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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

死刑廃止をあきらめない

2013年02月24日 | 刑事司法のありかた

2011年に死刑を執行した国の分布と数を表した地図です。アメリカ以外は、中国の千件単位の執行数の他、北朝鮮の数十人、イランの少なくとも360人など、特定の全体主義国・独裁国約20か国で、集中的に死刑が行われている実態が分かります。この年だけは日本列島も真っ白だったのに。

アムネスティ・インターナショナル死刑をめぐる世界の状況 (2012年10月31日現在)より

 

 

 2013年2月21日、日本で3人の死刑囚に死刑が執行されました。刑の執行は2012年9月以来で、12月の自民党安倍政権誕生後は初めてです。執行命令を出した谷垣法務大臣は、執行の理由について、対象となった事件が「極めて残忍」な殺人事件であったことを挙げています。

アムネスティインターナショナル日本 死刑執行に対する抗議声明

 そこで、いま、死刑廃止論を書こうとして、このブログで死刑廃止について書いた記事を検索したら、3年間でわずか3本しかありませんでした。あまり死刑廃止論の記事を積極的に書いてこなかったのは、日本の死刑存続を望む世論は外圧でしか変わらないとあきらめてしまっていたからでしょう。

 しかし、30数年前の中学生の時にはもう、原発について文化祭で発表し、事故の危険性のみならず、廃棄物の問題や平時のさまざまな放射線被曝について勉強して反原発だったのに、どうせ原発のことを言ってもわかってもらえないとあきらめてしまい、なにも発言しないまま福島原発事故を迎えた反省から、実はこのブログが政治評論化?したという経緯もあります。

 自分が圧倒的に少数派ではあっても、正しいと思うこと、言うべきことは言わないと後悔するのは身に沁みましたので、今日は死刑廃止論について書きたいと思います。


1 命を大切にする文化が犯罪も防ぐ

  3年前に書いた死刑制度:容認85%、過去最高という記事は、2010年2月6日付けのこんな新聞記事に触発されて書いたものです。

死刑制度:容認85%、過去最高 「被害感情おさまらぬ」増加--内閣府調査 毎日新聞 2月7日

 内閣府は6日、死刑制度に関する世論調査の結果を発表した。死刑を容認する回答は85・6%と過去最高に上り、廃止論は5・7%にとどまった。被害者・家族の気持ちがおさまらないとの理由が前回調査より増えており、被害感情を考慮した厳罰論が高まっていることが背景にあるとみられる。
 死刑制度について「どんな場合でも死刑は廃止すべきだ」(廃止)、「場合によっては死刑もやむを得ない」(容認)、「わからない・一概に言えない」の3項目を選択肢とした。
 容認は調査ごとに増加傾向にあり、今回の調査では前回04年を4・2ポイント上回った。廃止は0・3ポイント減だった。
 死刑を容認する理由(複数回答)は「死刑を廃止すれば被害を受けた人や家族の気持ちがおさまらない」が54・1%で前回比3・4ポイント増。「命をもって償うべきだ」(53・2%)、「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」(51・5%)はそれぞれ微減だった。
 一方、廃止の理由(同)は、「生きて償ったほうが良い」55・9%、「裁判で誤りがあった時に取り返しがつかない」43・2%、「国家であっても人を殺すことは許されない」42・3%など。
 調査は1956年に始まり今回が9回目。20歳以上の男女3000人を対象に昨年11~12月に面接方式で実施し、1944人(64・8%)から回答を得た。【石川淳一】

 

 内閣府による死刑存廃についての世論調査はこれがいまだに最新のもののようです。この調査で廃止論がわずか5%だということで、自分は20人に1人の部類になってしまったと書いた後、わたしはこう続けています。

 なぜ、ヨーロッパ諸国が死刑を廃止し、死刑廃止がEU加盟の条件になっているかというと、一番の理由が国家が殺人をするような国は信用できないということなのだと思います。
 私が死刑を廃止すべきだと思っている一番の理由もそれで、国が人を殺す文化のままでは決して人が人を殺すことが減りはしない、ということなんです。
 被害者になるかもしれない人の命を守るためには、社会が人の生命を限りなく大事にし愛おしむ、そんな文化が大切なのだと思うのです。そこでは他人の命を奪った人は終生刑務所で生きることはあっても、国から命を奪われることはない。
 死刑が存続することは人が人の命を奪うことを結局容認することです。しかも、それを国家がやることは非常に恐ろしいし、国民心理への悪影響も大きい。

