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武器輸出を制限している政府の防衛装備移転三原則の運用指針の見直しをめぐり、自民、公明両党がとりまとめる報告書の内容が分かった、と2023年6月29日の朝日新聞が報じています。
『移転の目的に「国際法に違反する侵略や武力の行使、威嚇を受けている国への支援」を追加するよう記し、移転の対象国を広げられるようにする。』
としており、ロシアがウクライナに侵略していることを奇貨として、ウクライナへの兵器輸出をして、それを突破口に「死の商人」=武器輸出大国になろうとしていることが露骨に表れています。
私はこのウクライナ戦争を口実に岸田政権が武器輸出解禁を狙うことを批判するために
自公の協議で、安倍政権からの防衛装備移転三原則はそもそも殺傷能力のある兵器の輸出さえ禁止していないと言い出した。武力不保持を規定する憲法9条を持つ日本が武器を輸出することは憲法違反に決まっている。
などの記事を何度となく書きました。
そして、その記事の末尾の編集後記で以下のように書いたところ、ご存じ白井邦彦先生が反論の記事をアップされたと先日お知らせがありました。
まず、私の編集後記はこれ。
『ちなみに、日本はウクライナに防弾チョッキやヘルメットを支援し始めましたが、これはウクライナは「安全保障面での協力関係がある国」に当たらなかったため、ロシアがウクライナに侵略を開始した直後の2022年3月に、岸田政権が運用指針を改定して「国際法違反の侵略を受けているウクライナ」との項目を加え、自衛隊の装備品を譲渡する形で支援しているのです。
岸田政権はこれをさらに殺傷能力のある兵器までウクライナに供与しようともしているわけですが、ウクライナは紛争当事国の最たるものなのですから、これは安倍首相が作った防衛装備3原則にさえ反しますし、そもそももちろん憲法9条にも反します。
岸田首相がゼレンスキー大統領の来日旋風に便乗して、武器輸出への道を開くために戦闘用にも改造できる自衛隊車両100両を提供するのは憲法9条違反。日本がウクライナに貢献できることは非軍事分野にこそある。
ところでこの自公政権の動きについて、ウクライナへのNATO加盟国からの軍事支援に反対している白井邦彦先生がnoteで
ウクライナへ殺傷能力ある武器輸出へと進む日本政府-「NATO諸国の武器供与は容認するが日本が行うのは反対」は成り立たない-
日本、ウクライナ支援として米に砲弾供与協議-「徹底抗戦支持・NATOの武器供与は容認だが日本が行うのは反対」はいよいよ成り立たない!その先は・・・
などと盛んに「日本の軍事支援は否定してNATO諸国のそれは認める理屈は成り立たない」と主張されているのですが、これは全くの誤解で、もちろん成り立つんです。
まず、ウクライナの市民の命を救うために、ロシアによる市民の殺戮を防ぐ必要があるので、NATO諸国はウクライナへの軍事支援を今やめるべきではありません。
しかし、それぞれの国が国内法秩序でできることとできないことは厳然としてあります。NATO加盟国がしていることは日本もできるとかしなければならないとか言うものではありません。
日本には憲法9条があって本来は自国も戦争放棄と共に武力の不保持を規定している国ですから、まして武器を他国へ輸出する、それも特に殺傷能力のある兵器を輸出したらすぐに戦争で使ってしまうウクライナのような紛争当事国に輸出するなんて、日本の国内法の最高法規である憲法に違反するので全くできません。
それは他国が国際貢献としてPKOやPKFが自由にできても、日本にとってはある一定以上の自衛隊の派遣は憲法9条違反の海外派兵になるのでしてはならないのとまったく同じです。
これについては、イラク派兵差し止め訴訟で違憲判決が確定しています。
なので、それぞれの国で国内法秩序が違うのですから、欧米諸国ができることでも日本にはできないことがあるのはむしろ当たり前で、これは法の常識です(これが全くわかっていない橋下徹氏のようなトンデモ法律家もいるから困るんですが(-_-;)
ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃来日しG7広島サミットにも参加。せっかく憲法9条を持ち戦争放棄と武力不保持を誓った日本は、ウクライナに殺傷能力のある兵器を供与することだけはしてはならない。
