「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

成功した失敗 successful failure ~ Apollo 13

2018-04-17 | 雑記
かつて月を目指した人類の「成功した失敗 successful failure」と呼ばれた物語がありました。
1970年4月11日ケネディ宇宙センターから旅立ったアポロ13号は大気圏を抜け、宇宙を駆け、あとすこしで月に到達する時に酸素タンクの事故に見舞われました。このまま死ぬしかないのか。絶望的な状況の中で3人の勇敢なクルーたちは、しかし最後まで諦めず、ついに地球へと帰還し、全世界の驚嘆と感動を呼びました。
今日はアポロ13号が地球への帰還を果たした日です。

1995年に映画化までされたこの実話を初めて知ったのはいつだったか。もう正確に覚えてはいませんが、たしか中学生の頃だったような気がします。
宇宙は真空であるなどと言われてもイマイチよく判らないまま、あの頃は月や星の瞬きに魅せられて夜空を見上げていました。ただ、あの月まで行こうとした偉大な試みと、その失敗の物語は、思春期を迎えて世の中を斜めに見ていた私の心のどこかに今も残る感動と興奮を与えてくれたのでした。

私の中学、高校の同級生の1人であるS君は、私以上にNASAが成し遂げた「成功した失敗」に魅せられたらしく、せっかく現役で東京大学に入学したのに、その夏にはすぐに退学して、その秋には将来NASAに入るために米国アイビー・リーグの一角である某有名大学に進んだと聞きました。当時、そうやって海外への進路を選択した同級生は彼だけではありませんでしたが、私にとってはやはり非常に印象的でした。

男というのはいつまで経ってもガキなのかもしれません。
宇宙、月、NASAというフレーズには、今でも私の心の中にある種の憧憬を抱かせる力があります。私は、宇宙航空オタクだったS君とは異なり、進路には色々と悩んだ末に医学部へと進んで、結局、医者になりました。実は私の中学、高校の先輩で宇宙飛行士になられた方がいて、彼も医者でしたが、私自身は将来宇宙飛行士になりたいとは思いません。というか、自分が宇宙飛行士になれるとは全く思えません。
……そりゃあ、チャンスがあったら、宇宙へ行ってみたい気もしますがね。

長期間の宇宙飛行で問題となるのが、宇宙(放射)線が人体に及ぼす影響です。
この宇宙線はすこし特殊な放射線で、通常私たちが医療用に使っている放射線に比べて高エネルギーであり、生物学的な影響も大きいとされています。厄介なのはなかなか遮蔽できないことで、つまり、ずっと宇宙船内にいたとしても地表に比べて放射線をより被ばくすると推測されています。船外活動に至っては、さらに被ばくする可能性があるわけです。
たとえ、ロケットで火星にまで行けるようになったとしても、この宇宙線にクルーが長期間曝されることになり、出来るだけ安全な宇宙飛行のためにはその被ばくに伴う生物学的影響を出来るだけ抑制する必要があります。
つまり、それをなんとかするために、放射線の研究を進めなければならないわけです。

ということで、放射線防護学者の端くれとしては、今日も今日とて研究しています。宇宙への夢を諦めた男は、その代わりに安全な宇宙飛行の実現へ向けて、地道に研究をしているのです。な~んてな。


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