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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

【#ウクライナに平和を】市民連合主催、国際人権法専門の申惠丰青山学院大学法学部長と東大作上智大学教授の対談「他国の領土保全を武力で侵すことは禁止されているという国連の大原則にまずは立ち返るべき」

2024年01月17日 | ロシアによるウクライナ侵略

2023年12月14日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は首都モスクワで、ウクライナ侵攻開始後初めてとなる年末恒例の記者会見や国民対話のイベントを開き、ウクライナの平和は

「我々が目的を達成したとき」

にしか実現しないと述べた。

その目的とは

ウクライナの非ナチス化=ゼレンスキー政権打倒

ウクライナの非軍事化=武装解除

ウクライナの中立化=NATO加盟阻止

ロシア軍はウクライナへの侵略を開始してからの2年弱で、現役の地上兵力のうち87%、31万5千人以上の死傷者を出して失った。それでも戦争を継続できるプーチン大統領の専制支配はもはや奴隷制だ。

上下ともクリックしてくださると大変うれしいです。

 

 

 ロシアによるウクライナ侵略に関する記事を書こうとして調べ物をしていたら、なんと2023年5月から6月にかけて、うちのブログでもおなじみの青山学院大学の申惠丰教授と上智大学の東大作教授が、まともな野党に共闘を求めていることで有名な市民連合主催の対談をされているのを発見しました。

 申先生は同じ青山学院大学の白井邦彦先生と同じくうちのブログをご愛読くださっていたそうで、2018年に当時の安倍首相がトランプ大統領から兵器を爆買いするのに何とか反対したいということでご連絡をいただき、二人で相談して2018年12月20日に日本外国特派員協会で記者会見した仲。

 その後、その兵器爆買いに反対する声明に賛同してくださった学者・弁護士・ジャーナリストで作った社会権の(兵器を買うお金があったら生存権や教育を受ける権利など社会権を保証することに使えという意味)を結成して、申先生に代表、私が事務局長になるなどしてきました。

防衛費の増大と兵器爆買いによる福祉・教育の切り捨てに反対する研究者・実務家の声明発表、記者会見大成功!!

「米国によるイラン軍司令官殺害に関する 社会権の会(防衛費より教育を受ける権利と生存権の保障に公的支出を求める専門家の会)の声明発表!!!

 

 

 この対談の中で、申先生が言われていること。

『まず、安保理(国連安全保障理事会)で本来、安全保障に主要な責任を持つべき常任理事国がみずから侵略戦争を起こしてしまっていることの重大さは本当に強調してもしきれないと思います。

こういうときに国際法に何ができるのかというのは、大きな課題として当然あります。

そのうえで、国際法の無力さに失望したとか、国際法は結局守られないじゃないかと、国際法だけを見た議論には、欠けているものがあると思います。

というのは、国際社会における「法の支配」は各国の国内における「法の支配」と緊密に結びついているのです。

プーチン政権になって以来この20年間、ロシア国内では、チェチェン紛争を批判するジャーナリストが暗殺され、人権団体が弾圧され、国内法もどんどん改悪されて、身の危険なくしては政権を批判できなくなってきました。

ロシアの国内法でも侵略戦争はいけないということはしっかり規定されているのですが、当然プーチン大統領には適用されません。ロシア国内で「法の支配」が形骸化しているのです。

ですから、この20年間プーチン政権がやってきたことのなれの果てがウクライナ戦争である、ということをまず見なければなりません。』

は非常に大事な視点ですね。

 申先生から2022年の段階で白井先生とともにこのお話をお聞きして、大事な視点だと思ってきました。

 それでは全編を是非お読みください。

【徹底議論】「平和構築」のためのリアル
ウクライナ戦争時代の「人権」を問う
第1回 国連や国際法は無力なのか、和平調停に活路は開けるか
申惠丰青山学院大学教授(国際法学)×東大作上智大学教授(国際政治学)【2023.5】

 

ウクライナ戦争をどう見るか

 

――東さんは『ウクライナ戦争をどう終わらせるか――和平調停の限界と可能性』(岩波新書、2023年)を出版されました。今のお考えをお聞かせください。

 

 