白井先生は経済学者なので、上の二つのnoteの記事に日本国憲法のことが全く出てこないのですが、法律家からしたら、日本は国内法規で武器輸出をできないから他の非軍事・人道分野でウクライナに貢献するが、他の国は自国の法規に従ってやってくださいというのは当然のことなのです。
まして、ロシアは国連加盟国が共通して皆守らなければならない国連憲章という国際法秩序に反して侵略しているのですから。』
国連が行なっているPKO全般の是非とは無関係に、実際に行われた自衛隊のイラク派遣の実態は憲法9条に照らしてやり過ぎだとして違憲判決が出たことが重要。
PKO自体を否定しなくても自衛隊のイラク派兵は違憲だと主張できるように、NATO諸国のウクライナへの軍事支援の是非とは無関係に、日本が武器を供与することは文句なく違憲だと言えるのだ。
憲法9条2項がなければ、日本はアフガン・イラク・湾岸・ベトナム・朝鮮戦争に本格的に参戦していた。
なぜ、憲法9条に自衛隊を書き込んではならないのか。「違憲の軍隊」だからこそ存在した歯止めはすべて崩壊する。
これに対する更なる白井邦彦先生のnoteの記事が
『「日本の武器供与反対」はやはり「即時停戦」と同時に主張すべき-宮武弁護士のご指摘への回答として-』
で、その冒頭が
『宮武弁護士と私の間では、「ロシア政権による侵略占領は許されない」「日本がウクライナに武器輸出することは憲法違反で反対」「9条改憲には反対」という点については認識の違いはないと思っています。
それゆえ見解の異なる点にしぼって述べていきたいと思います。
私も上記の「 」内の点は強く思っていることであり、「ウクライナへの武器輸出は合憲・賛成」「9条改憲に賛成」でも全くありませんし、ましてや「ロシア政権による侵略占領容認」という立場でもありません。そして以下の文章にはそれらを主張する意図は全くないことをあらかじめて強調しておきます。
その点誤解がないようにくれぐれもお願い申しあげます。
5/21に行われたゼレンスキー氏の会見詳細です。
ゼレンスキー大統領会見詳報|山形新聞 (yamagata-np.jp)(5/21)
「Q ・・・日本や韓国に殺傷能力のある兵器の供与を求めるか。
A ・・・・(日本や韓国など)もちろん武器供与が可能な国から供与してもらいたいのが本音だが、法的な制約も理解している。」(上記記事より直接引用)
ここでゼレンスキー氏は「日本の法的制約は理解している」と明確に述べています。当然バイデン政権はもっと日本の法的制約は理解しているでしょう。そしてこの発言がなされてから1か月ほどですが、その間にすでにウクライナ向けへのアメリカの弾薬用の火薬供与、そして砲弾供与が求められています。
「法的制約の存在は理解」したうえで、それでも日本に武器供与を求めている、というのが現状です。そうした現状にあるということを議論においてまず認識する必要があると考えます。
主張1「ウクライナの戦いを支持し、そのためのNATOの武器供与は容認する。しかし日本には憲法9条が存在し紛争国への武器輸出は禁止されているため、ウクライナの戦いにおいて日本の有する武器が必要であっても、憲法9条の制約から武器供与はできないことになっている、だから日本の武器供与には反対する」
主張2「ウクライナの戦いを支持し、そのためのNATOの武器供与は容認する。しかし日本には憲法9条が存在し紛争国への武器輸出は禁止されているいるため、ウクライナの戦いにおいて日本の有する武器が必要であっても、憲法9条の制約から武器供与はできないことになっている、だからウクライナへ武器供与を行えるよう9条は改定すべきだ」
この2つの主張を比べた場合、どちらが論理的に整合しているでしょうか。
私は9条改憲反対・日本の武器供与反対ですが、「ウクライナの戦いを支持し、そのためのNATOの武器供与は容認する」を前提として認めてしまったら、主張2のほうが論理的には整合的とせざるをえません。
つまり「ウクライナの戦いを支持し、そのためのNATOの武器供与は容認する」を前提として認める一方で、日本の武器輸出反対を憲法9条をもとに主張すると、「9条改憲」論をアシストすることになってしまうのではないでしょうか?まずこの点疑問と危惧をもちます。さらに万が一憲法9条が紛争国への武器輸出可能なように改定されたら(私は絶対反対ですが)、「日本の武器輸出賛成」となってしまうのでしょうか?