 この国は、やられたらやりかえせ、それだけの国ではなかったはず。

 被害者が死刑を望むことは当然です。しかし、国の政策で死刑をとるべきかは別のこと。

 人の意識がどんどんささくれだち、死刑廃止などという悠長なことをいう気分ではないようです。死刑廃止、見果てぬ夢にならないように、何年かかっても国民を説得していくしかないですね。
 
 核兵器のようになければないほうがいいと誰もが思うものを廃絶するのも大変なのに、多くの人がいいと思っているものを廃止するのは至難の業なんだろうなと思います。日本ではね。日本人とヨーロッパ人でこれほど意識が違うものなんでしょうか。

 ここを訪れる方々も20人中17人は死刑存続論者なのだと思うと、コメント欄を見るのが怖い気もします。

 たぶん、近い将来、EUは死刑廃止国しか貿易しないという条件を掲げるようになります。アメリカ、中国や産油国の問題もあり容易ではありませんがもうその準備をしています。国連も動いています。
 そうなったときに初めて日本が死刑廃止に直面するのではなく、外圧ではなく、自分たちの手で再生しなければなりません。

 

 わたしは、このように、死刑廃止によって得られる第一のものは、どんな理由があっても人の命を奪わないという、命を大切にする文化だと考えています。
 
 このことを、国際的な人権NGOであるアムネスティ・インターナショナルは死刑廃止によって
「国家によって市民の命が奪われる、という国家権力による究極的な暴力をなくすことができます。」
と書いています。
 
 アムネスティによると、2010年の統計の人口10万人あたりの殺人発生率が低い順に、1位のオーストリアが0.56、2位のノルウェーが0.68、3位のスペインが0.72で、いずれも死刑廃止国です。

 死刑廃止は命を尊重する文化を育むと言えそうです。

 

世界の死刑存置・廃止国の分布

黄色の死刑存置国の分布をみると、アジア太平洋地域、中東・北アフリカ、米国といった、特定の地域に集中していることがわかります。

 


2 死刑は重大犯罪を抑止しえない

 また、死刑によって凶悪犯罪が抑制されているわけではありません。1981年に死刑を廃止したフランスの統計でも、死刑廃止前後で、殺人発生率に大きな変化はみられません。韓国でも、1997年12月、一日に23人が処刑されましたが、この前後で殺人発生率に違いが無かった、という調査が報告されました。
 
 なぜこういうことになるかというと、殺人などの凶悪犯罪のほとんどは激情犯で、犯罪者は自分が死刑になるかどうか気になどせずに犯行に及び、計画犯の場合には、自分が捕まらないことを前提に犯罪を犯すので、やはり死刑が抑止力にならないからなんですね。

 日本の刑罰は死刑の次は無期懲役であり、無期懲役の場合数十年で仮釈放が可能です。日本は死刑の代わりに仮釈放のない終身刑を導入すべきです。これまで、多くの死にたがっている犯人によって凶悪事件が起こされてきました。たぶん、一生牢屋の中で暮らさなければならない終身刑の方が、多くの犯罪者にとって恐怖であり、まだしも犯罪抑止力が高まると思います。

 そして、一生をかけて、受刑者は自分の犯した罪について考え、何らかの償いをしていくべきなのです。
 
 なお、死刑囚は懲役刑ではないので、死を待つ間、労役もさせられず生産もできませんから、死刑制度を維持するのは終身刑よりもお金がかかるそうです。

 ちなみに、日本の刑事施設の刑務作業の年間収益は、約47億円(2010年)です。受刑者自身が生み出しているお金は、決して少なくないのです。これからは終身刑囚の生んだ利益を遺族の方々への被害弁償に用い、他方で、刑務所の維持に使うべきでしょう。

 
3 えん罪事件で死刑を執行すると取り返しがつかない

 どんな軽微な事件でも無実の人が捕まるえん罪は許されず、ある意味取り返しがつかないのですが、えん罪の問題は死刑という刑罰があることで、先鋭化します。

 法律家なら誰でも知っている刑法学の泰斗、団藤重光先生は「死刑廃止論」で、学者から最高裁判事になられ、自分が本当に死刑判決も書かなければならない立場に立たされた経験から、こう述べられているのです。

