Everyone says I love you !

弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

ロシアのプーチン政権がソ連時代の記念碑の撤去を進めたエストニア首相らを指名手配。ロシアでスターリン礼賛が復活。殺人犯を釈放して兵士に、ライバルは政治犯として投獄。ソ連時代に逆戻りするロシア。

2024年02月15日 | ロシアによるウクライナ侵略

上下ともクリックしてくださると大変うれしいです。

 

 

 公私ともに大変お忙しいとご連絡をくださった白井邦彦先生が久しぶりにnoteを更新され、バレンタインデーに

『米のイスラエルの軍事支援とセットのウクライナ軍事支援を肯定していいのか?』

という記事をアップされました。

 白井先生には多種多様な記事をご投稿いただいており、今年からまた新自由主義批判も再開していただけることになっております。

 そこで、白井先生復活を記念して、白井先生関連のうちの記事を全部まとめて

「白井邦彦教授シリーズ」

とさせていただきました。

 何か名探偵みたいな感じでカッコよくないでしょうか!?(笑)

白井先生に呼んでいただいた青山学院大学経済学部の大講義室で、白井邦彦先生と私。

 

 

 さて、ロシアによるウクライナ侵略の記事では最近は「まともな即時停戦派・軍事支援否定派」と親露派・反米こじらせ論者を意識して分けて書くようにしているのですが、後者はウジャウジャいますが、前者は支持者はかなりおられると思いますがもうほとんど白井先生しか発信していらっしゃらず、白井先生も引用する論者がいないのが現状です。

 今回の記事でも白井先生はきっちり

「ロシア政権によるウクライナ侵略は当然違法不当、領土占領も全く許されないことです。この点は当然の前提としてまず強調しておきます。」

『 しかし「そうしたアメリカの軍事支援には反対、ウクライナは独力で戦うべき」では、ロシア政権の侵略の容認論です。』

と明記されているところにまともさが表れていて素晴らしいところです。

 ところで、この白井先生の記事の趣旨は表題にあるように、アメリカ政府によるイスラエルへの支援とウクライナへの支援がセットになっているのにウクライナへの支援を認めていいのかということで、白井先生は

「同時に上記の記事の文言から明らかなように、アメリカが行おうとしているウクライナ軍事支援は虐殺行為を繰り返すイスラエルへの軍事支援とセットになったものです。この点どう考えたらいいのでしょうか。」

「現段階でウクライナの徹底抗戦支持・そのためのアメリカの軍事支援容認の方々は、徹底抗戦に不可欠なアメリカの軍事支援が虐殺を繰り返すイスラエルに対する軍事支援とセットとなってしまっていることを、どう考えるのでしょうか?」

と疑問を投げかけておられます。

 

 

 私は侵略されているウクライナに即時停戦を求めるのではなく、侵略しているロシアに即時撤退を求める立場ですが、ウクライナに徹底抗戦を勧める立場ではもちろんありません。

 即時停戦はウクライナが主語で、軍事支援はNATO諸国など両国以外の国が主語です。

 なので、ロシアに侵略されているウクライナが停戦するか、抗戦するか、それはウクライナ国の主権者であるウクライナ市民が決めることだというのが私の立場です。

 そして、ウクライナへの支援をどうするかはそれぞれの国の主権者が国際法と国内法に従って決めることで、例えば日本はウクライナに人道支援をすることは結構ですが、軍事支援は平和憲法に違反するので絶対に許されません。

 ですから、この白井先生からの問題提起にお答えする立場ではないかもしれません(白井先生が徹底抗戦派としてイメージされているのはうちからリンクしている杉原こうじ氏志葉玲氏らしいです)が、事が法律論にもからむので私なりにお答えしたいと思います。

青山学院大学に伺ったときに大学生を捕まえて写真を撮ってもらった著者(笑)。がんの手術をする前なのでふっくら。

米連邦議会上下院の外交委員会が、侵略への経済制裁で凍結したロシア資産をウクライナの再建と復興に使うための法案を可決。年金も払えないのに防戦するなと被害者のウクライナ人に停戦を強制する権利は誰にもない。

 

 

 私はイスラエル・パレスチナ戦争シリーズでも再三繰り返しているように、今のイスラエル軍によるガザ侵攻はジェノサイド条約などに違反する国際法違反だと考えていますし、それ以前のイスラエル政府による違法入植も許さない立場です。