宮武弁護士のブログの拙稿批判を一読して最初に感じた疑問と危惧です。』
というものでした。
このあとまだ白井先生のご主張は続くのですが、それは白井先生のこのnoteの記事で読んでみてください。
私は、再反論を書くかどうか迷って、そもそも先生の言われるような主張2を唱えている論者って存在するのですかと白井先生に直接メールでお尋ねしましたら、白井先生もそういう人は知らないということでした。
それなら、論者が存在もしない主張に対応しても仕方ないので再反論はやめておこうかなと思っていたのですが、ちょうどスイスの今の動きが私からのご回答になるので、ご紹介したいと思います。
さて、スイスはウクライナ侵略が始まった直後の2022年2月、欧州連合(EU)に追随してロシアへの経済制裁に踏み切りました。
スイスはロシアのウクライナ侵略を非難する側にはっきり立ち、なおかつ経済的な制裁なら参加もしているわけです。
ところが、スイスは軍事的には永世中立国であり、1907年のハーグ条約でスイスの戦争不参加の義務などが明文化されており、さらにそれに基づき紛争当事国に直接武器を供与するだけでなく第三国から再輸出することもスイスは「戦争物資法」などの国内法で禁じています。
したがって、スイスの連邦会議(内閣)は2023年6月28日、スイス国営軍需企業ルアグ(RUAG)が保有する戦車96両について、ウクライナへの移転を行わないと発表しました。
また、スイスはロシアの侵略開始直後以降ずっとウクライナやNATO加盟国からかなりの圧力を受けているのですが、それらの国が保有するスイス製兵器をウクライナへ移転する許可も出しておらず、拒否し続けています。
つまり、スイスはロシアの侵略を非難しロシアに対する経済制裁には加わってはいても、自国の国内法で禁じている直接の武器の供与も第三者を経由しての武器の供与もしないのです。
NATO加盟国からウクライナへの軍事支援の是非とはかかわりなく、スイス自身は自国の国内法でできないことはできないし、しない。
これって、法律家でなくても常識的に見て至極当然のことですよね?
