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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

イラク戦争開戦から20年。イラクの「大量破壊兵器」保有を大義名分に始められたイラク戦争は戦争を始める口実など嘘に決まっており、どんな戦争も決して良い結果にはならないことを教えてくれる。

2023年03月20日 | 人権保障と平和

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 2023年3月20日で、あのイラク戦争開戦から丸20年となりました。

 アメリカのジョージ・ブッシュ大統領がイラク戦争を開始する際の口実は、

「イラクで長年、圧政を敷いてきたフセイン独裁政権が核兵器や生物・化学兵器といった大量破壊兵器を隠し持っている」

というものでした。

 ブッシュ大統領はこのイラク戦争でさえ、「自衛戦争」だとも言いました。

 

 

 米国は英国などと一緒に「有志連合」を組んで、2003年3月20日、国連安保理決議もないままイラクに対して開戦しましたが、ロシアや中国だけでなく、フランスやドイツなどもこの戦争に反対しました。

 後に大量破壊兵器がないことも判明しましたが、その「大義」がなかったこと以上に、英米によるイラク戦争はロシアによるウクライナ侵略のような領土を併合する侵略戦争ではないものの、同じく国連憲章に違反する武力行使であり、国際法違反の戦争でした。

 この点で、ロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻した2022年2月24日の演説で

「アメリカによるイラク侵攻は何の法的根拠もなく行われた。

 アメリカはイラクに大量破壊兵器が存在するという信頼性の高い情報があるとしていたが、あとになってすべてデマで、はったりだと判明した。

 大きな犠牲と破壊がもたらされ、テロリズムが一気に広がった」

として、アメリカこそ国際秩序の脅威になっていると主張しました。

 まさに「おまいう」=お前が言うか?!発言で、だからと言ってウクライナ侵略を正当化しようとするのは言語道断ですが、プーチン大統領の言っていること自体は当たっているのです。

第二次大戦後、休みなく他国に戦争を仕掛けて何百万人も殺し続けてきたアメリカ合衆国に、自由と民主主義の旗手を気取る資格はない。

 

 
 ブッシュ大統領の戦争開始時点の支持率は90%。今のロシアのプーチン大統領やウクライナのゼレンスキー大統領と同じです。戦争による愛国心は一時的には指導者にとんでもない支持を集めます。

 そして、アメリカは今回日本に売ろうとしているトマホーク巡航ミサイルや精密爆弾などのハイテク兵器を使って、イラク軍の指揮系統を一気に破壊し、首都バグダッドと全土を1カ月足らずで掌握しました。

 しかし、ブッシュ大統領がイラク戦争の大義名分にした大量破壊兵器は案の定、見つかりませんでした。

 ロシアがウクライナ戦争を起こした動機や口実がすべて嘘で理由にもならないのと同じように、アメリカがイラク戦争を起こした大義名分も全く存在しなかったのです。

 ブッシュ大統領は2003年5月には「大規模戦闘の終結」を宣言して占領統治が始まり、日本など親米国を中心に約40カ国が多国籍軍に参加し、治安維持や復興を担いましたが、うまくいかず、無政府状態が広がりました。

ジョンソン英首相がロシアの安保理常任理事国からの「解任」を提案。それが可能ならベトナム戦争やイラク戦争を起こした米国も解任せよ。常任理事国制度も彼らの核保有だけを合法化するNPT条約も要らない。

 

 

 イラクの人たちは必ずしも米軍を歓迎していなかったため、旧政権の戦闘員やいろんな武装集団が入り交じり、駐留軍や国連、市民を標的にした攻撃やテロが相次ぎました。

 2005年に新憲法の下で選挙が行われ、2006年に正式にマリキ政権が発足し人口で過半数を占めるイスラム教シーア派が力を持ちましたが、フセイン政権時代に優遇されてきたため不満を抱いたスンニ派の一部はアルカイダ系のテロ組織に参加、シーア派勢力と内戦状態になりました。

 また、過激派組織「イスラム国」(IS)やがて力を持ち、2014年にはイラク第2の都市モスルを制圧し、国土の3分の1を支配下に置きました。

 撤退していた米軍がイラクに再派遣され、ISからの解放が宣言されたのは2017年ですが、結局米軍は今も駐留を続けています。

 

 

 このイラク戦争と戦後の混乱により、イラクでは数百万人の難民が出ましたし、NGO「イラク・ボディーカウント」によると、イラク開戦から今までにテロや戦闘で亡くなった民間人は18万~21万人にのぼります。