「死刑は、すべての元にあるその生命そのものを奪うのですから、同じ取り返しがつかないと言っても、(懲役刑などとは)本質的に全く違うのであります。」

「死刑事件における誤判の問題は、決して単なる理屈の議論ではないのであります。」

「死刑の判決が執行された後で、無実だったことがわかっ た場合には、刑事補償法の規定によって、……補償金が出されますが、そういう刑事補償が遺族に出されたところで、本質的には何の償いにもなるもので はありません。」

 日本では戦後「死刑台からの生還」と言われる、死刑判決が破棄されたり、確定した後再審で無罪となった事件が多数あります。これらの事件で死刑が性急に執行されていたら、本当に取り返しがつきませんでした。

死刑廃止論

死刑廃止論 [単行本] 団藤 重光 

 

4 犯罪被害者感情・国民感情で死刑の存否を決めるべきではない

 近代国家の刑罰は古代・中世の仇討とは違います。刑を定め執行するのはあくまで国家です。被害者感情は大切ですが、それだけで国の刑事政策である刑罰論議を決めてしまうことはできないのです。

 光市母子殺害事件のご遺族である本村さんも以下のように述べられています。本村さんは強く死刑を望まれたわけですが、犯人が死刑判決を受けて得られるものはなんだったのでしょうか。

「死刑判決に勝者はなく、犯罪が起こった時点で、皆、敗者です」 光市母子殺害事件被害者遺族 本村洋さん

 また、マスメディアは凶悪犯罪が起こるたびに売らんかなの思想で大量に報道するものですから、治安が悪くなったような錯覚を抱きますが、この半世紀、全体の犯罪も殺人事件などの凶悪犯罪も減り続けています。

 さらに、冒頭に述べたように、日本の国民感情は死刑存続を望んでいますが、1981年に死刑を廃止したフランスでは、法務省の「死刑の在り方についての勉強会」の資料によると、その時の世論調査では、死刑賛成は62%、死刑反対は33%でした。

 そして、死刑がなくなって25年が経った2006年の調査では、死刑賛成は42%、死刑反対は52%となっています。

 死刑が廃止され、それが当たり前になれば、死刑は必要ないと考える人が日本でも増えるでしょう。

 

 5 国際社会の常識とは

 アムネスティによると2012年10月の段階で、国連加盟国198か国のうち死刑廃止国は140か国、存続国は58か国で、死刑廃止国はとうとう70%を超えました。

 2011年12月には国連総会で死刑の執行停止を求める決議が採択されました。同様の決議は2007年以来、4回目で、今回は過去最多となる111ヵ国が賛成し、誤審によって死刑が適用された場合に取り返しがつかないことや死刑による犯罪抑止の確証がないことなどを指摘しています。

 しかも、冒頭の地図のように、いまだに死刑制度が存続し、しかも執行され続けているのは、中国などの全体主義国家、アジア・アフリカの発展途上国、なかでもイスラム教を国教にする独裁国家がほとんどです。

 このように、死刑の廃止が国際社会の共通の意思とな りつつあるなかで、1989年の国連総会で「死刑廃止を目指す、自由権第2選択議定書」(死刑廃止条約)が採択されましたが、日本はこの条約を未だに批准していません。日本は世界で孤立していますし、執行数こそ少ないものの、死刑に関しては中国とどっこいどっこいの人権感覚だとみられています。

 今回の死刑執行に対しても、独仏やEU連合そのものから遺憾の意を表する声明が相次いで出されましたが、日本政府は度重なる指摘に背を向け、一貫して死刑制度の廃止に向かう世界の流れを無視しつづけているのです。


6 死刑ほど残虐な刑罰はない

 日本国憲法第36条は

「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」

と規定していますが、人の命を奪う究極の刑罰である死刑が、残虐な刑罰にあたるのは論を待たないでしょう。これを死刑執行の方法により区別する(のこぎりで切るのはだめ)というような説は詭弁にすぎません。

 

7 結論

 フランスやイギリスなど、多くの死刑制度廃止国は、当時は死刑存続を望む国民が過半数を占めていましたが、政治主導で死刑廃止を決めています。

 わたしは、日本政府および法務大臣は、死刑制度については、存廃や死刑に代わる終身刑や被害弁償など刑罰の在り方についてより開かれた国民的な議論を尽くし、その間、政府は死刑の執行を停止すべきであると考えます。

 

 最後に、法律家の私が半ばあきらめてきていたのに、何度も何度も死刑廃止論を書いてこられたお二人の尊敬すべきブロガーをご紹介しておきます。私よりよほど年季の入った論考ですので、是非お読みくださいませ。

 お1人目は、村野瀬玲奈の秘書課広報室さんより、数十個に及ぶ死刑廃止論の記事です。

 次に、秋原葉月さんのAfter Noon Cafeさんから、これも数十個の死刑廃止論です。

 さすが、お二人とも、第二次安倍内閣の谷垣法相が3名の方の死刑執行を許したことについて、それぞれ早くも記事を書いておられます。こちらもぜひどうぞ。

村野瀬さんの

日本の死刑制度が浮き彫りにする日本国独特の我田引水的体質

秋原さんの

死刑執行は法相になるための儀式なのでしょうか

 

 

まとまったものが初めて書けて、少しすっきりしました!

