孤独な老人 家庭崩壊中の夫婦と子 4人が表情を押し殺し 気味悪く微笑み食卓を囲む それほど小さくもない食卓のある部屋は 狭く 眩しいほど明るい
それぞれの茶碗に手早くご飯が盛られ お箸が配られる 食卓には他に食べ物が一切無く静かな食事が始まる
荒れ狂う金属バット 空を切る音は鋭く 延々と続くかと想えた音にも疲れが見え、夫はふらふらと座り込む 妻が立ち上がり 金属バットを振り回す 疲れた妻がへなへなと座り込むと 子が立ち上がり力一杯金属バットを振り回す 案外と持続力無く子は倒れ込み 最後に老人がふらつく身体を立てる 細かに震える金属バットは柔らかな光に射し込まれ 水平に振り回される 夫婦と子が血塗れになって眠っている部屋はやはり眩しいほど明るい
破り裂かれ垂れ下がった襖紙は裏返っていて それは異様に白く 小さなパンダのシールが1つ貼ってある 裂かれた襖の内側は暗く 筒状の道(トンネル)は奥深い向こうから何かが覗いているように想える
新聞配達が通り過ぎる 牛乳配達のトラックが通り過ぎる 朝日が手早く窓ガラスを通り過ぎていく 老人の部屋に異様な物音 夫婦が金属バットをそれぞれに持ち 襖を開けるとカーテンは朝日を遮り 薄暗闇が寒さに震えている やみくもにベッドの膨らみを金属バットでもって 数え切れぬほど叩きつける 悲鳴が小さく小さくなって とうとう消えてしまった頃 夫婦の額の汗は カーテンの遮りをすり抜けた光をきらきらと反射させる 「うっ」と足下から声が1つ それでも気付かぬ夫婦の脚を支えに老人が立ち上がる 右の耳には三角形のガラス片 流れる血 鼻からは言葉にならぬ声 途切れ途切れのその声に部屋は息苦しい 揺れるカーテン 揺れる 揺れる 零れる光 カーテンが開かれ 瞬時に光が押し寄せ 部屋が眩暈する 散乱するガラス破片 舞う乱反射 ベッドに眠っている子の鼻から血が流れている 美しい赤
夫婦それぞれが写真を1枚持ち 亡くなった子を老人の顔に化粧し服を着せ替え 老人を子の容姿に作り替える 葬送 静かな朝 通り過ぎる新聞配達 通り過ぎる牛乳配達のトラック 一直線の道に夫婦と老人 老人として葬られる子
霊柩車を見送る 子の姿にやつし ぐるぐると頭に包帯した老人の顔は 微笑みに固められている
1
それぞれの茶碗に手早くご飯が盛られ お箸が配られる 食卓には他に食べ物が一切無く静かな食事が始まる
荒れ狂う金属バット 空を切る音は鋭く 延々と続くかと想えた音にも疲れが見え、夫はふらふらと座り込む 妻が立ち上がり 金属バットを振り回す 疲れた妻がへなへなと座り込むと 子が立ち上がり力一杯金属バットを振り回す 案外と持続力無く子は倒れ込み 最後に老人がふらつく身体を立てる 細かに震える金属バットは柔らかな光に射し込まれ 水平に振り回される 夫婦と子が血塗れになって眠っている部屋はやはり眩しいほど明るい
破り裂かれ垂れ下がった襖紙は裏返っていて それは異様に白く 小さなパンダのシールが1つ貼ってある 裂かれた襖の内側は暗く 筒状の道(トンネル)は奥深い向こうから何かが覗いているように想える
新聞配達が通り過ぎる 牛乳配達のトラックが通り過ぎる 朝日が手早く窓ガラスを通り過ぎていく 老人の部屋に異様な物音 夫婦が金属バットをそれぞれに持ち 襖を開けるとカーテンは朝日を遮り 薄暗闇が寒さに震えている やみくもにベッドの膨らみを金属バットでもって 数え切れぬほど叩きつける 悲鳴が小さく小さくなって とうとう消えてしまった頃 夫婦の額の汗は カーテンの遮りをすり抜けた光をきらきらと反射させる 「うっ」と足下から声が1つ それでも気付かぬ夫婦の脚を支えに老人が立ち上がる 右の耳には三角形のガラス片 流れる血 鼻からは言葉にならぬ声 途切れ途切れのその声に部屋は息苦しい 揺れるカーテン 揺れる 揺れる 零れる光 カーテンが開かれ 瞬時に光が押し寄せ 部屋が眩暈する 散乱するガラス破片 舞う乱反射 ベッドに眠っている子の鼻から血が流れている 美しい赤
夫婦それぞれが写真を1枚持ち 亡くなった子を老人の顔に化粧し服を着せ替え 老人を子の容姿に作り替える 葬送 静かな朝 通り過ぎる新聞配達 通り過ぎる牛乳配達のトラック 一直線の道に夫婦と老人 老人として葬られる子
霊柩車を見送る 子の姿にやつし ぐるぐると頭に包帯した老人の顔は 微笑みに固められている
1