 したがって、今のイスラエル軍に支援を与えるアメリカ政府の予算案にはもちろん絶対反対です。

 ですから、イスラエル支援とウクライナ支援がセットになっている予算案にも完全に反対です。

 よって、私の立場は違法なイスラエル政府の行為を支援する予算案とを分けて、アメリカ合衆国はウクライナ支援だけを別途決めるべきだということになります。

 ところで今回、白井先生が

『しかし「そうしたアメリカの軍事支援には反対、ウクライナは独力で戦うべき」では、ロシア政権の侵略の容認論です。』

とお認めになって明記されたのは大変素晴らしく、うちでもブックマークの中での先生のnoteの順位を大いに上げました。

 プーチン政権は侵略したクリミア半島はもちろん、強制併合した4州も返さないことを前提にアメリカに停戦協議を持ち掛けたと報道され、ロシア政府はゼレンスキー政権打倒・NATO非加盟・武装解除をも停戦協議自体の条件にし続けています。

 白井先生はそんな中でも

『虐殺を繰り返しているイスラエルの軍事支援のセットとなっているようなアメリカの軍事支援も全く肯定できない、同時にロシア政権の侵略は当然肯定できない、となれば、やはり「即時停戦・和平交渉での解決」ではないでしょうか。』

と書いておられるので、白井先生におかれましては是非、先生の今の即時停戦案がどんな案なのか、それをどんな手続き・過程を経れば実現可能だとお考えなのかをまたいつか、noteでもうちの白井邦彦教授シリーズででも書いていただけたらと思います。

ロシア大統領選でウクライナ侵略反対の反戦候補の登録を拒否しプーチン氏と親政権の4候補だけに。国連の委員会がロシアにウクライナからの子ども強制移送をやめるよう要求。ロシア軍は即時無条件に完全撤退せよ。

 

 

 さて、白井先生のようなまともな即時停戦論・軍事支援限定反対派も、私のような即時撤退論・軍事支援限定肯定派も共通して認めているのは、ロシア政府と軍による侵略と戦争犯罪は絶対に許されないということ。

 そして、白井先生と同じ青山学院大学法学部長で国際人権論がご専門の申教授が強調されていたのは

『そのうえで、国際法の無力さに失望したとか、国際法は結局守られないじゃないかと、国際法だけを見た議論には、欠けているものがあると思います。

というのは、国際社会における「法の支配」は各国の国内における「法の支配」と緊密に結びついているのです。

プーチン政権になって以来この20年間、ロシア国内では、チェチェン紛争を批判するジャーナリストが暗殺され、人権団体が弾圧され、国内法もどんどん改悪されて、身の危険なくしては政権を批判できなくなってきました。

ロシアの国内法でも侵略戦争はいけないということはしっかり規定されているのですが、当然プーチン大統領には適用されません。ロシア国内で「法の支配」が形骸化しているのです。

ですから、この20年間プーチン政権がやってきたことのなれの果てがウクライナ戦争である、ということをまず見なければなりません。』

ということでした。

 

 

 その観点からいうと、ロシア当局が2024年2月12日に、バルト3国であるエストニアのカヤ・カラス首相やリトアニアのシモナス・カイリース文化相らを刑事事件で「指名手配」したことは、ロシアの国内での法の支配の乱れが国際法秩序に直接影響を与えている例です。

 ロシア大統領府は指名手配の理由としてカラス氏らバルト3国の閣僚の「敵対行為」を挙げ、ロシア内務省の指名手配被疑者データベースには、「刑法に基づく指名手配」と表示されているそうです。

 この件に関して、フランスAFPBBの電話取材に応じたロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は指名手配を受けた3名は

「歴史的記憶とわが国に対する敵対行為に及ぶ者」

だと説明し、ロシア国営タス通信(TASS)は先に治安筋の情報として、3名は第2次世界大戦時の

「ソ連兵(をたたえる)記念碑を破壊・破損」

した罪に問われていると報じています。

 

 

 近年バルト3国では旧ソ連に占領されていたとの認識から、第2次大戦後に受け継いだ一部の記念碑がソ連時代を拒否する姿勢の表明として解体されているそうです。

 そんなバルト3国が国内でソ連時代の記念碑を撤去したら指名手配にする、というロシア政府の行為はもちろん内政干渉で、バルト3国をまだロシア領だと思っているのかということになります。

 このロシア政府の法感覚は本当に異常で、国際刑事裁判所(ICC)からプーチン大統領などに逮捕状が出たことへの意趣返しのために、同裁判所の特別検察官や裁判官を指名手配したのと同じ発想です。

 これらの事実は、まさに今のプーチンロシア政府は法治国家ではないことを端的に示しています。

プーチン大統領がカラス首相を敵対視するのは、かつて自分が大ファンだったテイラー・スウィフトがバイデン大統領を応援するのでトランプ候補が彼女を必死にディスるのと根は同じか(笑)。

テイラー・スウィフトさんがトランプ大統領に戦線布告!「武力で脅して、図々しくも道徳的に優れているふりをするわけ? 11月にあなたを落選させるわ」

 