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写真・図版

死刑執行について会見する谷垣禎一法相=21日午前11時1分、東京・霞が関、福留庸友撮影

写真・図版

近年の大臣別の死刑執行状況

 【西山貴章、田村剛】谷垣法相は記者会見で死刑制度について、「被害者感情など様々な理由がある。人の命を奪う極めて重大な刑だ。裁判所の判断があったうえで法相として十分検討し、執行しなければいけないと改めて感じた」と述べた上で、「(制度を)見直す必要はないと思っている」と明言した。

 2009年に民主党に政権が移る直前までは、自民党の法相はほぼ2~3カ月に1度のペースで死刑を執行してきた。長勢甚遠氏は在任11カ月で計10人、鳩山邦夫氏は11カ月で計13人に執行するなど、ペースが加速した時期もある。

 「死刑存廃について議論する」という政策を掲げた民主党政権下では、初代法相に死刑廃止派だった千葉景子氏が就任し、執行は一時ストップした。しかし、政府が10年に発表した世論調査では、死刑容認派が過去最高の85・6%を記録。確定死刑囚の数が100人を超えて増え続けるなか、千葉氏は10年7月、2人の死刑を執行した。

 その後も死刑に消極的な法相はいたが、裁判員裁判による死刑判決も出始めた。昨年3月、3人を執行した小川敏夫氏は「国民の声を反映した裁判員裁判でも死刑が支持されている」と発言。滝実氏も8月と9月に計4人に執行した。結局、民主党政権下でも計9人が執行された。

 自民党政権に戻ったことで執行ペースが加速するとの危機感を抱く死刑廃止団体は、死刑囚に再審請求をするよう呼びかけていた。再審請求中の死刑囚は除外される傾向があるからだ。

 死刑廃止を求める市民団体フォーラム90によると、再審請求の意思があっても、弁護士による請求手続きが間に合わず、執行されてしまう死刑囚も少なくないという。

 昨年9月に執行された江藤幸子元死刑囚(当時65)の弁護人は、東京都内で同10月に開かれたシンポジウムで「年内の再審請求を考えていたが、間に合わなかった。本人がどんな気持ちで刑場に向かったかと思うと、平静ではいられない」と振り返った。

 フォーラム90は「まずは請求することが執行を回避する一歩だ。再審の準備を始めれば、法務省は執行の準備を急ぐ。スピードが大切だ」と指摘。全国の弁護士や支援者に再審請求を急ぐよう呼びかけている。

     ◇

 《死刑問題に詳しい菊田幸一・明治大名誉教授(犯罪学)の話》 谷垣法相は就任から2カ月しかたっておらず、死刑囚の記録をきちんと読み込んだのか疑問だ。(谷垣法相は)過去に終身刑を検討するチームの座長をしていただけに残念だ。小林死刑囚は死刑を望んでいた。しかし、死刑確定から7年、再審請求の棄却から3年での執行は、ほかの死刑囚と比べても早い。 


日本に死刑停止要求=仏独

 仏独両政府は21日、日本で3人に対する死刑が執行されたことを受けて声明を出し、今後の死刑執行を一時停止するよう日本政府に要請した。
 フ ランス外務省報道官は、死刑は「犯罪抑止力が確立されたことのない非人道的な刑罰」とし、刑執行は死刑廃止に向かう世界的な流れに逆行するものだと非難。 ドイツ政府人権問題代表も、死刑制度についての国民的議論を行うよう日本に呼び掛けた。

(時事通信2013/02/22-16:27)

 

日本における死刑執行について

2013年2月21日付

ドイツ外務省プレスリリース

(訳 文)

マルクス・レーニング ドイツ連邦政府人権政策担当委員は、本日(2013年2月21日)、日本で3人の死刑囚に死刑が執行されたことを受け、ベルリンで次のとおり述べました。