国内外からどれだけ圧力がかかっても、スイスの中立義務には国内法的に法的拘束力があり、そのためスイスはウクライナへの戦車の輸出も他国に輸出した兵器の再輸出も拒否。
スウェーデンやフィンランドがロシアのウクライナ侵略を機にすぐにNATO加盟に動けたのは、両国の中立が法的なものではなく、外交政策に過ぎなかったから政策の転換でNATO加盟を申請できた。
スイスの場合には、永世中立がウィーン議定書という条約によって国際法的な効力を持ち、それが国内法の規範にもなっているため、ウクライナへの兵器輸出や再輸出は国内法の法規範から許されない。
日本がウクライナに武器を供与してはならない、だから供与しないこともスイスと全く同じ理屈で正当化されます。
そもそも、日本の国内法の最高法規である日本国憲法の第9条は
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
と定めて、日本自身が武力を保持しないと明記しています(政府見解ではいろいろ理屈をつけて自衛隊の装備は合憲だとしているわけですが)。
ですから、もちろん殺傷兵器を他国へ輸出したり無償で供与することが憲法9条2項に反して許されないのは当然です。
日本もスイスと同じように、自国の国内法秩序に反するからウクライナへの軍事支援はしない、それは法の世界では常識だときっぱりと断ればそれでいいだけなんです。
https://t.co/an7K9x2d5Q
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) June 27, 2023
深草徹さんの6/25ブログ記事
ウクライナ侵略戦争で日本の左派・リベラルが古色蒼然の「アメリカ帝国主義論を引きずり、ロシアの侵略を糾弾する視点を失って相対化し、あるいはウクライナを非難し、ロシアを擁護する論を張ったりし」ていると厳しく批判している。強く同意。
とおっしゃるのですが、私は白井先生への私信のメールで
まして、永世中立の歴史が200年もあるスイスでさえロシアのウクライナ侵略を機に揺さぶられているのですから(だからこそ本当にロシアのやっていることは何重もの意味で罪深い)、日本の憲法9条を守る闘いは、ウクライナ戦争へのスタンスはどうであれ、そこは抜きにして大同団結していきたいものです。
日本国憲法改悪の危機。護憲派は「ウクライナ戦争」に対する意見の相違はさておき、国内的には自民党改憲案に反対する、憲法9条を守り緊急事態条項を阻止する、この1点で大同団結し直そう!
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スイス、ウクライナへの戦車移転を拒否 レオパルト96両
【6月29日 AFP】スイスの連邦会議(内閣)は28日、国有軍需企業ルアグ(RUAG)が保有する戦車96両について、ウクライナへの移転を行わないと発表した。
スイスはウクライナや友好国から圧力を受けても、他国が保有する自国製兵器をウクライナへ移転する許可についても拒否し続けている。
連邦会議は戦車「レオパルト(Leopard)1A5)」96両の国外移転は「現在の法律の下では不可能」だと表明。移転は「戦争物資法に違反し、スイスの中立方針を転換させるものだ」と説明した。
同国の戦争物資法は、国際紛争当事国への武器移転を全面的に禁じている。
今回の連邦会議による拒否表明は予想されていたものだが、スイス議会は軍事的中立方針の緩和を検討しており、一定の条件下で紛争当事国への兵器移転を認める法改正を提案している。(c)AFP
【ジュネーブ=森井雄一】ロシアの侵略を受けるウクライナにスイス製武器を供与する許可を求める声がスイス内外で高まっている。ロシアの侵略行為を糾弾しつつ、永世中立国の原則をどこまで貫くべきか連邦議会で議論が本格化している。
伝統
スイスはウクライナ侵略が始まった直後の2022年2月、欧州連合(EU)に追随する形でロシアへの経済制裁に踏み切った。「長年の伝統を破った」(英紙フィナンシャル・タイムズ)と評された。武器の再輸出を巡る議論は、これに続くものだ。
