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南北朝(日本)時代と漫画家・車田正美先生の作品を瞑想する部屋。

【感想】『柳生暗殺帖』第17話(5)

2006年05月25日 02時33分00秒 | CMC 風魔の小次郎『柳生暗殺帖』

今号にかぎって感想がえらく長いですが、それは無名を論破したいのではなく、飛鳥武蔵をなんとかしたいからです。
“無”に憑かれた男をこちらへ振り向かせる方法は?
おーい、戻ってこーい。

『柳生暗殺帖』第17話-平行線の正義-(5)

『正法眼蔵』は禅宗のひとつ、曹洞宗の祖・道元禅師の著書です。
「摩訶般若波羅蜜の巻」を開くと、「苦集滅道」に関する記述があります。
は生老病死(四苦)の苦しみといい、

  • 愛別離苦(あいべつりく)・・・愛するものと別れなければならない苦しみ
  • 怨憎会苦(おんぞうえく)・・・恨み、憎むものと出会わなければならない苦しみ
  • 求不得苦(ぐふとっく)・・・求めるものが得られない苦しみ
  • 五蘊盛苦(ごうんじょうく)・・・心身の活動があまりにも盛んでかえって苦しい

と合わせて「四苦八苦」の諦(真理)。
は「苦」を集めるものがあるのだという諦。
は「苦」が滅することがあるのだという諦。
は菩提(ボーディ)の訳語で「悟り」のこと。「滅」を実現する諦。

この「四諦の法門」は、めてしまう迷いの因果をするを説いています。生きているかぎり苦しみはあるけれども、それを克服する方法もあるのだ、といったところでしょうか。
「滅道」があるから、「苦集」を肯定できる。
どうも、武蔵はこの「滅道」を放棄したらしい。

「それが、あなたたちの輪廻なのですよ」(JC5巻)

絶対的な存在(神)が個人の運命を支配している、と武蔵は感じた。
神を殺さなければ、輪廻から逃れることはできない。
それには、AとBが関係することで万物が生じる、という縁起を止めなければならない。
宇宙の熱的死。物理量(エントロピー)の限界。
ここでちょっと、『百億の昼と千億の夜』(光瀬 龍/ハヤカワ文庫)のイメージがダブったりしますが・・・。

そんなことをしたら、確かに「王道楽土」もくそもありません。
イーさんがどんなに暴れまくろうと、羯磨衆が積年の恨みを晴らそうと、世界そのものが“無”に帰してしまうのですから。
是音(ゼノン)は無名の思惑を知っているのでしょうか? 狐と狸の化かし合いかもしれませんが、最後にしてやられたりしやせんか?
羯磨衆を焚きつけて帝(インドラ)復活のお膳立てを整えているのは、無名か? やつがラスボスか?

「灰身滅智(けしんめっち)」といって、身と智を灰滅(かいめつ)する、身も心も無くなった状態を表す言葉があるそうです。
輪廻を解脱した、とは云えるかもしれません。果たして、それは安らぎなのか。生まれなければ死ぬこともない、なにも変わらない世界は、本当に命の目標としている世界なのか。
「現成公案の巻」にはこうあります。

さらに悟上に得悟する漢あり、迷中又迷(うめい)の漢あり。

道を、命を深めていく人がいれば、抜け出すどころか、ますます迷いを深めていく人もいる。
無名の「我が魂(こころ)、すでに“空”なり」という発言は、自分はもう迷わない、と自己を規制したものとも受けとれます。
しかし、悟るとは、迷うことを止めることではないような気がします。
迷うことを恐れず大いに迷い、囚われず、そこから脱却して前へ進むことのできる、いわば「迷いの達人」であれたら。迷うことは、時に楽しいのだから。
そういう漢を知己として持つべきです、武蔵は。
常に流れていて、一瞬の「今」の連続が分明にはっきりしている、おおらかな友を。
近くにいるような気がするのですがねえ。
無名は、武蔵として小次郎に真情を吐露した。
そして、小次郎は彼の「バカ野郎」ぶりを愛しく思った。
仮面に遮られていない、唯一の縁起が竜虎の絆を保っている。

武蔵よ、道を見出せ! 門はすでに開かれているのだから。

参考文献:
『『正法眼蔵』講義』(竹村牧男/大法輪閣)

後書:
こ、これをまとめて本宅へ転載するのか・・・「十二縁起」の図(小次郎と武蔵の幸福⇔不幸スパイラル模型)も作った方がいいのかしらん。手こずらせおって、オメン野郎め。
しばらく寝てもいいですか?


