ラッコ庵日乗

「不思議な話」や「ヘンな話」が大好きなラッコ庵の日記。

「十角館の殺人」綾辻行人

2020年01月15日 | 本あれこれ
久しぶりに「探偵小説」的なものが読みたくなって、今さらですが読んでみました。
この作者のものを読んだのは初めてですが、京大ミステリ研出身、いわゆる「新本格ブーム」の旗手という位置づけのようです。この作品は作者の代名詞「館シリーズ」第一作で、出世作でもあります。

某大学ミステリ研に所属する男女7人が、無人島に建つ館で1週間の合宿生活を行うことになるも、メンバーが一人ずつ殺されていき…というストーリーは、古典的な「孤島もの」として大きな破綻もないかわりに「トリックのためのストーリー」のような感じがするのは否めません。
ただ、当時流行っていた「社会派推理小説」へのアンチテーゼとしての「本格宣言」の面もあり「その意気やよし」というところでしょうか。

それより気になったのは、この本が初めて刊行された1987年と現在との変化です。
スマホ、携帯はおろかパソコンは大学の研究室に一台、という時代。そもそもスマホがあったらこのストーリーは成り立ちません。作者あとがきにもありましたが、学生たちは当然のように喫煙し、炊事はすべて女子学生の担当。あれれ、1980年代の後半でもこんなだったっけ?そう考えると、昔よりよくなってる面も多いのかな。

作者あとがきで驚いたこともうひとつ。
この作品には、プロトタイプともいうべき別の作品があって、メインのトリックは同じだそうです。そしてそのトリックを考えたのはなんと!小野・十二国記・不由美さんなんだって。大学は違うけど、同時期に京都の大学に在学していたミステリ仲間ということでしょうか。巡り合わせって不思議なものですね。
いろんな意味で面白い作品でした。

※最初に、この作者を読んだのは初めて、と書きましたが、そうでもなかったことに気づきました。
佐々木倫子のマンガ「月館(つきだて)の殺人」の原作が綾辻さんだった。こちらは、鉄道ミステリでもあり「館シリーズ」の一作でもあるという絶妙のストーリー(読めばこの意味がわかります)と、佐々木倫子のとぼけた味が相まった快作?怪作?です。おすすめ。