スイスの中立はナポレオン戦争後の1815年に欧州列強が承認したことで始まり、1907年に国際条約で戦争不参加の義務などが明文化された。紛争当事国に直接武器を供与するだけでなく第三国から再輸出することも禁じている。
不満
再輸出に向けた議論は、「外圧」が契機となった。
スイス政府は昨年6月、ドイツとデンマークからスイス製武器をウクライナに供与するための要請を受けたとし、「厳格な軍事的中立に基づき」許可しなかったと発表した。ドイツは自走式対空砲「ゲパルト」の砲弾、デンマークは装甲車の再輸出をそれぞれ求めていた。スペインは今年1月に大砲の再輸出を申請したが、却下された。ロベルト・ハベック独副首相は2月、地元紙のインタビューで「なぜスイスが砲弾を提供しないのか理解できない」と不満をあらわにした。
米紙ニューヨーク・タイムズは3月、「スイスは北大西洋条約機構(NATO)加盟国に囲まれ、何十年も守られてきたのに、これらの国を助けようとする意志を示さないとの不満が欧州で募っている」と報じた。
二つの顔
議会では、国内法を改正し、再輸出を容認するかどうかや、認める際の条件について議論が交わされている。容認派は「スイスがこの紛争に貢献していることを示すものだ」と訴える。55%が再輸出に賛成するとの世論調査がある。顧客を失いたくない軍需産業界も賛成論を後押ししている。
厳密な中立を求める声も根強い。議会最大勢力で保守派の国民党の議員は「武力紛争が起きている国に再輸出を認めることは、スイスの平和と繁栄の基盤を破壊する」と批判する。議会では1日、期限付きで再輸出を解除する法案が否決されたが、今後も一定の条件下で解禁を認める別の案が議論される見通しだ。
チューリヒ大のオリバー・ディッゲルマン教授(国際法)は「中立国でありながら武器を輸出していることがこうした状況に追い込んだ」と米紙で指摘し、「ビジネス」と「善人」であることを同時に追求する国のあり方を批判した。
ロシアのウクライナ侵攻により、スイスはロシアの個人資産没収から自国の中立性の放棄に至るまで、これまで考えられなかったような様々な要求に直面した。だが安定が続いてきたこの国で、変化はどれほど現実的なのか。現状の分析と今後の予測をまとめた。
ロシアの資産
金融機関に眠るロシアの資産を没収し、ウクライナ復興に活用するという考えが議論されているが、スイスはまだ具体的には動いていない。ただ国内外での圧力が強まる中、連邦政府の態度に明らかな変化が表れている。スイスのイグナツィオ・カシス外相は1月、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、凍結されたオリガルヒ(新興財閥)の資産が「ウクライナ復興の資金源になり得る」と発言。だが、そのためには法的根拠と国際的な協力が必要だとも述べた。
どちらとも取れる発言ではあったが、スイスの金融業界をざわつかせるには十分だった。連邦内閣でリベラル派・急進民主党(FDP/PLR)代表のカシス氏は、そのわずか半年前までは資産没収に強く反対していた。ルガーノでスイスが主催したウクライナ復興会議で、「危険な前例になる」と発言していたのだ。
同氏の発言に変化が表れたことで、次の2点が明らかになる。
第一に、スイスが率先して動くことはない点だ。これは今に始まったことではない。特に金融業界が絡むと、スイスは一貫して守りに徹してきた。対ロシア制裁では、悩んだ挙句に欧州連合(EU)に追随した。欧米の機嫌を損ねず、同時に世界の資産が恣意性から守られているというスイスの威信に傷を付けたくない――。そんなスイスには、まるで綱渡りのようなバランス技が求められる。
第二に、政治的な要求と照らし合わせると一筋縄ではいかない法的状況が垣間見える。所有権は連邦憲法で保障されているため、ロシアの個人資産の収用には法的根拠がないとする見方がスイスの法律専門家の間では多数派だ。スイス政府も今月15日、ロシアの個人資産の没収は憲法と一般的な法秩序に違反するとの見解を示した。専門家グループによる報告を受け、声明他のサイトへで明らかにした。
公平を期すために言うと、他の西側諸国でも状況は進展していない。現時点では、カナダとクロアチアがロシアの民間資産をウクライナ復興に転用すると発表しただけで、それ以外の国はどこもまだ議論中だ。ウクライナはもとより、東欧諸国や米国からの風当たりも強い。ただ米国は、民主党が下院多数派を失ったため仕切り直しになりそうだ。少なくとも共和党が広範な収用を支持するかどうかは疑問だ。
