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同僚のAは、うら若き女性で、出合った最初の日から気があった。両親はメキシコ中部の高原地帯から移民してきて、7人の子供をカリフォルニア州で育んだ。Aはその次女。幼い頃から本を読むことが好きで、両親に伴って週末グラウンドで開かれるスワップミート(ガラクタ市・のみの市)に行っては、1ドルのお小遣いを貰って、古本を売るテントを覗いては子供向けの本を漁ったのだそうだ。
この少女はやがてその向学心に伴った学力で、大学も大学院も最優秀で卒業した。まだまだ若いのに、彼女には思慮の深さや奥深い知恵があって、穏やかな性格もあり、どんな人に親切で誠心誠意に対する。多くの人に好かれているわけだ。まるでその額に「善」というレベルが貼られているかのような娘と同様、彼女の両親もまた好きにならずにはいられない人柄を持つ。
移民時から苦労に苦労を重ね、夫婦ともに働きに働き、やっと家を買った。生活はいつもきつかったが、この夫婦は、誰かがひもじい思いをしていると知れば、必ずその人を呼び、食べさせ、そして食物を持たせて帰す。今朝コフィーショップで出会った気の会う初対面の人でも、お腹が空いているのなら、その日の夕食にやってこさせる。身を粉にして働きながらも、他の人びとを思いやるそんな両親の背中を見て育ってきた子供達が、そうならないわけがない。
週明け、出勤早々そのAが、少し興奮気味に、不思議なことが母親にあったのよ、と言う。どうしたの、と聞けば、次のような話をしてくれた: いつものように、土曜日の朝スワップミートに出かけた両親は、夫婦別々にそれぞれの気になる店を訪ねた。母親は早く買い物を済ませ、車へ戻ってくると、車の鍵を持っている父親がまだ来ていなかったので、しばらく車の脇で待つことにした。しばらくすると、向こうから非常に美しい若い女性がこちらへ近づいてきた。そして母親の目をまっすぐ見て、「あなたのしてきたことは、あなたを幸せにします。あなたは、この先も幸せですよ。」と綺麗なスペイン語で言い、そして又言った。「あなたにハグをしてもよろしいでしょうか?」母親は、思わずバッグを握り締めて、戸惑いつつ、「はい」と答えた。若い女性はハグすると、笑顔を浮かべ軽やかに去った。その後ろ姿を見ながら、母親は狐に包まれた気持ちで、ぼんやりとしていたが、心が温かくなるのを感じたそうである。
夫がやってきて、その話を彼女がすると、ただ、「ほう」と言った。帰宅して子供達に話すと、息子は、「おかあさん、スリじゃなかったろうね?」といぶかしげに言った。娘の一人は、「それは、天使だったんじゃないの?」と言い、Aは「おかあさん、無事でよかったし、なんだか良い人がハグしてくれてよかったわね」と言ったそうだ。
この話を聞いた私も、何気なく、その月曜日がいい日になるような予感がした。見える人には見える、分かる人には分かる、ということだろうか。
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