東 この本のサブタイトルは「和平調停の限界と可能性」なのですが、まず限界というのは去年(2022年)の3月29日にトルコの仲介で行われたウクライナとロシアの和平交渉が頓挫したということです。後のアメリカ政府関係者の話によると、少なくともウクライナとロシアの協議団の間では、ウクライナ側が提案した次の4点で合意していました。

 

  1. 2022年2月24日の侵攻前の国境までロシア軍が撤退する
  2. クリミアやドンバスの一部地域については、戦争が終わってから別途15年ほどかけて協議する
  3. ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)に入らないし、NATOの基地も置かない
  4. ロシアも含めたヨーロッパにおける新しい安全保障の枠組みを作り、こういう戦争が二度と起きないようにする

 

当時の報道を見ると、ロシア側はこれならプーチン氏も「特別軍事作戦」によってウクライナがNATOに加盟しないという確約を得たので目的は達成したと国内的に言えると評価していました。他方、ウクライナ側も2月24日のラインにまで一旦押し戻したことで勝利したと言える。双方が勝ったと言える現実的な内容で、実際にロシア軍はキーウ周辺から北方戦線については撤退しました。しかし、その後キーウ近郊のブチャでロシア軍による民間人の殺害が発覚し、当時のイギリスのジョンソン首相やアメリカのバイデン大統領がこれは戦争犯罪であってプーチン氏の責任を問わないといけないとSNSやメディアで発信しました。これを受けて、プーチン氏は交渉を打ち切ってしまった。ですから、悲惨な戦争を一刻も早く、しかもウクライナの人々はもちろん、双方が受け入れられる形で終わらせるのは容易ではありません

 

ただ、このまま延々と戦争を続けるのは危険な選択です。ひとつ間違ってロシアが核兵器を使えば西側が対抗して世界大戦になってしまうかもしれませんし、ロシアのミサイルがポーランドなどNATO加盟国に落ちてしまったらアメリカは軍事介入すると言っていますので、これも世界大戦になるおそれがある。今回の戦争はこれまでの地域紛争と違って、いつ核を伴う世界大戦になるかわからない戦争でもあるので、やはり少しでも早く終わらせるという考え方は大事です。でもそのときに、6千発の核兵器を持つロシアから軍事作戦のみで「無条件降伏」を勝ち取るのが現実的に難しいとすれば、どこかで両者が合意しないと戦争は終わりません。では、両者が納得できる線は何か。私は去年一旦合意しかけた3月29日の提案がそのひとつの土台になると思います。その意味で、和平交渉の可能性を捨てることはできないということです。

 

――申先生は国際法をご専門としておられますが、その観点から今回のウクライナ侵攻をどう見てらっしゃいますか?

 

 

申 まず、安保理(国連安全保障理事会)で本来、安全保障に主要な責任を持つべき常任理事国がみずから侵略戦争を起こしてしまっていることの重大さは本当に強調してもしきれないと思います。こういうときに国際法に何ができるのかというのは、大きな課題として当然あります。そのうえで、国際法の無力さに失望したとか、国際法は結局守られないじゃないかと、国際法だけを見た議論には、欠けているものがあると思います。というのは、国際社会における「法の支配」は各国の国内における「法の支配」と緊密に結びついているのです。プーチン政権になって以来この20年間、ロシア国内では、チェチェン紛争を批判するジャーナリストが暗殺され、人権団体が弾圧され、国内法もどんどん改悪されて、身の危険なくしては政権を批判できなくなってきました。ロシアの国内法でも侵略戦争はいけないということはしっかり規定されているのですが、当然プーチン大統領には適用されません。ロシア国内で「法の支配」が形骸化しているのです。ですから、この20年間プーチン政権がやってきたことのなれの果てがウクライナ戦争である、ということをまず見なければなりません。

 

今回プーチンはウクライナの抵抗を過小評価したと言われています。ロシアの中で政権に情報を上げる人たちがプーチンの喜ぶことしか言わない、不都合な情報が上がってこない。その結果、全体を見る目が曇ってしまったということが指摘されています。これも専制主義体制に特徴的な脆さです。

 

いま、国連や国際法の役割とは

 

――国連や国際法は無力だという声も聞かれます。

 

