「わたし達は今、歴史の大きな転換期に生きている。20世紀を支配してきた体制は、このところ急速に崩壊し、来たるべき世紀の姿はまだ見えない。『太平記』の時代もまた、日本の歴史の大転換期であった。13世紀の末、鎌倉幕府の政治は北条氏の独裁によって腐敗し、武家社会は内部から崩壊の危機にあった。一方では、貴族を中心として幕府を倒し、天皇による政治を復活させようという機運が高まりつつあった。足利尊氏が生まれた14世紀の始めは、長い動乱の時代の幕開けだった。その激動の中を、太平を願って生き抜き、やがて室町幕府を開いた武将―――それが足利尊氏である」
ナレーション(石澤典夫アナウンサー)
いきなり「ベルリンの壁」が崩壊(1989年)する映像から『太平記』は始まりました。
1991年末にはソビエト連邦が解体され、「東西冷戦」の終焉というカオスの中で、南北朝(日本)というこれまたカオスな時代が描かれた、すごい符丁です。
*
弘安8(1285)年11月17日。鎌倉。
有力御家人の安達泰盛(加賀邦男)の館で田楽が催される中、幕府の軍勢が火矢を射かけてなだれ込んできます。いわゆる「霜月の乱(霜月騒動)」で、矢に射られ、燃えながら転げまわり、一族郎党、老若男女、斬り倒される様子がむちゃくちゃストレート。
(泰盛)「おのれ、北条の手先ども・・・許せぇ!」
左腕に抱いた、まだあどけない嫡子に刃をかざす泰盛。はっと柱の陰で目を瞑って手を合わせる田楽法師(長い竹の先でアクロバットやってて最初に夜討ちに気づいたんですが、よく的にならなかったな)。
視聴者はここで、ひぃ、となります。のっけから北条得宗の悪逆非道ぶりが炸裂。
御家人の装束、ささらを鳴らして踊る田楽・・・まさしく中世です。『法然上人絵伝』とか、そんな感じ。空気がちゃんと中世になってますよ。そうこなくちゃ。
嘉元3(1305)年。下野足利荘。
乱の余波は続いており、寒川住人・塩屋宗春(織本順吉)が家族とわずかな手勢で逃れてきました。どこそこの年貢が未納だ、店長はどうした、また本社に怒られちゃうよ、支社を任されるのは光栄だけどストレスも溜まる・・・なんて足利貞氏(緒形拳)がサラリーマンっぽく部下の高師重(辻萬長)と地味にのんびり、デスクワークに勤しんでいるところへ↑の報せが入るわけです。
塩屋一族は鎌倉に背いた吉見孫太郎(※01)の残党であり、これはヤバい火の粉が降りかかってきました。
※01:鎌倉幕府を開いた源頼朝の異母弟・範頼を祖とする源氏。
かくまうか、放り出すか。
- (源頼朝の直系が絶えた今)八幡太郎義家公以来の源氏の嫡流たる足利家として、同じ源氏を見殺しにすることはできない。
- これは鎌倉の「足利潰し」の策謀であり、今、大軍を繰り出されればどうなるか。わずか十数名の残党のために足利家を潰すことはできない。
「足利=源氏の名門」という大義があるからこそ、真っ二つに割れる家中。実にわかりやすい。わかりやすいけれども、重い。
(師氏)「今、われらの力をもってしては北条と戦うことはできませぬ。そのことは、先代の家時さまが身をもって・・・身をもって」
皆を諌める老臣、高師氏(安部徹)が引き合いに出したのは、先代の棟梁である家時(小形竹松)が「置文」を遺して自害した一件。
(師氏)「戦って勝てるものなら、家時さまは・・・あのような御最期は」
(貞氏)「ならば師氏。われらはいつになったら北条と戦える。戦うには身方がいる。身方となるべき源氏の一党を見殺しにして・・・われらはいつになったら北条を倒せる!」
