かみいた落語塾

噺家さんの指導のもと、小咄から古典落語までしっかり学べる、老若男女うぇるかむの落語団体、上板橋落語塾のかわら版!!

小咄ノート5「夕立屋」

2005年08月11日 | 参考書
商売というものがいろいろとありますが、昔は変わった商売があったそうで・・・。

とある真夏の夕暮れ。昼からの暑さもそのままに、あたりは熱気が立ち込めている。扇ぐ団扇からの生ぬるい風に、すっかり辟易しているのは商家のご隠居さんだ。
そんなとき、ご隠居さんが聞いたのは、世にも珍しい物売りの声だった。

「夕立屋~。夕立」
「・・・おや。夕立屋さんかい? ほっほ。世の中には変わった商売があるもんだね。ちょうどひと雨欲しいと思っていたところなんだ。おーい、夕立屋さん。そうそうこっちだ。そこの木戸をあけてな、中に入っておくれ。・・・おまえさんかい? 夕立を降らすことができるってのは」
「ありがとう存じます。手前が夕立屋でございます」
「なるほどねえ。で、その夕立ってのは、どんなことになってるんだい?」
「はい。夕立にも、上・中・下と分かれておりまして」
「ふーん。上ってのは、どんなことになってるんだい?」
「はい。まずは雷がどんっと鳴りまして、そのあと雨がざーってんで雨を降らせますんで」
「なるほど、雷がついてるんだね。じゃあ、中ってのは?」
「水溜りにならない程度に、ほどよく雨を降らせます」
「ははあ。じゃあ下は?」
「庭にじょうろで水をまきます」
「いきなり落ちるねえ。そうかい。じゃあひとつ、中ってのをもらおうかな。いくらだい? あーはいはい。じゃあ、お足はここに置きますよ」

夕立屋さん、お足を懐にしまいこみますと、庭の真ん中に進み出まして、ぱっと法印を結ぶ。
とたんに空がまっくらになったかと思うと、ざーってんで雨が降り始めた。

「ほほー。降ったね。ほんとに降ったよ。いや、たいしたもんだ。人間業とは思えないな」
「ありがとう存じます。実は、手前は人間ではございませんで、天に住むタツ(龍)でございます」
さすがに驚くご隠居さん。そりゃそうだろう。
「へえ、お前さんタツなのかい。はー。なるほどねー。でもあれだね、夏の間はこうして雨を降らせてお足が稼げるけれども、冬には商売困るだろうな」
夕立屋さんはにっこりと。
「いいえ、冬はせがれの、コタツが稼ぎます」

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4 コメント

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すごい (安呑)
2005-08-11 10:57:59
この噺、何がすごいって、「昔は・・・あったようで」と曖昧なようで言い切ったようで、うまくできたるなと偉そうな事を思っています。

 

変わった商売というのではないのですが、ここいら辺は豆腐屋さんが自転車であの「パー、フィー」とラッパを生で吹きながら売りに来ます。

以前は爺さんでしたが最近は若い人に代わりました。アルバイトなのか二代目なのか。

皆様の近所にも来ますか?



落語にも豆腐・おから・がんもなどが出てくる噺が多くあります。

それだけ生活の中で昔から身近な食べ物だったんでしょう。
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Unknown (かき麿)
2005-08-11 12:39:21
豆腐屋さん、いいですねえ。

とくにこの季節は豆腐が恋しくなりますよ。

それにしても、いつも思うんですが、豆腐と納豆ってぜったい逆だと思いませんか? 名前が。

納豆の方が「豆腐」って名づけられても、おかしくなかったと思うのですが。
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その通り (萬窓)
2005-08-22 21:50:17
「豆腐」と「納豆」は逆に命名してしまったそうです。そうなると正しくは「麻婆納豆」となりますが・・・喰いたくねえ。
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うーん。 (かき麿)
2005-08-23 13:22:26
まあもう、今更逆にはしてほしくないですけどね(笑)

こういう、名前があべこべになってしまう、というのも、なんか落語のネタになりそうですね。
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