東 国連や国際法の無力さについて言えば、安保理の常任理事国には拒否権が与えられているため、これらの大国がみずから侵略したときには国連は止めきれないという点は確かにあります。今回は常任理事国のロシアが侵略していて、安保理決議を通そうとしてもロシアが拒否権を行使するので当然通らない。しかし、もし安保理決議が通ってロシアに撤退しなさいと言ってもロシアが撤退しなかったら、安保理としてはもう次に行動を起こさなければいけなくなるので、そうすると多国籍軍がロシアと戦うことになって世界大戦になります。つまり、安保理の拒否権は、ある意味で今回のような事態がそのまま世界大戦につながらないように、つまり第三次世界大戦を防ぐために作られた部分もあることは押さえておくべきだと思います。

 

そのうえで、今回安保理が機能しないとわかった後、ロシア軍がウクライナから即時撤退すべきだという国連総会決議が世界141カ国の賛成で成立したことは非常に意義があります。20数カ国の棄権はありましたが、決議に反対したのはロシアを含めてわずか5カ国です。いま世界はまだ55%ぐらいが非民主的な国家と言われていますが、そうした国々もこの決議に賛成し、ロシア軍は撤退すべきだと言っています。これは、他国に勝手に攻め込んで、領土を増やしたり傀儡政権を作ったりしてはいけないという国際ルールとして一番大事な点について、統治体制を問わず広く合意があることを国連総会決議という形で具体的に示せたということです。ここに国連のひとつの役割があります。ロシアが大義のない戦争をしているとほぼ世界全体の合意として示せた点は、長い目で見てこれから撤退に向けて動いていくときに非常に重要です。ですから、国連の役割が全くなくなったわけではないと私は考えています。

 

もうひとつ、戦争中にいろんな人道被害を被っている人たち、戦争によって生きていくことすら難しくなった人たちに食料や水を届けるというのはやっぱり国際機関じゃないとできないところもあります。そういう人道支援、戦争が終わるまで生きながらえることを支えるのも国際機関の役割です。そうした事実に基づいて国連の意義をみんなで認識する必要はあると思います。

 

 

申 安保理の拒否権についてもそのとおりだと思います。今回ロシアがいるために安保理の決議は採択できない状況ですが、他方でロシアを安保理や国連から放逐しようという話になると、それでいいのかという問題になります。仮にロシアを国連から放逐しても地上からいなくなるわけではありません。ロシアを巻き込んだ形で安全保障を考えていかないといけない。ロシアを排除すればそれで済む話ではないのです。国連安保理の体制含め、今後の体制を考えるという大きな宿題があると思います。

 

また和平調停の可能性について、少なくとも昨年2月24日以前の国境線にロシア軍が撤退することで合意することが一番現実的だと私も思います。そのときに、先程のブチャの虐殺のようなことはもちろん重大な国際人道法違反で追及しなければならないことです。ただ、そういう戦争犯罪や人道に対する罪を実際に処罰するまでには非常に時間がかかります。裁判過程に乗せるためにはきちんと捜査をし、記録にとって、それを裁判の過程で立証してから判決を下す必要があります。これは何年もかかるプロセスなのです。しかし、その戦争犯罪の責任が確定するまで和平しないというわけにはいきませんので、戦争犯罪の追及はしっかり行っていくとして、まずはできる限り早期に和平調停を試みて、全面的な破壊が続いているいまのウクライナ戦争を止めなければいけないと思います。

 

 

 

 

【徹底議論】「平和構築」のためのリアル
ウクライナ戦争時代の「人権」を問う
第2回 戦争犯罪と和平交渉のジレンマ、武力や経済制裁の限界
申惠丰青山学院大学教授(国際法学)×東大作上智大学教授(国際政治学)【2023.6】

ウクライナ戦争が突きつける戦争責任と和平交渉の厳しい現実。それと向き合いながら、分断が進む国際社会をいかに紡ぎなおすことができるのか、そのときに私たちにはどのような視点が必要になってくるのか。青山学院大学教授の申惠丰さんと上智大学教授の東大作さんによる、国際平和をつくるための方途を探る対談、第二回目の連載です。

 

戦争犯罪をいかに問うか

――戦争犯罪というものに向き合ってこられたお二人から見て、今回のウクライナ戦争における責任、特にプーチン大統領の責任をどう捉えるのかという点についてお聞かせ頂けますか。

 