足利家代々に鬱積してきた無念があわや爆発しかかり、すっくと立ち上がった貞氏を追う家来衆は、いくさじゃ、いくさじゃ!と気炎を揚げるのですが・・・。
(貞氏)「・・・師重」
(師重)「は」
(貞氏)「吉見の一党を・・・門の外へ、お送りいたせ」
腰に佩いた太刀を、きりきり、と握ってから下ろし、ふぅっ・・・と息を吐いた貞氏の厳しい決断。「殿」が振り返った瞬間、下知を聞くためにざっとひざまずく家来衆。誰がボスなのか、一発でわかります。指揮系統に乱れがないのは礼が行き届いている証。シリアスなシーンですが、清々しくもあります。
「では、見殺しになされますか!」
この後もずっとそうなんですけど、耐え忍び、堪える貞氏は必見。後年、米倉に放火した「得宗被官」を放免せざるを得ず、水屋でバキッ!と柄杓の柄を折っちゃったりして、それでも流れる水のように、上辺は・・・やがて征夷大将軍となる足利家の不遇の時代をタメにタメています。こりゃ、胃にクるわ・・・。
夜になり、開かれた門の外では下野守護・小山軍2,000騎が、出て来い、腰抜け、などと挑発しまくります。出れば当然、皆殺し。塩屋一族は母親に抱かれて、おぎゃあ、と泣く子までいるのですが、最後のいくさをするために進み出て抜刀します。
(宗春)「足利の方々。塩屋宗春の世の常ならぬ合戦、見置いて人に語るべし」
見送る足利一族も見送られる塩屋一族もほぼ無言。しかし互いの事情や心情をよっくわかっていて、それぞれが選択した現実を受け入れるところが泣けます。うぐぅ・・・。
塩屋一族は惨死しますが、この時に貞氏がただ1人引き止めた男子が、やがて足利高氏に影のようにつき従う一色右馬介となります。後日、幕府政所に出仕した讃岐守・貞氏は、内管領・長崎円喜(フランキー堺)のイヤらしい詮議を受けますが、そのような者、いっさい存じ申さぬ、と口を割りません。
なんとか逃げおおせ、金沢(北条)貞顕(児玉清)亭にやってくると、貞氏の正室は昼間っからアル中気味で遊び呆けています。
(貞顕)「妹のことは気になされますな。この貞顕とて、得宗の命がなければ御辺にあれを娶わすことはなかった。こなたには以前より、上杉殿が「家の女房」としておられたのじゃ」
まったくうっとうしい。それだけ足利家を警戒している、ということでもありますが。ヨコシマなプレゼントが少ないから俺も出世できない・・・と貞顕も北条本家の名代を気どる円喜が嫌いで、賂(まいない)が横行する政治の腐敗をうかがわせます。
よれよれの背広に曲がったネクタイが似合うような溜息をついて、自宅へ戻った貞氏を待っていたのはめずらしくハッピーニュース。「御台さま」の上杉(藤原)清子(藤村志保)が出産しそうだ、というもの。
細かいことですが、魔を祓うために真言を唱える陰陽師(近松敏夫)、鏑矢、皿を割る巫女、貞氏が巫女に渡した護符らしきものをぶら下げた枝などの咒(しゅ)、中世の風習がおもしろい。こういうところがおいしいです。
そして男子誕生。又太郎。後の高氏。
さり気なくも培われた時代考証が、おお、DNAにうったえてくるよ。なにより「人」が生きている。光(現在)があたると、その人の影(過去)も起居や生死からにじみ出る。見応えがありますねぇ。DVD、買ってよかった。高かったんだよ・・・。
*
さてさて、秘境洞窟に謎のご神体を見た!お隣の小太郎と大ゲンカ、元服して社交界デビュー!と思ったらなんかしょっぱいことに、犬に咬まれて北条アレルギー、しかし未来の奥さんは美人だった・・・高氏の活躍(?)が満載な第1回は続きます。
(続く)