 ブッシュ大統領が戦闘終結を宣言した後の方が、犠牲者は圧倒的に多くなっています。

 大義なきイラク戦争を起こしてこれだけの犠牲者を出した英米は罰せられないのに、ウクライナを侵略したロシアだけは罰せられるのは不公平だという言い分をロシアに許してしまうアメリカの罪は重いと言えるでしょう。

 また、アメリカがイラク戦争を起こした真の動機は中東の石油利権であり、同時に「戦争中毒」と言われる産軍複合体が戦争勃発による兵器需要拡大で大儲けできることだったと言われています。

 後者の点では、欧米の産軍複合体にとってはウクライナ戦争は格好の稼ぎの場所になっています。

 イラク戦争にしても、アフガン戦争にしても、ウクライナ戦争にしても、戦争はすべて理不尽な横暴であり、大国に戦争を起こさせないようにすることが政治と外交の最大の目的であることを確認したいと思います。

戦争中毒―アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由

戦争中毒―アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由

ジョエル アンドレアスJoel Andreas

アメリカの産軍複合体はウクライナという新たな「市場」を見つけた。第二次大戦後、世界中で戦争をしまくり、イスラエルによる武力行使を放置するアメリカに、ロシアによるウクライナ侵略を非難する資格はない。

岸田政権が米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診。さらにトマホーク搭載の潜水艦保有のために実験艦新造を防衛大綱に盛り込む計画。憲法9条を持つ国のやっていいことじゃない!

 

 

 ところで、2015年の安保法案の審議において、山本太郎議員は、安保法案で日本がアメリカの戦争に加担する危険性が増すけれども、アメリカがイラク戦争でしたこんな残虐行為を知っているのか、とファルージャなどでの米軍による一般市民の虐殺などを例に挙げ、

『これ、一部のおかしな米兵がやったことじゃないですよ。米軍が組織としてやってきたことです。ファルージャだけじゃない、バグダッドでもラマディでも。

 総理、アメリカに民間人の殺戮、当時やめろって言ったんですか? 

 そしてこの先、やめろと言えるんですか? 引き上げられるんですか? 

 お答え下さい』

と安倍首相に迫りました。

 

 これに対して、安倍首相は

「まず、そもそもなぜ米国、多国籍軍がイラクを攻撃したかといえば、大量破壊兵器、当時のサダム・フセイン、独裁政権が、かつては間違いなく化学兵器を持ち、そしてそれをイラン・イラク戦争で使用し、多くの人々を殺し、自国民であるクルド族に対してもこれを使用して、相当多くの自国民も殺したという実績があったわけでありまして、そして、

それを既に、大量破壊兵器はないということを証明する機会を与えたにもかかわらず、それを実施しなかった

というわけであります。」

と答えました。

 まさに、悪魔が「悪魔の証明を求めた」瞬間と言えるでしょう。

 そして、日本はまだこのイラク戦争参戦の是非について調査も検証もしていないことを忘れてはなりません。

山本太郎議員のイラク戦争加担追及に安倍首相「大量破壊兵器がないと証明できないサダム・フセインが悪い」

安倍首相「甘利問題がTPP交渉に影響がないと証明するのは悪魔の証明だ」。イラクには求めたでしょうが。

 

『終わらないイラク戦争 フクシマから問い直す』

 

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9・11テロから20年。900兆円のお金を無駄にして30万人以上の無辜の市民を殺し、数百万人の難民を生み出した「対テロ戦争20年」の教訓。「戦争で得られるものは何もない」という真実。

9・11テロから15年。オバマ大統領がテロの脅威がさらに高まっていることを認める。先に攻撃したのはアメリカだから。

憲法9条2項がなければ、日本はアフガン・イラク・湾岸・ベトナム・朝鮮戦争に本格的に参戦していた。

国民は税金によって自己責任を「前払い」している。さらにジャーナリストは命を市民に捧げているのだ。

「自己責任」と「過失責任」は法律学の基礎。自己責任とは「自分のやったことしか責任を負わないこと」

 

山本太郎議員のイラク戦争加担追及に安倍首相「大量破壊兵器がないと証明できないサダム・フセインが悪い」 - Everyone says I love  you !