東 これは本当にセンシティブな問題です。かつてとは違い、いまはどの国も戦争犯罪にとても気を使うようになっています。民間人の犠牲を減らさなくてはならないという意識が広がってきたという意味でこれは進展です。ただ、軍人なら殺してもよいかというと、そういうことにはならないと私は思います。その意味で、今回の戦争については、それを決断して司令を出したプーチン氏の戦争責任は自明です。

 

 

一方で、今回の和平合意の条件に、プーチン氏が権力の座にいる間でも国際法廷で彼を起訴することを入れてしまうと、彼が合意に応じることはないと思います。でもだからといって、彼を起訴したり逮捕したりしなくてよいというのは不正義ではあります。なので、起訴・逮捕の条件を付けてプーチン氏が合意に応じるまで戦争を続けるか、一旦戦争を終わらせた方がよいと思うか。この決断は非常に難しいところです。歴史的には、大国が小国に一方的に軍事介入をしたときには、小国は自分たちの領土を回復することを当面の最大目標とし、大国を撤退させたら一旦戦争を終えるという戦略をとってきました。国家間戦争も内戦も何を優先するかを選択しなければならないときがあります。もちろん、どうするかはウクライナの人たちの判断ですが、同時に国際社会としてどう考えるのかということで言えば、私はやっぱりまず戦争を終結させる必要があると思います。そのうえで、きちっと戦争犯罪の真相を究明することから始めるべきです。現実主義者のようで少々お恥ずかしいですが、そうした現実の中で戦争犯罪の問題を乗り越えていかなくてはなりません。

 

申 本当に難しいですよね。ICCInternational Criminal Court: 国際刑事裁判所)の画期的なところは、いかなる公的地位にも関係なく訴追対象になるというところです。そこにはちゃんと理由があって、権力者ほど大規模な犯罪を犯すことができるからです。権力機構を動かしてジェノサイドや人道に対する罪を犯すのは権力者ばかりです。今回、実際にプーチン大統領に逮捕状がでました。ロシアは侵略の罪については非締約国ですから管轄が及ばないので、今回はウクライナの子どもたちをロシアに強制移送したという容疑です。ICCに入っている国には協力義務がありますから、もし彼がそうした国に行った際には彼の身柄を引き渡すという話にもなりかねません。この意味で大国の指導者に逮捕状がでたことは画期的なことです。一方で、これはプーチン氏が何としても権力にしがみつくモチベーションを与えてしまったという側面もあるとは思います。

 

 

それと、プーチン大統領は当然起訴されるべきですけれど、彼の訴追を和平の条件にするというのは私も非現実的だと思います。旧ユーゴの内戦などでもそうでしたが、現実的には彼が権力の座を退いたときに罪を問われるというのが一番考えられるパターンだろうと思います。

 

「グローバルファシリテーター」とフェアな視点

――ウクライナ戦争によって国際社会はこれまでとは異なる局面になったと思いますが、そうしたなかでも平和の可能性を探っていくためにどのようなことが重要になるでしょうか。

 

 短期的にできることと、長期的に目指していくべきことがあると思います。短期的には、やはりロシアがいまのように侵略しているなかでは、国連が一致して世界各地の紛争調停のために動くのは難しいのが現実です。ですので、当面は紛争地域の周辺国や関係国が仲介や交渉調停をやっていくしかないと思います。そのときに、日本も和平調停や平和構築の仲介役としての「グローバルファシリテーター」という役割を果たせると思いますし、実際にこれまで日本は少なからずその役割を担ってきました。例えば、IGAD(Inter Governmental Authority on Development:政府間開発機構)という東アフリカの地域機構があります。南スーダンで内戦があったときにそこが仲介をして和平交渉を進めていましたが、日本はこのIGADの仲介を2017年ぐらいから財政的に支援し、結局2018年9月に和平合意に至りました。その後も南スーダンの橋づくりや水道整備など、インフラ支援を根気強く続けています。このように日本は海外での支援については、中東やアフリカで非常に評価されています。こうした経験や立場を活かして、大国がまとまってできなくなってしまっていることを日本がバックアップする、場合によっては地域機構と一緒に作業をやっていくというのが、これからの日本の新たな役割になってくるんだと思います。

 

 

長期的には、なんとかロシアのこの戦争を終わらせて、もう一度「領土を侵さず国家主権を尊重する」といった大原則を共有し、実現するための国連の体制、枠組みを作る努力をしなければならないと思います。