「日本で改めて3人の死刑囚の死刑が執行されたことに衝撃を受けている。

私 は、このたび刑を執行された死刑囚が重大犯罪で有罪判決を受けたことを承知しており、被害者のご遺族に対しては哀悼の念にたえない。しかしながら、死刑は 非人間的で残虐な制度である。ドイツ政府は、いかなる条件下であっても死刑制度に反対するとともに、世界での廃止に向けて取り組んでいる。

ここに、日本国政府に対し、死刑執行を一時停止するとともに、現代の日本社会において死刑制度がどのような位置づけにあるべきかについて開かれた議論を行うよう改めて呼びかける。」

現在、世界の3分の2以上の国々が、死刑制度を廃止または執行を一時停止(モラトリアム)しています。

 

  死刑をめぐる世界の状況 (2012年10月31日現在)

  • 死刑存廃国状況: 廃止国 140/存置国 58(全198ヵ国)
    • あらゆる犯罪に対して死刑を廃止している国の数: 97
    • 通常の犯罪に対してのみ死刑を廃止している国の数: 8
    • 事実上の死刑廃止国の数: 35
  • 死刑廃止国の数が世界全体に占める割合: 71%

※「通常の犯罪についてのみ廃止の国」とは、「軍法下の犯罪のような、通常と異なる裁判手続きによって裁かれる例外的な犯罪についてのみ、法律で死刑を規定している国」。
※「事実上の廃止国」とは、死刑制度はあるものの、10年以上死刑執行がない国。
※最新の情報は、こちらでご覧になれます。

法律で死刑を全面的に廃止した国の数は、2000年に入ってから、急激に増加していることが分かります。死刑廃止の世界的な潮流は、21世紀に入ってから、顕著になっているのです。

法律上および事実上死刑を廃止している国の数は、年々増え続け、2011年末には、140ヵ国に達しました(198ヵ国中)。

世界の死刑存置・廃止国の分布

黄色の死刑存置国の分布をみると、アジア太平洋地域、中東・北アフリカ、米国といった、特定の地域に集中していることがわかります。

次に、死刑を執行した国の数です。上下の変動はありますが、右肩下がりの減少傾向であることが、見て取れます。2011年の執行した国の数は、わずか20ヵ国でした。

執行した国の分布と数を表した地図です。中国の千件単位の執行数の他、イランの少なくとも360人など、特定の国で、集中的に死刑が行われている実態が分かります。


 

 北海道新聞社説

 法務省は、確定死刑囚3人の刑を執行した、と発表した。自民党が昨年12月、政権復帰してから初めての執行だ。

 3人は、殺人や強盗殺人などの罪に問われ、死刑確定から3~6年で執行された。

 問題は、1人が再審請求の準備中だったことだ。本人の意向を受けた弁護人が準備のため拘置所を訪ねたところ、面会できず、その後、当日に執行されたことを知ったという。

 こうした状況での執行は不適切で法務省の対応には疑問を拭えない。

 執行を命じた谷垣禎一法相は再審請求の意向を把握していたかを含め、対象に3人を選んだ理由と執行までの経過を明らかにすべきだ。

 人の命を奪う点で他の刑罰とは質的に異なる死刑執行は極めて重大な公権力の行使で、それが適正に行われたかの検証が欠かせないからだ。

 民主党政権下では法務省内に死刑制度の在り方を検討する勉強会が一時設置されたが、谷垣法相は記者会見で「(制度を)見直す必要はない」と述べた。

 この認識も改め、国民的論議の場をつくるよう求めたい。死刑存続の是非とは別に、さまざまな問題や課題が指摘されているからだ。

 今回死刑を執行された3人のうち、2人は控訴を取り下げているため、確定した一審・死刑判決は高裁、最高裁のチェックを経ていない。

 死刑が後戻りできない刑罰であることを考えれば、死刑判決の確定には、弁護側の意向にかかわらず、高裁、最高裁の判断を必要とする制度を考えるべきではないか。

 再審を請求した場合の刑の執行停止を義務づけるとともに、今回執行された1人のように再審請求の意思がある場合も同様とする仕組みが必要だ。冤罪(えんざい)での死刑執行を防ぐには停止対象を幅広く取りたい。