親露派陰謀論者がプーチン大統領への逮捕状発令に抗議するのはまだわかるが、ICCの検察官や裁判官を国際指名手配にしたことについては沈黙しているのが彼らのレベルを表している。

国際刑事裁判所(ICC)に逮捕状を出され南アでのBRICS首脳会議にはビデオ出席となってしまったプーチン大統領が、ICCの赤根裁判官を指名手配。法の支配を守るためにロシアの戦争犯罪は見過ごせない。

 

 

 もう一つ、ロシア政府によるこのバルト3国への明らかな内政干渉で分かることは、プーチン政権がソ連のスターリン首相への礼賛を始めていることと同様に、旧ソ連への回帰を進めていることです。

 ソ連の最高指導者に29年間君臨し、1000万人単位で「粛清」=処刑を進めたスターリン共産党書記長の死から2023年で70年になったのですが、ロシアのプーチン大統領は愛国主義と共にこの独裁者の再評価を進め、2022年2月にウクライナ侵攻へと突き進み、ロシア内外でスターリンとプーチン氏を重ね合わせる論調は強くなっています。

 独裁者スターリンの名を冠したスターリングラードとかつて呼ばれた南部ボルゴグラードの戦勝記念公園「ママエフの丘」の博物館脇には、第2次大戦の激戦終結から80年を記念して2023年にスターリンの胸像が完成しました。

 ナチスドイツとソ連のスターリングラード攻防戦の終結記念日の2023年2月2日にはプーチン氏はそのママエフの丘を訪れ、ウクライナを支援する西側諸国をソ連に攻め込んだナチス・ドイツと同一視して

「ナチズムの思想は現代的な形でわが国の安全保障に直接脅威をもたらしている」

と主張しました。

 かつて何千万人ものロシア人を殺し、ウクライナにも大飢餓をもたらして何百万人も死なせてしまったスターリン礼賛の復活も、プーチン政権が国内では民衆を弾圧して人権を蹂躙し、それを基盤に国外には侵略を続ける象徴と言えるでしょう。

プーチン政権がロシアに入国した外国人にもロシア政府を批判しない「忠誠」を求める法案を準備。ロシアの軍事予算はソ連崩壊後初めて社会保障費を上回り予算全体の4割で22兆円。プーチンロシアは軍事独裁政権だ

 

ロシアは旧ソ連より安全だから安心してロシアに避難しろとウクライナ市民に言っていた橋下徹氏は、もう1年以上ウクライナ戦争に関して沈黙(-_-;)。

国際法違反で戦争犯罪にもなりかねないロシア軍の原発攻撃に沈黙する橋下徹氏。ウクライナ人に「旧ソ連から時代は変わった」「中国がロシアに働きかける可能性もある」からロシアと妥協しろと言い募る(呆)。

 

ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵略を正当化。「ナチスのイデオロギーが現代的な装いで再びわが国の安全保障に直接的な脅威をもたらしている」。現代のナチスは国内外の人民を弾圧・殺害するプーチン政権だ。

 

 

 ところで、ロシア国内の人権弾圧というと、ロシア政府は2020年にプーチン大統領に対する批判運動を展開するアレクセイ・ナワリヌイの毒殺を試みたが未遂に終わり、ドイツでの救命治療を終えて帰国したナワリヌイ氏を投獄して、事実上の終身刑を言い渡されています。

 さらにロシア大統領選挙に入ってナワリヌイ氏とその支援者が反プーチン派の候補を応援すると表明すると、ナワリヌイ氏を北極圏の刑務所に移送し、まさに「シベリア送り」にしてしまいました。

 また、3月の大統領選挙にはプーチン大統領と取り巻きしか立候補できないようにしてしまいました。

2020年9月、ロシアに毒殺されかけてなんとか一命をとりとめたナワリヌイ氏とご家族。

せっかく助かったのにシベリア送りでご家族と会えないのかと思うと泣ける。

ロシア軍がウクライナの各都市に最大規模の空爆をして教育機関や産科医院などで民間人を殺戮。ウクライナ兵士の捕虜を射殺。カソリック教会の活動を禁止。プーチン大統領の政敵ナワリヌイ氏を北極圏の刑務所に移送

ロシア大統領選でウクライナ侵略反対の反戦候補の登録を拒否しプーチン氏と親政権の4候補だけに。国連の委員会がロシアにウクライナからの子ども強制移送をやめるよう要求。ロシア軍は即時無条件に完全撤退せよ。

 

 

 プーチン大統領を批判する側には徹底した弾圧が加えられる一方、ロシアでは「ストームZ」という受刑者や軍隊での懲罰を受けた兵士による軍団ができ、ロシア軍によるウクライナ市民に対する殺戮・拷問・強姦・処刑などの戦争犯罪の中心になっています。

