「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

Flash Radiotherapyというパワーワード

2018-10-25 | 学術全般に関して
今日は私が所属する研究センターで「Flash Radiotherapy」と題したセミナーが開催されました。

放射線科医の端くれではあるものの、恥ずかしながら私自身はFlash Radiotherapyという用語を聞いたことがなかったので、事前にGoogle大先生に伺ったところ、「それは超高線量率放射線治療 Radiotherapy at ultra-high dose rateのことじゃよ、ほっほっほ」とのことでした(さすがGoogle大先生は何でも御存知だな)。

いきなり高線量の放射線をまるで「フラッシュ Flash」のように照射すると、正常組織への有害事象や副作用を減らせて、かつ腫瘍組織への効果もちゃんと得られるということで、その分子メカニズムは不明であるものの、動物実験レベルではかなり期待できる結果が出ていました。また、発表者の先生は触れていませんでしたが、肺のように動いてしまう組織ではターゲットがあまり動かないで済むのでFlash Radiotherapyのように極めて短い時間で放射線を照射した方が成績は良好であると考えられます。

特別な放射線照射装置は必要ですが、基本的にはLINAC治療の応用にとどまるレベルなので、放射線治療施設がある病院ならば、近い将来に応用できそうな印象を受けました。講師の先生は北欧屈指の研究大学であるスウェーデンのルンド大学 Lund Universsityの医学物理士の方でしたが、スウェーデンでは近くヒトを対象とした治験、臨床応用へ向けて動いているとのことでした。

いや~、凄いですね、Flash Radiotherapyは。常識的に考えると、あまり高線量率の放射線を照射すると生物学的効果が低下しそうな気がするのですが、たしかに正常組織への侵襲は抑えられそうです。なかなか印象的なセミナーとなりました。

日本では、欧米と比較して、放射線治療はあまり普及していません。これは日本のお国柄といいますか、広島、長崎の原爆被ばく国としては当たり前なのかもしれませんが、「放射線」というものに対して患者さん側の忌避感があるからではないかという話もあります。しかし、たしかに放射線は両刃の刃ではありますが、上手に利用してさえすれば、とても効果的な治療法にもなりえます。

現在、放射線治療の分野は、重粒子線治療なども含めると、まだまだ発展途上の領域ではありますが、外科手術に比べると患者さんにとって負担が大きくなく、腫瘍の局所制御に優れています。また、現在話題の免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることで、想定外の良好な治療成績が出せることが徐々に判ってきています。

私自身は放射線治療医ではありませんが(将来的にはもしかしたら放射線治療を行う側になるかもしれませんが)、日本でももうすこし放射線治療が普及してもいいのではないかと思います。


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