 

大義なき戦争に賛成した日本の小泉内閣はイラクに自衛隊を派兵しましたが、これが憲法前文と9条に規定される平和主義に反して憲法違反であることは、日本の裁判所でも判決で確認されています。

しかし、イギリスと違い、日本政府はイラク戦争に「参戦」した責任追及はおろか調査もされていないのが現状です。

英国の独立調査委員会がブレア首相のイラク戦争参戦を厳しく批判。ではあれはフセインが悪かったという安倍首相は?

また、小泉首相がイラクで人質になった日本の市民3人に「自己責任」だと言って責めたことで、自己責任論がまん延し、それが経済政策における新自由主義をも促進させたことも忘れてはなりません。

そして、集団的自衛権の行使を認める安保法制、そして先制攻撃を認める「反撃能力」の具備によって日本がアメリカの戦争に参戦する危険性はますます増えようとしています。

日本はイラク戦争に参加したのも間違いだったことを認め、猛省し、絶対に戦争をしないことをあらためて誓わなければなりません。

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アメリカが国連安全保障理事会の決議を得ずにイラクへの武力行使に踏み切った、イラク戦争の開戦から、20日で20年となります。
イラクでは、その後も混乱が続き、この20年でおよそ20万人の民間人が犠牲になっていて、国の安定をどう図っていくかが依然として大きな課題となっています。

イラク戦争は、2003年3月20日、アメリカ軍による首都バグダッドへの空爆で始まり、独裁的だったフセイン政権は3週間で崩壊しました。

アメリカは、国連安保理の決議を得ないまま一方的に武力行使に踏み切りましたが、開戦の大義に掲げた大量破壊兵器はイラクに存在せず、アメリカの威信は大きく傷つきました。

アメリカ軍は2011年にイラクから撤退しましたが、イスラム教の宗派間の対立などを背景にイラク政府の統治は不安定な状況が続き、過激派組織IS=イスラミックステートが台頭すると、2014年に再び派遣され、おととし、戦闘任務を終えました。

イギリスの民間団体によりますと、一連の混乱によって、イラクではこの20年でおよそ20万人の民間人が犠牲となりました。

また、イラクでは、隣国イランの影響力の拡大などを背景に政治の混乱が続いてきたほか、世界有数の埋蔵量を誇る石油などのエネルギー分野も施設の整備が遅れ、深刻な電力不足などへの人々の不満も高まっています。

さらに、ISのテロや襲撃もいまだ散発的に起きていて、国の安定をどう図っていくかが依然として大きな課題となっています。

米軍に銃撃された少年の親「アメリカこそがテロリスト」

 
イラク戦争では、アメリカ軍の攻撃やその後の治安維持の作戦で多くの民間人が巻き添えとなりました。

首都バグダッドに住むフセイン・アリさん(25)は15年前、10歳の時に自転車に乗って遊んでいたところ、アメリカ軍に後ろから銃で撃たれ、大けがを負ったといいます。

当時、フセインさんの住んでいた地域は駐留するアメリカ軍に抵抗する民兵組織の拠点となっていたため、アメリカ軍などが繰り返し掃討作戦を行っていたということです。

フセインさんは一命はとりとめたものの、銃弾が背中から腹部を貫通し、4回にわたる手術を受けたうえ、その後、ことばを発することが難しくなり、ふさぎこむようになったといいます。

父親のアリさん(49)によりますと、銃撃される前、フセインさんは外でよく遊ぶ活発な子でしたが、その後は家にこもるだけの生活となり、仕事を見つけることも友達をつくることもできなくなったということです。

フセインさんは「外に出てもすぐ疲れてしまうから毎日ずっと家にいる。私の唯一の友だちは大好きな父親だけです」と話していました。

父親のアリさんはイラク政府に対して補償を求めていますが、申し出期間が過ぎているなどを理由に公的な支援は一切受け取ることができていないということです。

アリさんは「息子は人生を奪われた。なぜ、10歳の子どもが撃たれなければならなかったのか。アメリカこそがテロリストだ。彼らはイラクを破壊し、私たち家族のささやかな幸せすら奪っていった」などと訴えていました。

イラクの現状 市民生活の改善は進まず

 
イラクは世界有数の石油の埋蔵量を誇りますが、イラク戦争とその後の混乱で市民生活の改善は進んでいないのが現状です。

アメリカのエネルギー情報局によりますと、おととしのイラクの一日当たりの石油生産量は、世界第6位で400万バレル余りに上り、経済的な潜在能力は高いとされています。

おととしには、フセイン政権が1990年に侵攻したクウェートに対する524億ドルの賠償金の支払いを終え、およそ30年にわたって続いてきた経済成長の足かせを取り除くこともできました。