 死刑制度の存続について世界から厳しい目を向けられていることも忘れてはならない。

 国連総会は昨年12月、冤罪死刑の懸念を表明し、わが国など死刑制度のある国に対し、執行の停止などを求める決議を採択した。

 世界の3分の2を超える国は死刑を廃止か、執行を停止している。

 法務省は存続理由として内閣府の世論調査で国民の8割以上が死刑を容認していることを挙げている。

 だが、国民が死刑制度について考えるために必要な情報は乏しい。法務省が刑を執行した死刑囚の氏名と執行場所、犯罪事実の公表を始めたのは2007年からだ。

 死刑囚の処遇や刑の執行の実態などに関する情報の開示は不可欠だ。それによって初めて実のある国民的論議と適切な判断が確保される。

 

 

日本の死刑執行に遺憾表明=EU外相

 【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)は22日、日本で3人の死刑囚に刑が執行されたことを受け、声明で遺憾の意を表明した。
 声明は「死刑は残酷かつ非人間的だ」と訴えるとともに、日本に対し、死刑廃止に向けた国民的議論を促進するよう呼び掛けた。

(時事通信 2013/02/22-21:56)


 

毎日新聞 2013年02月06日 東京朝刊

 英国の上院議員で死刑廃止を呼びかける世界的な活動をしているアルフ・ダブス卿(80)がこのほど、70人の死刑囚を収容する東京拘置所(東京都葛飾区)を見学した。ダブス卿は毎日新聞の取材に応じ、「日本も死刑制度の秘密主義から脱し、開かれた議論をする時ではないか」と語った。【伊藤一郎】

 ダブス卿との一問一答は以下の通り。

 −−東京拘置所を見学しての感想は。

 ◇死刑囚も使用する居室や医療設備も見たが、非常に清潔で優れた施設だった。一方で日本では、死刑囚に当日まで執行が告知されず、拘束期間が20年以上に及ぶ場合もあると知り、ショックを感じている。

 −−英国では死刑が廃止されているが、どういう経緯で廃止に至ったのか。

 ◇執行された死刑囚が冤罪(えんざい)だったことが判明したり、殺人事件への関与が薄いのに死刑になったりしたケースがあり、政治家が主導して1965年に死刑廃止が決まった。

 −−今も英国民は死刑廃止を支持しているのか。

 ◇国民は支持と不支持が半々ぐらいだろう。ただ、国家が人命を奪うことはあってはならないという基本原則が国民の間で定着しているように思う。

 −−日本では歴史的に「死をもって償う」といった固有の概念がある。

 ◇我が国でも「目には目を 歯には歯を」という文化があった。でも、今はそうであってはならないという考えに変わっている。

 −−「犯人を死刑にしてほしい」という被害者遺族もいる。そうした声をむげにすることはできない。

 ◇すべての被害者や遺族が加害者の死刑を望んでいるとは思えない。多くの被害者は加害者が長い刑期を務めれば、正義は果たされたと感じると思う。もちろん、死刑の問題とは別に、被害者支援は極めて重要だ。

 −−日本の死刑制度の将来は、どうなると思うか。

 ◇日本は人権を尊重する民主主義国家。今はまだ秘密が多いが、死刑に関する開かれた議論が進めば、いずれ死刑廃止に向かうと感じている。

 

 奈良県で起きた小1女児誘拐殺人事件の小林薫死刑囚(44)ら3人の死刑執行を受け、国際人権団体「アムネス ティ・インターナショナル日本」など4団体が21日、東京・永田町の参院議員会館で記者会見し、「世界の死刑廃止の潮流に背を向け、日本をますます孤立さ せる」と強く批判した。

 参加団体によると、小林死刑囚は恩赦を申請し、7日に「不相当」と通知があった。「再審請求したい」との意向を 受けた弁護人が21日朝、大阪拘置所で面会を申請。担当者に「会えない」と言われた後、同日執行されたことを知ったという。関係者は「再審請求の準備中 で、執行すべきではなかった」と非難した。

 

2013/02/21 20:03   【共同通信】

 

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277 コメント

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多数派で申し訳ない (ネのつくウ)
2013-02-24 20:42:08
まず

>被害者が死刑を望むことは当然です。しかし、国の政策で死刑をとるべきかは別のこと。

ここは大体同意です。遺族感情と死刑とは直接関係ないですよね。社会全体の問題だと思うし。

>たぶん、近い将来、EUは死刑廃止国しか貿易しないという条件を掲げるようになります。アメリカ、中国や産油国の問題もあり容易ではありませんがもうその準備をしています。国連も動いています。