 彼ら受刑者はウクライナ侵略に加わると恩赦を受けるのです。

 例えば、ウラジスラフ・カニュス受刑者はは元交際相手のベラ・ペフテレワを何時間も拷問し、111カ所に刺し傷を負わせた後、ひもで首を絞めて殺害したことで懲役17年の刑を言い渡されて受刑していましたがが、やはりウクライナでの戦闘に参加した後、大統領恩赦を受け、実際には1年未満しか服役しませんでした。

 カニュス受刑者が釈放されたニュースはさすがにロシア市民を恐怖させました。

 また、ロシア独立系紙ノーバヤガ・ゼータの記者アンナ・ポリトコフスカヤ女史は、ロシア南部チェチェン共和国の汚職や戦争犯罪を暴く記事を執筆していましたのですが、2014年にポリトコフスカヤ氏を殺害した罪で懲役20年の判決を受けた元警察官のセルゲイ・ハジクルバノフ受刑者はウクライナでの戦闘に参加するために刑務所から釈放され、大統領恩赦を受けました。

 すべてはウクライナ戦争で勝つために。

 ウクライナ侵略のためならどんな超法規的な措置でも断行する。

 それが今のプーチンロシアの世界です。

ストームZの面々。

ロシア政府の言論弾圧が続いている。プーチン政権批判したバンドのライブ会場に治安部隊突入。LGBT運動を「過激派」に認定。ウクライナの子ども2442人を連れ去りベラルーシ国内でロシア愛国心再教育。

 

2015年1月12日付け当ブログ記事よりアンナ・ポリトコフスカヤ記者。

「私はシャルリー」 失われたのがイスラム教徒の命と言論の自由でもそう言ってくれますかより

 
 

プーチン大統領がロシアの新しい「外交政策の概念」を発表。「ロシアは独特な国家文明で単なる国家ではなく、ユーラシアと太平洋地域の強国として特別な地位」「自国民の保護のため他国に侵攻する」(恐)。

 

プーチン大統領は今を生きる独裁者の中でも独特の考え方や感性を持っています。

それが親露派陰謀論者はもちろんのこと、力の信奉者である故安倍晋三首相トランプ大統領候補橋下徹氏にとってはたまらない魅力なのでしょう。

上下ともクリックしてくださると大変うれしいです。

ロシアのプーチン大統領=2月2日、ボルゴグラード(AFP時事)

 ソ連の最高指導者に29年間君臨したスターリンの死から5日で70年を迎えた。ロシアのプーチン大統領は愛国主義と共にこの独裁者の再評価を進め、昨年2月にウクライナ侵攻へと突き進んだ。内外でスターリンとプーチン氏を重ね合わせる論調は強い。

プーチン的思考から予想するウクライナ侵攻の行方

 ◇内外の敵はナチス

 スターリンは1953年3月1日に脳卒中を起こし、同5日に死去した。74歳だった。

 独裁者の名を冠し、かつてスターリングラードと呼ばれた南部ボルゴグラード。戦勝記念公園「ママエフの丘」の博物館脇に最近、第2次大戦の激戦終結から80年を記念してスターリンの胸像が完成した。

 胸像近くには、スターリンの「大粛清」犠牲者の記念碑がある。独立系メディアは「120メートルしか離れていない」ことを問題視した。

 攻防戦の終結記念日の2月2日、プーチン氏はママエフの丘を訪れた。演説では、ウクライナを支援する西側諸国を、ソ連に攻め込んだナチス・ドイツと同一視。「ナチズムの思想は現代的な形でわが国の安全保障に直接脅威をもたらしている」と主張した。

 こうした発想は、リベラル派の弾圧に「乱用」されている。スターリン時代の弾圧を記録し続け、昨年のノーベル平和賞を受賞した人権団体「メモリアル」は「外国のスパイ」に指定。プーチン政権から敵視され、2021年には最高裁から解散命令が出ている。

 今月3日には当局が、メモリアルのスタッフ数人が「ナチズムの復権」を企てたと決め付け、捜査を開始した。

 ◇負のイメージ消失

 事実、プーチン政権の政策は「奏功」しており、独立系世論調査機関レバダ・センターによると「スターリンは偉大な指導者だと思う」と答えた人は、16年の28%から21年の56%に倍増。こうした中、ウクライナ侵攻が始まっても、政権の支持率は落ちなかった。

 「5人目のスターリンだ」。ある作家は昨年12月、ロシア史に残る5人の指導者の最後にプーチン氏を据え、保守派から喝采を浴びた。スターリンから負のイメージは消えつつある。