スイスに対する国際的な圧力が強い背景に、この国にオリガルヒが密集していることがある。銀行家協会の推定では、約1500億~2千億フラン(約22兆~29兆円)のロシア人資産がスイスの銀行に集中しているという。連邦政府はこれまでに、制裁を受けたロシア民間人が所有する75億フランと不動産17個を凍結した。ちなみにEUで凍結された資産は、全加盟国の合計で約190億ユーロ(約2兆7千億円)だ。
ロシア中央銀行の積立金もスイスの銀行が保有しているという。スイス連邦財務省国際金融担当部のファクトシートによると、ロシア中央銀行の資金の最大2%が関与している。公式には凍結されていないが、事実上、送金できない状態だ。一部の法律専門家は、没収の法的根拠が見つかるか、あるいは作り出すとしたら、まずこの資金がやり玉に挙げられるだろうとの見解を示している。
<予測>仮にスイスがそのような行動に出るとすれば(現在すでにその兆候が出始めたように)国際的な法的根拠がある場合に限られるだろう。
スイスの兵器
自国製軍需品の再輸出を認めないスイスは、欧米諸国から不評を買った。特に大きく取り上げられたのが、ゲパルト対空戦車(自走式対空砲)だ。戦車に使用されるスイス製弾薬をウクライナに再輸出したいというドイツの要求を、スイス連邦政府は拒否した。スイスはまた、スペインやデンマークからの申請も却下した。
ドイツが最近、一刻も早く弾薬の生産を自国で開始したいと表明したことを受け、スイスでは軍需産業の雇用を巡る議論が浮上した。実際のところ、軍需産業は経済全体から見れば取るに足らないセクターとの認識だ。金属、電気、機械工学の各産業における売上高のわずか2.5%に貢献しているに過ぎず、一方で政治的なロビー活動は盛んに行われている。スイスの軍需産業は、経済的な理由から輸出なしには現在の規模を維持できない。そうなればスイスは武器の自給自足が不可能となり、間接的には武装中立の原則にも反する、というのがロビイストの主な主張だ。そのためスイスの保守派は、軍需産業を弱体化させる動きに対し逐一敏感に反応する。
軍需品に関する連邦法は、第三国がスイスの軍需品を紛争当事国に再輸出することを禁止している。法律は1年前に強化されたばかりだ。左派や中道政党は、すでに長年にわたり軍需産業に圧力をかけてきた。今やウクライナ戦争が新たな推進力となり、左派政党までこの制約を問題視するようになった。
<予測>この点について、スイスが動くのはほぼ確実と思われた。連邦レベルでは、これに関係した法的根拠を設ける政治的な改正案が2件保留中だ。その1つは期間限定で、ウクライナ戦争に目的を限ったもの。もう1つは一般的な効力を持ち、国際法を根拠とする内容だ。つまり、国連安全保障理事会あるいは国連総会の3分の2が、紛争は国際法に反すると判断した場合にのみ、再輸出は許可される。ウクライナ戦争に関し、国連総会はすでに国際法違反であるとの判断を下している。ところが最近になって、再びその支持が揺らぎ始めた。
また、ウクライナのための法改正が時間的に間に合うかどうかも定かではない。スイスの民主主義には時間がかかる。スイス国内でさえ、遅々とした歩みに業を煮やす人は多い。そのため、様々な立場の政治家がそれを回避する方法を公然と議論している。1つには、スイスでお蔵入りしていた戦車をドイツのメーカーに再び買い取ってもらう方法がある。これは法律上、何の制約もなく可能だ。ドイツがその戦車を、例えばウクライナに戦車を回した国々に提供すれば、これらの国々は自国の戦車をまた補充できる。
中立性
昨年2月末、スイスがEUの対ロシア制裁に追随したことは、国際的に大きな反響を呼んだ。決定に時間がかかったことも一因だろうが、何よりもその反応から外国ではスイスの中立性があまり理解されていないことが浮き彫りになった。すでに1990年代から、制裁はスイスの外交政策の一部であり、スイスが他国と足並みを揃えるのは通例となっている。