ご自分で書いておられるように実現不可能な政策ですね。単なる脅し。

>なぜ、ヨーロッパ諸国が死刑を廃止し、死刑廃止がEU加盟の条件になっているかというと、一番の理由が国家が殺人をするような国は信用できないということなのだと思います。
>今回の死刑執行に対しても、独仏やEU連合そのものから遺憾の意を表する声明が相次いで出されました


散々武器輸出して儲けてついこないだもアフリカを空爆したよう国がどの口で抗議するんでしょうか?
空爆で人を殺すのは国家による殺人じゃないのですか?秘人道的じゃないのですか?
EU及びフランスの偽善的な二枚舌には反吐が出ます。

>日本は世界で孤立していますし、執行数こそ少ないものの、死刑に関しては中国とどっこいどっこいの人権感覚だとみられています。

孤立するからどうのって話ではないし、司法が腐敗しきっている中国と日本とは全く違うでしょう。

>フランスやイギリスなど、多くの死刑制度廃止国は、当時は死刑存続を望む国民が過半数を占めていましたが、政治主導で死刑廃止を決めています。

つまり民主主義に背いて独裁的に決めて嫌がる国民に無理矢理押し付けた訳ですね。多数決民主主義を否定する方は気にならないのかも知れませんが。

>わたしは、日本政府および法務大臣は、死刑制度については、存廃や死刑に代わる終身刑や被害弁償など刑罰の在り方についてより開かれた国民的な議論を尽くし、その間、政府は死刑の執行を停止すべきであると考えます。

廃止派の方はよく議論を尽くせと仰いますが、何をもって「議論を尽くした」とするのかがはっきりしないと何とも言えないし、その間執行停止する必要があるとも思えません。今の法律では死刑が認められているのですから。
返信する
となると疑問があります (ray)
2013-02-24 22:05:06
ネのつくウさん、いつもありがとうございます。

>>被害者が死刑を望むことは当然です。しかし、国の政策で死刑をとるべきかは別のこと。

>ここは大体同意です。遺族感情と死刑とは直接関係ないですよね。社会全体の問題だと思うし。

とのことですが、これが死刑賛成論者の最大の理由づけだと思っていたのですが、ここを理性的に取らないとなると、いったいなぜ死刑を存置し続ける必要があるのでしょうか。
返信する
加害者と被害者だけの問題じゃないので (ネのつくウ)
2013-02-25 00:25:31
自分勝手な理由から人を殺すという選択をした人は社会で共に生活していく資格がないと思うからです。
と言って死ぬまで税金で衣食住の面倒見てあげる訳にはいかないので、死刑は必要だと思います。

他にも抑止力とか贖罪とか理由はあるでしょうけど……。
返信する
死刑を廃止するには。。 (長坂りえ)
2013-02-25 07:21:41
はじめまして、ロサンゼルスに住んでおります。私の夫は3年ほど前にひき逃げで死亡しました。殺人事件の被害者遺族の方々と同等に語られませんが、遺族の感情は皆同じではありません。(もちろん犯人憎しは同じ)私は死刑には反対です。
よく”お前の家族が同じめにあっても死刑に反対するのか”って必ず出てきますが、こういう人は被害者が国家賠償等で補償金を受け取れば、”死人のおかげで金持になって”と言う人達なので無視。ましてや法務大臣が考慮すべき国民の声ではないと思います。
死刑制度をなくすには、被害者に対する、十分な精神的、物理的、経済的な支援と情報公開、できれば、希望者には加害者と対話できるような制度が充実していけば、”死刑ちょっと待って!”と思う被害者も出てくると思います。とにかく被害者に十分なケアをして味方になってもらうことが先決。うちもカリフォルニア州の被害者救済プログラムに随分助けてもらっています。長々すみません、死刑廃止に向けて是非応援させてください。
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ネのつくウさん (mimosa)
2013-02-25 08:16:03
>孤立するからどうのって話ではないし、司法が腐敗しきっている中国と日本とは全く違うでしょう。

「理解されないから」孤立する,と考えると,やっぱり,国際的に孤立することを軽視するのはよくないと思いますが…?
それに,国内に「死刑が推奨されるような空気がある」という理由で,もしも日本が『司法が腐敗しきっている』中国と同類,と国際的に思われるとしたら…それこそ日本にとって,すごくソンじゃないですか?「司法が腐敗しきっている中国とは違う」と日本人は思っていて,また現実にそうだとしても(そうなのに),死刑制度1つのことで,そんな中国と同じと思われてしまうとしたら…死刑存続は,日本の国際的な信頼を揺るがす,ゆゆしき問題だと思います。信頼は一朝一夕には得られないものですし…。