世界銀行によりますと、去年は原油価格の高騰などを背景に、GDP=国内総生産の伸び率は8.7%と高い成長率を記録しています。

実際、首都バグダッドでは高層ビルの建設が進んでいて、海外の有名ブランドや飲食店などが入る巨大なショッピングモールも誕生し、経済成長の一端もみてとれます。

一方で、政治や治安の混乱によりインフラの整備は進んでおらず、深刻な電力不足が続いているほか、失業率は16%を超えるなど、経済成長の恩恵は一部にとどまっていて、多くの市民は厳しい生活を続けています。

50代の男性は「アメリカ侵攻当初は、独裁政権を倒していい時代になるという希望があった。しかし、戦争はアメリカの利益のために行われたもので、イラクのためではなく、この20年間で生活は悪化し続けている」と話していました。

また、40代の女性は「アメリカ軍の侵攻に子どもたちがひどくおびえていたのを覚えている。アメリカはインフラを破壊し、今も電気すら満足に使えない。彼らがイラクにもたらしたのは破壊でしかない」と話していました。

日本政府 南部のサマーワを支援も 残る課題

 
イラクの首都バグダッドから南に200キロ余り離れた南部のサマーワには、2004年から2年半にわたって陸上自衛隊からあわせて5500人の隊員が派遣され、給水活動のほか、学校や道路の補修などの復興支援を行いました。

また、日本政府は、地元の12万人の電力を賄うことができる火力発電所を建設し、2008年にイラク側に引き渡しました。

しかし、治安の悪化や経済も混乱する中、修理のための部品が調達できず、4年余りで発電を停止しました。

サマーワのあるムサンナ県では別の発電所も稼働していますが、電力需要が高まる夏場は今も深刻な電力不足が続いているということです。

発電所では去年から復旧作業を本格化させていて、数か月以内の稼働再開を目指しているということです。

発電所の所長は「とにかく資金が必要です。支援してくれた日本には感謝しているし、使えなくなっていて申し訳なくも思っている。早く修復を終えたい」と話していました。
一方、日本が修復などを手がけた水道の浄水施設は今も稼働を続けているほか、JICA=国際協力機構は新しい浄水施設の建設を円借款で支援する計画を進めるなど引き続きサマーワでの支援を続けています。

JICAイラク事務所の米田元所長は「日本の協力によって状況が変わっているというところを理解していただけるとありがたい。公共サービスをしっかりとさせていくことによって国の安定化、ひいては地域の安定化につながっていけばと思う」と話しています。

サマーワのあるムサンナ県の地元当局によりますと、人口90万のうち半数以上の50万人が貧困状態にあるということで、生活の改善が引き続き課題となっています。

サマーワの26歳の男性は「日本はイラクに対してたくさんのことをしてくれました。今まで日本がイラクにしてくれたことは、目で見ることができ、感謝しています」と話していました。

一方、77歳の男性は「日本が来て会社をつくるなど何かをしてほしい。日本は支援をしてくれたかもしれないが、私たちは飢えています。日本が何かプロジェクトを提供してくれることを望みます」と訴えていました。

イラク戦争とは 米ブッシュ政権が武力行使

イラク戦争は、2003年3月20日、アメリカ軍による首都バグダッドへの空爆で始まりました。

アメリカのブッシュ政権は、イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を保有しているとして、国連安全保障理事会の決議を得ないまま一部の同盟国とともにイラクへの武力行使に踏み切りました。

そして、圧倒的な軍事力によってわずか3週間で首都バグダッドを制圧し、フセイン政権を崩壊させましたが、戦争の大義とされた大量破壊兵器は見つかりませんでした。

一方、アメリカの武力行使を支持した日本は、南部のサマーワに2年半にわたって陸上自衛隊のあわせて5500人の隊員を派遣し、復興支援にあたりました。

しかし、アメリカの占領に反発する旧フセイン政権の支持者や国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力などが活動を活発化させて、爆弾テロや襲撃事件が相次ぎます。