 

申 まったく同感です。他国の領土保全を武力で侵すことは禁止されているという国連の大原則にまずは立ち返るべきです。つまり、ロシアの今回のウクライナ侵攻はあくまで違反であるという法的評価をしなければなりません。

 

他方で、私が指摘したいのはその大原則を破ってきたのはロシアだけでなく、西側諸国、アメリカも散々やってきたわけですし、日本も加担してきた面もあるということです。ベトナム戦争にせよイラク戦争にせよ、まったく正当化できない大国の一方的な武力行使に対して、日本は同盟国であるアメリカのやることには異を唱えてこなかった。そういうダブルスタンダードがあっては、ロシアに対する違反の主張も弱くなってしまいます。なので、日本も含めて大原則にきちんと立ち返り、自らの襟を正す。国際法違反については自国の友好国であってもきちんと指摘をするという、本当に基本的なことですけどそういうことをしていかないと結局、国際社会が分断されてそれぞれの陣営がそれぞれの陣営の見方から話しているだけになってしまいかねません。

 

 

 同感です。2003年のアメリカによるイラクへの軍事侵攻は、ネオコンと呼ばれる人たちの幻想に基づくものでした。つまり、アメリカが軍事介入してサダム・フセインの独裁政権を倒し民主化すればイラクの人たちはハッピーだし、それでイラクが親米国家となればアメリカにとってもハッピーだし、もしかしたらそれが民主化のドミノになって世界中に波及すれば世界的にもハッピーだという幻想のような考え方に乗って、イラク侵攻を始めたのです。しかし、それだけでは軍事侵攻の説明としては大義が得られない。そこでイラクが大量破壊兵器を持っているという理由を付けて侵攻を行いましたが、結局、大量破壊兵器を持っていたという証拠は見つからなかった。つまり、根拠なく軍事侵攻したわけで、当時の国連事務総長であったコフィ・アナンはあれも国際法違反だったと後で明言したわけです。

 

武力では解決できない

――いまのウクライナを見ても、戦後の西側諸国が行った戦争を見ても、軍事侵攻で状況を変えようという動きはあまりうまくいっていないように思います。

 

 イラクでは度重なる内戦ですでに50万人ほどが亡くなっていて、アメリカは撤退し、現在は親イラン派の政権つまりアメリカの敵国に非常に近い政権になっているわけです。ですから、元々の目的をまったく達成できていないわけで、軍事的に他国に介入して無理やり変えようというのは相当難しいことはこれまでの経験則として明らかになっています。

 

また、アメリカの軍事侵攻については国内からも批判的世論が巻き起こりました。そのため、アメリカがこの20年間ぐらいとってきた方法が「経済制裁」です。2018年以降もイラン、ベネズエラ、アフガニスタンなど、米国が敵とみなす体制に次々と経済的な制裁をかけてきました。しかし、これもうまくいっていない。なぜかというと、何のための制裁なのかがはっきりしていないからです。制裁をかけられる方も何をしたら制裁が解除されるかわからないのでどうしようもないわけです。同時に、いつどんな理由で制裁されるかわからないということで、第三世界の国々からすると西側諸国への不信感は高まります。ここでも理由がはっきりしないままに強制力を用いて他国に介入し、何かを変えようとするのは難しいことがわかります。だからこそ、国境を超えた人と人の対話やコミュニケーションを続けていくというのが決定的に大事になってくるのだと思います。

 

 

 専制的な国がみんな侵略戦争をするわけではない、ほとんどの国は原理原則を守っているということをまず確認したいと思います。逆に、アメリカが典型的ですが、民主主義国家が自身の正義感から軍事介入することは非常に厄介です。彼らは目的を達成するまで延々と戦い続けることになりかねないからです。私の見るところ、人道や人権を目的にした軍事介入というのは惨憺たる悪循環の歴史です。イラクについて言えば、イラク戦争からIS(イスラム国)が生まれたというのはもう定説です。

 