 プーチン氏は現在70歳。20年の憲法改正で再出馬の道が開かれている。仮に来年の大統領選で当選してあと1期6年間の任期を満了すれば、首相時代を含めた権力掌握の期間が30年間に達する。その場合、スターリンを超え、ソ連成立後で最長となる。

 

 

ロシアがエストニア首相らを指名手配…「驚くに値しない」と対抗姿勢をより鮮明化

 タス通信などは13日、ロシア内務省が、エストニアのカーヤ・カラス首相やリトアニアの文化相、ラトビアの法相など、バルト3国の複数の政府高官を指名手配したと報じた。露捜査当局は、第2次世界大戦でナチス・ドイツと戦ったソ連兵の記念碑を破壊したことに関与したと主張している。

エストニアのカラス首相=ロイター
エストニアのカラス首相=ロイター

 外国の首脳を指名手配するのは極めて異例だ。特にカラス氏は対ロシア強硬派の論客として知られており、けん制する狙いとみられる。バルト3国では、ロシアによるウクライナ侵略以降、公共の場にあるソ連時代の記念碑などを撤去する動きが加速しており、ロシア側は反発していた。

 今回の指名手配について、露外務省のマリア・ザハロワ報道官は「ナチズムとファシズムからの解放者の記憶に対する犯罪は摘発されなければならない」と主張した。

 カラス氏は13日、X(旧ツイッター)に「ロシアの動きは驚くに値しない」と投稿した。「これで私が黙ると思っているかもしれないが、その逆だ」とし、ウクライナへの支援継続でロシアに対抗する姿勢を鮮明にした。

 

 

“ロシアでジャーナリストになることは自殺である”

報道の自由


 「ロシアは記者になるのが世界でもっとも危険な地域のひとつです。アンナ・ポリトコフスカヤ殺害の裁判が続いているなか、リューク・ハーディングがひとりのエディターの命をかけた戦いをリポートしました。」今回はこのガーディアンの記事を和訳します。ロシアにおける「表現の自由」の状態が劣悪であることはすでに何度も指摘されてきたことですが、ひとりひとりのジャーナリストの戦いを知ることは、それが何度であろうと決して無駄なことではないでしょう。「ロシアでジャーナリストになることは自殺である」。この言葉はとても心に突き刺さりました。

リューク・ハーディング
(ガーディアン、2008年11月24日
http://www.guardian.co.uk/media/2008/nov/24/anna-politkovskaya-russia-press-freedom)

 ロシア人ジャーナリスト、ミハイル・ベケトフは自身が危険を犯していることを知っていた。一連の記事の中で、ベケトフはモスクワ郊外にあるヒムキの地方行政に対するキャンペーンを張っていたのだ。彼は何度にもおよぶ脅迫を受けていた。彼の車は燃やされたし、この夏には家に帰ると愛犬が戸口で死んでいたこともあった。

 ベケトフは、地方役人の汚職や職権乱用を一貫して批判している彼の新聞、ヒムキンスカヤ・プラウダ[ヒムキの真実]の発行を続けている。とうとう、行政府もこれに業を煮やしたらしく、11月11日、暴力団が彼の自宅の外で待っていた。彼が帰宅すると、彼らは棒で彼を残虐に殴り、指と頭蓋骨を骨折させ、殺そうとした。
 ベケトフは意識のない状態で自宅の庭にほぼ2日ほど横たわっていたが、ついに近所の人が警察を呼んだ。彼女が彼の足を見つけたのだ。警察は現れると襲撃に困惑することもなく、(彼が死んだと思って)ベケトフの顔に毛布を放り投げた。このとき、ジャーナリストの腕がぴくっと動いた。

 「ミハイルは生と死の間をさまよっています」、彼の友人であるリュドミラ・フェドトヴァが先週そう述べた。ベケトフはこん睡状態にある。医師たちは彼の左足を切断した。凍傷にかかった指もまた除去するという。「彼は誰も恐れなかった」、とフェトドヴァは言う。


沈黙した批評家たち

 ベケトフの運命は、プーチンのロシアでジャーナリストとして働く危険を絵に描いたような実例である。彼の話は憂鬱かつ典型的だ。ニューヨークに拠点を置くジャーナリスト擁護委員会(CPJ)によれば、ロシアはいま記者として働く者にとって、イラク、アルジェリアについで世界で3番目に危険な場所だという。

 1992年以来、49人のジャーナリストがロシアで殺されている。先週、3人の男がアンナ・ポリトコフスカヤ――活動的ジャーナリストで、恐れを知らないクレムリンの反対者だったが、2006年10月に自宅の外で射殺された――の殺害に関わった容疑で裁判に出廷した。