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
なぎらさまvおはようございますーv (セルコ)
2006-05-25 09:12:28
なぎらさまvおはようございますーv
(私信)首の痛みがとんでもないことになってきました。
明日のハマ行き、これで大丈夫でしょうか。
上手く断れる絶好の機会でしょうか。ううぅ。(ノДT)言いだしっぺツライ。

無名のラスボス説がとても面白い!
是音が上手く利用されてるような気がするんですよね~。
イーさん&是音さまの泣きっ面がちょっと見てみたい私としましては、無名頑張れとも思ってしま…いやいやゴメンナサイ。

オメン野郎を、なぎらさまにここまで愛してもらえて、とても嬉しく思います。
ここ数日、(いつも以上に)楽しみに通わせていただきました!
ごゆっくりとお休みくださいませ。(ノДT)
またお話できればと思いますvそれでは!
返信する
なぎらさま、おはようございます。 (きつね)
2006-05-25 09:18:05
なぎらさま、おはようございます。
一連のご解説大変面白く拝見いたしました。

仏教のことはサッパリわからないのですが、
「禅」で思いついたのが一休さん。
...「そもさん」みたいな語りでしたね、武蔵は。
小次郎がどんな「説破」を返すのか楽しみです。
(トンチでもいいわこの際)
返信する
セルコ様 (なぎら)
2006-05-25 13:36:04
セルコ様

こんにちは(^∇^)ゞ。
首が回らないのでしょうか? 先立つものがないせいではなく? 整体院に行く時間がないのであれば、運転をひかえられた方がよろしいかと(--;;)。

>ラスボス
「王道楽土」がどう、と浮き浮きしているイーさんがかわいそうに思えるくらいの無名の引きこもりっぷりが気になります。引力によって光さえもまっすぐに進めず屈折し、内面に落ち込んでゆく閉じられた空間「ブラックホール」のようです(あれはそういう描写か?)。
イーさん&是音様、土壇場で小次郎に泣きつくことがないよーに(ちょっと見たい)。
でもそうなったら、小次郎と武蔵の対決は文字どおり、世界の命運をかけた闘いになる、という筋書きですね。
白凰学院対誠士館、風魔対夜叉・・・あの雪野の決闘が「光対闇」という究極のスケールで帰ってくるのかと思うと、それはそれでぞくぞくします。うはあ。
それでは、また!
返信する
きつね様 (なぎら)
2006-05-25 14:01:44
きつね様

いつもお世話になっております。オメン野郎のせいで、ヘビは力尽きました(私信)。

>「正義とはなんだ」
実は噴き出してしまったこのセリフ。武蔵の「そもさん」は《聖剣戦争》で涅絽にかまして以来、変わっていないようですね。ケムに巻かれそうになった涅絽の堪えっぷりがまた愛らしかった。ああ、懐かしい。

>説破
小次郎はどう考えてもボキャ貧なので、言には動で返すことになるのでしょうが・・・語るためにわざわざ出張してきた無名の行動は「チンケな足どめ」で片づけられてまいました。すてき(T∇T)。
いえいえ、トンチこそ、武蔵に必要な発想の転換。彼も「慌てない慌てない、一休み一休み」くらいの心持ちであればなあ。生き急いでいる理由を知りたいですね。
御宅の「紙芝居」が『柳生暗殺帖』で実現することを祈っております。それはもう切実に。
コメント、ありがとうございました。
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