実際,死刑執行の記事の「携帯のコメント欄」は「殺せ殺せ」「さくさく執行しよう」などの恐ろしいコメントであふれているので,読んでいて気分が悪くなります。ray先生の言われること(=命を大切にする文化が犯罪を防ぐ)とは正反対の日本社会を表しているようで…

谷垣さんは,*冤罪の可能性のない重罪を犯した犯人に限定し,*「死刑決定後6ヶ月以内に執行すること」という法定事項だから,「法治国家としてそれに沿って本来法相がすべき仕事をしただけ」と言われているので,判断に理解出来るところもあるのですが,でも,日本の死刑存続がこれだけ国際的に大きな問題になっているのに,*法相の立場にいる人が「死刑制度を見直す必要はない」と公に言い切ってしまうことには,やっぱり賛成出来ません。この断言は,影響力が大きすぎます。
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Unknown (WTF)
2013-02-25 17:25:04

>他にも抑止力とか贖罪とか理由はあるでしょうけど……。

アメリカではニューヨーク、ハワイ、アラスカなど死刑の無い州の殺人犯罪率が死罪のある州より少なく抑止力とは関係ない。
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ありがとうございます (村野瀬玲奈)
2013-02-27 00:07:50
法律家として人権擁護の分野で多くの仕事を成し遂げられているrayさんからそのように言っていただけると、ただの素人ブロガーとしては身に余る名誉に感じます。ありがとうございます。

今回のrayさんの記事で死刑制度に対する指摘としては十分だと思います。それに、視覚的なデータの提示もありますし、私の記事よりもずっと効果的だと思います。

うちの「死刑FAQ」にも収録させていただきました。(TBしました。)これからもよろしくお願いします。

ところで、長坂りえさんには、そのカリフォルニア州の被害者救済プログラムについて、よろしければもう少し詳しくおうかがいしたいなと思います。
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Unknown (horihori)
2013-02-27 21:09:49
お疲れ様です

>散々武器輸出して儲けて
との事で、自分も武器輸出国に対しては同感です、でも、だからって日本も同じレベルまで落とす必要はないと思うんです。
国家による殺人は認めない、だから我々も国家による死刑は廃止する。そうする事で他国に対して二枚舌じゃなく、芯の通った説得力ある非暴力的な外交が出来るんじゃないでしょうか。
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死刑制度 (lys)
2013-04-26 16:31:08
私も死刑制度の存続に反対です。
加害者が死刑を受けることで罪が償われるのか?
被害者は、加害者のことを罪を償った人間であるとして認めることができるのかということを考えてきました。

罪を償うと追うことは難しいことだと思います。
多くの場合において、本質的には不可能でないでしょうか。

私はもう一つ考えていることとして、加害者にのみ罪があるのかということについてよく考えます。関連性の上で成り立つ社会において、事件を起こしたもののみが罰を受けるべきなのかということです。私には時々、事件を収束させるための都合のいい責任転嫁に感じてしまうのです。

私は、刑務所に更生施設の役割を期待しています。
現実的に更生を望めない場合もあるでしょうが、我々が自らその努力を放棄する死刑制度はあってはならないことだと思います。

私は、刑務所は、罪を償うことが非常に難しいことであるために加害者の更生施設であると思います。
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死刑を扱った映画 (ルミちゃん)
2013-04-29 05:30:19
『スワンプ・ウォータ』 ジャン・ルノワール (90分 1940年、アメリカ) DVD 1080円(新品)
ジャン・ルノワールがアメリカに渡った第一作.俺が正義だと言って鉄砲を撃ちまくる西部劇を正面から批判して、西部劇タッチで南部劇を撮っています.
冤罪事件で死刑判決を受けた男が逃げ出して、湿地帯の中で、ワニ、毒蛇と戦いながら生きる.死刑と言う人間の作った掟から逃れて、自然の掟に従って生きる道を選んだ男の話です.

『肉体の冠』 ジャック・ベッケル (98分 1951年、フランス) DVD 12800円(中古)
死刑とはどの様なことか、単純明瞭に描きました.

『リラの門』 ルネ・クレール (98分 1957年、フランス) DVD 5980円(新品)
警察に捕まれば、死刑になって当然の人間を撃ち殺したのだけど?
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価格はアマゾンです.(最近、高くなりました)
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