復興支援にあたっていた国連施設も爆破され、国連の代表らが犠牲になったほか、日本の外交官や民間人が殺害される事件も起きました。

アメリカの占領統治をへて、2005年には正式な政府を選ぶ初めての議会選挙が行われ、旧政権下で抑圧されてきた多数派のイスラム教シーア派の勢力が圧勝し、シーア派主体の政権が誕生しました。

しかし、旧政権で主流だったスンニ派との宗派間の対立が激化し、テロや衝突に歯止めがかからない状態となり、アメリカは一時、駐留部隊を17万人にまで増やし、治安維持に追われました。

その後、イラク戦争に批判的だったオバマ大統領は、2010年に戦闘任務の終結を宣言し、2011年に部隊を撤退させました。

しかし、2014年に過激派組織IS=イスラミックステートが台頭して北部の主要都市モスルなどを制圧すると、アメリカは再び部隊を派遣し、おととし、すべての戦闘任務を終えたと発表しました。

現在は、およそ2500人のアメリカ軍の部隊が、イラク軍の訓練や支援にあたっていて、イラクの軍や警察が自立した形で治安を維持していけるかが課題となっています。

イギリスの民間団体「イラク・ボディー・カウント」によりますと、戦闘やテロに巻き込まれるなどして亡くなった民間人はこの20年でおよそ20万人に上っています。

 

 

アメリカが国連安全保障理事会の決議を得ずにイラクへの武力行使に踏み切ったイラク戦争の開戦から20日で20年となります。開戦の大義に掲げた大量破壊兵器はイラクに存在せず、アメリカの威信を傷つけ、その後の国際情勢にも大きな影響をもたらしました。

イラク戦争は、2003年3月20日、アメリカ軍による首都バグダッドへの空爆で始まり、独裁的だったフセイン政権は3週間で崩壊しました。

アメリカは国連安保理の決議をえないまま一方的に武力行使に踏み切りましたが、開戦の大義に掲げた大量破壊兵器はイラクに存在せず、当時、唯一の超大国だったアメリカの威信は大きく傷つき、国連の限界も露呈させる結果となりました。

イラクではその後、イスラム教の宗派間の対立や過激派組織IS=イスラミックステートの台頭などで治安の悪化が続き、イギリスの民間団体によりますと、この20年でおよそ20万人の民間人が犠牲となりました。

また、隣国イランの影響力の拡大など、中東の勢力図やその後の国際情勢にも大きな影響をもたらしました。

ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻に踏み切った当日の演説で「イラク侵攻は何の法的根拠もなく行われた。大きな犠牲と破壊がもたらされ、テロリズムが一気に広がった」と述べるなど、ウクライナ侵攻を正当化するなかでイラク戦争に言及していて、イラクやアメリカのみならず国際社会にとっても大きな禍根となっています。

“国連が機能不全に” 旧フセイン政権の外務次官

 
アメリカが一方的にイラクへの武力行使に踏み切ったイラク戦争の開戦から20日で20年になるのを前に、旧フセイン政権で外務次官を務めたムハンマド・ハムド氏がNHKのインタビューに応じました。

この中で、ハムド氏は開戦前のイラク国内の状況について「フセイン政権時代、国内で発言権があった人は誰もいない。すべてフセイン大統領が独断で決めていた」として、イラク政府内では誰も戦争を止めるための言動は取れなかったと振り返りました。

そのうえで「イラク国民は当初アメリカによって、フセイン政権が打倒され、よい未来が待ち受けていると期待していた。本当の民主主義を手に入れられると思ったが、アメリカはイラクを支配し、人々の利益になることは何も起きず、希望はすぐに失望へと変わってしまった」と述べました。

また、ハムド氏はアメリカが戦争の大義としていた大量破壊兵器が見つからなかったことについて「国連は開戦前、フセイン大統領の寝室まで調べ上げたが、何も見つからなかった。アメリカは大量破壊兵器を侵攻の口実に使ったにすぎない」と指摘しました。

そのうえで「アメリカはイラクを統治するため宗派主義、部族主義を利用した。その禍根は残念ながら今もイラクに残っていて、国民は分断され、経済を衰退させる原因になった」と述べ、アメリカの占領統治によって宗派間の対立が深まり、今でもその負の遺産に苦しめられているとの認識を示しました。

一方でハムド氏は「イラク戦争はすべての侵略戦争に対する扉を開いてしまった。その先にあったのがロシアのウクライナへの侵攻であり、さらに今後も同じような侵略戦争が繰り返されるおそれがある」と指摘しました。