リビア紛争への介入の際には「保護する責任」という概念が用いられました。元々はルワンダのジェノサイドを国際社会が防げなかったというところから考え出されてきた概念です。「保護する責任」は人道危機を事前に防ぐ責任、事態が起きたときに対応する責任、介入後の再建する責任というように人道危機に対するトータルな介入を考えます。リビア紛争の際にこの概念が初めて適用され、当時のカダフィ政権による残虐行為から人々を守るという名目で国連安保理決議が採択されたのを受けて、NATO諸国がリビア空爆を行いました。しかし、結局それは単なる軍事介入に過ぎなかったのです。カダフィ政権がいなくなったからよかったという素直な意見もあるでしょうが、その後のリビアの再建をどうするのかについて誰も責任を持って考えていないし、対応もしていない。実際、リビアではその後もう無茶苦茶の内戦状態になって武器が流出し、今に至るまで、アフリカからヨーロッパに渡ろうとする難民たちが捕まって奴隷として売られてしまうようなことが横行する国になってしまっています。

 

やはり外国が武力で一国の体制を作るなんてできるわけがないんです。武力は破壊を行うことはできますが、再建ができないからです。こうしたこれまでの惨憺たる歴史に学んで行かなければなりません。

 

 

 第3回の

【徹底議論】「平和構築」のためのリアル
ウクライナ戦争時代の「人権」を問う
第3回 フェアな視点の国際協調と和解こそ、現実的な安全保障
申惠丰青山学院大学教授(国際法学)×東大作上智大学教授(国際政治学)【2023.6.24】

は字数制限のため、リンク先からお読みください。

 

申惠丰

青山学院大学法学部卒業、東京大学で修士号(法学)、ジュネーブ国際高等研究所でDES(国際法)のち東京大学で博士号(法学)取得。専門は、国際法、国際人権法。国際人権法学会理事長、日本平和学会理事、世界法学会理事などを歴任。現在、青山学院大学法学部長・ヒューマンライツ学科教授、同大学院法学研究科長。近著に『国際人権入門』(岩波新書)

 

東大作

東北大学経済学部卒業、ブリティッシュコロンビア大学で修士号および博士号(政治学)取得。専門は、和平調停や平和構築を中心とする国際関係論。NHKディレクター、国連アフガニスタン支援ミッション(カブール)和解再統合チームリーダー、東京大学大学院准教授、国連日本政府代表部公使参事官などを歴任し、現在は上智大学グローバル教育センター教授(国際関係研究所、人間の安全保障研究所を兼務)。近著に『ウクライナ戦争をどう終わらせるか』(岩波新書)

 

 

 

友だちを助けるための国際人権法入門

申 惠丰、 桂川 潤 | 2020/4/28

 

ロシア政府に不利なことには口を閉ざす橋下徹氏のようなご都合主義者や伊勢崎賢治氏ら反米拗らせ論者が、イスラエル政府だけをいくら非難しても説得力がない。

国際刑事裁判所が戦争犯罪容疑でプーチン大統領らに逮捕状発令。国連人権理事会が殺害・性的暴行・子どもの連れ去りなどロシア軍の戦争犯罪があったとする調査報告書を公表。橋下徹氏、伊勢崎賢治氏らは沈黙。

国際刑事裁判所(ICC)から子どもの連れ去り容疑で逮捕状が出ているロシアの「子どもの権利」担当のリボワベロワ大統領全権代表が「ウクライナから子ども70万人以上を受け入れた」と言い出した(恐)。

プーチン大統領にも逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官が、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ住民への支援物資供給を妨害することは戦争犯罪に該当する可能性があると警告!

 

申先生がおっしゃっている

「ICCInternational Criminal Court: 国際刑事裁判所)の画期的なところは、いかなる公的地位にも関係なく訴追対象になるというところです。そこにはちゃんと理由があって、権力者ほど大規模な犯罪を犯すことができるからです。権力機構を動かしてジェノサイドや人道に対する罪を犯すのは権力者ばかりです。今回、実際にプーチン大統領に逮捕状がでました。ロシアは侵略の罪については非締約国ですから管轄が及ばないので、今回はウクライナの子どもたちをロシアに強制移送したという容疑です。ICCに入っている国には協力義務がありますから、もし彼がそうした国に行った際には彼の身柄を引き渡すという話にもなりかねません。この意味で大国の指導者に逮捕状がでたことは画期的なことです。一方で、これはプーチン氏が何としても権力にしがみつくモチベーションを与えてしまったという側面もあるとは思います。」