 捜査当局は、ポリトコフスカヤの殺害者や、あるいはそれを依頼した人物を見つけることができていない。実際、ロシアにおけるジャーナリスト殺害の責任者は、決して逮捕されたことがないからだ。(一度起訴されるだけである。)CPJによれば、当局は事件を解決するのに積極的ではない――事件の痕跡はいつも権力機構に戻ってくるので、(熱心に捜査すれば)捜査員自身に危険が及ぶからだ。

 「ロシアのジャーナリストには、とてもたくさんの触れてはならない話題があります」と、CPJのヨーロッパ・中央アジア担当プログラム・コーディネーター、ニーナ・オグニアノヴァは述べる。これらの中には、連邦保安庁(FSB)、秘密諜報機関、クレムリンの内部の汚職について書くことなどが含まれているという。さらに立ち入り禁止なのが、ロシアの北コーカサスだ――チェチェンにおける人権侵害を繰り返し批判していたポリトコフスカヤのテーマである。

 「ロシア当局は犯罪を調査する能力はある。政治的な意志が欠けているだけです」と、オグニアノヴァは説明する。「検査官たちは跳ね返りを恐れているのです。多くの場合、彼らは小さな集団の中だけで働いており、みんな顔見知りです。地方警察と権力機構はそれらの輪の中で正義を停止させることができるのです」。

 一方、ベケトフが地方行政を激怒させたのは、ヒムキの森林を開発者たちに売却する計画を批判したことでだった。彼はまた、役人らが第二次大戦で亡くなったパイロットたちの遺体を、スーパーマーケット建設のために内密に掘り起こしていたことに関しても痛烈に書いていた。彼の最後の論説――あざけるようにつけられたタイトルは“愛国者”――は、役人たちが無担保で巨額の銀行ローンを引き出していたことを暴露したものだった。

 「ロシアでジャーナリストになることは自殺です。真実を語ることは自殺行為なのです」。ベケトフの同僚で友人のウラジーミル・ユーロフは言う。別のヒミキの独立系新聞でエディターをしているユーロフも、3回ほど攻撃を受けたことがある。一番最近では、暴漢に10回も刺された。しかし彼は生き延びた。「検察官はろくに取り合いません」。そう述べると、次のように付け加えた。「私はまだ働いています」。

 ロシアのジャーナリストに対するこれらの攻撃の背後にあるのは、近代ロシア社会や、メディアが中心的役割を果たすようになったプーチンの洗練された専制国家の本質である。クレムリンはすべての国営テレビ・ネットワークと、ほとんどの新聞を支配している――独立メディアで働く残りのジャーナリストたちも、ますます攻撃されやすく、危険にさらされやすくなっている。

 極限状態のジャーナリズムのためのモスクワ・センター(Moscow’s Centre for Journalism in Extreme Situations)のディレクターであるオレグ・パンフィロフによれば、ロシアで本当の表現の自由があったことはない。ここ数年、当局を批判するジャーナリストが、ロシアの刑事規則にもとづき過激主義であるとして起訴されるなど、傾向はますます悪化しているという。加えて、国家プロパガンダはソビエト・レベルにまで達していると彼は指摘する。パンフィロフは「現在ではロシアのジャーナリストに対して、毎年80あまりの攻撃がなされています」と言及した。

自由のかすかな光

 ロシアのテレビが容赦なく親クレムリンである一方、新聞の展望はより多様である。ノーヴァヤ・ガゼータ――ポリトコフスカヤのいた新聞――や経済紙であるコメルサントなどを含むいくつかの出版は、本当に独立している。また、ほかにもモスクワのラジオ局、エホー・モスコヴィ[モスクワのこだま]――視聴は限られた範囲だが――を含む反対的言論の表出口がある。

 なぜクレムリンは、ロシアにある独立メディアの最後の残りを閉め出すことができないのだろうか?「ロンドンやフランスにはたくさんロシアの政治家が住んでいます。ロシアはもし独立メディアを閉め出したら西側との間に多くの問題をもつことになるでしょう。彼らはロシアが全体主義国家だと呼ばれることがないように、自由のかすかな光が見えるようにしておかなければならないことを完全に理解しているのです」、とパンフィロフは述べる。

 外国人ジャーナリストは、気骨のあるモスクワ特派員として働いていても、ロシア人ジャーナリストと同じような物理的危険に直面することはない。「ここでのすべての話は、ぼんやりとした層の中に折り込まれているのです」、と言うのは、タイムズ紙のモスクワ支局長であるトニー・ハルピンである。「ここで外国人としていると、国家の深さと複雑さを理解することは非常に困難です。多くのケースにおいて、あなたは真実をちらりと見ることだけしかできない」。

