米経済のソフトランディング(軟着陸)期待から米国株相場が再び上昇に向かい、日本株も持ち直し機運が出ている。
日米株の先行きや投資機会を有力投資家はどうみているのか。米運用大手ニューバーガー・バーマン最高経営責任者(CEO)で、米投資信託協会(ICI)の会長を務めるジョージ・ウォーカー氏に聞いた。
――米景気と金融政策の行方をどうみますか。
「米景気は減速しているが、まだかなり強い。労働市場が底堅く、経済活動や個人消費を支えている。消費者や企業が(低金利時に)長めの負債を調達し、金利への感応度も他国より小さかった。
1年ほど前に懸念されたハードランディング(景気の急減速)やインフレを制御できない事態に比べれば、米経済ははるかに穏やかな着地になりそうだ」
「インフレ鈍化が続き、米連邦準備理事会(FRB)は年内に利下げを始めるだろう。政策金利は来年にかけて着実に低下するとみている。
利下げをいつ始め、年内の実施が1回か2回かという議論は(利下げ開始という)大きな方向性に比べれば根本的な問題ではない。
金利低下(債券価格上昇)の見通しを踏まえれば、現在の米債券相場はかなり魅力的な水準だ」
――米株は最高値圏で推移しています。
「米市場では2つの物語が進行している。人工知能(AI)期待に引っ張られているエヌビディアやアマゾン・ドット・コム、グーグル(親会社のアルファベット)、マイクロソフトは急成長を遂げた素晴らしい企業だが、株価はかなり割高だ。
中堅・中小企業に大きな投資機会がある」
「11月の米大統領選に向け、今後5カ月間は相場のボラティリティー(変動率)が高くなるだろう。バイデン大統領が2期目を迎えるか、トランプ前大統領が返り咲くかで業種別の勝ち組・負け組はかなり変わる」
「例えば選挙次第で米国内のインフラ支出が増額される可能性がある。(民主・共和の両党でスタンスが異なる)医療保険制度改革も焦点で、保険会社や病院、製薬会社などの株価は選挙期間中に変動が大きくなるかもしれない。
バイデン・トランプ両氏に共通するのは米国の財政再建に熱心でない点で、これは市場の不安要素だ」
――米国以外の注目市場は。
「好調な米経済の恩恵を受け、成長軌道に乗っているメキシコにやや強気だ。(米・メキシコ・カナダの)貿易協定は今後の見直しが予定され、米国の選挙次第で自動車などの輸出産業に影響が及びうる点には留意している。
中国株はかなり割安だ。日米欧は中国と緊張関係にあり、投資家は中国から資金を引き揚げている。特に強気というわけではないが、中国株は売られすぎで回復余地がある」
――日本株市場はいかがですか。
「2つの非常に前向きなトレンドが起きている。
家計の金融資産の約5割は金利が非常に低い現預金で、1割台の米国や3割台の欧州より多い。新しい少額投資非課税制度(NISA)などを通じて貯蓄を市場に向かわせる政府の取り組みは大きい」
「日本企業の変革も息をのむような速度で進行中だ。資本効率を重視し、ガバナンス(統治)を改善し、持続可能性を高める動きが大企業だけでなく、中堅・中小企業でもみられる。
日本が米国に30年遅れていた自己資本利益率(ROE)といった項目もさらなる改善を見込んでいる」
――日本でのビジネス展開は。
「長年、日本の投資家の海外運用を支援してきた。現在は日本や世界の投資家の日本株投資の支援により注力している。
投資先の経営陣と協力し、株主として建設的な関与に努めている。
我々は短期で売り抜けようと問題点を探すアクティビスト(物言う株主)ではなく、長期投資家として取締役選任などで議決権を行使している」
――昨年11月に岸田文雄首相と面会しました。日本の資産運用立国の実現可能性をどう評価しますか。
「岸田氏は運用ビジネスをより深く理解したいと話し、私はNISAやガバナンス改革への支持と重要性を伝えた。
東京を国際金融センターにする意欲も示していた。アジアではドバイが台頭し、シンガポールもうまく運営している。東京は国際的な地位を少し落としたが、巻き返しに動いている」
「私は1990年代半ばから運用ビジネスに関わり、日本の商慣行もみてきた。かつての投資信託は運用資産残高が小さく、保有期間も短かった。
日本は既に資産運用を根付かせるために必要なことをすべて実施し、今後10年間はわくわくする展開が待っている。我々は日本に強気だ」
(聞き手はニューヨーク=斉藤雄太)
日経記事2024.06.21より引用