「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

Nature & Scienceについての雑感

2018-04-15 | 学術全般に関して
生命科学分野では、中枢神経系(Central Nerve System, CNS)をもじって、主要な科学ジャーナルであるCellとNatureとScienceをまとめてCNSと呼びます。たしかにこれらのジャーナルは注目度が高く、例えば2012年にノーベル賞を受賞された山中伸弥教授のiPS細胞の論文は2006年と2007年にCellに掲載され、世界中に衝撃を与えました、しかし、Cellは所詮は細胞生物学専門誌であり、どうやっても物理学、化学の論文は掲載されません。したがって、自然科学全般において主要なジャーナルとはやはりNatureとScienceだろうと思います。実際、両ジャーナルが創刊されたのは19世紀のことですが、以降、自然科学における重大な発見の多くはいずれかのジャーナルに掲載されるようになりました。

先日、NatureとScienceを読んでいたら、母校の医学部の某教室からの論文が掲載されていて、びっくりしました。
筆頭著者のAさんについて、彼の学生時代から知っていましたが、たしかに優秀な方でした。それにしても、あそこの教室の論文生産性は高くて、本当に凄いなと感心します。主任教授はかなり変わった方で(変人でなければ医学部教授にはなれないとも言えますが)、私が医学生だった時に受けた講義は酷いものでしたが、研究面ではたしかに優秀なのでしょう。最近では、他にも変性疾患の診断に有用な新薬を作ったと伺っており、そちらも噂通りならばおそらくNatureかScience級の論文になるでしょうし、あるいは臨床医学系のジャーナルに出すのであれば世界最高峰であるNew England Journal of MedicineやLancetを狙うのかもしれません。あの教室からはこれまでにも日本や米国の医学部に教授を輩出してきた伝統があるのですが、今後もAさんはじめ教授になったりして活躍する方たちがどんどん出てくるのかもしれません。
私の母校の医学部は、10年代になってから毎年Nature、Scienceに論文を載せており、研究面で活気が出ています。Aさんの論文は私の知る限りではこれが初なのではないかと思いますが、いきなり特大級の場外ホームランといったところでしょうか。今後も医学研究を頑張って頂ければと思います。

一昔前まで、医学部基礎系の教授になるためには、NatureやScienceに論文をできれば数報は掲載させなければならないと言われていました。
実際、80年代、90年代、00年代くらいまでは、日本を含めて世界の幾つかの大御所ラボからは定期的にNatureやScienceに論文が出ており、そういう研究室に留学したりして、うまく成果をまとめられれば、NatureやScienceに論文が出せるという計算がありました。日本でも例えば沼研、本庶研、谷口研、岸本研、廣川研、長田研など、毎年NatureやScienceに論文をガンガン出すような大御所ラボがありました。そして、そういうラボの出身者が日本の各医学部基礎系の教授に就いてきたわけです。
しかし、最近では自然科学の研究分野はどんどん細分化が進み、研究者人口もどんどん増えてきました。一方でNatureやScienceには毎週限られた紙面しかないわけで、その紙面をめぐっての競争は年々激化しています。実際、10年代に入ってから、もはや毎年NatureやScienceに論文を定期的に掲載させることができるラボというのは、世界的に減少してしまいました。それだけ競争が激しくなってきたのだろうと思います。
そういう状況を鑑みて、最近ではどの医学部でもNatureやSicenceの論文の数に依らない教授選考を行うようになってきたと感じます。はっきりした指標がないので判りにくくなったとも言えるのかもしれません。

上記のように一つのラボから有名な科学ジャーナルに論文をガンガン出すのは難しくなってきています。
それでは米国や英国の著名な学術機関ではどうしているのかというと、毎年NatureやSicenceに論文を出せるラボがなくなってきたならば、2~3年に1回そういう論文を出せるラボを2~3個増やすことで、結果として毎年出せばいいじゃないという物量戦略に出ています。つまり、研究科や研究所を新たに増設して、研究グループの数を増やす作戦です。Harverd、MIT、Cambridgeなどでは積極的に研究グループを増やしています。中国やシンガポールも同様です。
しかし、残念ながら、日本の主な学術機関には金がなく、そういう戦略を真似することが出来ずにいます。このままではジリ貧というやつですね。今回Aさんが成し遂げたように「個の力が重要だ」「個の力をアップさせて世界と戦うしかない」という、まるで何処かの国のサッカー代表みたいな考え方もありますが、もっと国家として研究・開発の競争に打ち勝つための戦略を展開しなければ、日本はこの先マズいのではないかと私は思います。

まあ、他人様のことはともかく、私もNatureやScienceにいつか自分の論文を載せてもらえるよう頑張ります。


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