というご指摘も非常にバランスが取れていて、さすが専門家です。

対談から1年半も気づかなくて本当にもったいないことをしました。

上下ともクリックしてくださると大変うれしいです。

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Unknown (imugjp)
2024-01-17 08:35:17
ガザもそうですがウクライナもなぜ弱者が不幸にならなければならないんでしょうか。このような事態は非常に悲しいです。
国連の場合は常任理事国ですが、権威を持つものが腐ると弱者が苦しむというのは国内の政治のみならず、世界をも不幸にするということですね。
私にはウクライナ人の友人がいます。お父さんはロシア出身でお母さんはウクライナ出身だそうです。そんな両親の母国同志で戦争を行っていることに大変悲しんでいます。友人は日本人と結婚して今は日本在住ですが、自分の住んでいた国が破壊されたり、ウクライナで犠牲になっている子ども達の報道がなされるたびに涙が出るといいます。
実際に攻撃されている街に住んでいる方々の恐怖と悲しみはそれ以上でしょう。
私の亡き母は戦争を経験しています。生前、母は戦争のドキュメント番組や戦争を扱ったドラマがテレビに映し出されるとチャンネルをかえるほど拒否反応を示していました。高齢になっても忘れられないほど、それだけトラウマを抱えていたということです。亡き叔母も隅田川のあたりが真っ赤に燃えていたのを覚えていたそうです。人々が築いてきた社会、絆、生活…すべてを破壊するのが戦争です。そんなことを絶対許してはいけません。
ありがとうございます (raymiyatake)
2024-01-17 23:19:01
いつも良いコメント、今日は特に貴重なお話をありがとうございます。
ご友人ご夫妻がそんな辛い思いをされていて、imugjpさんもさぞお辛いでしょう。

ご親族から直接戦争体験を聞いた世代も減ってきましたね。

どちらの戦争も早く終わらせられるように、またこの地球から戦争をなくせるように、共に微力を尽くしましょう。
これからもよろしくお願い致します🤲
Unknown (imugjp)
2024-01-29 14:29:08
 毎回ログインしなければならないのは面倒だなぁと思っていたところ、アプリがあるというのでインストールしたら「コメントに返信が来てます」というメッセージが表示され、いま先生のメッセージに気づきました笑
 当のウクライナの友人は、まだウクライナにいるときにご友人達とウクライナの国内旅行をしたときの画像や、絵はがきを送ったりしてくれました。写真の中に写っている人達は、この時、戦争に巻き込まれるなんて思っていなかったと思います。美しい風景が荒野に、戦場にされてしまうなんて許せません。
 「祖国のために戦えるか?」ではなくて、「世界中の人々が笑顔で暮らせるよう、ひとりひとりが考えてみませんか?」というべきですよね。
gooのアプリ、まずまずイケてますよね(笑) (raymiyatake)
2024-01-29 14:43:28
4年前に手術して入院している時なんかは、スマホのアプリからブログ投稿することもあったんですよ(笑)。

imugjpさんもぜひリベラルブログ、始めてみてください!
そういえば! (raymiyatake)
2024-01-29 14:45:25
この記事について、昨日の日曜日、申先生からメールが来たのでした。

『青山学院大学の申です、ご無沙汰しております。お元気でいらっしゃいますか。

私はこの間酷い風邪にやられてしまい、どれだけ強烈な菌なのか、熱と頭痛で木曜から昨日土曜まで完全にダウンしていたのですが、今朝ようやく息を吹き返しました。。。

それで思い出したのですが、相変わらず大学の学務に忙殺され酸欠状態?のような中で清らかな空気を求めて先生のブログをクリックしましたら

自分の顔が大きく出てきてびっくりしました。市民連合の記事を取り上げて下さったのですね。ありがとうございます。

先生のリベラルブログの存在は本当に、ネット社会のオアシスであり日本の市民社会の宝だと思うのですが、そのようなブログに光栄です。

国際法秩序が危機にある中で、事は国際法だけでなく法の支配全体であること、かつ

トランプ政権の再来という脅威を前にして、国際法を守る政権を作れるかどうかは国内社会(この場合アメリカ社会)の力にかかっていること、をつくづく思います。

先生、これからもどうぞよろしくお願いいたします!』


過分のお言葉、痛み入ることでございましたm(__)m

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