 ロシア政府は現在、親プーチン的メッセージを行きわたらせるために、いくつかの主要なPR会社とブロガー軍団を雇っている。それは、やっかいな質問をする西側の記者たちを見越してのことだ。2000年以来、ロシアは40人のジャーナリストを国外追放あるいは入国拒否している。6月には、英国のフリーランス・ジャーナリストであるサイモン・ピラニが、有効なビザを持っていたにもかかわらず、モスクワへの入国を拒否され、ロンドンに送還された。連邦の問題について執筆しているピラニは、防衛上の脅威だと考えられたのだと、後に高官が語った。

 こうした間も、ミハイル・ベケトフの友人は、彼が回復するように祈っている。兆候はあまりよくない。「私が彼を見たとき彼はひどい状態だった。顔は腫れ上がり、皮膚はガラスのように見え、喉にはチューブを通していた。ロシアでは真実を書くジャーナリストになることは非常に危険なことなのです」、そうフェドトヴァは述べる。

(訳/藤沢和泉)

 

 

上下ともクリックしてくださると大変うれしいです。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【#岸田やめろ】岸田首相の... | トップ | 【#維新クオリティ】大阪府市... »
最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (暗黒大将軍)
2024-02-17 12:07:49
残念ながら、アレクセイ・ナワリヌイが死んだようですね

政治的には極右から出発しながら同性婚には賛成、とハイブリッドな存在感がありました
国際的な支援ネットワークもある筈ですが、実際は孤独な戦いだったのでしょうね
香港の周庭氏にも近いものを感じます

最近のウラジーミルですが、「米大統領はドナルドよりジョーのほうがいいね」「ウク露は近い将来合意に到達できるだろう」ってな観測気球っぽい釣り発言が目立ちますね

一つ目はただの皮肉でしょうが、皮肉やお世辞が自然と出てくるほど事態を楽観視してるんでしょう
ボールだまでも見境なくバットを振るトラ公が、サウジのカショギ氏暗殺を有耶無耶にした時と同様ナワリヌイの件も無理やり幕引きしようとしてかえって長引かせる展開が容易に想像できますね
返信する
Unknown (秋風亭遊穂)
2024-02-24 12:13:55
 ロシアのソ連回帰現象は、プーチン政権後に徐々に強まっていったかのようだ。特に歴史家に対する抑圧は2014年以降際立ったとされている。2019年に出された次のレポートで詳細に書かれている。

RUSSIA:“CRIMES AGAINST HISTORY”
fidh.org/IMG/pdf/russie-_pad-uk-web.pdf
([https://www.]を冒頭に付けてください)
---------
・市民社会の活動を妨げる法律:外国エージェント法など
・表現の自由を制限する記憶法:第二次世界大戦中のソビエト連邦の行動の批判や国家象徴への侮辱を禁止するなど
・検閲の実施
・バルト諸国、ポーランド、ウクライナなどの外国の歴史研究者との協力を妨げる慣行
・愛国主義的な機関(ロシア軍事歴史学会、ロシア歴史学会など)の設立
・歴史家の活動を妨げるために特別な役割を果たすアーカイブへのアクセスの拒否
・ソ連による迫害犠牲者追悼などの記念行事およびその他の公共イベントへの制約の増加
・ソ連による犯罪被害者およびその家族に対する実効的な救済措置や適切な補償の提供、加害者の追及の不履行
・活動家への中傷キャンペーンや威嚇、悪意のある起訴
---------
 その他、様々な自由に対する抑圧も記されている。
 また、ソ連回帰・翼賛の障害となる、ソ連時代の迫害の歴史を隠蔽しようという動きと、愛国主義の拡散が並行して行われた。ウクライナ侵攻にあたり、着実に世論誘導を準備していた、或いはソ連愛国主義の高まりがウクライナ侵攻(再征服)に至ったと言える。

 私が目を引いたのは、独ソ不可侵条約(Molotov–Ribbentrop Pact)に対するロシア当局の評価である。ソ連崩壊当初はソ連時代の迫害の歴史を掘り起こす作業もされていた。この条約に対しても批判されていたが、徐々に正当化されていく。例えば、「ロシアの教科書は条約を領土拡張を目的としたものではなく、防衛的措置として記述する傾向がある(Inside Putin's Russia(Oxford University Press 2005) p.25)など。
 段落120で概要が述べられている。
---------
・プーチンは2014年、「ロシアの生存のために必要なもの」とした。
Mr. Putin: Operative in the Kremlin(Brookings Institution Press) p. 366
・2019年、外国情報庁長官ナルイキンは、「他に方法はなかった」と協定を正当化。メジンスキー(当時はロシア軍事歴史協会会長)もソビエト連邦が協定を結んだことを「正しい」とした。
2020年6月に『ナショナル・インタレスト』誌に掲載されたプーチン大統領の論説では、「明らかに他の選択肢はなかった」「ソビエト連邦はポーランドを攻撃せざるを得なかった」、バルト3国の占領は「当時の国際法および国内法に沿ったものであった」と主張した。
---------

