ぼくは誰かを尾行していた。
どんよりとした雲に覆われた細い道をすすむ
右に曲がり
左に曲がり
また
右に左に曲がっても
道の向こうの、ずうっと向こうの
正面の風景は同じだ。
同じ風景だと意識したとたん
そいつが立ち止まる。
「君だと分からなかったけれど
誰かが尾行しているのは気付いていたさ」
ぼくは少年雑誌の付録
子供だとは気付かれない=
「紙縁のサングラス」と
「紙の付け髭」を外した。
「ぼくはね、あなたでなくてもよかったんだ
誰だってね
こんな立派な髭をはやしているんだもの
ぼくがぼくを尾行し
ぼくがぼくの気配を感じ取れても
サングラスと髭のあるぼくを
他の誰でもなくぼくであると
ぼくは
ぼくを見抜けないはずだ
ぼくはたしかにそう思っている」
半ズボンのポケットから、探偵手帳を取り出し
ゆっくりと開けた空白に
ぼくの中のぼくの中のぼくの中の
.....................
いつ果てるのだろう
ちびった鉛筆が書き込んでゆく。
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