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員らは2日、同社を批判する書簡を送った。
従業員の雇用や利益を犠牲にして幹部が高額報酬を受け取ることは利益相反になると批判している。
書簡はマサチューセッツ州のウォーレン上院議員とオハイオ州のシェロッド・ブラウン上院議員が2日付でブリット氏宛てに提出した。
議員らは書簡の中で「ブリット氏は日鉄による買収完了後に7200万ドル(約100億円)の高額なインセンティブ(報酬)を受け取る予定である」と指摘した。
その上で「労働者を犠牲にして自らは潤うことになり、米国より自身の利益を優先している。これは反社会的な利益相反だ」と批判し、同社に対して16日を期限に説明を求めている。
USスチールの3月12日付の開示資料によると、同社の取締役執行役員は日鉄による買収が完了した後で解雇された場合、合計で約1億5600万ドルのインセンティブを受け取る。ブリット氏は最も高額で7200万ドルとなる見込み。
議員らは「経営陣が高額な報酬を受け取ることが日鉄による買収を成立させることの後押しにつながっている」と批判した。
USスチールは書簡を受け取ったことを認め、こうした報酬はどのような買収であっても発生すると説明している。その上で「多くの不正確な記述を正し、事実に基づく情報を提供していく」とコメントした。
議員らが批判を強める背景に、民主党が支持基盤とする労働組合の存在がある。日鉄による買収を巡っては全米鉄鋼労働組合(USW)が反対している。
USWは労組に近い上院議員と同調し、日鉄やUSスチールをけん制する狙いがあるとみられる。
USWの申し立てで日鉄がUSスチール買収の適格者かを判断した9月下旬の仲裁では、仲裁委員会がUSWの主張を認めず、日鉄が適格者だと判断した。
USWは仲裁結果が出て以降、USスチール幹部の報酬について批判を繰り返している。
USWのデービッド・マッコール会長は2日、米CNBCの取材で「日鉄は米国で鉄鋼生産能力を長期的に維持していくとは思えない」と話し、これまでの懸念を改めて繰り返した。
USスチールの本社があるペンシルベニア州は米大統領選の激戦州で労働者票が勝敗を左右する。労組は強硬姿勢を依然として崩していない。
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日鉄によるUSスチール買収後の経営トップの巨額報酬に大きな関心が持たれている。
元々買収の背景には経営が直面する問題があり、その責任を取るべきCEOを含む経営トップが買収を成立させることによって巨額報酬を受けるというのは無責任と見られても仕方がない。
ここにアメリカのビジネスの落とし穴がある。接戦の大統領選挙で極度に政治化してしまっているが、日鉄の買収で本当に立ち直ることが出来るのか、労働者が職を失わないで済むのかが明確にならないと、禍根を残す。
2023年12月18日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収すると発表しました。買収額は約2兆円で実現すれば日米企業の大型再編となりますが、大統領選挙を控えた米国で政治問題となり、先行きが注目されています。最新ニュースと解説をまとめました。
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日経記事2024.10.04より引用