そのうえで、アメリカによるイラクへの武力行使を止められなかった国連安全保障理事会については「国連安保理は死に体だ。誰もアメリカなど超大国にノーと言えなくなっている」として、国連が機能不全に陥っていると主張しました。

“米国の覇権崩れる 超大国として中国が登場” 専門家

 
中東情勢に詳しい放送大学の高橋和夫名誉教授は、イラク戦争によって唯一の超大国だったアメリカの覇権が崩れ、この20年で中国という超大国が登場することになったと分析しています。

イラク戦争とその後の20年について高橋名誉教授は「戦争によりアメリカの覇権が壊れ始め、大変なエネルギーを使っている隙に、中国という超大国の登場を用意した時間だった。また中東では地域におけるバランスが崩れ、イランという地域大国が登場し、シリアやレバノンなどに影響力を浸透させることになった」と指摘しています。

また、国連安保理の常任理事国であるアメリカが一方的な武力行使に踏み切ったことについて「ブッシュ政権はイラク戦争を重要な国益だと思って動いたが、核兵器を持った大国が自国の死活的利益が関われば行動を起こす例として、プーチン大統領のウクライナ侵攻についても同じものを見ていると言える」と述べ、ロシアのウクライナ侵攻との共通点を指摘しました。

そして、近年は中東でのアメリカの存在感が低下していると指摘したうえで、長年対立してきたイランとサウジアラビアが中国の仲介で外交関係の正常化に合意したことについて「中国の外交的な勝利だと思う」と述べました。

そのうえで「中国はこれまで汗をかかずに経済的な利益だけを享受してきたが、外交面や、もしかすると軍事面で汗をかく時代に入ったと思う」と述べ、今後、中国が中東での存在感を強めていくという見方を示しました。

“プーチン大統領 イラク戦争持ち出し ウクライナ侵攻 正当化”

2000年に大統領に就任し、「強いロシアの復活」を掲げたプーチン大統領は当初、アメリカで起きた2001年の同時多発テロ事件のあと、国際的なテロとの戦いでアメリカと協調する姿勢も見せていました。

しかし、2003年にアメリカの当時のブッシュ政権がイラクによる大量破壊兵器の開発を主張して武力行使に踏み切ったことに対し、プーチン大統領は強い不信感を示し、その後、アメリカの「単独主義」を批判して対立が続いています。
プーチン政権に近い、ロシアの政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」のアンドレイ・コルトゥノフ会長はNHKのインタビューで「イラク戦争はロシアにとっても国際社会にとっても重要な転換点となった」と指摘しています。

そして「イラクでは大量破壊兵器も化学兵器も一切見つからず、ロシア指導部にとって非常に重要な教訓となった。すなわち、世界では国際法が常に効力を発しているわけではなく、力のほうが有効だという教訓だ。今の国際的な状況では力で行動しなければならないというロシア指導部の考えに影響を及ぼした可能性がある」と分析しています。

一方、プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻をめぐってイラク戦争を持ち出して対米批判を展開することで侵攻を正当化しています。

侵攻に踏み切った去年2月24日に行った演説では「イラク侵攻は何の法的根拠もなく行われた。アメリカはイラクに大量破壊兵器が存在するという信頼性の高い情報があるとしていたが、あとになってすべてデマで、はったりだと判明した。大きな犠牲と破壊がもたらされ、テロリズムが一気に広がった」として、アメリカこそ国際秩序の脅威になっていると主張しました。

先月21日には軍事侵攻後、初めて行った年次教書演説で「アメリカなどNATOはウクライナの政権に大規模な戦争の準備をさせていた。過去にもユーゴスラビア、イラク、リビア、シリアを破壊したとき二枚舌なふるまいをしてきた」と述べ、イラク戦争にも触れてアメリカを非難しました。

“覇権主義の正体と 大きな危険性あらわに” 中国外務省

イラク戦争の開戦から、20日で20年となったことについて、中国外務省の汪文斌報道官は、20日の記者会見で「イラク戦争は、アメリカがみずからの地政学上のたくらみを実現するために引き起こしたものであり、地域と世界に重い代償を払わせ、アメリカの覇権主義の正体と大きな危険性をあらわにした」と述べ、アメリカを強く非難しました。

そのうえで「各国は手を携えて、覇権主義に『ノー』と言うため、より断固とした、より力強い行動をとるべきだ」と強調しました。
 
 
 
 
 
 

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