 バルト3国・ポーランド侵攻を正当化している歴史観であれば、ウクライナ侵攻も同様に考えるだろう。ある学校の歴史教師の意見が次の記事で紹介されている。曰く、「これ(ソ連のポーランド侵攻)は非常にデリケートな質問です。ここの人たちは、そのようには見ていません。そして、多くのロシア人がソビエト連邦をロシア帝国と見なしており、さまざまな領土がロシア帝国の一部であったことを忘れないでください。ですから、これは失った領土の再獲得として提示されることもあります」
 
Molotov-Ribbentrop What? Do Russians Know Of Key World War II Pact?
rferl.org/a/molotov-ribbentrop-what-do-russians-know-of-key-wwii-pact/30123950.html
([https://www.]を冒頭に付けてください)

 歴史家への弾圧はナワリヌイと同様に、捉えられたまま死に至らしめた事例がある。段落166で Sergey Koltyrin について触れられている。次の記事は参考までに

publico.pt/2022/04/09/opiniao/opiniao/putin-crimes-historia-perseguicao-historiadores-2001909
([https://www.]を冒頭に付けてください)
返信する
Unknown (raymiyatake)
2024-02-24 18:02:31
暗黒大将軍さん、プーチン大統領は自分が推した方が相手は損するとわかっているから、バイデンがいいよと言ってるんだと、私は単純に思います。
親露派陰謀論者はこぞってトランプ大統領を待望してますよね(笑)。

秋風亭さんはなにか、歴史やヨーロッパ関係の研究者じゃいないんですか?
戦史とか。。。
とてもただの市民が書けるレベルのコメントじゃないと思うんですが。

前にkojitakenさんも秋風亭さんのような方がおられるから、うちはさすが有数のリベラルブログだ、みたいな褒め方をしてくださったことがあるのですが、コメントだけではなくぜひブログを書いていただきたいものです。
返信する
Unknown (秋風亭遊穂)
2024-02-24 21:07:38
 お褒めにあずかり恐縮であります。近年の技術進歩で外国語文献が手軽に読めるようになったおかげです。国際関係の資料は英語でないと検索不可能と言うことがよくわかります(訳抜けはたまにありますが、AIによる翻訳も進歩しました。)。特にソ連から続く自由への抑圧について日本語で語られることが少ないように思います。(日本語の情報だけではジョンソン伝説がいつまでも繰り返されてしまうようです。)ロシア10月革命は軍事クーデターだと言ったら極右認定されてしまいました。
 今回は英語のpdfファイルが長文で苦労しましたが、非常に勉強になりました。おそらく妨害されながらも地道に調査されたレポートと思われますので大切に読み返しておきたいと思います。もちろん、宮武さんの記事も良きガイドになっています。
 即時停戦論者の残念な点は国際法を軽視することですが(それが一般人に受け入れられやすい)、私たちが依って立つ規範は法にあることを今後も訴えていただきたい。そして法を活かすためにも国際世論、運動が大切であることを認識し直すべきかと。ロシアやイスラエルを包囲するのも国家の政策だけでなく市民レベルの運動にも重大な責務があります。
返信する
Unknown (raymiyatake)
2024-02-24 22:05:13
英語にご堪能なだけですか?
いやあ、なんか怪しい笑笑
これからもよろしくお願いいたします

法の支配への信頼について、この2年間で一番がっかりしたのは行動する護憲派学者の筆頭だった早稲田大学の水島朝穂先生です。
兵庫県弁護士9条の会で私が水島先生に来ていただきたい!と提案して、ご講演いただき、私が前座を務めたんですが、終わった後の懇親会で、この人は伊藤真より見込みがある!と言っていただいたんですよね笑笑

憲法学者である水島先生がこんなにも国連憲章や国際法や国際人道法の力を信じておられなかったのかと、愕然としました。

いまだにウクライナネオナチ論も取り下げておられませんし、ブチャ虐殺にも疑問を呈しられたままですし、もう親露派陰謀論者スレスレです。

ロシア軍の侵略に続いてイスラエル軍の侵攻も続いている今だからこそ、法学者には、法の支配、法秩序を守ることで人々の命と平和を守る大事さを説いて欲しいです。

それが憲法を守ることで日本の市民を守ろうとして来られた水島先生にこそできることなのに、と残念でなりません。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ロシアによるウクライナ侵略」カテゴリの最新記事