スイスの中立性は、普遍的な原則としてはなく、純粋に軍事的なものであると認識すべきた。簡単に言えば、武力紛争に参加せず、紛争当事者に武器を提供しないことを意味する。これは1907年のハーグ条約で規定されており、スイスの公式見解では、現在も同規定に基づき中立性が定義されている。
過去にも、スイスが政治的な動機から同規定に違反したことはある。第二次世界大戦中や冷戦時代がそうだ。だがこうした動きは常に一時的なもので、それ以上に発展することはなかった。一方、現在議論されている軍需品に関する連邦法の改正は、事実上ウクライナへの間接的な武器供与を可能にし、中立法規を逸脱すると一部の専門家らは見ている。チューリヒ大学の国際法専門家オリバー・ディッゲルマン氏は最近、ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーのインタビューで、「いかにもスイスらしいやり方だ。(中略)中立法規上は不可能であることを、まるで知らないかのように振舞っている。そうすれば国際的な圧力をかわせると思っているのだろう」と述べた。
<予測>右派保守派の国民党(SVP/UDC)は現在、憲法改正により中立性の狭義の解釈を確保する国民発議(イニシアチブ)の署名を集めている。国民投票にかけられるのはほぼ確実だが、有権者の支持を得られる可能性は低いと言える。むしろ、これまでの慣例に戻る可能性の方が高い。つまりスイスの中立性は温存し、有事の際に必要に応じて解釈を変えるというスタンスだ。
エネルギー危機
昨年の夏から秋にかけ、スイスがエネルギー不足に陥るという懸念が新聞紙面を賑わせた。連邦政府は国民に省エネを呼びかけたが、入浴をシャワーに切り替えるよう推奨するなど、過度な節電を求める内容ではなかった。
温暖な秋に加え、欧州の様々なレベルで介入が行われた結果、エネルギー危機は回避された。特に外国からの液化ガス輸入が功を奏し、プーチン大統領のガス禁輸は懸念されたほどの爪痕は残さなかった。スイスではそのため、エネルギー論争がやや下火になっていった。
だが長期的な変化はあった。例えば天然ガスの新たなサプライチェーン、ヒートポンプ産業の急成長、そして何よりも生活費の上昇だ。スイスでは電気料金が大幅に上昇したため、そのしわ寄せが消費に及んでいる。インフレ率は欧州諸国と比べれば低いものの、1月のインフレ率は3.3%と、スイスにしては異例の高さだった。この状況に乗じて、スイスの脱原発やそのスケジュールを疑問視する政党も出始めている。
<予測>とは言え、スイスでは他国のように原発リバイバルが起こることはないだろう。インフレは、専門職不足に悩む干上がった労働市場で、雇用者の賃金対策によって吸収されると思われる。社会不安の心配はない。ただ現在、電力価格が時間差で上昇しており、国内ではエネルギー論争が再燃するだろう。
独語からの翻訳:シュミット一恵
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憲法があるからできないものはできない、やらないものはやらない、と言わない政府・政治家がまともな国の政府政治家国民には信用されないのは当たり前です。まあ、海外派兵で国を売りたいのが見え見えではねえ、と思いましたが。
(※ネトウヨのヒーロー田母神元幕僚長にダメ出しされるダメダメ政策を行うようでは…。)
また、安倍政権以上に『自衛隊の米軍の下請け部隊化』を“台湾有事”前提で進行させて、日本の独立をどんどん損なうのも本当になんとかして欲しいものです。
※さらに日本を防衛するどころか、『中国との絶望的な戦争』を進ませようとするのは本当に問題外ですね。
http://mvbzx0147.blog.fc2.com/blog-entry-36359.html?sp
☆少しも役立たない装備品 米国に貢ぐだけの日本の防衛政策 日本外交と政治の正体
2018年7月14日 日刊ゲンダイより
◎ 日本の真の独立を行うには自衛隊の独立が必要である。そのためには、装備品を米国に依存すべきでない」
ある政治家の会合に出席した時、田母神俊雄・元航空幕僚長がこう発言していた。田母神氏が米国に依存すべきでない装備品として具体例で挙げていたのが、無人偵察機「グローバルホーク」と、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」である。